塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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EP.59 「一悶着、二悶着、三悶着」

 

【オーバーキル】《overkill》

 過剰殺戮。

 相手を倒すのに必要な量を超えた攻撃力や兵力。

 

 

 * * *

 

 

「明日からフツーの授業だねえ!」

「色々ありすぎたな」

「一生忘れられない夏休みだった……」

 

 1Fの、男女共同空間ロビーで皆が駄弁っている。

 

 私はお父さんとオールマイト先生と、和歩ちゃんと航一(こういち)さんに仮免取ったよ報告を送信した。

 お父さんからはすぐに祝いの返事が来て(タイミング的に運転中のはずじゃ?)、航一さんからは「そろそろインターンの時期だね!」とメッセージが来た。

 オールマイト先生からは「共に手の届く範囲を守り続けよう」と送られてきた。

 

 和歩ちゃん大先輩からは「はぁ? あたしも新アルバム製作とMV撮影と全国ツアーしながら仮免取ったんですけど? えらいんですけど!?」とキレ気味の仮免画像が送られてきた。

 考えて見れば和歩ちゃんは二年生なわけで、一緒に仮免を取得できたことになる。

 「一緒に航一さんのところにインターンに行く?」と聞いたら「邪魔したくないけど考えとく」と返ってきた。まぁ確かに、ザ・スカイクロウラーとしての航一さんは忙しそうだから、邪魔したくない気持ちもわかるけど。

 会える時に会わせておかないと、奥手の和歩ちゃんと鈍い航一さんがくっつきそうにない。

 

 そんなことを考えていたら、爆豪君がデク君にこっそり話しかけるのが見えた。

 

「おい、後で表出ろ。てめェの個性の話だ」

 

 あー、そういえば二人の喧嘩イベントがありましたっけ。

 原作では、拉致されたことが()()()()()()()となって、OFAがデク君に譲渡されたと爆豪君は推測してしまう。

 でも、拉致事件が無かったとしてもそれ以外の情報だけで爆豪君は真実に辿り着けてしまう。

 邪魔せずに放置しておいてもいいんだけど、ぶっちゃけこの喧嘩、あんまり意味が無い。

 心の中の想いを吐き出し合うにしても、実際は話し合いだけで済んでしまう。

 あと、喧嘩を止めなかったオールマイト先生がペナルティ一つ負ってない。 

 

 この後(ヴィラン)連合に連絡をいれないといけないし、正直仮免関係で疲れてて眠い。

 面倒臭くなってきたので、私は根津校長と相澤先生とオールマイト先生に対して、グループ送信で「ただでさえ雄英は色々と問題視されているのに、爆豪くんと緑谷くんが夜のグラウンド・β(ベータ)で喧嘩しようとしています。私では止められないので、先生方、よろしくお願いいたします」とメッセージを送ってから自室に向かい、弔君に電話したあとに寝た。

 

 次の日に聞いた話では、爆豪君とデク君が殴り合ってすぐ、当直の相澤先生と生活指導のハウンドドッグ先生が乱入して強引に喧嘩を止めたみたい。

 『メンタルケアを怠った大人の失態が招いた喧嘩』という理論で、オールマイト先生は二人の喧嘩を止めようとしなかった。だからオールマイト先生と爆豪君とデク君を三人並べて正座させたうえで、根津校長が懇々と説教をした。

 爆豪君とデク君の謹慎は二日で済んだけど、オールマイト先生も朝晩の寮清掃と反省文の提出をすることになって、三人でしょんぼりしてた。ただ、謹慎期間の清掃中に、三人のわだかまりを会話で解決することができたみたいだから、それで良かったと思う。

 

 

 * * *

 

 

「聞いたよ……A組ィ! 二名! そちら仮免落ちが二名も出たんだってええ!?」

 

 B組の物間(ものま)寧人(ねいと)が、喜び勇んでA組の面々に声をかけてきた。

 

「こちとら全員合格。水があいたね、A組」

 

 ドヤ顔で物間が語るも、B組の面々はウチの物間が申し訳ないという顔をしている。

 そんな中、角取(つのとり)ポニーが必死に語る。

 

「ブラドティーチャーによるゥと、後期ィはクラストゥゲザー、ジュギョーあるデスミタイ。楽しみしテマス!」

 

 切島(きりしま)鋭児郎(えいじろう)上鳴(かみなり)電気(でんき)が、それに答える。

 

「へえ! そりゃ腕が鳴るぜ」

「つか外国人さんなのね」

 

 物間がこっそりと角取に耳打ちし、角取はにこりと笑ってA組に宣言した。

 

「ボコボコォに、ウチノメシテ、ヤァ……ンヨ?」

 

 苦笑しながら、塚内空が答えた。

 

「Excuse me, did I hear you correctly? You said you're going to "Beat the shit out of you", right? Is that your official statement to Class 1-A?」

(失礼、聞き間違いですか? 今、貴女は私たちを「ボコボコにする」と言いましたが、それが1-Aに対する公式声明ということでよろしいですか?)

 

 その瞬間、角取(つのとり)ポニーの個性『角砲(ホーンホウ)』が発動。

 物間のケツに、彼女のファンネル角がブスリと刺さった。

 

「アハハハハ、ンギャオーッ!?」

「変な言葉教えんな!」

 

 拳藤(けんどう)一佳(いつか)が、容赦無い目つきを追い打ちで物間に叩き込んだ。

 

 ヒーロー科のそんな光景に、心操(しんそう)人使(ひとし)は苛つきを隠すことができなかった。

 

 

 * * *

 

 

「やあ! みんな大好き、小型哺乳類の校長さ!」

 

 根津校長が語ったのは『生活習慣を乱すと大変』と一言でまとめられる内容だったが、昨夜の喧嘩騒動のせいで睡眠時間が低下し、そのイライラが始業式の生徒達にぶつけられてしまった。

 原作比1.5倍の長さだったが、残念ながら原作と長さを比較できない生徒達は、ただただげんなりするしかない。

 

 一点、校外活動(ヒーローインターン)について校長が語る場面があり、流石にそこは一年生の多くがざわついた。

 校外活動(ヒーローインターン)の説明は、まだ受けていなかったからだ。

 

「経営科も普通科もサポート科もヒーロー科も、みんな社会の後継者であることを忘れないでくれたまえ!」

 

 校長の話の後、生活指導のハウンドドッグからの「寮生活で喧嘩すんじゃねぇ(意訳)」という絶叫にも似た指導があり、生徒達は解散となった。

 三年生の列、薄紫色のロングヘアを揺らした美少女が、隣に立つ友人男性の後頭部を何度もつつきはじめた。

 

「ねぇねぇねぇ、知ってるんだよ! ねぇ聞いちゃったの、聞いて? 一年だって、一年A組喧嘩の子! ねぇねぇ、知ってる? 元気だよね! ねぇ聞いてるー!? ねぇってば!」

「ほほう」

 

 逆立てた金髪の男が、ニヤリと笑った。

 

 

 * * *

 

 

 ヒーローインターンの説明や、より進んだ英語の授業などがあり。

 当然ながら、初日の夕方の寮は、男女ともに大騒ぎとなった。

 

「なァ、今日のマイクの授業さ……当然のように習ってねー文法、出てたよな」

「あーソレ! ね! 私もビックリしたの!」

「予習忘れてたもんなァ……」

「一回つまづくと、もうその後の内容、頭入らねえんだよ」

「インターンの話さ、ウチとか指名なかったけど参加できないのかな」

「やりたいよねぇ」

 

 皆の会話を聞いて、緑谷(みどりや)出久(いずく)は心底焦った。

 

(たった一日で、すごい置いてかれてる感……!)

「……という顔だね、謹慎くん!」

「キンシンくんはひどいや」

 

 委員長・飯田の言葉に、緑谷が哀しげな顔をみせる。

 

「俺は怒っているんだよ! 授業内容等の伝達は先生から禁じられた! 悪いが二人ともその感をとくと味わっていただくぞ! 聞いてるか爆豪くん!」

「っるせんだよ、わかってらクソメガネ!」

(それでも原作と比べれば、半分マシなんだよ?)

 

 爆豪の大声を聞きながら、塚内空は内心で苦笑した。

 

 

 * * *

 

 

 九月第一週の水曜日。

 水曜は、ヒーロー基礎学のある日だ。

 原作との相違点は、爆豪の謹慎も解けていること。

 

 付け加えるなら、塚内空の個性『否定』が荼毘ダンス・フルverで舞っていたことだろうか。

 彼女は公安から、元気を貰いすぎてしまった。

 

 仮免試験において、塚内空は公安サイドから割と酷い扱いを受けていた。これは逆の見方もあり、鍛えにくい部類の個性『否定』にガンガン栄養が与えられる側面もあった。

 塚内空は完全に開き直り個性『否定』の鍛錬だと割り切って、ゲスい三下演技に徹した。

 ジョーカーダンスのテーマであるはずの Gary Glitter「Rock & Roll Part 2」が、塚内空の中で個性『否定』のテーマとなってしまったぐらいには、長髪もこもこワカメ系の女の子がエヘエヘと笑っていた。

 

 個性『否定』が脳内で元気に舞っていると、鬱陶(うっとう)しくてイラッとしてしまう。

 そして塚内空がイラッとすると、個性『否定』が喜ぶクソループに突入する。

 

 塚内空がげんなりしていると、麗日(うららか)お茶子が心配そうに小声で声をかけてきた。

 

(そら)ちゃん大丈夫? あの日?」

「んー、まぁ、似たようなものかも……」

 

 口元をむにゅむにゅさせながら、塚内空が答える。

 そこで担任の相澤が入室してきたので、1-Aの全員が席に戻った。

 

「緑谷と爆豪も戻ったところで、本格的にインターンの話をしていこう……入っておいで」

 

 廊下に向かって、相澤先生が告げる。 

 扉が開き、出番を待っていた3人の生徒が入室してきた。

 

「職場体験とどういう違いがあるのか、(じか)に経験している人間から話してもらう。多忙な中、都合を合わせてくれたんだ。心して聞くように。現雄英生の中でもトップに君臨する三年生3名……通称、ビッグ(スリー)の皆だ」

 

 通形(とおがた)ミリオ、波動(はどう)ねじれ、天喰(あまじき)(たまき)

 1-Aの皆がざわめく中、塚内空は『無意味な腹パンはヤダな』と、真顔になっていた。

 

 

 * * *

 

 

「じゃ、手短(てみじか)に自己紹介よろしいか? 天喰から」

 

 相澤先生に言われた瞬間、彼はクラス全員を鋭く睨みつけた。

 でもその後、案の定震え始めてしまう。

 

「駄目だ、ミリオ、波動さん……ジャガイモだと思って臨んでも……言葉が出てこない」

 

 青ざめた顔で、彼が俯き始めた。

 

「頭が真っ白だ、つらいっ……帰りたい……!」

「ええ……!?」

 

 当然だけど、皆が驚く。

 

「雄英……ヒーロー科のトップ、ですよね?」

 

 尾白(おじろ)君が、怪訝そうな声をあげる。

 でも天喰先輩は皆に背を向け、黒板に顔面をつけてしまった。

 

「あ、聞いて天喰くん! そういうのノミの心臓って言うんだって! ね! 人間なのにね! 不思議!」

 

 そう言いながら、波動先輩が笑顔で語り続ける。

 

「彼はノミの天喰(あまじき)(たまき)、それで私が波動(はどう)ねじれ。今日は校外活動(インターン)についてみんなにお話ししてほしいと頼まれてきました」

 

 私は、ため息を一つついてから質問を飛ばす。

 

「……雄英のヒーロー科には、ヒーローインタビュー練習を含めたメディア演習があると伺いました。メディア演習は、成績の考査に入らないと判断してよろしいのでしょうか?」

「ねえところで君はなんでマスクを? 風邪? オシャレ?」

「これは昔に……」

 

 脊髄反射で障子(しょうじ)君に尋ねた波動先輩は、答えは聞いてないとばかりに他の人へ問いかける。

 

「あら、あとあなた(とどろき)くんだよね!? ね!? 何でそんなところを火傷したの!?」

「……!? それは――」

芦戸(あしど)さんはその角折れちゃったら生えてくる? 動くの!? ね? 峰田(みねた)くんのボールみたいなのは髪の毛? 散髪はどうやるの? 蛙吹(あすい)さんはアマガエル? ヒキガエルじゃないよね? どの子も皆気になるところばかり、不思議!」

 

 段取り良く物事を進められない、不注意行動。

 おしゃべりを止められない、多動。

 人の会話をさえぎって自分の話をする、衝動性。

 注意欠如多動性障害、通称ADHDの疑惑。

 

「天然っぽーい、かわいー」

「幼稚園児みたいだ」

 

 上鳴(かみなり)くんが喜び、芦戸(あしど)さんが感想を漏らす。

 私は頭の中だけで『あっ ねじれちゃん』*1と呟くにとどめた。

 

「ねぇねぇ、尾白(おじろ)くんは尻尾で体を支えられる? ねぇねぇ答えて気になるの」

 

 気になるわりには、誰の答えも求められていないとわかってしまう。

 だから原作同様に皆が無言になって、クラス中が静まりかえってしまう。

 

「……合理性に欠くね?」

「イレイザーヘッド安心してください、大トリは俺なんだよね!」

 

 通形先輩が空振りするのは、もうわかってる。

 

「前途ー!? 多難ー! っつってね! よォしツカミは大失敗だ!」

 

 席が前後で並んでいるのもあって、砂藤(さとう)君が口田(こうだ)君に話しかける。

 

「……3人とも変だよな、ビッグ3というわりには……なんかさ……」

 

 優しい口田くん(席は私の右隣)に同意で頷かせる時点で、相当だ。

 

「まァ何が何やらって顔してるよね、必修ってわけでもない校外活動(インターン)の説明に突如現れた三年生だ、そりゃわけもないよね」

「三年生だから何が何やらとしているわけでは、ないんですけど」

 

 貴方たちがおかしいだけです、と遠回しに言ったんだけどスルーされた。

 

「何やらスベリ倒してしまったようだし……君たちまとめて、俺と戦ってみようよ!」

「ルールは?」

「俺達の経験をその身で経験した方が合理的でしょう、どうでしょうねイレイザーヘッド!」

 

 駄目だ、何を言ってもスルーされる。

 

「……好きにしな」

 

 相澤先生の許可が下りて、原作通りに私達は体育館へと向かうことになった。

 

 

 * * *

 

 

 1-Aの全員で体操着に着替え、体育館γ(ガンマ)に集まった。

 

 瀬呂(せろ)範太(はんた)が、困惑しながら通形(とおがた)ミリオに尋ねる。

 

「あの……マジすか」

「マジだよね!」

「ルールは?」

 

 ミリオへの塚内(つかうち)(そら)の問いを無視して、皆に背を向けたままの天喰(あまじき)(たまき)が呟く。

 

「ミリオ……やめた方がいい。皆が皆、上昇志向に満ち満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」

 

 怪訝そうな顔で、切島(きりしま)鋭児郎(えいじろう)峰田(みねた)(みのる)が天喰の背中を見つめる。

 

「あ、聞いて、知ってる。昔、挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって問題起こしちゃった子がいたんだよ、知ってた!? 大変だよねえ通形、ちゃんと考えないとツラいよ、これはツラいよー」

「おやめください」

 

 芦戸(あしど)三奈(みな)の髪の触角部分をいじり倒しながら、波動(はどう)ねじれが言う。

 流石の芦戸も、敬語でお願いをしている。

 

「……それ、ジェントルのこと?」

 

 塚内空の目線が、険しくなった。

 

「待って下さい……我々はハンデありとはいえプロとも戦っている」

「そんな心配される程、俺らザコに見えますか……?」

 

 常闇(とこやみ)踏陰(ふみかげ)が問いかけ、切島が困惑した。

 

「ルールは――」

「うん、いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だ!?」

 

 塚内空の問いかけは再度遮られ、通形ミリオの声が体育館内に響く。

 

「おれ――」

「僕……行きます!」

「……意外な緑谷!」

 

 切島の言葉を、同様に緑谷(みどりや)出久(いずく)が遮る。

 

「問題児! いいね君、やっぱり元気があるなあ!」

 

 自信ありげに、通形ミリオが答える。

 

「よっしゃ先輩、そいじゃあご指導ぉー、よろしくお願いしまーっす!」

 

 切島のかけ声に合わせ、皆が戦闘態勢に入った。

 この時の布陣だが、まず通形ミリオを1-A近接隊が囲み、次いで遠距離系個性の生徒が囲み、最も離れた場所に一人で塚内空が立っている形だった。

 

 戦闘開始と共にミリオの服が全て剥がれ落ち、全裸寸前となった。

 耳郎(じろう)響香(きょうか)が顔を真っ赤にさせ、思わず絶叫してしまう。

 

「まずは遠距離持ちだよね!」

 

 そんな耳郎の背後に、突然ミリオが出現する。

 遠距離系個性の生徒達が、次々に腹パンを打ち込まれ、悶絶して倒れていく。

 

POWERRRR(パワーーー)!」

 

 ミリオの決めポーズ。

 

「一瞬で半数かよ」

「No.1に最も近い男……」

 

 爆豪(ばくごう)勝己(かつき)(とどろき)焦凍(しょうと)、仮免を持ってない二人は素直に見学している。

 爆豪の性格上、率先して参戦しそうではあったが、オールマイトに朝晩の寮清掃をさせてしまったことで彼なりに反省して参戦を自重していた。

 

「あとは近接主体ばかりだよね」

 

 通形ミリオのドヤ顔に、まだ立っている生徒が次々に声を出す。

 

「ルールは?」

「何したのかさっぱりわかんねえ!」

「すり抜けるだけでも強ェのにワープとか、それって無敵じゃないすか!」

「何かからくりがあると思うよ!」

 

 1-A生徒達の反応に落胆していた天喰だったが、緑谷の台詞に彼を見る。

 

「何してるかわかんないなら、わかってる範囲から仮説を立てて勝ち筋を探っていこう!」

「探ってみなよ!」

 

 緑谷のブツブツに、笑顔でミリオが返す。

 ミリオは走りながら、地面に沈んでいく。

 彼が沈むついでに、ズボンが地面に取り残されていく。

 

「「……沈んだ!」」

 

 近接隊が叫ぶ中、一瞬で緑谷の背後に出現した全裸のミリオ。

 それを予測していた緑谷が、後ろ回し蹴りを放つ。

 

「だが必殺! ブラインドタッチ目潰し!」

「うっ!?」

 

 ブラインドタッチ目潰しは、透過状態のままで目潰しをする技。

 透過状態なので模擬戦では安全だし、実戦なら本当に目潰しをしてもいい。

 どちらにせよ、技を受ける相手は反射的に目を(つぶ)ってしまう。

 

 目を閉じてしまった緑谷は駄目元でカウンターを入れようとしたが、それはミリオが得意とする流れだ。

 

「ほとんどがそうやってカウンターを画策するよね。ならば当然そいつを狩る訓練! するさ!」

 

 カウンターで腹に一撃を入れられ、流石の緑谷も悶絶して崩れた。

 

「緑谷くん!?」

 

 緑谷を心配した飯田の背後にミリオが現れ、緑谷同様に腹パンで悶絶させていった。

 遠距離系の生徒が悶絶させられたように、近接隊も次々に倒れていく。

 

()()()()()()()なんですね。わかりました」

 

 こき、こき、と肩を鳴らしてから、ゆっくりと塚内空が歩きはじめた。

 最後の一人の前に、ミリオは地面に置き忘れたズボンを再び履いている。

 

 波動ねじれはミリオの瞬殺劇に嬉しくなり、ニコニコ笑顔で天喰に話しかけた。

 

通形(とおがた)さぁーねぇねぇ聞いて通形(とおがた)さぁー、強くなったよね」

「ミリオは子どもの頃から強かったよ、ただ……加減を覚えた方が……?」

 

 加減を覚えた方がいい、と天喰が言おうとした、まさにその時。

 塚内空が、歩きながら呟いた。

 

乱環圏(ランファンチュアル)・フルカウル・実戦(シュート)スタイル」

 

 蹴りという意味のシュートではなく。

 ガチで行くという意味のシュート。

 

 立ち会いを求めた武術家が、目潰しを見せた。

 それは、()()()()()の意思表示。

 

 

 塚内空の背後に出現した通形ミリオが、緑谷にもやったブラインドタッチ目潰しからの腹パンカウンターで最後の一人を仕上げようとした。

 透過させた左手の人差し指で彼女の目に触れ、何かしらの反応を見せたところを右手腹パン、ないしカウンターへの対応で仕留める。

 それがミリオの必勝パターンであり、ずっと訓練してきたことだった。

 

(彼女の左側面からフェイントの左人差し指、その後に右拳で狩って終わりさ!)

 

 塚内空の背後に出現したということは、彼女の制空圏の中に侵入したということ。

 その瞬間からミリオの身体の位置、全ての動き、呼吸一つに至るまで把握されている。

 彼には目があり、呼吸もしており、殴る意念もある。

 透過していること以外の全てを隠せていない。

 

 個性『透過』を使用したブラインドタッチ目潰しをミリオが実行に移した、その瞬間。

 

 透過したままで塚内空の目に触れ、彼女を驚かせるはずだった左人差し指。

 ミリオの不運は、急成長を遂げた個性『否定』の発動条件が接触ではなく、範囲になりつつあることだった。

 

 掴まれないはずの指先は、彼女の右手で握られると同時にへし折られた。

 折った左人差し指を利用する形で左腕を引かれ、身体を前へと崩された。

 

 181cmのミリオが頭を前に下げたところに、彼の顔面に彼女の左肩による(カオ)が炸裂した。

 この時、ミリオは指が折れた激痛に耐えながら個性『透過』をちゃんと発動させたつもりだったが、()()()()()()()()()、強烈な打撃で鼻が潰れた。

 しかし指を掴まれたままなので、移動や回避もままならない。

 

 ミリオの透過は、簡単な動きにも幾つかの複雑な工程がある。

 身体の一部のみへの『透過』を切り替え続けるという荒技による、個性の超強化。

 何千回もの訓練、経験則からの予測を経て必死な思いで強くなることができた。

 

 それゆえに、彼の脳裏に疑問が走る。

 まさかブラインドタッチ目潰しの『透過』に失敗していた?

 そんなはずは無いと彼が考えたその時、ミリオの股間に強烈な痛みが走った。

 

 顔面に打撃が入ると、人は倒れまいと踏ん張ろうとする。

 体勢を維持しなければ倒れてしまうのだから、そうするしかない。

 

 踏ん張るということは、腰が前に出るということ。

 そこに容赦無く、塚内空が右脚による金的を叩き込んだのだ。

 

 内臓全てが口から押し出されるような異様な感覚に、ミリオは襲われた。

 

 シーソーのようだが、金的が入ると身体は前に崩れる。

 

 塚内空の左手が、右回転のままミリオの後頭部を掴んで押す。

 塚内空の右手が、ミリオの左腕を左回転させることで、彼の身体を前に崩していく。

 流れとして、金剛搗碓(こんごうとうたい)のような最終形になった。

 

 最後は、ミリオの頭部が右拳鉄槌と右膝でサンドイッチされる。

 その寸前で、塚内空はイレイザーヘッドの捕縛布でぐるぐる巻きにされた。

 

「……そこまでだ、塚内ッ!」

 

 これでも、イレイザーヘッドとしては危険を感じてから即座に止めたつもりだ。

 人差し指を折ってからの流れが一瞬過ぎて、色々と間に合わなかった。

 

 ぐるぐる巻きにされた塚内空は、ミリオの人差し指を離して彼を解放した。

 鼻血を垂れ流したままミリオが床に倒れ、荒い息のまま大の字になった。

 

 捕縛布でぐるぐる巻きとなって動けない塚内空は、それでも伝えたかったことを言う。

 

「全員に腹パンして目潰しまでして、先輩達は校外活動(インターン)の何を伝えたかったというんですか? 天喰先輩が言ったように、私達の心を折って立ち直れなくさせたかったんですか? それとも通形先輩の中では、目潰しってそんなにも軽い行為なんですか? ちゃんと考えましたか波動先輩?」

 

 塚内空に真顔で見つめられた波動ねじれは、おろおろしながら返事をした。

 

「む、ムダに怪我させるかと思ってたの、でも全員ケガ無しで偉いなあって思ったの……」

「つまり私達が怪我をするかもしれないとわかっていて放置したんですね?」

「そっ、そんなつもりじゃなかったの」

 

 大の字になっていたミリオが、口内に溜まった血を地面に吐き出してから叫んだ。

 

「言葉よりも経験で伝えたかった! インターンにおいて我々はお客ではなく一人のサイドキック、同列(プロ)として扱われる! だから戦闘にルールは無い、目潰しはヴィランだってしてくる。それはとても恐ろしいよ、時には人の死にも立ち合う……けれど怖い思いも(つら)い思いも全てが学校じゃ手に入らない一線級の経験! 俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ、ので! 怖くてもやるべきだと思うよ、一年生!」

「ミリオ、お前……」

 

 天喰は、ミリオの発言に驚いた。

 つまりそれは、塚内空の対応は正しかったのだという主張。

 

《保健室へ》

I(アイ) Know(ノウ)

 

 小型搬送用ロボこと、ハンソーロボが二台やってきて、担架でミリオを運んでいった。

 運ばれながらも、ミリオは出来るだけ笑顔を維持して頑張っていた。

 

 イレイザーヘッドは塚内空を解放し、難しい顔で頭を何度か掻いてから告げた。

 

「どうにも俺じゃ判断がつかない。塚内、今回の件は教職員会議にかける。流石にやり過ぎだ」

「私にはわかりません、相澤先生。ただ殴られるだけっていうのは、とにかくイヤでした」

 

 意思の強い瞳を携え、塚内空が言い切る。

 

「この後会議にかけて、お前が寝る前までには結果を通達する」

「わかりました」

 

 そう言って、塚内空は早歩きで退出していった。

 授業の終了時間にはまだ少し早かったが、誰も何も言わなかった。

 

 個性『否定』が、塚内空の脳内で元気にダンスを踊っていた。

 

 

*1
興味本位で検索してはいけない単語




EP.51 「林間合宿・難易度インフェルノ」にイラストが寄贈されました。

2026/01/25 12:00追記:ご指摘を受け、ブラインドタッチ目潰し関連の描写を変更しました。ここ最近の成長の関係で、個性『否定』の条件が接触からエリアになりつつあります。

貴方は雄英の教職員です。通形ミリオに入院級の怪我を負わせた塚内空に、どのような処分をくだすべきだと判断しますか?

  • お咎め無し
  • 寮内謹慎を数日
  • 停学を数日
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