塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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「生成AI+画像編集」による挿絵がありますので、生成AIが苦手な方はご注意下さい。


EP.60 「そんなつもりは無かった」

 

【アンフォーシーン】《unforeseen》

 予見していなかった、思いがけない、不測の。

 神ならぬ身の人間には、全ての変数を計算することなどできない。

 

 

 * * *

 

 

「入院一日程度でガタガタ抜かすぐらいなら、雄英体育祭とかやってんじゃないよ!」

 

 教職員会議では沢山の意見が出たが、リカバリーガールの一喝で全て吹き飛んだ。

 

 塚内空はお咎め無し。

 『模擬戦で金的は気をつけようね(=雄英体育祭ならいいよ)』の口頭注意で済んだ。

 雄英体育祭でもダメなんじゃと塚内空は感じたが、黙っていることにした。

 

 入院一日となった通形(とおがた)ミリオも、口頭注意となった。

 『気持ちはわかるが腹パンまでは不要だった。説明だけで良かった』と指導された。

 

 『理不尽を覆すのがヒーロー』なので、イレイザーヘッドの監督責任も問われなかった。

 仮免の雄英潰しを生徒達に告げなかった程度には『ウチは他より少し先を見据えてる』。

 (彼に除籍と復学の権限が与えられていた程度には、雄英から大きく信頼されている)

 

 言い方を変えるなら、戦闘訓練における爆豪のやりすぎは、教職員会議モノだった。

 新人教員オールマイトの続行判断が誤りだった一例と言えた。

 

 

 そもそも既存の武術は、個性社会となった影響で大半が廃れてしまっている。

 相手が武術を使っていたとして、強い個性持ちならどうとでも出来てしまう。

 

 今ある武術の大半は、自身の個性に合わせて独自に編み出され、創流されたものが大半だ。

 

 尾白(おじろ)猿夫(ましらお)は祖父の代から続く(ましら)流の継承者だが、これは個性『尻尾』を活用している。

 同様に、プロヒーロー・虎が使うキャットコンバットは個性『軟体』が前提となる。

 その意味では、麗日(うららか)お茶子も学んだバトルヒーロー・ガンヘッドの格闘技G・M・A(ガンヘッド・マーシャル・アーツ)は、講師として雄英に招いて指導をしてもらった方が絶対に良い。

 本来であれば門下生が殺到していてもおかしくない、根津校長が三顧の礼で遇しても良いはずのG・M・A(ガンヘッド・マーシャル・アーツ)ですら、雄英はスルーしてしまっている。

 

 ……エクトプラズム先生の体術指導は、もっと前面に押し出すべきではないだろうか?

 

 武術をはじめ、オリンピック、ギャンブル、エンターテイメント。

 沢山の文化や歴史の大半が、個性社会の名のもとに衰退してしまった。

 

 AFOに大半を壊され、見た目はともかく中身は再建途上であり、未成熟なものは多い。

 

 警察の捕縛術も、原作ヴィジランテの制圧シーンを見る限りでは大変怪しい。

 本来ならNo.6の腕を後ろ手に回し、手を捻りながら手錠をハメるまでがワンセット。

 それが単純に、大勢で上からのしかかるだけになってしまっている。

 

 イレイザーヘッドの捕縛布は、無力化の観点から希望する生徒全員に伝授して良い技だ。

 だが現状では、普通科の心操(しんそう)人使(ひとし)にしか伝えられていない。

 オールマイトはオールマイトで、自身が最初から何もかも上手に出来すぎた為に、他人への指導がうまくできていない。原作でも「私はなんとなく、すぐ100%扱えたからなァ」と発言している。デクがシュートスタイルを編み出した際、「正解だ」とは言ったが肝心の蹴り方の指導まではしていないことから、色々と察することができる。

 

 「自分で気づけ!」という指導には良い面が少なく、悪い面の方が出やすい。

 学習指導要領の作成者である文部科学省がキレるぐらいには駄目な指導だ。

 実際に、今現在の塚内空は迷走気味だ。

 

 しかし学習指導要領は、本体と解説を合わせて約2300ページもある(小学校の実例。参考資料と付録を除く)ので現場の教師にはまず読まれないという、ぐだぐだな流れはどこの平行世界でも共通項と化していた。

 

 

 * * *

 

 

 脳内反省文、塚内空。

 

 皆が合宿等で個性を伸ばしたように、私の個性も成長していました。

 接触条件が、少し緩和されていたみたいです。

 

 透過フェイント後に実体の右拳が来るとわかっていたのですから、その時にヤるべきでした。

 個性『否定』を使わずに対応できたはず。

 ここは猛省しなければなりません。

 

 次は金的ではなく、複数箇所を折ることにします。

 

 ミリオパイセンには、御自身の個性の使用ミス説で押し通します。

 無理そうなら駿河湾の海底から私達を見守る永久職についてもらいます。

 

 ねじれパイセンは、薄い本を厚くするお仕事を頑張って下さい。

 

 天喰(あまじき)パイセン、日本にもモンハナシャコは生息しています。

 シャコ自体は普通に寿司ネタなので、今度実験しましょう。

 美味しいらしいですよ。

 

 

 * * *

 

 

 最近どうにも精神的に不安定というか、イライラしがちだ。

 以前のように『私はヒーローになれない』と思うことは無くなった。

 でも、私の心のずっと奥の方に潜り込まれているような気がする。

 

 ――こんな世界、どうなっちゃってもよくない?

 

 個性『否定』がドヤ顔で言ってくる。

 あまりにウザかったので、私は懐から解熱鎮痛薬ことバファリンを取り出した。

 

 ――ひぃぃっ

 

 バファリンの半分は、優しさで出来ている。

 今いる場所に来る前に買ってきたペットボトルの烏龍茶で、私はバファリンを飲んだ。

 

 ――きゃー!

 

 優しさによるダメージで、個性『否定』は頭を抱えて座り込んでしまった。

 ……よくわかんないけど、当分はバファリンで凌げそう。

 胃に優しい成分が入ってるだけなのに。

 

 

「なんだ諸葛亮、頭痛か?」

「最近疲れててねー」

 

 死柄木(しがらき)(とむら)の心配に、私は肩をすくめながら答えた。

 

 ここは、今は使われていない廃工場。

 原作において、(ヴィラン)連合と死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)の面接会場として使われた場所。

 ……なんか勿体ないから、後で安く買いたたいて何かの工場にしちゃうのはアリかも。

 でも伝播する崩壊や、ギガントマキアがどこまでやらかすのか予測がつかないので様子見。

 

「連れてきたよ、弔くん」

 

 リュミエール・ノワールが、工場の扉を開けながら誰かを案内してきた。

 誰かも何も、死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)若頭(わかがしら)、オーバーホールこと治崎(ちさき)(かい)なんですけどね。

 ペストマスクっぽいものを、ファッションと実用を兼ねてつけている人達。

 

「……とんだ大物が来てくれたな」

 

 事前にある程度の情報を伝え済みなので、弔君がそう言って苦笑する。

 弱小ヤクザさん、ちぃーっす。

 

「大物とは、皮肉が効いてるな(ヴィラン)連合」

 

 ここにいるのは、私、弔君、Mr.コンプレス、リュミエール・ノワールの四人だけ。

 スピナーと荼毘と黒霧は、原作同様に不在。

 マグ姉は多分タルタロスだけど、生きてるだけマシということにしてほしい。

 

「組員名簿を毎年所轄の警察に提出して、そのまま(ヴィラン)リストに組み込まれている指定(ヴィラン)団体のヤクザ、死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)。その若頭、(ヴィラン)名はオーバーホール」

「……へぇ」

 

 私の説明に、弔君がくすくす笑う。

 

「まぁ、間違っちゃいない」

 

 オーバーホールが、憮然とした表情で答える。

 

「それで、警察に毎年命乞いをしている細々ライフの極道くんがなぜ(ヴィラン)連合に?」

「あんたもオールマイトが引退して、ハイになっちゃったタイプかい?」

 

 私とコンプレスが、ニヤつきながら尋ねていく。

 

「いや……オールマイトよりも、オール・フォー・ワンの消失が大きい。つまり今は、日向も日陰も支配者がいない。じゃあ次は、誰が支配者になるか」

 

 オーバーホールは、淡々と告げていく。

 

「次は、俺だ。今も勢力をかき集めてる、すぐに拡大していく。そしてその力で、必ずこのヒーロー社会をドタマからブッ潰す」

 

 顔に手を装着した弔君が、オーバーホールを見ながら言う。

 

「計画はあるのか? 計画のない目標は妄想という。妄想をプレゼンされてもこっちが困る。勢力を増やしてどうする? そもそもどう操っていく? どういう組織図を目指してる? ヒーロー殺しステインをはじめ、快楽殺人のマスキュラー、脱獄死刑囚ムーンフィッシュ、どれも駒として一級品だがすぐに落としてるな? 使い方がわからなかったか?」

兀突骨(ごつとつこつ)*1孟獲(もうかく)*2を犠牲に、諸葛亮を獲りに行っただけだ」

 

 オーバーホールは、馬鹿を見る目でため息をついた。

 

「目標を達成するには計画がいる。そして俺には計画がある。今日は別に仲間に入れて欲しくて来たんじゃない」

「ふーん」

 

 彼から離れ、弔君のそば(原作でいうマグ姉の位置)に移動するリュミエール・ノワール。

 私はヒミコちゃんが座っていた場所、ではなく、弔君の隣。

 Mr.コンプレスは原作通り、謎機械の上に座ってる。

 

「計画の遂行に莫大な金が()る。時代遅れの小さなヤクザ者に投資しようなんて物好きはなかなかいなくてな……ただ、名の膨れ上がったお前達がいれば話は別だ。俺の傘下に入れ。お前達を使ってみせよう。そして俺が次の支配者になる」

 

 キリッ。

 両の掌を上に向けた格好いいポーズで、オーバーホールが熱弁をふるった。

 私と弔君は、思わず顔を見合わせて、くすくすと苦笑してしまう。

 

「何がおかしい」

「それで、計画の内容は? 小さなコンビニのレジを強盗した連中を、さらに強盗してアガリを掠め取るお仕事ですか? それが原因で、もう既に貴方たちはヒーロー(仮免を取得したばかりのヒーロー科一年生の省略形)に目をつけられているというのに? 流通ルートもとっくに洗い出され(マジモードの義爛(ぎらん)の仕事)てます。逆でしょう。貴方が土下座でお願いするんです。どうか哀れなヤクザに協力してください、なんでもします……って」

 

 オーバーホールに対し肩をすくめて、私は数歩前に出た。

 前に出ながらリュミエール・ノワールをチラ見したけど、彼は真顔で一度頷いた。

 

「穏便に済ませたかったよ、(ヴィラン)連合」

 

 開発コードネーム『空飛ぶ円盤(フライング・ソーサー)』。

 各種理論を確かめるためだけの、試作オブ試作。

 送られてきたばかりの一枚の盾が、私の背中からふわりと浮かんで銃弾を受け止めてくれた。

 現時点の仕様上、仕事を果たした空飛ぶ円盤(フライング・ソーサー)はポトリと地面に落ちた。

 

「……なっ!?」

 

 天井に潜んでいた死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)若頭補佐、クロノスタシスが声をあげたのが見えた。

 なので私は、人差し指をくるりと回した。

 それを合図に、リュミエール・ノワールの爆弾蜂が連鎖起爆していく。

 

 ドドドドドドォン!

 

 原作において、死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)の援軍が侵入してきた場所。

 事前に蜂で見張られていた援軍達は、トラップ発動とばかりに爆弾の被害を受けた。

 クロノスタシスの背後でも爆弾蜂が起爆し、彼は数メートル落下して床に落ちていく。

 

 手袋を瞬時に外そうとしたオーバーホール。

 でも、私の目の前でそんな悠長な真似をさせるわけがない。

 

(さわ)るな!」

 

 彼の絶叫じみた悲鳴を無視して、私はオーバーホールの左腕を取りながらぐるりと彼の背中に回して足を払い、彼の身体を地面に倒しながら左手首と左肘を同時に捻って折り、地面に彼の左肩が接触した瞬間に彼の左肩をテコの原理で踏み折った。

 

 うつ伏せ状態の彼の右肩の後ろに右膝を乗せ、圧力をかける。

 同時に、彼の左耳たぶの後ろ、翳風(えいふう)という点穴(経穴)を押して制圧する。

 この翳風(えいふう)、表の使い方だと耳や目の病気を治すのに用いられる。

 でも裏の使い方は、激痛で相手が動けなくなってしまう。

 

 擒拿術。

 相手を片っ端から壊し続けていくと、いつの間にか相手が動かなくなっている技法。

 本来なら、このまま身体中を淡々と破壊していく。

 だから、()()()()()()()()()で済ませてあげた私は慈愛に満ちている。

 

「うぐ……おお……」

 

 あまりの激痛に、オーバーホールが呻き声をあげている。

 若頭補佐・クロノスタシスは落下の衝撃で気絶。

 

 乱波(らっぱ)肩動(けんどう)音本(ねもと)(しん)は爆発の衝撃で気絶。

 本部長・ミミックは、小さな身体から大きな腕を出し、ふらついていた。

 

 原作での盾役は、なんか既に弔君の手によって余裕で分解されてた。

 私は死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)の人達に聞こえるように、はっきりと告げる。

 

「先に手を出したのは、あなた」

(きたな)い手で俺に()れるな……これだから嫌なんだ……!」

 

 オーバーホールは、半死半生なのに悪態をついている。

 ミミックが、ふらつきながら叫んでいる。

 

「てめェ、殺してやる!」

 

 そんなミミックの顔面に、鼻歌交じりで弔君が前蹴りを入れた。

 

「こういう危ないのは、回収しておきますかねぇ」

 

 クロノスタシスが落とした拳銃は、Mr.コンプレスが回収した。

 

「あー、この後どうすんだっけ?」

 

 弔君が、なんなんだこの雑魚ども、という顔で呆れている。

 まぁ、彼らの出現位置はわかってましたしね。

 トラップを仕掛けるだけで良かったのに、個性『女王蜂』による補佐だからやりたい放題。

 

「ヤクザの人達は、ごめんなさいの(あかし)に小指を詰めます。エンコと言います」

「おっけ、じゃぁそのエンコだなァ」

「でもこの人達、治療に自信があるから自分で治しちゃうかも」

 

 面倒臭そうな顔を私がすると、蹴り倒されたミミックが叫ぶ。

 

「エンコ詰めといて元に戻すわけねぇだろバカヤロー!」

 

 なんか段々、北野武の映画になってきた。

 ふぁっきんじゃっぷぐらいわかります。

 

「先に仕掛けてきて一本、伏兵を隠してた件で一本、銃を撃ってきた件で一本、合計三本☆」

 

 リュミエール・ノワールが、にこりと笑う。

 

「本来はカッターを使って自分で小指を切断してもらうんですが、今回はコンプレスさんにお願いしちゃいますか」

「こっちは一人死んでんだぞコノヤロー!」

「面倒くせえ。三人殺すか?」

 

 弔君が、ミミックの叫びに肩をすくめる。

 

「はっきり言って、傘下入りは無理です。組長相手なら五分の(さかずき)でも構いませんが」

「お前等なんかに……俺の計画を台無しにされてたまるか!」

 

 オーバーホールが抵抗を試みたので、翳風(えいふう)のツボマッサージ。

 

「暴れると右肩も折れますよ? 折っていいなら折りますけど」

「おー、怖ェ。手を使う個性持ちが拘束されたら、何もできねェよなァ?」

 

 そう言って弔君が、ざまあみろとばかりにゲラゲラと笑う。

 オーバーホールが自分の個性の上位互換だと伝え済みだから、ご機嫌の様子。

 リュミエール・ノワールは、ミミック達全員の周囲に爆弾蜂を展開させている。 

 

「まー、若頭相手じゃいいとこ七三(シチサン)二分八(ニブハチ)ですね」

「ニブハチとか、ふざけたことぬかしやがって……!」

 

 ミミックが叫ぶけど、迫力が無い。

 

 二分八(ニブハチ)だと、稼ぎの八割と、オンナすら差し出さないといけない。

 例え嫁や恋人であっても、兄貴分が「寄こせ」と言ったら返事は「わかりました」一択。

 ……って週刊漫画ゴラクのヤクザ系漫画が言ってた。

 

 ここから私は、死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)をお金で許してあげるつもりだった。

 ドア・イン・ザ・フェイスと呼ばれる、大きな要求を提示して断らせてから、本命の小さな要求を通す手法。

 

 原作ではこのあと、死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)の所有地地下において、人材派遣の交渉がおこなわれる。

 その時にミミックは、金はあるぞとばかりに自慢気な様子で札束を数えていた。

 だから彼が数えていた札束を慰謝料代わりに頂いた上で、ヒーローと警察を動かす。

 後は、オーバーホール逮捕後の護送時に弔君達が襲えば、原作通りの流れになる。

 

 一応、そんな感じの流れで行く予定ですよ、ぐらいは皆に説明していた。

 私の失態は、根っこからの全てを皆に伝え損ねていたことだろうか。

 

 

「そういや、そ……諸葛亮ちゃん、コイツ等何しようとしてたの?」

 

 空ちゃんと言いかけたMr.コンプレスが、質問してきた。

 

「ほらオーバーホールさん、聞かれてますよ」

「個性を消す銃弾と、その血清で稼ぐ……極道(おれたち)を再び返り咲かせることができる……」

「それ全部言ってないですよね? 材料のこととか」

「……そこまでわかっていて、何故俺の傘下に入らない。俺は次の支配者になるんだ!」

「はぁ……ヤクザって、怒鳴れば全部解決するとでも思ってるんですかね……」

 

 私は苦笑したけれど、(ヴィラン)連合の皆には当然ながら伝わらない。

 

「ちょっとわかんないな、おじさんに教えてよ」

 

 Mr.コンプレスが、苦笑しながら聞いてきた。

 だからオーバーホールの代わりに、彼らの裏を説明してあげた。

 

死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)の組長には、六歳になる孫娘がいます。その孫娘は、時間を巻き戻す系の強力な個性を持っています。オーバーホールこと治崎(ちさき)(かい)は弔くんの上位互換、つまり壊して治す個性持ちです。結論を言うと、個性を消す銃弾の材料は、その六歳の少女です。オーバーホールは毎日のように幼女を切り刻み、死にそうになったら殺して蘇生させることを何度も繰り返しています」

「その名は捨てた! どいつもこいつも大局を見ようとしない、俺の邪魔をするな!」

 

 私の説明に、オーバーホールが叫ぶ。

 ただ、廃工場内に沈黙が訪れてしまった。

 突然の沈黙に、私は困惑してしまう。

 

「……んっ? あれっ?」

「諸葛亮ちゃん。確認だ。彼の個性は壊して治す。六歳の孫娘ちゃんを毎日のように切り刻み、死にそうになったら殺して蘇生を何度も繰り返している。おじさんが聞いた事、合ってるかな?」

「あ、はい。名前は壊理(えり)ちゃん。将来有望な超美幼女ですが、毎日続く人体実験のせいで強烈なPTSDと洗脳状態にあり――」

 

 BLAM! BLAM! BLAM! 

 ドドドドドドォン!

 

 Mr.コンプレスが持っていたクロノスタシスの拳銃の残弾が、全てオーバーホールの尻にぶちこまれた。次いで、ミミック、クロノスタシス、乱波(らっぱ)肩動(けんどう)音本(ねもと)(しん)の周囲で爆弾蜂が連鎖起爆。

 無事に生きていたとしても、ゲーム的表現ならHP1とかそんな感じだと思う。

 

 リュミエール・ノワール、ううん違う。

 強い眼差しで死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)を睨んでいるのは、片目の青山優雅(Can't stop twinkling.)だ。

 

 弔君は真顔でナイフを取り出し、私が制圧しているオーバーホールに近づいた。

 

「あのな、オーバーホール。個性消してやるって人間がさァ、個性に頼ってちゃいけねェよな?」

 

 弔君の発言を受け、Mr.コンプレスが淡々と告げる。

 

「死柄木、左手は俺にやらせてくれ」

「ああ、いいぜ。俺は右、お前は左」

 

 ほぼ同時だった。

 

 弔君がオーバーホールの右腕に五指で触れる。

 Mr.コンプレスが、オーバーホールの左腕に右手を近づける。

 

 崩壊をはじめたオーバーホールの右腕は、肘のあたりで切断され。

 オーバーホールの左肘から先が、一瞬でビー玉に変化した。

 

「これでお前は、無力非力の無個性マン」

 

 弔君が両手を広げて、残念でしたとばかりに告げる。

 

 うーん。

 

 根がヒーローの青山君が、壊理(えり)ちゃんの話に激怒するのはわかる。

 AFOガン無視で、俺の傘下に入れと言われた弔君がブチギレたのもわかる。

 でもMr.コンプレスは仮面まで外して(素顔ではないけど、護送襲撃時のように目・鼻・口がわかるマスク)、物凄い怒りの形相でオーバーホールを睨みつけている。

 

 ……なんかこう、彼の決して触れてはいけない部分を、オーバーホールが土足で踏みにじってしまったかのような。そんな印象を、私は受けた。

 

 護送中の高速道路と違って、この廃工場は騒音対策で奥まったところに建っているため、多少の爆音では誰も気づかない。

  

 ミミックが数えていた札束は200万円位だったから、その辺を(ヴィラン)連合に回収させるつもりだった。でもこの流れだと『(ヴィラン)連合が奪えるものは全部奪う』が、普通に実現できてしまう。

 

 ……ヨシ!(現場猫SD化空ちゃん・指さし確認ポーズ)

 

 私はオーバーホールの制圧を解除して立ち上がる。

 ヤケクソで、彼の身体を蹴り飛ばして引っくり返した。

 

 治崎(ちさき)(かい)壊理(えり)ちゃんに対してやったことは、私だって怒ってる。

 正直、原作同様に生かしておく理由がまるで無かったので、悩んでいたぐらいだ。

 

 私を怯えた目で見つめてくるオーバーホール。

 そんな彼に、私は原作の弔君台詞をかけてあげることにした。

 

「貴方が費やしてきた努力は、全くの無意味になっちゃいました! これからは咥える指もなく、ただただ眺めて生きていきましょう! 頑張ってくださいね!」

「ハハッ、俺も同じ事言おうと思ってたぜ!」

 

 気が合うぜとばかりに、弔君が呵々大笑(かかたいしょう)

 まぁ、元は貴方の台詞ですし。

 

「あー、諸葛亮ちゃん。ヒーローに逮捕させた後なら、おじさん彼に何をしてもいい?」

 

 仮面を外したマスク姿のMr.コンプレスが、真剣な顔で私に尋ねてきた。

 もう、どうにでもなーれ!

 

「はい、いいですよ。逮捕後に護送されるでしょうから、その後にならなんでも」

「彼は潔癖症か何かなのかい?」

「私達が触れば、蕁麻疹(じんましん)が出る程度には」

「OK。とりあえず彼らを回収して、ヒーロー襲撃日に敷地内にでも放り込んどくよ」

 

 そう言いながら、Mr.コンプレスはその場にいた死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)の全員をビー玉にした。

 つまりオーバーホール、ミミック、クロノスタシス、乱波(らっぱ)肩動(けんどう)音本(ねもと)(しん)は、Mr.コンプレスの懐にしまいこまれた。

 

「それならもう開き直って、ヒーロー襲撃日にコンプレスさんに忍び込んでもらって、オーバーホール達をばらまいて逮捕劇が発生している最中に、死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)の金庫を丸ごと強奪してもらった方が早いかもしれません。今から皆で乗り込むよりは、多分圧倒的に楽なはずです」

「おっと空ちゃん。おじさんそっちが本業なのよ。これでも全国指名手配の怪盗サマなのさ」

「わかりました。急いでヒーローを手配します。壊理(えり)ちゃんを少しでも早く救出したいですし」

 

 活瓶(かつかめ)力也(りきや)酒木(さかき)泥泥(でいどろ)天蓋(てんがい)壁慈(へきじ)多部(たべ)空満(からみつ)宝生(ほうじょう)(ゆう)窃野(せつの)トウヤ。

 その他雑魚ヤクザしかいない、死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)

 チームアップの必要すら無い予感。

 

「……とりあえず、えーと……あった、これ。さっき私を狙った銃弾」

 

 私はハンカチを取り出し、『空飛ぶ円盤(フライング・ソーサー)』が受け止めてくれた銃弾を拾って包んだ。

 ついでにスーツの上も脱いで、銃弾の痕跡が残っている試作盾を、上着で包んで回収した。

 これは、警察とヒーローを動かすのに使える。

 

「その盾、なんか浮いてて便利そうだったね」

 

 リュミエール・ノワールが興味深そうに尋ねてくる。

 

「これ、地味に開発費10桁だから、あげないよ」

「……10桁!?」

「そういえば、他の三人はどこなの?」

 

 私の台詞に、弔君が首を傾げた。

 

「黒霧はわかんねぇ。スピナーは情報収集、荼毘は仲間集めってところだ」

「うん、りょーかい」

 

 どうしよう。

 (ヴィラン)連合を壊滅させるつもりだったのに、彼らに愛着が湧いて来ちゃった。

 むしろ今では、公安どうしよっかと悩んでるレベル。

 

 せめて対AFOで共闘できれば、違うエンディングを迎えさせてあげられるかもしれない。

 

「どうした、諸葛亮?」

 

 帰ろうとする私に、心配そうに弔君が声をかけてきた。

 だから私は、廃工場の裏口から出る間際、振り向きざまに弔君を指さしてこう言った。

 

「私への報酬、忘れないでよね」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 弔君は答えずに、困り顔で肩をすくめただけだった。

 

 

*1
脳筋武将

*2
脳筋武将




挿絵提供:まねきねこ様(生成AI:LORAなし・使用モデル「Hoshino v2」)

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