塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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EP.63 「死穢八斎會RTA」

 

【レトリビューション】《retribution》

 報い、報復、天罰。

 悪行に対する当然の報いとして受ける罰。

 

 

 * * *

 

 

 唐突だが、原作15巻をお持ちの方は冒頭129話『エリ』の2コマ目をご覧いただきたい。

 デクとルミリオンがパトロール中、街中で腕を組んで歩いている女子二人組がいる。

 

 猫耳ショートヘア、クール&言葉少な目、ショートパンツ系眼鏡っ娘。

 兎耳三つ編みロングヘア、元気&押しが強め、清楚ワンピースの痩身娘。

 

 ただ仲が良いだけなのかもしれない。

 あるいは、もう少し先へ進んだ仲なのかもしれない。

 一コマしか登場しない彼女達は、ただ腕を組んでいるという事実がそこにあるのみ。

 

 彼女達がパトロール中の場面に背景として登場したということは、彼女達の生活エリアが死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)の邸宅付近にあるという完璧な理論武装が可能だ。ゆえに彼女達が、今回のガサ入れ時に銃声が聞こえるような場所で腕を組んでいたとしても、なにも不思議ではない。

 

「……なんか警察の人達、多いね」

「今の、もしかして銃声? 離れた方がいいかも」

 

 そう言って、猫耳と兎耳の女性二人は腕組みをしたまま、ヤクザの邸宅から離れた。

 彼女達に台詞が与えられた平行宇宙を見かけなかったので、やるしかなかった。

 

 

 * * *

 

 

 今回はエログロバイオレンスのグロ強めなので、グロが苦手な方はラーメンでも啜りながら「ありゃー、死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)とうとう終わっちゃったのかー」と受け止めて今話をスルーして下さい。

 単行本換算で五巻に及ぶ、つらく、長い戦いでした。

 

 

 * * *

 

 

 死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)の下っ端ヤクザ達は、混乱していた。

 命令系統が無いというのは、戦争ならワンサイドゲームで終わってしまう。

 

「おォい、何じゃてめェら! 勝手に上がり込んでんじゃねー!」

 

 必死に叫びながら、ヤクザはしてはいけないことをしてしまった。

 手に武器を持ち振りかざし、個性を使って警察やヒーローの制圧の邪魔をしてしまう。

 

「ヒーローと警察だ! 捜索令状に基づくガサ入れだ、大人しくしろ!」

「知らんわ! 個性『葉操(ようそう)』!」

 

 ヤクザの一人が叫ぶと、庭園に生えていた松の木から、針葉樹という分類に恥じぬ針のような葉が、硬質化し文字通りの針となってヒーローや警察達に襲いかかった。

 しかし、そこに相対するのは英国紳士風のコスチュームを身に纏ったヒーローだ。

 

「私は救世(ぐぜ)たる義賊の紳士、ジェントル・クリミナル!」

 

 ジェントリー・リバウンドが容赦無く発動し、個性『葉操(ようそう)』による遠距離攻撃が全て庭園のヤクザ達に向けて跳ね返された。

 

「ふぐおおおおっ!?」

 

 跳ね返った針はヤクザ達の顔面や身体中を貫き、悶絶してバタバタと倒れていく。

 ある者は顔面が血塗れとなり、ある者は永遠に片目を失明した。

 こっそり撮影していたラブラバは、撮影を中止する。

 

「エグイくらい暴力的よ、ジェントル……」

「私も驚きと混乱の最中(さなか)さ、ラブラバ」

 

 元はといえば、彼らヤクザがヒーローや警察達を穴だらけにしようとした。

 つまり自業自得ではあるが、YouTubeにこんな動画をUPしたら一発でBANされてしまう。

 

「すなわちそれ程のスピードとパワー、見かけによらず恐ろしい! 申し訳ない、私は()く!」

 

 ジェントルは、開き直って走り出した。

 

「「まっすぐ最短で、目的まで!」」

 

 ファットガムとサー・ナイトアイが、ヒーロー達に指示を出していく。

 

「おぉ何様じゃ、待て待て何じゃてめェら!」

「「コウボウゥ! ゲンタイィ!」」

 

 侵入や制圧を止めようとしたヤクザに肩を掴まれた警察の突入班は、皆で同じ呪文を繰り返しながらヤクザをボコりはじめた。

 公務執行妨害の現行犯逮捕なら、何をやっても許されると福岡県警も言っている(都市伝説)。

 

 

 * * *

 

 

「行き止まり……か?」

 

 邸内で迷ったビッグショットが立ち止まったその時、コンパス・キッドがぐるりと回転した。

 

「ヤクザの……隠れ場所ッ!」

 

 彼の指先が、廊下を指さした。

 エニグマが少しだけ大きくなり、腕を振りかぶった。

 

「どくだらー」

 

 ドゴンッ!

 原作と違い、隠し通路のギミックごと破壊された。

 

「なァアんじゃてめエエエエらアアア!」

 

 隠れていたヤクザ達三人が、ドスを手にヒーロー達に襲いかかる。

 

「一人頼む……センチコイル!」

 

 センチピーダーが叫び、個性『ムカデ』で二人を捕らえる。

 何か個性を発動させようとしたヤクザを、イレイザーヘッドが睨みつけた。

 バブルガールの個性『バブル』が発動し、個性発動に失敗したヤクザの目が潰れた。

 

「ハイごめんね!」

 

 相手の腕を取って背中に回し、首を押さえて制圧するという、ヒロアカ世界でもあまり見ないちゃんとした捕縛術をバブルガールが披露した。

 

(はえ)え……!」

 

 その様子を見ていた烈怒頼雄斗(レッドライオット)が、感嘆する。

 

「行くぞ、階段の下だ……誰かいる!」

 

 階段の下の空間では、二人のヤクザ……幹部級と思われる人間が待機していた。

 妙にふらふらとしているが、宴会でもしていたのかもしれない。

 

 乱波(らっぱ)肩動(けんどう)と、音本(ねもと)(しん)

 彼らは世界最強のウォッカ・スピリタス(アルコール度数96%)を無理矢理呑まされ、酩酊状態にあった。

 

「(ワン・フォー・オール・フルカウル・)シュートスタイル!」

烈怒頑斗裂屠(レッドガントレット)!」

 

 デクの強烈な蹴りとレッドライオットのボディブローが、それぞれ乱波と音本に炸裂した。

 当然ながら、流石の彼らも一撃で昏倒する。

 

「先越されたわ」

 

 ファットガムが苦笑しながら、デクとレッドライオットを褒めた。

 そこへ、新たなヤクザが二人現れた。

 

「おいおいおいおい国家権力が……不思議なこともあるもんだ」

 

 窃野(せつの)トウヤと多部(たべ)空満(からみつ)

 刑事の一人が叫ぶ。

 

窃野(せつの)だ! こいつ相手に銃は出せん、ヒーロー頼む!」

「バレてんのか、まァいいや! 暴れやすくなるだけだ!」

 

 窃野(せつの)が片手を伸ばし、ドヤ顔で握りしめた。

 

「「あっ」」

 

 窃野の手には、女性用のブラジャーが握られていた。

 

 窃野の個性は、目に見えているものしか獲れないはずだった。

 これには窃野自身も驚いた。何かの加護が働いたのかもしれない。 

 

「……アナタ、それ、私のネ!」

 

 珍しく、深夜おねむが絶叫したその瞬間。

 後ろから勢い良く走り込んできたポップ☆ステップが、華麗なドロップキックを窃野の顔面にぶち当てた。

 

「「「女のッ(げしっ)敵ッ(げしっげしっ)」」」

 

 追いついたバブルガールと、激怒しているポップ☆ステップと、胸元を押さえた深夜おねむ。

 美女と美少女の三人がかりでフルボッコにされる窃野の姿は、ある意味ご褒美なのだろうか。

 

 個性『食』の多部が窃野を守ろうと、大きな口を開けた。

 どんなモノでも一瞬で喰らう歯とアゴを持ち、喰ったそばから消化してしまう胃袋。 

 満ちることの無い腹を満たそうと、多部は女性陣に襲いかからんとした。

 

 まさにその時。

 警官の一人が、多部の口内にビー玉を投げ入れた。

 

 多部の口内で、何かが大きく膨らんだ。

 多部はその個性ゆえに、条件反射で口内のものを食いちぎり、呑み込んだ。

 

「ギャアアアァ!?」

 

 死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)本部長、ミミック。

 本名・入中(いりなか)常衣(じょうい)は、出現した瞬間に身体を咀嚼されていた。

 

「うまっ! うまっ!」

 

 多部は、自分が何を食べているのか気づけない。

 原作でサンイーターのタコ足を食いちぎった勢いで、ミミックを食べていく。

 

 閃光が走り、グラントリノの蹴りが多部の後頭部に炸裂した。

 その一撃で、多部は倒れて気絶する。

 

「あー。間に合わんかったか?」

 

 グラントリノは、ため息をつきながら血の池と化した周囲を眺めた。

 

 生きてはいるが、生きているだけ。

 身体の一部を生きたまま多部に喰われたミミックは、ショックのあまり気絶した。

 

 

 個性『バリア』の天蓋(てんがい)壁慈(へきじ)と相対した時のルミリオンの対応は早かった。

 個性『透過』で壁から壁へと高速移動を繰り返しながら、急接近していく。

 

「必殺……ファントム・メナス!」

 

 ルミリオンはバリア内にあっさり侵入し、腹パンで彼のバリアを解除した。

 その瞬間、サー・ナイトアイの個性『押印』 5kgの印鑑が、レーザー光線を想起させる凄まじい速度で天蓋壁慈の口に直撃した。

 歯の中央部分が全てへし折れ、印鑑が喉に突き刺さり、一撃で天蓋壁慈は昏倒した。

 

「何が……起きた?」

 

 驚く警察に、サー・ナイトアイが解説する。

 

「戦闘用サポートアイテム、超質量印。約5kgの印鑑です。ユーモアが効いているでしょう?」

 

 警官に扮していたMr.コンプレスは、「ヤクザ、使えねェな」と原作トゥワイスと同じ感想を抱いていた。

 

 

「ウィイイ、足元がァ、おぼつかっ、おぼつかねェエなァア!?」

「KGD」

 

 酒を飲みながら天井の鉄パイプに張り付いていた酒木(さかき)泥泥(でいどろ)だったが、遠距離からの衝撃波ダメージで落下した。

 個性『泥酔』の概要は聞いていたので、範囲外からの一方的な攻撃。

 流石のザ・スカイクロウラーも、六歳の女の子に彼らがやらかした所業に怒っていた。

 

 原作ヴィジランテで、No.6に対してすら怒らなかった彼を怒らせてはいけない。

 今回の彼がどれぐらい怒っていたかというと、気合いをぎゅっとしてドーン、ではなく素でケージーディーと言ったぐらいには怒っていた。

 

 落下後の酒木泥泥に、師匠直伝の太極拳を使うのは勿体ない。

 ザ・スカイクロウラーは、張り手一発で酒木を瀕死にした。見た目上はザ・スカイクロウラー・TSUPPARI(ツッパリ)スタイルだったが、威力は真面目に本編出禁レベルだった。

 

 

 個性『結晶』の宝生(ほうじょう)(ゆう)は、一人孤立していたスーツ姿の少女に狙いを定め、(なぶ)り殺そうと試みた。少女が孤立していた理由が『戦っている所を他の人に見られたくなかったから』というのを知ってさえいたら、宝生結は少女との戦いを避けただろう。

 

司馬懿(しばい)パンチ!」

周瑜(しゅうゆ)キック!」

郭嘉(かくか)エルボー!」

 

 喉への一撃で身体がのけぞって、下半身が前に出た。

 前に出た下半身の金的を蹴られて、上半身が前に出た。

 上半身が前に出たところで、膻中(だんちゅう)に肘が入った。

 

 当然だが、流石の宝生もよろめくしかない。

 

「必殺・孔明ビーム!」

 

 少女は最後にそう叫びながら、硬いボールペン(タクティカルペン)を投げて宝生の顔面にぶち当てた。

 サー・ナイトアイの印鑑と威力的には誤差レベルのトドメの一撃に、宝生は倒れながら言った。

 

「それ……ビームじゃねぇだろ……」

「便宜上です」

 

 便宜上ってなんだっけと思いながら、宝生は気を失った。

 ストレスが溜まり気味だった塚内空の、ストレス解消の相手でしかなかった。

 

 

 クロノスタシス、本名・玄野(くろの)(はり)の意識が回復した。

 彼は座り込んでいて、髪の毛は全て剃られていて、落としたはずの拳銃を手にしていた。

 拳銃は拭き掃除済みであり、コンプレスの指紋は残っていない。

 

 目の前に、敬愛するオーバーホールが両肘から先を失った状態で、うつ伏せで倒れていた。

 彼の尻には何発か個性消失弾が撃たれていたし、放たれた弾は周囲に落ちている。

 

 状況証拠的に、あきらかに自分が裏切って、オーバーホールを撃ったようにしか見えない。

 動揺したクロノスタシスが立ち上がろうとした時、天喰環(サンイーター)の腕が変化したカジキ頭の先端が、クロノスタシスの腕に突き刺さった。

 

玄野(くろの)だな、動いていろ……お前の発動条件は把握してる」

「若頭補佐が若頭を裏切ったって奴か……?」

 

 サンイーターを追って到着した警察が、状況から想像していく。

 クロノスタシスは、絶望した。

 

 

 鑑識が到着し、現場を素早く分析していった。

 クロノスタシスには個性封印枷が付けられ、オーバーホールはぐるぐる巻きにされている。

 

 塚内警部が、鑑識に尋ねた。

 

「どうだ?」

「同一ですね。オーバーホールの(ケツ)を撃った銃であり、警部の娘さんを撃った銃でもあります」

「そうか」

 

 塚内警部が拳銃を抜きかけたので、三茶(さんさ)は慌てた。

 

「駄目です! 駄目です警部! 相手は無抵抗です!」

 

 塚内警部はため息を一つついてから、クロノスタシスに優しく声をかけた。

 

「抵抗していいぞ、玄野(くろの)

 

 クロノスタシスは何もせず、正直に答えた。

 

「女はヴィランしか撃ってませんが」

「……ヴィラン。ヴィランと言ったか」

 

 塚内警部が、淡々と答える。

 

「ええ。立派なヴィランでした」

 

 クロノスタシスは司法取引のつもりで、そう言った。

 三茶(さんさ)は、誤魔化すのが面倒臭い銃だけは使わないでくれと願った。

 

「塚内警部。死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)の金庫の類が全て破られ、中身がありません。ヤクザの仲間割れのドサクサに紛れて、下っ端達が奪って逃げたのではないでしょうか」

「……忠義の(さかずき)とは、随分と軽いのだな。たいした結束だ」

 

 鑑識の報告に、塚内警部が素直な感想を漏らした。

 しかし(さかずき)を馬鹿にされる事は、ヤクザとして絶対に許せない行為だった。

 

「調子にのるな!」

 

 クロノスタシスは両手に枷をつけたまま、塚内警部に駆け寄ってタックルをしてしまった。

 不意のタックルで転んだ塚内警部は、頬にわずかなすり傷が出来てしまった。

 

「あっ」

 

 三茶(さんさ)の顔面が蒼白になるも、もう遅い。

 ()()()()()()()()()()()

 

「被疑者の公務執行に対する抵抗を確認。投降の意思無しとみなす」

 

 S&W M500と350grジャケッテッド・ホローポイント弾の組み合わせは、大型の熊向けだ。

 洒落になっていない威力の『にゅーなんぶM60(S&W M500 & 350gr JHP)』が、人の顔面に向けて放たれた。

 

 (ヴィラン)名・クロノスタシス、本名・玄野(くろの)(はり)

 若頭を裏切った犯人は投降せずに暴れ、現場指揮官に怪我を負わせたことで、射殺された。

 

 塚内警部が警視や警視正になったら、自分も堂々と色々な銃を撃ってみたい。

 三茶は三茶で、わりと駄目な理由で上司のやらかしの隠蔽に協力していた。

 なんだかんだでFBI仕様だのなんだの、一目で銃を見抜く程度には三茶は(ガン)マニアだった。

 

 

 * * *

 

 

 全てが終わり、警察が死穢(しえ)八斎會(はっさいかい)の面々を護送していく。

 インターン編、あっけなく終わっちゃったなぁと護送の様子を眺めていたら、珍しく微笑を浮かべたサー・ナイトアイが私に話しかけてきた。

 

「雑魚ヒーローでも、どうにか未来を変えることができたようだ。喜ばしい」

「……サー・ナイトアイ?」

 

 確かに貴方は死にませんでしたけど。

 まさか自分の死を、既にどこかで見ていたとか?

 

「『これからは咥える指もなく、ただただ眺めて生きていきましょう』。私の予知は、そんなヴィランじみた台詞を、君が治崎(ちさき)に言う未来を見ていた。不穏な未来を変える事はできないかと、私なりに奮闘してみた。……おそらくは、今日がその日だったと思う。『未来は覆して当然、あくまでも参考資料』。君に言われた言葉だが、今でも覚えている。感謝する、塚内空。私は未来を、覆すことができた」

 

 がっつりとサー・ナイトアイに両手を掴まれ、礼すら言われてしまった。

 

 『サー・ナイトアイの個性・予知は、使うにしてもここぞという時のダメ押しで構わない』とブリーフィングで私が言ってから、妙に高かったサー・ナイトアイからの好感度が、さらに爆上がりしたような気がしてならない。誰か気のせいだと言って欲しい。

 

「未来を覆せるのなら、私は雑魚ヒーローのままでいい。オールマイトのためにも」

「……仮に不穏な未来が訪れても、きっと皆は乗り越えることができると思います」

 

 『私以外の皆は』と言いたかったけれど、それは言わずに無理矢理微笑んだ。

 私の言葉に、サー・ナイトアイが嬉しそうに笑った。

 

 

 * * *

 

 

八斎會(はっさいかい)組員移送中、胝棚(たこだな)(ヴィラン)病院へ向かいます》

 

 護送車のベッドにぐるぐる巻きで載せられ、何もできないオーバーホールこと、治崎(ちさき)(かい)

 

(……これで、俺もタルタロス送りか)

 

 ぼんやり彼が考えていた、その時だった。

 

 治崎の胃に入っていた二つのビー玉が、元の姿を取り戻した。

 それは汚物混じりの大量の下水と、彼自身の左肘から先の部分だった。

 

 異様なまでの腐った匂いが、一瞬で治崎の胃や喉を満たした。

 さらに彼自身の左手が、彼の体内で詰まった。

 

 護送に伴い、治崎には警察の見張りが複数名ついていた。

 だが見張りが気がついた時には、既に治崎は窒息していた。

 

 原作では「壊理(えり)にしたことを忘れるな」と言われ、生き延びた治崎。

 原作のデクからも「エリちゃんのことを償ったらナガンとの約束を引き継ぐ」とまで言われた。

 

 だが彼のやらかした犯罪内容は、法務大臣が即日で死刑を言い渡してもおかしくない。

 むしろ、死刑一回では全然足りない。執行後に蘇生させて、もう一度執行してもいい。

 その意味では償いようがないというか、彼が壊理(えり)に償うことは事実上不可能なのだ。

 

(ごめん……オヤジ……ごめん)

 

 彼はそう言いたかったが、言えなかった。

 下水と汚物にまみれ蕁麻疹を発生させ、自分の手を喉に詰まらせ、窒息したまま死んでいった。

 

 彼の脳内は最後の最期まで組長の事だけで、壊理(えり)の事は一欠片も入っていなかった。

  

 

 高層ビルの上から護送車を眺めていたMr.コンプレスは、誰に見せるでもなく、ボウ・アンド・スクレープによる一礼をしてみせた。

 

 




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