塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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「生成AI+画像編集」による挿絵がありますので、生成AIが苦手な方はご注意下さい。


EP.65 「荼毘ダンスRTA(記録:仮免補講)」

 

【ワルツ】《waltz》

 円舞曲。

 (戦闘や殺し合いを優雅に例えて)死の舞踏。

 

 

 * * *

 

 

「後ろ歩けや」

 

 仮免講習が行われる総合体育センター行きのバスへと移動中のこと。

 原作では、爆豪(ばくごう)勝己(かつき)にそう言われた(とどろき)焦凍(しょうと)は、素直に道を譲っていた。

 この世界では様々な変化によって絶妙なる心理的な変化があり、轟は道を譲らなかった。

 それはとても小さな、無視しても良いレベルの変化。

 

()せーよ、バッボーーーイズ!」

 

 爆豪と轟を待つ、二人の教師。

 プレゼント・マイクとオールマイトがそこにいた。

 

「今日の引率は、私達が行くよ。連合の動きも考慮しての措置だ」

「俺はイレイザーに警護を頼まれて来たってわケ!」

 

 黒霧の逮捕は失敗した。

 沢山あった目撃証言も無くなり、苦渋の決断で警察とグラントリノは撤退した。

 現場検証から、体長25mはある超大型(ヴィラン)の足跡が残っていたのはわかっている。

 

 なお鳴羽田(なるはた)経験者だと「ブンドドとどっちが大きい?」と聞き返されてしまう。

 あの街は巨大怪獣に日常的に襲われているので、住民の感覚が麻痺している。

 巨大シーサーと巨大ゴーヤと巨大島豆腐に同時に襲われる沖縄も、危険度は高い。

 

「遅刻厳禁。さァ、バスにお乗り」

 

 オールマイトとエンデヴァーを会わせたくないと、轟は複雑な表情をしていた。

 

面倒(めんど)くせェ事になりそうだ……)

 

 

 * * *

 

 

 総合体育センターに到着し、生徒達と教師達が別れたその時だった。

 観客席への階段を、エンデヴァーが塞いで待っていた。

 

「おや……元No.1ヒーローじゃないか。焦凍(しょうと)の引率、ご苦労」

「エンデヴァー!」

「ちょうどいい、貴様とは……腰を据えて話したいと思っていた」

 

 オールマイトと、エンデヴァーの邂逅。

 空気が悪くなったので、プレゼント・マイクがすかさずかき混ぜた。

 

「コーヒー買ってくるぜィェ!」

 

 

 * * *

 

 

「えー、本日はここ総合体育センターをお借りしての講習です。最近特に寝るのが怖くなってきました。目良(めら)です。今日もよろしく」

 

 目良(めら)善見(よくみる)が、ふらふらの状態で説明をはじめた。

 現見(うつしみ)ケミィが合格しているので、講習の人数は10名のまま。

 

「なるべく目立たないようにしよう、皆の邪魔になる……」

焦凍(しょうと)ォオオオ! お前はこんなところで躓くような人間じゃない! 格の違いを見せつけるのだァア!」

 

 オールマイトの言葉を無視したエンデヴァーの絶叫。

 現No.1と元No.1の見学に生徒達がざわめき、はしゃぎはじめた。

 

 しかし、そこへ現れたギャングオルカが、米陸軍や海兵隊の新兵教育における訓練教官(ドリルサージェント) を想起させるノリで生徒達を罵倒していく。

 

「貴様らはヒーローどころか底生生物以下! ダボハゼの糞だ!」

「サー・イエッサー!」

 

 罵倒する理由は、軍隊ならば「個」を殺し、命令に絶対服従する「集団(歯車)」を作りあげるため。ただ、ここはヒーロー免許の仮免補講の場だ。来ているメンバー達は、実力はあるが「エゴが強すぎ」「協調性がない」「精神的に未熟」という問題児ばかり。

 一度どん底まで否定して、自分は半人前だと自覚させるためのショック療法だと思われる。

 

 私立間瀬垣(ませがき)小学校の生徒達と心を通わせる課題。

 原作と違ってケミィ抜きの三人で課題がはじまったが、解決時間は誤差レベルだった。

 

 

 * * *

 

 

「……知っているか。ここ一ヶ月の犯罪発生率、例年に比べ3%もの増加だそうだ」

 

 エンデヴァーが、オールマイトに語りかける。

 日本のみ6→9%の変化で、海外は相変わらず20%越え。(※劇場版でも明言されている)

 平和の象徴の存在がいかに大きかったのかが、わかる数字だ。

 

「元No.1ヒーローよ、平和の象徴とは……何だ」

「正直……なんと言えばいいかわからないな。君のおかれている現状……世間からの声は知っている。私と君を比較する者も多くいる。だが君と私は違う。君は君の思うやり方を、焦らず見つければいい」

 

 小学生相手に色々な手を試し、なんだかんだで課題をクリアしていく生徒達。

 

「何のために、強く()るのか。……エンデヴァー。答えはきっと、とてもシンプルだ」

 

 使用をずっと拒絶していた炎の力を使う焦凍の姿に、エンデヴァーは父親の顔になった。

 

 

 * * *

 

 

 藤谷病院、315号室。

 廊下の札には、『轟様』と書かれている。

 

 女性の看護師が、窓辺に飾り付けてあったリンドウの花を鼻歌交じりに交換していた。

 部屋の主は、見事なリンドウだと驚きながら交換の様子を観察する。

 じぃっと見られて恥ずかしかったのか、看護師は言い訳のように言った。

 

()()()()()()です」

 

 リンドウの開花期は、9~11月。秋の季節を告げる花でもある。

 ゆえに、()()()()()()()()()()、見事な花を咲かせていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 この病室のテレビは、脇にDVDを差し込めるタイプになっている。

 看護師は一枚のDVDを取り出すと、DVDをテレビに挿入し、ケースを置いた。

 看護師が極薄透明の使い捨て用手袋を着けているのは当たり前だったし、病院側にとって見せたくないテレビ番組がある時はテレビを消されてしまうのもごく普通。

 なので今回もそんな感じなのだろうと、轟(れい)はあまり疑問に思わなかった。

 

 看護師が一礼と共に立ち去った後、テレビに一人の男が映し出された。

 あの子が生きていれば、こんな感じになっていたかもしれない。

 その男は、そんな背格好で椅子に座っていた。

 

「僕、(とどろき)燈矢(とうや)は、エンデヴァー家の長男として生まれました」

 

 彼の語り出しに、部屋の主・轟(れい)の目は大きく見開かれ、釘付けとなった。

 

 

 * * *

 

 

 トガヒミコが現見(うつしみ)ケミィに成り代わらなかった為、原作との乖離が広がっていく。

 士傑(しけつ)高校組は引率の教師と、夜嵐(よあらし)イナサと、見学の肉倉(ししくら)精児(せいじ)のみ。

 原作では士傑(しけつ)が狙われたことで雄英と連携していこうという話になったが、この話し合いの部分が丸ごと無くなった。

 総合体育センターを出た夜嵐は、教師と肉倉と合流後に早めに立ち去った。

 そのため、夜嵐が自分を殴った上でエンデヴァーを応援する流れも消えた。

 

 仮免補講後に建物の外に残っていたのは、以下の五名だった。

 

 引率のオールマイト、護衛のプレゼントマイク。見学として来たエンデヴァー。

 仮免補講中、つまり仮免を手にしていない爆豪(ばくごう)勝己(かつき)(とどろき)焦凍(しょうと)

 

 補足すると、この時期の爆豪は冬のインターンで学ぶ『溜めて放つ(クラスター)』が未習得。

 焦凍はAB対抗戦で見せた高火力が未習熟、インターンで会得した赫灼熱拳は当然未習得。

 

 

 時間帯としては、もう夕方。

 夕陽となり、周囲は綺麗なオレンジ色に包まれている。

 

「久しぶりだな、焦凍。ずいぶん変わった」

「うるせェよ」

 

 自身の頭を撫でようとしたエンデヴァーの手を、焦凍は拒否して寄せ付けない。

 だがエンデヴァーは、気にせずに話しかける。

 

「焦凍。お前は自慢の息子だ」

 

 突然ナニ言ってんだテメェ、と焦凍は睨みつける。

 

「ならば俺も、お前が胸を張れるようなヒーローになろう。父はNo.1ヒーロー……最も偉大な男であると」

 

 オールマイトとの話し合いを終え、澄んだ瞳で息子に語りかけるエンデヴァー。

 

「勝手にしろよ……」

 

 焦凍は焦凍で、どうでも良さそうに目線を逸らした。

 

 その瞬間だった。

 

「下がれオールマイトォッ!」

 

 プレゼントマイクがオールマイトを抱きかかえ、横にすっ飛んだ。

 大きな羽根を広げた巨大な脳無が、オールマイトが立っていた場所を文字通り抉り取った。

 飛行可能な巨大脳無、人の三倍ぐらいの大きさのハイエンドが呟く。

 

「どレが一番、強イ?」

「俺だァ!」

 

 爆豪が反射で叫んだ。

 

「……プレゼントマイク、ここは任せる! 爆豪・焦凍(おまえたち)は下がっていろ!」

 

 言うやいなや、エンデヴァーが必殺技を放った。

 

赫灼(かくしゃく)熱拳(ねっけん)・ジェットバーン!」

 

 必殺技、赫灼熱拳。

 自身の熱を極限まで高め、溜める状態。また、それを放出するもの。

 エンデヴァーが到達した、火の極致。

 

 あまりの威力に、ハイエンドは一撃で吹き飛んだ。

 だが、空中で転びつつも浮遊状態を維持している。

 身構えながら、エンデヴァーは告げる。

 

「来い。No.1の俺を見せてやる」

「こコんな火で俺レをを……殺セるとと、思っ、思っ思っ、ったたカ?」

 

 炭化したはずのハイエンドの皮膚や肉体が、急速に再生していく。

 

「もウ……う撃たない……のカ? ね熱っっせ熱線」

「……逃げも再生も間に合わぬ煉獄。()けて静まれ、プロミネンスバーン!」

 

 ただでさえ、明るめの夕陽が周囲を包んでいる中。

 エンデヴァーの身体が、(まばゆ)い光を放ちはじめた。

 

 

 * * *

 

 

 その動画は、X(旧Twitter)やYouTube、ニコニコ動画などで急速に拡散していった。

 いわゆる『消すと増える』タイプの動画だったが、収益化が絡んでいないので放置寄り。

 (ヴィラン)連合の荼毘は誰もが知っている有名人だったから、なおさら消えなかった。

 

「僕、(とどろき)燈矢(とうや)は、エンデヴァー家の長男として生まれました。

 今まで30人以上の罪なき人々を殺しました。僕が何故このような醜穢(しゅうわい)な所業に至ったか、皆に知ってもらいたい。

 

 エンデヴァーは、かつて力に焦がれていました。

 そしてオールマイトを越えられない絶望から、より強い個性を持った子を作る為、無理矢理妻を(めと)りました。僕は父の利己的な夢のために作られた。

 しかしどうやら僕は失敗作だったようで、程なくして見限られ……捨てられ、忘れられました。

 

 人を焼いた僕の炎は、つまりエンデヴァーの炎です。

 僕の髪の毛と唾液を染みこませた綿を、主要テレビ局に送付しておきました。

 これが捏造なのかどうかは、DNA鑑定が判断してくれることでしょう。

 僕は信じてもらえるよう、話すだけです」

 

 この時、轟夏雄と轟冬美は友人達から「いいからこの動画を見ろ、急いで」とメールされまくっていた。二人はなんとなく動画を見て、そして釘付けとなった。

 

「エンデヴァーはその後も母に子を産ませ、四人目にして皆さんご存じ、成功作の焦凍(しょうと)が産まれました。そして待望の傑作にさえ手をあげています。僕は何度も見てきました。

 エンデヴァーは、他者を思いやる心なんて持ち合わせてない。自己顕示に溺れた、矮小で独りよがりの精神。そんな人間が、ヒーローを名乗っていいと思いますか?」

 

 

 * * *

 

 

《突如として現れた一人の(ヴィラン)が、街を蹂躙しております! 現在ヒーロー達が交戦・避難誘導中! しかしいち早く応戦したエンデヴァー氏は……》

 

 マスコミのヘリコプターが、眼下の地獄を映し出した。

 

 プロミネンスバーンは確かに命中し、ハイエンドの身体を焼き尽くした。

 だがハイエンドは、首だけ千切って別の場所に放り投げていた。

 首だけだったハイエンドは急速に再生しつつ、カウンターの一撃を放った。

 強烈無比な一撃が、エンデヴァーの下顎から左目の上までを無慈悲に切り裂き、エンデヴァーは血塗れとなって地面に落下した。

 

 轟焦凍は、その様子を呆然と眺めていた。

 仮免すら無い身では、参戦すらできない。

 しかしそれ以上に、『父はNo.1ヒーロー、最も偉大な男になる』と言われた直後に起きた出来事だったので、エンデヴァーが破れたショックの方が大きかった。

 

《この光景、嫌でも思い出される神野の悪夢――》

 

 報道ヘリに乗っているレポーターが、淡々と実況する。

 駆けつけたギャングオルカが、エンデヴァーに近づこうとした。

 プレゼントマイクは、オールマイトの護衛として離れることができない。

 

 そして、さらなる地獄が総合体育センター付近に襲いかかった。

 

 空中に突如、巨大な黒いもやが浮かび上がった。

 黒いもやを通過して突然出現した体長25mの巨人が、派手な着地と同時にギャングオルカを手で(はじ)き飛ばした。

 弾き飛ばされたギャングオルカは、総合体育センターの外門にぶつかってめり込んだ。

 

「主よ! あなたの望み通りに!」

 

 巨人が、歓喜の雄叫びをあげた。

 

「……なんだってんだ、こりゃァ……!」

 

 手出しできない爆豪が、歯がみする。

 無言で跳ね起きたエンデヴァーが、近場にいたハイエンドに殴りかかった。

 

(おそ)

 

 ハイエンドのただの一振りで幾つものビルが破壊され、エンデヴァーが吹き飛んだ。

 

「オオオッ! もっと……もっト強さを……!」

 

 両手を広げて、ハイエンドが咆哮をあげる。

 報道ヘリのレポーターは、咆哮を気にせずに仕事を続ける。

 

《大変危険です! 急いで退避しなければ、このままでは神野どころの話ではなくなります!》

 

「おーう、いたいた! マジで焦凍(しょうと)もいンのか、こりゃいいや!」

 

 ギガントマキアの首の後ろに居た荼毘が、にこやかな笑顔で登場した。

 右手を挙げて挨拶しながら、左手でボトルをシャカシャカ振っている。

 

「あ?」

 

 呼ばれた焦凍(しょうと)が、荼毘を睨みつけた。

 

「……荼毘!」

 

 顔を半分血塗れにしたエンデヴァーが、叫ぶ。

 

「酷えなァ……そんな名前で呼ばないでよ……」

 

 荼毘はボトルを開け、中身を髪にかけていく。

 洗髪料が落ちていき、荼毘の地毛が(あら)わになる。

 

燈矢(とうや)って、立派な名前があるんだから」

 

 びしょ濡れになると同時、白髪となった荼毘は微笑を浮かべた。

 

「顔はこんなんなっちまったが……身内なら、()()()気づいてくれると思ったんだけどなぁ」

 

 最初に気づいたのは、身内じゃなかった。

 荼毘は、残念そうな顔を見せた。

 

 

 * * *

 

 

 ただでさえハイエンドが暴れている中、ギガントマキアまでいる。

 荼毘自身も、原作でギガントマキアチュートリアルをキャンセルしたぐらいに強い。

 荼毘ダンスの舞台(ステージ)としては、バッチリだろう。

 

 女子トイレの中で、ナース服からいつものスーツ姿に着替える。

 一万円程度で業者から買った、藤谷病院のナース服に似た服を手袋ごとゴミ箱に捨てた。

 

 洗面所でカラコンを外した塚内空は、ケータイを取り出して手早くチェック。

 告発動画の拡散具合を確認してから、藤谷病院から立ち去った。

 

 

 * * *

 

 

「事前に録画しておいた俺の身の上話が、いま全国のネットを走ってる」

 

 ハイエンドが暴れ、エンデヴァーは瀕死。

 街の区画は半壊し、ギャングオルカを含めヒーロー達が手こずっている。

 そして何よりも……父の炎司(えんじ)と弟の焦凍(しょうと)が、見てくれている。

 

「……いけねぇ、なんだか(たの)しくなってきた!」

 

 右手を高く掲げてから、左足を軸にして、身体を時計回りに一回転。

 そのまま両手を拍手のように打ち付ける。

 

「どうしたらお前が苦しむか、人生を踏み(にじ)れるか、()()()以来ずうっと考えた!」

 

 右手の肘から先だけを何度か振ってから、何かを紹介するように右腕を大きく伸ばす。

 その後両手を広げながら、時計回りにターンし続ける。

 

「自分が何故存在するのかわからなくて、毎日俺が夏くんに泣いて(すが)ってた事知らねぇだろ!」

 

 全ては、塚内空のお膳立て通りだ。

 荼毘は、彼女に感謝しながら踊り続ける。

 

「最初は、お前の人形の焦凍(しょうと)が大成した頃に焦凍(しょうと)を殺そうと思ってた!」

 

 両脚を広げて中腰になり、前屈みになってガクリと気落ちした姿勢。

 そこから、顔を少し俯かせたまま立ち上がる。

 

「でも期せずしてお前が、ナンバーワンに繰り上がって、俺はぁ!」

 

 大きく両腕を広げ、時計回りで目一杯ぐるぐると回る。

 途中から大空を見上げるように、顔をあげる。

 

「……お前を幸せにしてやりたくなった」

 

 右手で、顔面を掴むほどに深く目頭を押さえる。

 

鳴羽田(なるはた)では死んじまわねぇか肝を冷やした!」

 

 父・炎司(えんじ)に向けて、右手から右目を覗かせる。

 強調するように、左手を横に伸ばす。

 

「ハリボテのナンバーワンが、オールマイトと比較される姿は酷く滑稽だった!」

 

 ぐるりとターンしながら、軽やかにバックステップ。

 両腕を再度広げ、反時計回りに90度ターンしてからバックステップ。

 

「念願のナンバーワンはさぞや気分が重かったろう?」

 

 背筋を伸ばしながら後ろに曲げ、空を見上げる。

 

「世間からの賞賛に心が洗われただろう。子供たちに向き合う時間は、家族の絆を感じさせただろう!?」

 

 本家本元の荼毘ダンスではあったが、TV中継で見ていた人達は少し首を傾げた。

 ……これは、四年前にネットミームになった『ソラダンス』では?

 

「未来に目を向けていれば正しくあれると思っただろう!? 知らねェようだから教えてやるよォ!」

 

 両腕を大きく広げながら、再度背筋を後ろに伸ばして上空を見あげる。

 

「過去は……消えない」

 

 足先を整え、両肘をあげながら両手を胸にあてる。

 

「ザ! 自業自得だぜ! さァ一緒に堕ちよう、(とどろき)炎司(えんじ)!」

 

 両手を胸にあてたポーズのまま、瀕死のエンデヴァーと呆然としている焦凍(しょうと)を見た。

 

「地獄で俺と踊ろうぜ……なァ! お父さん!」

 

 嗚呼。

 観衆の喝采と、万雷の拍手が聞こえてくるようだ。

 

 荼毘こと(とどろき)燈矢(とうや)は、両手を両耳にあてて、耳を澄ますポーズを長めにとった。

 

 

 * * *

 

 

「今日まで元気でいてくれて、ありがとう……エンデヴァーァッ!」

 

 絶叫しながら、荼毘がエンデヴァーに向けて飛び降りた。

 ハイエンドに瀕死にされていたエンデヴァーは、避けなければいけないとわかっていても動けなかった。

 

(捜したんだ、当時俺は……お前が生きてると信じて……)

「親父! 来るぞ親父! 頼む動け、守ってくれ、おい! ()()()()()()!」

 

 涙を溢れさせながら、焦凍(しょうと)が叫ぶ。

 

赫灼(かくしゃく)熱拳(ねっけん)

 

 荼毘のその台詞に、オールマイトと爆豪は戦慄した。

 それは、轟焦凍すら未習得のエンデヴァーの技だと知っていたから。

 

「プロミネンス・バーン!」

 

 身体を大の字に開いた荼毘が、全身から蒼炎を自身の前方一帯に放射した。

 結局のところエンデヴァーは動けずに、荼毘の必殺技の直撃を受けてしまった。

 黒焦げとなったエンデヴァーは、かろうじて生きているだけの状態になった。

 

「なんだ、壊れちまったのかァ!? お父さん! はははは!」

 

 この時、ギガントマキアは荼毘ダンスのステージと化していたので動いていなかった。

 むしろ、脅威度的にはギャングオルカをはじめとした応援のヒーロー達を返り討ちにしているハイエンドの方が高かった。

 

 時間は夜ではなく、夕方。

 到着目標となるギガントマキアは、ただでさえ大きくてわかりやすい。

 そして、現在進行形で巨大なハイエンドが派手に暴れ、街を破壊している。

 

 ドン!

 

 ザ・スカイクロウラー・KNUCKLE(ナックル) STYLE(スタイル)

 直上からマッハを越える速度で、四筋の流星と共にヒーローが降ってきた。

 

「……俺がッ! 来たァーッ!」

 

 雄英の林間合宿に駆けつけた時に、東京-静岡間の大体の感覚を掴んでいた。

 ザ・スカイクロウラーは、試作バイザーの補助もあり、真っ直ぐ辿り着けた。

 

 エンデヴァーやギャングオルカをはじめ、数々の応援ヒーローが苦戦したハイエンド。

 そのハイエンドが、ザ・スカイクロウラーの一撃で動かなくなった。

 

 ザ・スカイクロウラーは一度左手を挙げかけ、いや違う、とばかりに戻し。

 光り輝く右拳を高く突き上げ、ぽややんと笑った。

 

《立っています! スタンディング! ザ・スカイクロウラー!》

 

 報道ヘリから、レポーターが叫んでいる。

 

《勝利の、いえ、始まりのスタンディングですっ!》

 

 オールマイトは、ザ・スカイクロウラーのスタンディングを目前で見ることになった。

 彼こそが、塚内空が選んだ英雄(ヒーロー)

 自分の事務所の跡地を継いだザ・スカイクロウラー本人なのだと、驚愕した。

 

「ザ・スカイクロウラー!? ったく、いいとこだったのに……」

 

 荼毘とギガントマキアの周囲を、黒いもやが包んだ。

 黒いもやに包まれながら、荼毘が笑顔になる。

 

「精々頑張れ、死ぬんじゃねぇぞ……(とどろき)炎司(えんじ)!」

 

 荼毘とギガントマキアが、一瞬にしてその場からかき消えた。

 その場に残された全ての面々が、呆然と立ちすくむ。

 

《危機は……荼毘は退(しりぞ)き、敵は消えました! ……私の声は彼らに届いておりません、しかし言わせてください! エンデヴァー、そしてザ・スカイクロウラー! 守ってくれました! 命を賭して、勝ってくれました! 新たなる頂点がそこに! 私は伝えたい、伝えたいよあそこにいるヒーローに! ありがとうと!》

 

 終わり良ければ全てよしとばかりに、報道ヘリはずっと撮影を続けていた。

 

 

 * * *

 

 

 元々、荼毘ダンスが終わったら死者が出る前に撤収させるつもりだった。

 原作でさっくり終わるフードちゃんは、使い捨て上等だった。

 ところが、予想に反して推しの活躍に寄与するという成果をあげたので、若干一名の駄目な女子は大喜びした。

 

 ザ・スカイクロウラーのスタンディング記事を全てページ保存。

 当日のニュース番組は、フル録画からの切り抜き編集で該当部分を保存。

 翌日の紙新聞は、スタンディング写真の掲載紙が全種類買い揃えられた。

 

 10時間かけて起動したフードちゃんを急いで転送させたのに、即座に使い捨てられたドクターはガチ泣きした。

 

 『主よ! あなたの望み通りに!』の台詞が原因で、荼毘は巨人使いだと世間に誤解された。

 

 ついでに、荼毘ダンスとソラダンスの比較動画が沢山ネットに流れた。

 

 エンデヴァーは重傷を負うも、手術とリカバリーガールの治癒により一命を取り留めた。

 セントラル病院ではエンデヴァーの手術中にもかかわらずマスコミが殺到し、荼毘とエンデヴァーの関係について知りたがった。

 退院後の記者会見は不可避の流れだった。

 

 焦凍(しょうと)は無傷で済んだが、エンデヴァーの心はへし折れた。

 

 

 * * *

 

 

 荼毘が熱海の別荘に帰還した時の、皆の反応はバラバラだった。

 

 まず、リュミエール・ノワールに「趣味悪いね。でも応援するよ☆」と言われた。

 スピナーには「俺もステインの遺志を全うする者として、あの踊りを覚えるべきなのだろうか」と言われた。

 Mr.コンプレスには「とりあえず温泉入りなよ。一人ならいいでしょ?」と優しくされた。

 死柄木(しがらき)(とむら)には「伏兵かよ……」と睨まれた。

 

 塚内空は「荼毘さん、二色の鴨せいろでいいよね? 細打ちの二八そばと、黒めで太い田舎そばの二色だから絶対美味しいと思う!」と満面の笑みで高そうな蕎麦の出前をとっていた。

 

 ……外傷に効く温泉らしいし、一人ならまぁ、いいか。

 自分の身体をあまり他人に見せたくない荼毘は、一人月夜を眺めながら、温泉を楽しんだ。

 

 




挿絵提供:まねきねこ様(生成AI:LORAなし・使用モデル「Hoshino v2」)

荼毘ダンスRTA走者という意味不明なトロフィーを取得
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