【パッション】《passion》
情熱、熱情、激情。
何かを強く愛する心、抑えきれない感情。
(キリストの「受難」、苦しみを伴う愛というニュアンスを含む)
* * *
「見て見てー、見ててー!」
柔軟運動で身体をほぐしながら、
軽やかなツーステップからのジャンプアクロバット、着地フリーズ(ダブルジョーダン)、豪快なウィンドミル。
B-girl(ブレイクダンスをやる女性)と呼ばれるに相応しいアクションを皆に見せた。
「下
「芦戸さんは身体の使い方がダンス由来なんだね。全ての挙動に全身を使う感じだ」
ブレイクダンスは、武術でいえばカポエイラが近い動きをするが、残念ながら武術が
そして
「
飛んだり跳ねたり、アクロバティックで大胆な動きが特徴の武術だ。
地面を転げまわりながら繰り出す蹴り技や、宙返り、前転、後転、倒立、側転などの動作がたくさん入る。大抵の武術は地面に張り付いた敵を想定していないのもあり、対応が難しい。
ただし、デメリットがかなり多い武術でもある。
習得難易度は高く、体力の消耗は激しく、上半身への負荷も高く、自滅の可能性が高く、服も汚れる。費用対効果が低い武術で、
「ちしょうけん?」
首を傾げた緑谷に、塚内が苦笑した。
「ちょっと私の顔を殴るフリをしてみて、デクくん」
「こう?」
前にもやったなコレ、と思いながら緑谷が殴るフリをする。
塚内の上半身のみが後ろに倒れ、彼女のつま先が緑谷の喉元にピタリと添えられていた。*2
緑谷の頬を、冷や汗が伝った。
カウンターという意味でもそうだったが、スカート女子の「喉狙いの蹴り」を真正面で受けると、相手がスパッツを穿いているとわかっていてもドキドキしてしまう。
「こんな感じで、こっちは地面に倒れるの。汚れちゃうから、そこまではしないけど」
「うん……あっ、ありがとう、塚内さん」
峰田実が叩かれたように、塚内空は何故か
* * *
「文化祭があります」
「ガッポォォォイ!」
ブリティッシュスタイルのオーダースーツ姿の相澤が、生徒達に告げた瞬間大騒ぎになった。
「いいんですか!? このご時世にお気楽じゃ!?」
「切島……変わっちまったな」
「でもそーだろ、
「もっともな意見だ。しかし雄英もヒーロー科だけで回ってるワケじゃない」
体育祭がヒーロー科の晴れ舞台なら、文化祭は他科が主役。
そして寮制に移行したことで、ストレスを感じている生徒が多いと相澤は説明していく。
「主役じゃないとは言ったが、決まりとして一クラス一つ出し物をせにゃならん。今日はそれを決めてもらう」
そういうことになった。
「ここからはA組委員長、
原作と違うのは、副委員長として塚内空が進行に参加していることぐらい。
ただそこからの展開は、結局まとまらずに明日の朝までに決めることになったところまで同じだった。
* * *
夕飯後、1-A寮、1Fロビー。
1-Aの一部の生徒達が集まり、改めて自主会議を開いていた。
インターン組は補習で、爆豪は熟睡。
ノートパソコンを前に、飯田はYouTubeで検索をかけまくったりした。
今のネット界隈は荼毘ダンスMADばかりで、ちゃんと検索しないとまともな動画が出てこない。
「落ち着いて考え直してみたんだが……先生の
「塚内さん曰く、オールマイト先生の学生時代は、執事&メイド喫茶をおやりになったそうですわ。男女逆でもいけるはずとの事で、資料を預かっております」
そう言って、
それは、脳内で個性『否定』がうるさいので、駄目元で塚内空が用意したものだった。
テーブルに置かれた写真を、その場の一同が覗く。
そこには執事姿の塚内空と、メイド姿の塚内空が映っていた。
「ヤオモモちゃん、これコピーは可能?」
「データで頂いておりますので、お分けできますわ」
にこりと、八百万が答える。
「オイラも欲しい」
「お断りいたしますわ」
峰田の主張は、秒で蹴られた。
真剣な表情で考え込みながら、飯田が呟く。
「ランチラッシュの味を知る雄英生には、食で満足させられるモノを提供できないと思うんだ」
「それなんですけど……塚内さんはこうも言っていました。『人は、食で満足するために執事喫茶やメイド喫茶に来るのではない』、と」
八百万の発言に、飯田は面食らった。
「……違うのか?」
「待て飯田、おめーは塚内のこの写真を見て何も感じねぇのか」
「塚内くんが執事服とメイド服を着ている。似合っていると思うが」
飯田の返答に、
「コホン! こ、この写真を貰うにあたり、塚内さんと取引……もとい、お願いをされておりましたの。飯田さんがそのようなことを仰られたら、こう言ってみて欲しいと」
そう言うと八百万は立ち上がり、両手でハート型を作って胸の前で構えた。
恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、彼女は律儀に取引の条件を実行した。
「おっ、美味しくなぁ~れ♡ もっ、もえっ、もえもももっ……」
「……もえもも?」
真顔で飯田に問い返され、八百万は両手で顔を押さえてしゃがみこんでしまった。
「だっ、ダメです塚内さん、私には出来ませんでした……っ」
「これはこれで」
「みんなで踊ると楽しいよ?」
「ダンス、良いんじゃねぇか?」
「超意外な援軍が!」
轟は轟で、エンデヴァーと荼毘絡みで世間からの目が厳しいのもあり、真面目だ。
「飯田の意見はもっともだと思うし、皆で楽しめる場を提供するのが適してんじゃねぇか?」
「待て素人共! ダンスとはリズム、すなわち音だ! 客は極上の音にノるんだ!」
峰田が珍しくまともな意見を出した。
「音楽と言えばぁー!」
「えっ、何!?」
葉隠透のフリに、
「耳郎ちゃんの楽器で生演奏!」
「ウチのは本当、ただの趣味だし……正直自慢できるモンじゃないつーか……」
否定的な耳郎に、ドッタドッタと足音を立てながら
「……っ耳郎さん。人を笑顔にできるかもしれない技だよ、十分ヒーロー活動に根ざしてると思うよ!」
「本当に、塚内さんにはどこまで見えているのでしょうか……」
八百万は苦笑しながら、皆に対してこう告げた。
「塚内さんからの伝言です。ダンスや音楽の話になって、耳郎さんの演奏に話が飛ぶようなら、こう伝えて欲しいと」
「えっ、何?」
流石の耳郎も、硬直する。
「『二年の先輩に、
「マジか。フェザステのメンバーが来るんかよ」
上鳴が超反応を見せる。
「……そこまで言われてやらないのも、ロックじゃないよね……」
そんな流れで、A組の出し物は生演奏とダンスを提供することになった。
* * *
羽根山和歩と緑谷出久は、イレイザーヘッドと共に
流れの中で、一日外出ということで壊理を文化祭に呼ぶことになった。
壊理は壊理で塚内空にも会いたかったらしいが、名前がわからなくて呼べなかったらしい。
時間があったら是非見舞いに行ってやってくれと、塚内は叔父の相澤から告げられていた。
なので、塚内は壊理の病室へ見舞いに訪れていた。
ただし一人ではない。
縮れ毛の短髪、高身長(181cm)で細身のイケメンが彼女の隣に立っている。
スーツのジャケットを羽織った彼は、温かい眼差しで壊理を見つめている。
「壊理ちゃん、お久しぶりです。リーチこと、塚内空です。覚えてますか?」
「はい、リーチさん。デクさんと、ポップさんと一緒にいました」
壊理は必死に、言葉を紡ぐ。
「助けてくれた人のこと……皆さんのこと、もっと知りたいなって考えてたの」
「ありがとう、エリちゃん。そう思ってもらえて、とっても嬉しい」
塚内は中腰で目線を合わせ、ニコリと微笑んだ。
壊理は壊理で、必死に顔に力を入れ、手を使って顔をぐにぐにと動かしている。
「ごめんなさい、笑顔ってどうやればいいのかわからなくて」
「焦らないで、エリちゃん。ゆっくりやっていこうね」
塚内が、壊理の頭を撫でる。
申し訳なさそうに涙ぐんだ壊理は、無言のままでいたイケメンに話しかけた。
「そちらの方は、誰ですか?」
イケメンは、優しい声で答えた。
「……おじさんはね、おじさんだよ。だからエリちゃん、おじさんって覚えておいてね」
「おじさん……」
「うん。エリちゃんの好きな食べ物は、なんだい?」
「リンゴ!」
「ふむふむ。じゃあエリちゃん、リンゴ飴って食べたことあるかい?」
「リンゴ飴?」
「リンゴをもーっと甘くしちゃった飴だよ。食べてみたいかい?」
「……うん」
「じゃあ、おじさんがエリちゃんにお手紙で送ってあげよう」
そう言うと、自称おじさんは懐から折りたたまれた封筒を取り出した。
そして壊理の目の前で、折りたたまれた封筒をゆっくりと広げてみせる。
広げた封筒をくるりと一回転させ、何も変な所はありませんよというアピール。
封筒は長型三号と呼ばれる、A4用紙を三つ折りにして入れるタイプのものだ。
「エリちゃんへ。おじさんより」
自称おじさんが、広げた封筒を胸に抱えて入り口を開き、中から何かを引っ張り出した。
すると、何も入っていなかったはずの封筒から、屋台で見かけるリンゴ飴が出てきた。
リンゴ部分はちゃんとビニールで封をされていて、衛生面も安心。
でてくるはずのない大きさのものが、折りたたまれた封筒から出てきた。
壊理の目が驚愕に見開かれ、口をパクパクさせている。
「はい、エリちゃん。どうぞ」
驚いたままの壊理に、自称おじさんがリンゴ飴を手渡した。
壊理はドキドキしながら外装ビニールを外し、ペロリとリンゴ飴を一舐め。
「フフ……甘い」
壊理がにんまりとする。
「良かった。そのリンゴ飴、私の手作りなんだ。それじゃエリちゃん、また来るね」
「うん!」
「おじさんも、エリちゃんにお手紙送るね」
「うん!」
にんまりも笑顔、という無粋なことは指摘しない。
塚内空と自称おじさんは、手早く退散した。
Mr.コンプレスというよりは、
素顔であるがために逆にバレないという、堂々とした潜入。
帰り際、手品に驚いていた塚内は、素直に彼を賞賛した。
「クロースアップマジックって凄いですね、全然わかりませんでした」
「いやいや、あんなの全然クロースアップじゃないよ」
苦笑しながら、迫おじさんは折りたたまれた封筒を塚内空に手渡した。
よく見れば、封筒の中央、折り目の部分に真横に切れ目が入っている。
つまり、リンゴ飴を隠し持つためのスーツジャケット姿だったということだ。
「おおう……なんという盲点」
「ここぞという時、その為に──タネはとっとくもんなのよ」
迫おじさんは、ウインクをしてみせた。
* * *
「文化祭は丁度一ヶ月後! 時間もないし、今日色々決めてしまいたい」
翌日の1-A寮、1Fロビーでは、昨夜メンバーに爆豪を加えて楽曲の相談がはじまっていた。
飯田は必死に、委員長として舵取りをしていた。
「皆は楽器やる気なんだよね? ベースとかドラムやってた人、いる?」
「塚内は
そしてそのまま、目線を
「つーかおまえ、昔、音楽教室行かされてたっつってたじゃん」
「あ?」
普通科の
「下らねー。俺がドラムやって、そんなもん自己満以外のなんだってんだ? 他の科のストレス発散みたいなお題目で、他の科が素直に受け取るハズねェだろが。なんでこっちが顔色伺わなきゃなんねぇ? てめェら、ご機嫌取りのつもりならやめちまえ。殴るンだよ……馴れ合いじゃなくて殴り合い、やるならガチで――」
耳郎をはじめ、クラスの皆が爆豪の気合いに呑まれていく。
喉首をかっきるポーズをしながら、爆豪が叫ぶ。
「――雄英全員、音で
「「バァクゴォオオ!」」
熱を受け取ったその場の全員が、一瞬で前向きになった。
「私、幼少の頃から教養の一環でピアノを嗜んでおりましたが……何かお役に立ちますでしょうか?」
「わー! じゃぁヤオモモはキーボードだ!」
耳郎も浮かれながら、感謝の言葉を言う。
「シンセは……クラブミュージックに欠かせないポジなの。ヤオモモ助かるよ!」
「頑張りますわ!」
「ベースはウチやるから、あとはギターとボーカルだね。それ以外の人はダンス?」
聞かれた飯田が、顎に手をあてて悩む。
「うむ……ただ、普通にそれだけで盛り上げられるか……」
「演出を加えなきゃー!」
「ディズニーパレードみたいにしようよ!」
「そうなると演出の裏方さんもいるねぇ」
その時、丁度インターン組が補講から帰ってきた。
「うーす」
「補習、今日でようやく穴埋まりました」
「本格参加するよー!」
「結局、歌とダンスになったんですね」
「私はダンスで頑張るのよ」
塚内と合流できたので、早速耳郎が尋ねた。
「ねっ、塚内は楽器類はなにができるの?」
「ギターと、DTMの作曲と編曲、あとPA」
「PA!?」
耳郎が驚く。
笑顔で麗日が補足する。
「うたもできるよね! うたは耳郎ちゃんと空ちゃんの二人でいいんじゃないの?」
「待ってお茶子ちゃん、それどこ情報……?」
塚内が、慌てて叫ぶ。
「雄英体育祭の騎馬戦でも、少し歌ってたけどぉ……」
麗日はにんまり笑うと、ケータイからYouTubeを再生してみせた。
ケータイの画面には、「Looking for you」を路上で歌う塚内空の姿が映し出されている。
動画のアップロード者は『ロック野村』となっている。
過去は消えないポーズでニンマリと笑うNo.6の姿を幻視し、塚内は目眩がした。
「あんにゃろう……」
「待って、私のボーカルは全然……」
耳郎が慌てるも、葉隠と芦戸が推しまくる。
「私も耳郎ちゃんだと思うんだよ! 歌もすっごくカッコよいんだから!」
「じゃぁ、ツインボーカルだー!」
観念したのか、塚内がためいきをつく。
「耳郎さんが作詞作曲してくれるのなら、編曲でツイン仕様に調整ぐらいは……」
その時、塚内のケータイが震え、メッセージ着信音が鳴り響いた。
「ごめんね、ちょっとだけ」
一言断りを入れ、塚内は届いたメッセージをチラ見する。
『航一:雄英から警備協力依頼が来たから、関係者として文化祭に行けそう』
そのメッセージを見た瞬間から、塚内の雰囲気が変わってしまった。
それに気づかず、芦戸は楽しげに演出について語っていた。
「例えばほら、火花とかテープとかミラーボールとか、空間づくりで欠かせないのが演出!」
「ブツブツブツブツ
緑谷ばりにブツブツ発言をはじめた塚内。
その時、話題は耳郎の提案で、誰がギターをやるのかという話になっていた。
低身長の関係でギターを扱えなかった峰田が泣きながらギターを置き、そのギターを
そのギターを塚内が素早く掴み、構えた。
「爆豪くんの『雄英全員、音で
「……ぶ、文化祭だから?」
雰囲気の変わった塚内の声に、芦戸が震え声で返す。
「知らないようだから教えてあげるね。火花演出、ミラーボールが生きるスモーク演出、その他諸々、資格が必要なの。火薬類取扱保安責任者、特定高圧ガス取扱主任者、危険物取扱者。特殊効果師っていう視覚効果専門の職業があるぐらい。消防法とか色々あって、個性で代行したから大丈夫ですなんて言い訳も無理」
冷静に安全管理の観点から見ると、原作のA組バンド演出の大半は労働安全衛生法および消防法違反のオンパレードであり、そこを『イイハナシダナー』で強引に押し通っている。
雄英文化祭に中止勧告をするためにわざわざ雄英に訪れた警察庁長官が、観客を宙に浮かせてテープで安全確保するような演出を文化祭でやっていたと知ったら卒倒間違いなしだろう。
「しかし塚内くん、資格とか急に言われても時間が……」
流石の飯田も、
「私達を
ジャーン!
塚内が、『あのバンド』の冒頭30秒をギターでかき鳴らした。*3
この世界の『けっかおーらい』は塚内空の作曲だが、前世知識により『あのバンド』(※ EP.1「I AM HERE」)もこの世界に生み出してしまっている。
爆豪同様に、塚内が叫んだ。
「――音で
それは、ギターを弾けずイジケていた峰田ですら呆然とする程のシャウトだった。
* * *
空:そういうわけで Feather Steps を雄英文化祭でチャリティーライブさせて、1-Aを前座で演奏させることにしました
和歩:なにがそういうわけよ
空:クラスメイトの子に指導とかお願いします>ALL
和歩:こっちにだって文化祭の準備はあるんだけど
空:Feather Steps の人気ボーカル、ポップ☆ステップ和歩ちゃん大先輩ならいけます大丈夫
和歩:空ちゃん大後輩、あんたミスコンに出て歌いなさい
空:えっ
和歩:これは正当報酬の上乗せ。あんたに拒否権ないから。大先輩の言う事聞けこの大後輩
珠緒:暇だから指導もライブもOK。あと空ちゃんのミスコン出場は見てみたい
由羽:かれぴが配信見られるなら受けるよー! 空ちゃんの歌、撮影頑張るね
美羽:なんであたしに彼氏ができないのかわからないから空ちゃんのソロライブ見たい
空:どういうことなの
そういうこと(塚内空・ミスコン出場)になった。
* * *
『雄英文化祭で
だがその後に提出された書類を見て、根津校長はぶっ倒れそうになった。
音響設備:
・ラインアレイスピーカー: 巨大スピーカー群。体育館の後ろまで均一に音を届ける。
・デジタルミキサー卓: 数十チャンネルを制御できるプロ用コンソール。
・吸音材・遮音壁: 体育館は音が反響しすぎてライブに向かないため、壁面に仮設の吸音材を設置して音質を整える。
・イヤモニ: 演奏者が自分の音を聞くためのもの。プロ仕様のワイヤレスイヤモニ。
照明・特効:
・ムービングライト: ぐるぐる動く高性能ライトが20台以上。
・レーザープロジェクター: 空間を切り裂く演出用。
・LED大型スクリーン: ステージ背面に設置。
・CO2ジェット(スモーク): 「プシュー!」と吹き出すやつ。
・銀テープ発射機(キャノン砲): サビやフィナーレ用。
ステージ設営:
・イントレ(足場): 照明やスピーカーを吊るすための頑丈な骨組み。
映像コンテンツ:
・VJ素材&映像: 曲のテンポに合わせて背景で流れるモーショングラフィックス。
・歌詞テロップ: 歌詞がお洒落に動くキネティックタイポグラフィ映像。
演出進行台本:
・照明、音響、映像、特効のタイミングが秒単位で指定された台本。
オペレーター陣:
・PAエンジニア: 全体の音のバランスを作る音響職人。
・照明オペレーター: 曲に合わせてムービングを操作する人。
・VJ(映像演出): LEDスクリーンの映像をリアルタイムで切り替える人。
裏方・進行:
・舞台監督: ステージの全責任者。「本番、行きます!」の合図を出す人。
・ローディー: 楽器のチューニングやトラブル対応をする専門家。
・特殊効果師: 火薬やCO2を扱う資格者。
なお、衣装は衣装で原作のようなチープな「A-BAND」シャツではなく、女性陣にはゴスロリ系モチーフの衣装、男性陣にはメンズアイドルを想起させる衣装が外注されていた。
上鳴のギター演奏は見かけだけで素人だと判明した瞬間から、専用のギター指導員がつけられて鬼指導が開始された。
何度も夜逃げしようとした上鳴だったが、指導員は美人のお姉さんだったので逃走を諦めた。
* * *
演出隊がいないので、緑谷の演出隊への引き抜き話が消えた。
ミラーボール青山もいないので、ほつれたロープを朝一で買いに行く話も無い。
エリちゃんを雄英に慣れさせるための事前来校は、
時は流れて11月1週の土曜日、雄英文化祭の当日。
一番の違いといえば、やはりこの二人だろうか。
「これより、何があろうともカメラを止めるな!」
「もちろんよ、ジェントル!」
「リスナー諸君! これより始まる怪傑浪漫、
「キャー!」
片膝をつき、決めポーズを取るジェントルに黄色い歓声をあげるラブラバ。
「……何やってるネ」(深夜おねむ)
「ほら、行きますよジェントルさん」(コンパス・キッド)
「仕事の時はカメラを回さないように。休憩時間は好きにするといい」(サー・ナイトアイ)
「あはは……そういうわけなんで、よろしくです」(ザ・スカイクロウラー)
「む……仕方ない。ここはカットして、休憩時間に再開するとしよう」(ジェントル)
「わかったわ、ジェントル!」(ラブラバ)
ジェントルとラブラバは正規入場であり、むしろ警備側だった。
そこへ、雄英高校全体にプレゼントマイクのアナウンスが響き渡る。
「Good Moorrrnin! ヘイガイズ、準備はここまでいよいよだ! 今日は一日無礼講、学年学科は忘れてハシャげ! そんじゃ皆さんご唱和下さい――雄英文化祭、開催!」
* * *
「……体育館、全然違くね?」
「ヤオヨロズー!」
「あれ、体育館こんなんだったっけ……」
「ヤオヨロズー!」
「日本武道館か、さいたまスーパーアリーナかな?」
「ヤオヨロズー!」
そこはもはや体育館ではなく、プロ仕様のライブ会場だった。
所属会社の厚意(厚意だけとは言ってない)で、機材もスタッフも1-Aに協力している。
さらに言うとチャリティーライブ後の1-B演劇にも協力しているので、
音響と光源を完璧に計算された環境の中。
ゴスロリ系モチーフの衣装を着た
メンズアイドルモチーフの衣装の
色とりどりのレーザー光が激しく飛び交う中、スポットライトが絶妙な案配でバンドメンバーやダンスメンバーを照らしていく。
「いくぞコラァア!」(爆豪)
「雄英全員……」(塚内)
「音と演出でェ」(上鳴)
「やりますわ!」(八百万)
「よろしくお願いしまァス!」(耳郎)
Hero too は、とにかく前向きにヒーローへの想いを歌ったものだ。
ツインボーカル仕様なので、アニメとは少々異なっている。
ではどう違うのか、というのはあえて堂々と参照動画タイトルを記しておく。
(BGM:『僕のヒーローアカデミア』4期文化祭編「Hero too」)
(BGM:【ShiroNekoカバー】 TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』 《Hero too》 /雄英高校ヒーロー科1年A組/4期文化祭編/MY HERO ACADEMIA EP23 OST )
原曲の「Hero too」を大きく崩さず、サブボーカルのフォローを強化した感じ。
「Yeah I′ll be!」は耳郎響香のアドリブだったが、VJは歌詞表示を完璧に対応させた。
「エリちゃん、見えるかい?」
何故か迫おじさんが壊理を抱っこしていたが、壊理が完全に彼を信頼し、安心した様子で彼にしがみついていたので誰も不思議に思わず、教師も生徒も全員が「関係者か」とスルーする異常事態が発生していた。
ダンス隊の
耳郎は
爆豪は「耳のアドリブまで三つ編みの読み通りかよ」とげんなりしていた。
アニメで戸惑っていた八百万は戸惑わなかったし、上鳴も動揺しなかった。
1-Aの素晴らしい歌、演奏、ダンスは前座関係無く立派なものだった。
ケチをつけるつもりで見ていた他科の生徒達は、そのパフォーマンスに圧倒された。
「わあぁ!」
両手を挙げて喜ぶ壊理の姿に、迫おじさんはニコリと微笑んだ。
「笑えたね、エリちゃん」
* * *
Feather Steps のチャリティーライブの目的に賛同したオールマイトが、雄英文化祭チャリティーライブ限定のオールマイトパーカーの販売に許可を出した。
限定オールマイトパーカーの売り上げは、全て神野区や総合体育センター付近の復興に寄付すると発表された。
雄英文化祭において先行販売、買えずとも通販で必ず買えるとあって売り場は落ち着いていた。
そしてこの『限定オールマイトパーカー販売』が、結果として極一部の人間の心をかき乱すことになってしまった。
* * *
ミスコンは、1-Bの
「幻想的な
音響機材運搬用ケース・キャスター付きをカラカラと引っ張って、ウェディングドレスにも見える白いドレスに身を包んだ塚内空が姿を現した。カラーコンタクトをつけ、三つ編みをほどいた彼女の姿は、普段を知る者から見ればまるで別人だ。
「
「ガチすぎてびっくりよ」
「素敵ですわ、塚内さん……」
「誰」(峰田)
「塚内」(上鳴)
「マ?」(切島)
「マ」(砂藤)
「嘘だろ」(瀬呂)
ケースからスタンドマイクを取り出し、組み立てた塚内空。
きっかけこそポップ☆ステップ和歩ちゃん大先輩の命令だったが、文化祭前日夜の耳郎の発言である「恥ずかしがったりおっかなびっくりやんのが一番良くない。舞台に上がったら、もう後は楽しむ!」を聞いて、それもそうだと開き直ることにしていた。
ポップ☆ステップこと
この世界で生まれることのなかった歌「My☆Hero」が、塚内空を通して顕現した。
(BGM:『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』「My☆Hero」)
あたしのココロ ときめきのリズム
止まらない ぎゅっとあたしの手をとって
ポップ☆ステップを参考に、右手を軸に動かす振り付け。
You are my destiny
I knew it straight away
あたしはちゃんとわかってるから
右腕の細かい動きで、観客の視線を惹きつける。
自分の胸に手をあてて、分かってる感を出す。
You don't remember me
I can't forget that day
あなたはずっと、あたしの中のヒーロー
ポップ☆ステップのように跳躍はできない。
きっと いまも
気持ちだけは沢山こめて、歌い上げる。
あたしのヒーローはたったひとりあなただけ
そのパーカーが目印です
着てるだけでもりもり勇気湧いてくる
なんてなにそれ? バカみたいっ
ドレスの関係で、しゃがむようなアクションは取れない。
なので立ち姿をベースに、身振り手振りを中心。
苦労を知ろうとすることもしない
どいつもこいつもしらんぷり
ヒーローごっこ1234
やっぱりあなたはお人よし
たとえ勘違いしたままだって
あなたは今も“あの人”のまま
今度一緒にプリン食べよう
あの日助けてくれてありがとう
都合がいいことばっか並べて
ぶっちゃけただの照れ隠し
ヒーローごっこ1234
やっぱりあなたはお人よし
たとえ勘違いしたままだって
あなたは今も“あの人”のまま
いまこそ一緒に跳ぼう?
いつも助けてくれてありがとう
塚内空は間奏中に灰廻航一を探したが、雄英文化祭チャリティーライブ限定のオールマイトパーカーを着ている人があまりに多すぎて、彼を見つけることができなかった。
あたしのヒーローはたったひとりあなただけ
その声も その笑顔も
忘れられないの 優しすぎるあなたのこと
その腕でだきしめて
灰廻航一が羽根山和歩とくっついた時、塚内真はどんな気分だったのだろう。
You are my destiny
You always save the day
あたしはちゃんとわかってるから
And everyone can see
You walk a hero's way
私はきっと、原作の真さんと同じ道を辿ることになる。
それでいい。
あなたはずっと、あたしの中のヒーロー
ヒーロー ずっと
ずっと
「えっ」
休憩中、雄英文化祭チャリティーライブ限定のオールマイトパーカーを着てミスコンを見に来ていた灰廻航一はドキリとした。
「ん"っ!」
限定オールマイトパーカーを買ってからリンゴ飴を作ろうと思っていた緑谷出久は、制服の上に限定パーカーを羽織っていたので戸惑った。
「マジか」
色々あって、雄英文化祭に紛れ込んで屋台飯を食い漁っていた
「プリン」
クレープを食べようと思っていた麗日お茶子はプリンが食べたくなった。
「今夜は捗るぞー」
峰田は笑顔になった。
迫おじさんに抱っこされていた壊理は、リーチさん綺麗だな、と想った。
結果として、ミスコンは波動ねじれが優勝。
塚内空は二位、絢爛崎美々美が三位となり、
色々な余波を生み出した雄英文化祭は、警報のセンサーが鳴ることもなく、
挿絵提供:まねきねこ様(生成AI:LORAなし・使用モデル「Hoshino v2」)
「文化祭編を一度全部書いてから分割しよう→これ分割する必要ある?」のパターンです。