塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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「生成AI+画像編集」による挿絵がありますので、生成AIが苦手な方はご注意下さい。


EP.68 「僕のヴィランアカデミア・義爛とスピナー」

 

【リハビリテーション】《rehabilitation》

 (犯罪者の)更生、社会復帰、名誉回復。

 失われた権利や人間性を取り戻すための過程。

 

 

 * * *

 

 

(BGM:『孤独のグルメ』テーマ曲「Stay Alone」)

 

 東京都鳴羽田(なるはた)区は、なんだか知らねぇがやたら(ヴィラン)が多い。

 俺にとっては商売がやりやすい街でもあったが、俺の身が狙われてるとあれば話は別だ。

 街を離れる準備は終えたが、やらなきゃいけねぇことがまだある。

 

 いまの闇市(ブラックマーケット)には、使用者が危なくなると勝手に爆発するサポートアイテムの粗悪品が出回ってる。雑に組まれたプログラムの自動判断だとは思うが、使用者が逮捕されたかどうかではなく、あくまでも使用者の身の危険度が高まると自爆する仕様のため、粗悪品を買うアホが片っ端から逮捕されていく。

 

 結果として大事な顧客が減るという、意味不明な商売のやり方だ。

 戦闘データ的なものを集めたいのはわかるが、爆破までやっちまったら自分(テメェ)から「ヤバいことしてますよ」と自白しているようなもんだ。

 

 案の定、新しいボスは闇市(ブラックマーケット)で出回ってるサポートアイテムの粗悪品をご所望だ。

 『デンパ・シャット・ダウン』で包んで輸送するだけだからワケはねぇ。

 楽な仕事(イージー・ビズ)ってやつだ。

 

 俺の名は、憶田(おくた)影朧(かげろう)

 ちょっと前まではブローカー・義爛(ぎらん)と名乗っていたが、今は本名に戻してる。

 チンケに立ち回ってた俺が六本木(ポンギ)で働く事になるってんだから、世の中わけがわからねぇ。

 

 やらなきゃいけねぇことってのは、飯屋探しだ。

 腹が減ってるってのは、いけねぇ。考えが鈍るし冷静になれなくなる。

 

 鳴羽田は面白ェ街で、新開発と放置ビルが入り交じってカオスになってる。

 言い換えると年がら年中、工事ばっかしてるってことだ。

 つまりガテン系、現場の肉体労働者向けの飯屋が案外多い。

 喫茶店が少ないのも、そういう理由なんだろう。

 

 鳴羽田の街から離れる前に、鳴羽田の飯を記憶に残す。

 これはとても大事なことだ、なんだかんだで愛着がある。

 

 俺の腹が今求めているものは、なんだ。

 和か、洋か、それとも。

 

 そんな俺の目の前に、『中華料理ナルハタ』の看板が見えた。

 ……中華か。悪くない。

 意識の高そうなラーメン専門店ではなく、古びた中華料理屋というのがそそる。

 俺は『中華料理ナルハタ』を選ぶことにした。

 

「らっしゃい。奥へどうぞ」

 

 無愛想な店員が、挨拶をしてきた。

 

 入店と同時にレジをちらりと見たが、いまどきカードもpayも使えない現金オンリーの店だ。

 券売機すらなく、昔ながらの注文式。

 いや、それがいい。それでいい。

 

 席に座ると、店員が無言でコップを置いていった。

 ひとつひとつのテーブルに、氷水の入ったポットが置かれている。

 客側で勝手に水を注げということだろう。

 

 俺は遠慮無く喉を(うるお)してから、メニュー表を手に取った。

 なんの変哲も無い中華料理屋メニューがそこにあった。

 

 単品系は五目炒飯、カニ炒飯、チャーシュー炒飯、天津飯、担々麺、ラーメン。

 定食系は麻婆豆腐、エビチリ、回鍋肉、青椒肉絲、酢豚、油淋鶏、八宝菜、エビマヨ、チンゲン菜炒め、レバニラ炒め。

 サブは焼き餃子、焼売、小籠包、春巻き、バンバンジー。

 スープ系はサンラータン、カニの中華風スープ、卵スープ。 

 

 軽く店内を見渡したが、メニュー掲載外の特別メニュー的なものはなかった。

 

 改めてメニュー表を見直したが、春巻きの値段が気になった。750円。

 餃子と違い、春巻きは価格設定が割と高い店が多い。それだけ手間もかかっているのだろう。

 500円以下の春巻きだと二本のことが多いが、この価格設定だと……三本か?

 

 初入店の飯屋で大盛りを頼むのは、正直なところ博打だ。

 だがこのラインナップなら……意味不明なデカ盛りが来るということはないはず。

 

 あえて売れ線の餃子を避け、俺は勝負を挑む。

 

「五目炒飯大盛と、春巻き」

「ゴモクチャーハンオオモリィ、ハルマキィ!」

 

 ガシャン、ガシャン、ガシャン。

 厨房から、中華鍋を荒く動かす音が聞こえてくる。

 いいね。待っているときに聞こえてくる鍋振りの音が、耳に心地よい。

 

「五目炒飯大盛、春巻きオマチィ」

 

 暫くしてから、店員が料理を運んできた。

 

 俺の目の前には、大盛りの炒飯と、中華スープと、春巻き三本が載せられた皿が置かれている。

 炒飯の大盛り度合いは、まさしく大盛りといった、無難な大盛りだ。

 昨今はやりのデカ盛り系ではなく、普通の大盛り。この感覚が伝わるだろうか。

 

 まずは中華スープを一口。卵ではなく醤油系ベースの色合い。

 ……これだ。これよ。

 

 意識が高すぎるわけでも、低すぎるわけでもない。

 『こういうのでいいんだよ』の塊。

 ほんのりと濃いめの塩分を感じさせてくれる味変スペシャリスト。

 

 嬉しくなった俺は、そのままレンゲで炒飯をすくい、かぶりつく。

 きた。当たりだ。無難オブ無難。

 パラパラの炒飯を中華お玉でギュッと大盛気味に押しつけた、魅力的な半球。

 

 五目炒飯、この『五目』に定義はねぇ。店次第でどうとでも変わる。

 だが普通の炒飯と五目炒飯がメニューに並んでいたら、俺は迷わず五目炒飯を選ぶ。

 万札が吹き飛ぶ高い中華も喰ってきたが、ああいうのは()()()でいい。

 

 わかるかい?

 『こういうのでいいんだよ』炒飯と『こういうのでいいんだよ』中華スープの掛け算。

 

 時に中華スープを軽く炒飯にかけ、味変的に食べる。

 舌を冷水でクリアにしてから、温かいスープを飲み、炒飯をがっついてもいい。

 

「らっしゃい。奥へどうぞ」

「ラーメン!」

「ラーメンイッチョー!」

 

 新しく入って来た客が見覚えのある奴だったので、噴きそうになった。

 どこからどう見ても分倍河原(ぶばいがわら)だったが、俺は見なかったことにした。

 

 分倍河原(ぶばいがわら)なんぞより、大事なものが目の前にある。

 

 大事なアクセント、春巻き様だ。

 炒飯には餃子がいい、それもわかる。間違いじゃねぇ。

 

 だが、パリパリの皮にかぶりついた時に、中の具材がこれでもかと主張してくる瞬間。

 餃子は炒飯と味がぶつかりかねないが、春巻きはぶつかる可能性が低い。

 舌が火傷しそうな程の熱さをギリギリまで我慢して、少しだけ冷水で調整して流し込む。

 

 これよ。炒飯、スープ、春巻きの三位(さんみ)一体。しかも味変自由。

 俺はテーブル脇の小皿を一枚取り、酢を多めに入れ、胡椒を振りかけた。

 

 二本目の春巻きを軽くかじった跡で、酢と胡椒を掬うように浸してかじりつく。

 

 きた。

 『こういうのでいいんだよ』春巻きを、あえて味変する快楽。

 

 俺は残りの炒飯達を、胃の中におさめていく。

 時にスープ、時に春巻き。

 昼飯なんて、こういうのでいいんだよ。

 

「ラーメンオマチィ」

「いいじゃねぇか!」

 

 分倍河原(ぶばいがわら)はそう言うと、いきなり胡椒をがっしゃがっしゃかけやがった。

 ラーメンのスープを一度も味見せずに、胡椒を大量にかけるだぁ?

 

「いっただっきまー……あだっ!?」

 

 気がつけば、俺は分倍河原の後頭部を軽く(はた)いていた。

 

「一口もスープ飲まずに胡椒ガンガンかける奴があるか!」

「好きなんだからしょーがねーだろ義爛(ぎらん)!」

「一回ぐらい味見しろ!」

 

 最後にケチはついたが、『中華料理ナルハタ』は悪くなかった。

 次があったらリピしてもいい。

 そう思いながら、俺は六本木(ポンギ)へと向かった。

 

 ま、(ヴィラン)は永遠に開店休業ってやつさ。

 分倍河原のように陽の下に出られるってんなら、それはそれで悪くねぇ。

 

 麗日建設のそばで焼き肉屋を経営して、あいつが稼いだ金をガッツリ奪うのも楽しそうだ。

 今度、塚内の嬢ちゃんに相談してみるか。

 

 ヴィラーン ヴィラーン ヴィラーン♪ ギ・ラ・ン・サ・ン woo♪

 

 

 * * *

 

 

「荼毘さんとコンプレスさんの悩み相談は聞いたので、次はスピナーこと伊口(いぐち)秀一(しゅういち)さんです」

「なんで俺の名前知ってるんだよ……」

「お忘れですか。私の父は刑事です」

 

 熱海の別荘、談話室。

 今度は、スピナーと塚内空が面談をすることになった。

 

「刑事の娘が(ヴィラン)かよ」

「よくある話ですね」

 

 塚内空は、いつものようにポテロングの封を開けた。

 どうぞ悩みをお話ください、とばかりにスピナーに手を向ける。

 

「……俺はステインに触発されてここに来た。前時代的価値観の残る田舎で、トカゲ野郎と(さげす)まれ育ってきた。それが当たり前だと思っていた」

 

 スピナーはテーブルの上のりんごジュースで喉を湿らせ、言葉を続ける。

 

「俺の心にはずっと、何も無かった……夕方の報道番組で、ステインの最期を知るまでは」

 

 原作では『最後を見る』だが、この世界では自殺なので少し違う。

 

「彼は世界を変えようとしていた、一人で!」

「目の前で彼の死を見たので、その辺りは知っています」

 

 塚内空が、ポリポリとポテロングをかじる。

 

「あの時、俺は初めて世の中が窮屈なんだと知った。いても立ってもいられなかった。そしてここにいる……そうさ、俺はスッカラカンなのさ!」

「ではスッカラカンのスピナーさん。どうしたいですか?」

「はぁ!? 死柄木(しがらき)がどでけぇ風穴ぶち開けてくれるんじゃねぇのかよ!」

「本気で空っぽの発想ですね」

 

 ポテロングを咥えたまま、塚内空は少し悩む素振りを見せた。

 スピナーは、いらつきながらジュースを飲む。

 

「『六・六事件』、『ジェダの大粛清』。気味が悪かったの一言で、異形と称される人達が虐殺された事件。いつかまた繰り返されるかもしれないし、そうでないかもしれない」

 

 塚内空は、スピナーの目を見ながら語っていく。

 

「異形排斥主義集団。もはや離散しすぎて完全には追い切れないですが、分派し点在している彼らを叩き続ける案が一つ目。この案の場合、最終的には前時代的価値観を持った一般市民の虐殺に走るしかありません。二つ目は、逆に平和的に解決する案。前時代的価値観を持った人達が起こす形質差別由来の事件を、ヒーローか政治家としてどうにかし続けて、イマムラ平和賞の受賞を目指す。三つ目は、何もかも拒絶して皆殺し。ただの思考放棄とも言いますが」

「……四つ目は、ねぇのかよ」

 

 そう問うたスピナーに対して、塚内空はため息をつく。

 

「あるにはありますが、道は険しいです。弔くんが先生と慕うオール・フォー・ワンにお願いして、身体を変質化させる個性を奪ってもらう。人間の姿になったら、記憶喪失のフリでもして行政に駆け込む。ただ、例の先生はタルタロスに居るので、まず脱獄させないとお話になりませんが」

「……五つ目は!」

「何もしない。このまま弔くん達に、唯々諾々(いいだくだく)と従い続ける。殺せと言われれば殺し、奪えと言われれば奪う。ステインの勘違いのように」

「勘違い……」

「ヴィランを生み続けているのがヒーローだと誤読した、それがステインです。私はあくまでも、普通の社会からあぶれてしまった人々に手を差し伸べる社会でありたいと書いただけです」

「……死柄木弔は、俺のヒーローになってくれるかもしれない男だ」

「私はスピナーさん自身に、どうしたいかと聞いているんです」

 

 塚内空が、ポテロングを一本スピナーに差し出した。

 スピナーは、ポテロングを受け取りながら考える。

 

「ヒーローも、政治家も、俺には無理だろう」

「勉強と時間次第です。ヒーローであれば、免許取得を目指せばいいだけです。政治家であれば……異形と呼ばれ、苦しんでいる人達の票を集めることができます。もっとも、禁錮以上の刑に処せられた人は刑の執行が終わるまで選挙に立候補できないので、まず自首してもらうのが最短ルートになりますが」

「教えてくれ。仮に自首したとして、俺は何年ぶちこまれる?」

 

 真顔で尋ねたスピナーに、塚内空がポテロングをかじりながら指先を折っていく。

 

「良い弁護士がついて最低7年から12年。イレイザーヘッドへの傷害が殺人未遂に認定されると最長で無期」

「そんなに、なのか……」

「お忘れですか? 私を拉致した共犯者なんですよ、スピナーさんは。未成年者略取・誘拐罪、逮捕・監禁罪の共謀共同正犯。合宿所の施設破壊に関与または共謀した建造物損壊罪。イレイザーヘッドへの傷害罪。 プロヒーローはみなし公務員なので、公務執行妨害罪も追加。あと貴方の武器は、凶器準備集合罪と銃刀法違反。日本には併合罪というのもあって倍率ドン。初犯であり、殺人の実行犯ではないが組織的なテロ行為への関与。懲役10年なら御の字ですね」

「10年経ったら、30を越えちまう」

「生きてるだけマシです。ステインは確か享年31歳でしたから、ステインと大体同じ年齢になりますね。あくまでも刑期が10年で済んだ場合は、ですけど」

「ステインと、同じ年齢……」

 

 スピナーこと伊口(いぐち)秀一(しゅういち)は、現在21歳。

 だが、ステインと同じ年齢からやり直せるというのは、スピナーの心に響いた。

 

「もし自首するのであれば、合宿襲撃の件のみを伝えて、あとは『(ヴィラン)連合についていけなくなって自首を考えた』だけで押し通すのが良いかもしれません。選挙への立候補には供託金といってある程度のお金が必要になるので、刑務所を出てから真面目に働く必要はありますが」

「あいつは……いや、死柄木もお前も、死ぬつもりなんだよな?」

 

 その問いに、塚内空は答えなかった。

 

「普通の社会からあぶれてしまった人々に、手を差し伸べる。その為にスピナーさんが動き、生きるつもりなのであれば、出来る限り協力します。(ヴィラン)連合の一人から自首を相談されたという体裁で、私が警察署まで同行します。私の成績としてカウントされる上に、弔くん達への協力が疑われにくくなるので私が助かります。御礼として、減刑嘆願書を一筆したためると約束しましょう。被害者本人の直筆ですから、効果は高いですよ」

「このヴィランめ」

「そんなに褒めないでください」

 

 スピナーは、塚内空のポテロングを箱ごと掴み、残りの全てを口内に放り込んだ。

 

「あっ」

 

 塚内空が呆然とする中、スピナーはもしゃもしゃとポテロングを食い尽くす。

 

「はじめて出来た友達と、少しだけ遊んでくる。そしたら……警察署まで付き合ってくれ」

「熱海はダメです。熱海以外の警察署まで送ります」

「田舎出身のトカゲ野郎としては、都会をもう一度見ておきたい。東京か、雄英付近がいい」

 

 前世の静岡駅や浜松駅付近は一応栄えていたが、今世は雄英がある関係で東京並みだ。

 

「では、私の帰宅を兼ねて新幹線で浜松まで。鰻重を奢りますから、その味を思い出にして刑務所でも頑張って下さい」

「つくづくヴィランだな、お前」

 

 スピナーはそう言って、笑った。

 

 

 * * *

 

 

 スピナーは死柄木(しがらき)(とむら)とFPSゲームの協力プレイ(Co-op)で軽く遊んでから、別れを告げた。

 死柄木弔は微笑を浮かべ、指四本の握手でスピナーを送り出した。

 それを見たリュミエール・ノワールの機嫌が、少しだけ悪くなった。

 

 スピナーは浜松駅そばの鰻屋で特上の鰻重を堪能し、ついでとばかりに『さわやか』のげんこつハンバーグとステーキも(たい)らげてから、塚内空の付き添いで最寄りの警察に自首をした。

 塚内空はヒーロー公安委員会の指定連絡先に『(ヴィラン)連合の一人を自首させることに成功しました!』と嫌がらせのメールを送った(※任務外の報告)。

 

 なんとなく(ヴィラン)連合に従い続ける道ではなく、異形として生まれたせいで苦しんでいる人達のために生きる道を選んだ伊口(いぐち)秀一(しゅういち)

 やり直す決意さえ固まったのであれば、遅いということはなにもない。

 原作のジェントルがやり直せたように、彼もまたやり直すことができる。

 

 浜松から雄英高校までは10km以上あったが、塚内空はなんとなく夜空を駆け抜けたくなった。

 食後の運動も兼ねて夜のビル街をパルクールしつつ、雄英高校の寮へと向かった。

 

 

【挿絵表示】

 

 




挿絵提供:まねきねこ様(生成AI:LORAなし・使用モデル「Hoshino v2」)
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