【スキーム】《scheme》
計画、陰謀、たくらみ。
(Planよりも「裏がある・巧妙な」というニュアンスが強い)
* * *
熱海の別荘、談話室。
私の目の前に、
彼の姿は原作の最終決戦仕様から、伸ばした前髪で左目を隠した感じ。
テーブルの上には、いつものようにポテロング。
あと、りんごジュースが入ったグラスが2つ。
「ノワール、あるいは青山くん。どっちで呼んで欲しい?」
「どちらでも……と言いたいところだけれど。僕の手は、沢山の人の血で染まりきっている」
彼はそう言いながら、自分の右手を見つめた。
「だからノワールでいい。僕はもう戻れないし、戻る気も無い」
私は彼の言葉を聞きながら、ポテロングの蓋を開ける。
ノワールは、感慨深げに言葉を紡ぎ続ける。
「リュミエール・ノワールとなったきっかけは確かに、
「ヒーローになれる道が、まだ残っていたとしても?」
「スピナーは弔くんから去った。でも、僕は去らない。……僕にとっても、弔くんは初めての友達なんだ」
私はポテロングをかじりながら、慎重に言葉を選ぶ。
「スピナーがそう願ったように、時間は罪を消してくれます。建前上は」
「ええと……確か、こんなポーズだっけ」
そう言って、彼は。
リュミエール・ノワールは両手の肘をあげ、両手を胸に当てた。
「過去は、消えなウィ☆」
「……貴方の場合は、自業自得でもないでしょうに」
「いいんだ。荼毘の台詞を借りるなら、僕は地獄で弔くんと一緒に踊るよ」
ノワールは、ポテロングを手に取ってかじりはじめた。
一方の私はポテロングをかじる手を止めて、ノワールの右目を見つめる。
「ステインは、ヒーローを40人殺して有名になりました。一方、貴方はUSJだけで
「叔父さまの命令……雄英ヒーロー科への潜入。入試で受かる36名の枠から漏れてしまったから、僕はさらに個性を足されてここにいる。君は36名の枠に通った無個性なのに、僕達に協力している。面白いよね」
「その叔父さまが、最後の最期まで弔くんや貴方をすり潰そうとしているとしても?」
「構わないよ☆ 手駒にも、手駒としての意地があるからね」
私は、あえてこう尋ねた。
「結果として、貴方は死ぬかもしれない」
「死のうとしている君に言われたくない」
「私はこの世界にいてはいけない理由がある。でも貴方は、この世界にいてもいい」
「……弔くんは? 世界を否定して壊そうとする彼は、世界にいてもいい存在?」
原作における、彼の最期を思い出す。
「彼が壊し続けるのであれば……世界を否定する限り、肯定する側がそれを許さない」
「それなら……せめて僕一人ぐらいは、彼を肯定するよ」
りんごジュースで、私は喉を潤した。
「私はこの後、ドクターとオール・フォー・ワンに喧嘩を売るつもり。だから弔くんに対して、一緒に戦わないかって提案しようと思ってるんだけど……でもそれは、文字通り死に向かう戦いになる。世界の覇者になりかけ、オールマイトという平和の象徴を消し去った真のヴィラン、オール・フォー・ワン。そんな彼に全てを捧げたドクター。彼等二人は、貴方も弔くんもコンプレスさんも黒霧さんもギガントマキアも、全部すり潰して利用することしか考えてない。すり潰されるぐらいなら、その前にあいつ等をすり潰してやりたい。私はそう考えてる。リュミエール・ノワール、弔くんが私に付き合ってくれるとしたら、貴方も付き合ってくれるの?」
「呂布が董卓に挑むというのなら、張遼よりは高順でありたい」
張遼は、曹操に降って出世する。
高順は、曹操を拒否して呂布と共に死ぬ。
「貴方のフランス設定ェ……」
「おお、麗しのジャンヌ・ダルク、オルレアンの乙女よ!」
「急にわざとらしいんだから。……火あぶりはヤダなぁ」
「むしろ、君の『世界にいてはいけない理由』を知りたいよ。ジャンヌ・ダルクは19歳で死んだけれど、言い換えれば19歳までは生きたんだよ?」
彼の真顔に、私はため息をついた。
「弔くんを含めて、誰にも言わないと約束してくれる?」
「ウィ☆ マドモワゼルとの約束は必ず守ると、僕の名に賭けて誓うよ」
ノワールは、
「私の先祖は、超高確率で……ううん、まず間違いなくオール・フォー・ワン。ひいひいひい……ひいおじいちゃんぐらい?」
「ワーオ☆」
「仮に恋愛をしても、その先に進めない。ならクソ野郎を殺してから、私を誰かに殺してもらおうかなって」
私は、わざと音を立ててりんごジュースを啜った。
ずずずずず。
ノワールは、優雅に小指を立ててジュースを飲む。
「君の子供や子孫が、叔父さまの後継者になる可能性を潰したいってこと?」
「隔世遺伝とか色々あるし、世界の危機を何度も起こす原因になるのはちょっと」
私がそう言うと、ノワールは首を傾げた。
「僕や荼毘やスピナーのように、叔父さまにも真のヴィランとなった理由があるんじゃない?」
「……教育で対策するってこと? マスキュラーやムーンフィッシュは手遅れみたいだけれど」
ノワールは、そう返した私にニヤリと笑ってみせた。
「今日はなんだか随分と隙だらけだね、軍師様。将来のこと、思考停止してたんじゃない? 叔父さまの与えたり奪ったりする力は、使い方によっては世界一優しい個性になると思うんだけど」
「なっ……」
死柄木与一の台詞が突然飛び出して、ビックリした。
動きが固まった私に対して、ノワールは更に畳みかけてきた。
「パパンとママンは、大変な思いをして僕を育ててくれた。結局これも結果論でしかないけれど、無個性でもヒーロー科に入学できるとわかっていたら、また違う道を僕は歩めていたのかもしれない。でもそういう思考も、パパンとママンの教育の下地があってこそだ。塚内空、君の両親だって大変な思いで君を育てたんじゃないのかい? であるのなら、君は世界にいてもいいことになる。破滅に向かう弔くんを止められるのであれば、弔くんも世界にいていいことになる。……献策があるのなら伺いますよ、陳宮殿?」
陳宮は、呂布と仲が悪かった軍師。
高順同様に曹操に降ることを拒否し、結果として呂布と共に死ぬ。
私は、前世では20年以上前のネットミーム、ぐぬぬ顔になった。
「ぐぬぬ」
「ゲームと違って人生にロードはないから、真摯に向き合い続けるしかない。もしも……そう、
そう言ってから、ノワールはりんごジュースを何口か飲んだ。
「……そうだね。私がいない世界だったら、貴方は青山優雅として、内通者とかやってたかも」
「フフッ。どちらにしても、僕はクズのヴィランというわけだ」
その世界は正史って言うんですよ、輝きヒーロー・青山優雅さん。
私は、どうしたものかと苦笑する。
「はぁ。破滅に向かう弔くんを止める策、かぁ……」
「流石の陳宮殿も、お困りで?」
「うん。ちょっと悩む」
でもそれは、どちらの人格を選ぶのかという二択になる可能性がある。
「……順番的に、先に潰しておきたい
「二虎競食の計?」
「二以上。三か四。仕込みの時点では、ヒーロー公安委員会のスパイがいる想定だったから、公安は撤退させる予定だったんだけど……現状だと公安が割とどうでも良くて、どうしたものかと」
私の話を聞いていたノワールが、慌てたように身を乗り出した。
「待って。12万を含めた複数の
「うん。オール・フォー・ワンへの嫌がらせのために何でもするつもりだったし。仮に残党が生き延びても瀕死レベルで弱体化してるから、後はヒーロー総出でタコ殴りでいいかなって」
「……仕込みをしたのって、いつ?」
「中学二年の、夏休み」
ノワールが、呆れた顔を見せる。
「一体全体、どんな女子中学生なのさ」
「オール・フォー・ワンの子孫?」
「あー、納得」
私は、ノワールの意思を尊重すると決めた。
「わかった。私は、貴方の死を邪魔しない。破滅に向かう弔くんへの策は、考えておきます」
「君は、世界にいてもいい。多分、弔くんも。僕と黒霧さんは、わからないけど」
「ノーコメント」
「困った軍師様だよ」
「誰よりも死のうとしているのは、貴方でしょう。青山優雅」
「
フランス語でノーコメントと答えてから、彼は椅子に深く座った。
ノワールは軽く天井を見上げて、ため息をつく。
「それにしても恋愛、か。今世は厳しそうだなぁ……」
「
「それは僕の美学に反する☆」
「計略発動前に、
「例えばどんなマドモワゼルがいるの?」
「異能解放軍のボスの愛人をやってる熟女(キュリオス)とか、その熟女を慕ってるお姉さん(名前不明)とか、騙されて人間不信になって誰かを切り刻むことが大好きになっちゃったロングヘアのお姉さん(スライス)とか、個性持ちの人間を皆殺しにしたいお姉さん(ベロス)とか」
「年上のマダムしかいないうえに、概要だけで遠慮したくなる人達だね☆」
ヴィランサイドで若い女の子がいなウィ☆
デボラ・ゴリーニも熟女、レディ・ナガンもアラフォー。
……ヒミコちゃんの、なんと貴重なことか。
「光堕ちしてくれるなら、同年代のクラスメイトを紹介できるよ?」
「僕が刑期を終える頃には、みんな結婚してるでしょ」
「ノワールはUSJで殺しすぎて少年法適用外だから、死刑囚かも」
「……ヒーローになれる道が、なんだって?」
「いっけなーい。ごめんねー。うっかりうっかり」
肩をすくめるノワールに、私はちゃんと説明する。
「真面目な話、オール・フォー・ワンに脅されて仕方なくやった行為だから、死刑回避とか、無期懲役が有期懲役になるとか、そういう温情は十分考えられます。共闘などでオール・フォー・ワン殺しに成功したのであれば、なおのこと」
「僕が叔父さまなら、トラップを仕掛ける。僕が叔父さまに刃向かった瞬間に死ぬとか」
「そうね。十分ありうる話だと思う」
レディ・ナガンは『エアウォーク』にトラップを仕掛けられていた。
青山優雅の『ネビルレーザー』はともかく、リュミエール・ノワールの『女王蜂』にトラップがある可能性は捨てきれない。
「いいんだ。
「ん。わかった。貴方の命の使い
「仰せのままに、陳宮殿」
彼はそう言って、右手を拳にして左手で包みこむ
左手指を立てる
一方、女性の
左手を拳にして、右手で包みこむ。
これが
フランス設定の日本人リュミエール・ノワールと、中国に行ったことも無い日本人の私が、
私達は