【ディターミネーション】《determination》
決断、決意、断固たる態度。
目標に向かって、迷いなく突き進む意志。
* * *
「おじさん、あのね。私、病院からゆうえいに引き取られるんだって」
「えっ? そうか、養護施設じゃなくて雄英引き取りか……」
「でも、おじさんはずっと見舞いに来てくれるんだよね?」
病院の病室内。
「うーん……多分もう、会えなくなっちゃうかも」
「どうして!?」
驚く壊理に、迫おじさんは丁寧に説明する。
「エリちゃん。実はおじさんはね、悪い
「おじさんは、私に酷いことをしないよ?」
「仕方が無いんだよ、エリちゃん。ただでさえおじさんとエリちゃんは年が離れてるから、これ以上エリちゃんのそばにいると、それだけでおじさんは捕まっちゃうんだ」
「おじさんは、何にもしてない!」
「大人の事情ってやつだよ、エリちゃん。大人の事情に、大人は逆らえないんだ」
壊理は、壊理なりに大変なショックを受けた。
「……大人のジジョーは、子供なら捕まらない?」
「ん? 大人の事情ってぐらいだし、子供のエリちゃんは大丈夫だよ」
自由もなく、ただ身を切られる日々。
痛いと泣き叫んでも、許されなかったあの日々。
使い方すら知らない恐ろしい力、そんなものを持って生まれてしまった自分が悪い。
自分は呪われている、そういう宿命なのだと受け入れるしかなかった。
初めて脱出を試みたあの日、
沢山の人が自分を
離れたくない。ずっと一緒にいたい。
そんな思いが、彼女を覚醒させた。
「困ってるおじさんを、頑張って
そう言って、キュアアルカナ・エリちゃんは迫おじさんの手を握った。
* * *
11月20日。
この世界での生徒関係者は、五名。
ブリティッシュスタイルのオーダースーツに捕縛布マフラー姿のイレイザーヘッドが、五人に紹介をはじめた。
「エリちゃんと、あつひろ君を雄英で預かることになった」
教師寮ロビーのソファに、笑顔の壊理と、壊理と同年代の男の子が並んで座っていた。
壊理は、あつひろ君の手を握ってご機嫌だ。
あつひろ君は、死んだ瞳で現実逃避をした諦観の姿だった。
「どういった経緯で?」
疑問に感じたことを、緑谷が問うた。
イレイザーヘッドは、淡々と答える。
「エリちゃんが死穢八斎會から逃げ出したように、あつひろ君は
「心の傷……それで、あつひろ君は呆然としたままなんですね」
天喰が、顔を歪めながら言った。
イレイザーヘッドは、肩をすくめた。
「二人ともに現状、寄る
「……ごめんなさい。私もあっくんも『呪われた存在』だから、
申し訳なさそうに言う壊理に、通形がヒーロー的決めポーズで構えてみせた。
「エリちゃんもあっくんも、呪われてなんかいないさ!」
「ネグレクトってやつですか……
切島が、わかりやすく怒りを見せる。
「死穢八斎會のヤクザからの聴取をまとめたところ、
「なんてひどい。う゛ぃらんれんごうは、まさしくう゛ぃらんですねー」
塚内が、表情だけは哀しげに、棒読み気味に言った。
説明していたイレイザーヘッドは、頷きながら皆に告げる。
「そんなわけで、教師寮の空き部屋で二人を監督する。まァ……そんなところだ」
事情説明後、生徒達は寮に戻ることになった。
イレイザーヘッドがトイレに行っている間だけ、壊理とあつひろ君はその場で待機となった。
立ち去る前に塚内があつひろ君に近づいて、しゃがみこんで目線を合わせた。
ギクリとした顔を見せる彼に、塚内はジト目で話しかける。
「……何やってんですか、迫おじさん」
「こっちが聞きたいよ、空ちゃん」
「声すら可愛くなっちゃって……
「そもそも誰の子供なんだっていう話だよね」
「なんなら、ウチの法務部を動かして出生届提出と戸籍作成と住民票登録をさせますけど」
「……Mr.コンプレス一世一代、演技ショウの開演だ」
さこあつひろ君が、声を震わせながら死んだ目で了承した。
壊理はあつひろ君の手をずっと握ったまま、ニコニコしていた。
後日、塚内空は二人から改めて事情を聞き出した。
「
キュアアルカナ・エリちゃんは、大人のジジョーから迫おじさんを救い出した。
そういうことになった。
* * *
名前:さこ あつひろ(漢字不明だが親の迫圧紘と同じと思われる)
個性:圧縮(親の個性が発現したと思われる)
誕生日:10/8
年齢:7歳(聞き取りの結果、壊理と同年代と判断された)
名前:壊理
個性:巻き戻し
誕生日:12月21日
年齢:6歳
THE・SUTEKINA OBEBE
(外出用の服を着た壊理とあつひろ君が手を繋いで歩いているイラスト)
* * *
「
11月22日。
ビルボードチャート発表会場、テレビ中継のレポーターが実況をしている。
「No.10! 具足ヒーロー・ヨロイムシャ!」
「フン……斯様な番付、全て時運による誤差」
彼の能力は不明だが、アニメでは日本刀でヴィランを斬っているワンカットがあった。
……悪意や殺意が無ければ、斬ってもOK! カメラさん次!
「No.9! CMでおなじみ、洗濯ヒーロー・ウォッシュ!」
「ワシャシャシャシャシャシャ!」
子供達からの人気がえげつないヒーロー、ウォッシュ。
彼のCMソングは、どんな子供でも歌える。
「No.8! 成長止まらぬ期待の男、シンリンカムイ!」
「光栄」
シンリンカムイと熱愛報道にある、Mt.レディの上半身ばかりが画面に映された。
撮れ高的には仕方が無かった。
「No.7! The・正統派の男、シールドヒーロー・クラスト!」
「オールマイト……」
死傷者ゼロで事件を解決した「無血開城事件」の関係で、彼の人気はいまだに高い。
だが事件内容に関しては、黙して語らずを彼は貫いている。
「No.6! 勝ち気なバニー、ラビットヒーロー・ミルコ!」
「チーム組んだんだってな、弱虫め!」
隣に立っているエッジショットを挑発するミルコ。
どちらかといえば、彼女のコスチュームが男性視聴者を挑発していた。
「No.5! ニンジャ人気は未だ健在、忍者ヒーロー・エッジショット!」
「公の場だぞ」
キャプテン・ニンジャ・セレブリティの人気は、日本ではいまだに高い。
当時、急いで流行に乗った彼の戦略は正しかった。
「No.4! 活動休止中にも拘わらずNo.4、ファイバーヒーロー・ベストジーニスト!」
ベストジーニストの映像が、会場内のモニタに大きく映し出された。
「そしてNo.3!」
炎に身を包んだ大柄な男が、会場に現れた。
観客達のどよめきが、驚愕が、納得が、会場中を満たした。
「支持率ダウンに伴うワンランクダウン! フレイムヒーロー・エンデヴァー!」
エンデヴァーは、何も語らない。
ただ、俺はここにいるとばかりに強烈な存在感を放っていた。
「No.2! マイペースに、しかし猛々しく。ウイングヒーロー・ホークス!」
「……」
ホークスは、後ろ髪をポリポリ掻きながら登場した。
エンデヴァー同様に、何も語らない。
「そして、破竹の勢いで今! ランク圏外から、いきなりNo.1の座へ!」
その男は壇上に登場するなり、間の抜けた顔で周囲を見渡した。
こういった場は、彼にとって不慣れなものだったから。
「事件解決数、社会貢献度、支持率、どれもぶっちぎりのNo.1ヒーロー!」
そういえば、バイザーを下ろしておけと言われていた。
語らずともわかるそんな仕草で、彼は自身のバイザーを下ろした。
「新たなるシンボル、新たなる平和の象徴! ザ・スカイクロウラー!」
「いやー、どうも、どうもー」
バイザーを下ろすことで格好よくなったのに、中身は変わっていなかった。
ザ・スカイクロウラーは、ぺこぺこと頭を下げながらステージ中央へと移動した。
* * *
エンデヴァーがNo.2を維持できていたのは、サイドキック達の頑張りもあった。
サイドキック60人以上を有していたインゲニウム兄ですら、エンデヴァーを越えることができなかった。
これは、名前が出ているサイドキックと出ていないサイドキックの差が如実に表れている。
では、同じ名前が出たサイドキックにしても、準レギュラー級に活躍場面があるキャラや、強力な個性持ちのキャラがサイドキックに回った場合はどうなるのか?
【エンデヴァー事務所】
エンデヴァー……『ヘルフレイム』
バーニン……『燃髪』
オニマー……炎系の個性
キドウ……『軌道』
他約30人
【ホークス事務所】
ホークスが駆け抜けた後をサイドキックが後始末するだけ。
ほぼ本人の仕事のみ。
【ザ・スカイクロウラー事務所】
ザ・スカイクロウラー……『飛行』
サー・ナイトアイ……『予知』
ジェントル・クリミナル……『
ラブラバ……『愛』
バブルガール……『バブル』
センチピーダー……『ムカデ』
コンパス・キッド……『指さし』
ビッグショット……『弾力』
エニグマ……『エニグマ』
深夜おねむ……『あくび』
ヒーロー達はヴィランと戦うだけではなく、調査業務的なものも依頼されればやる。
この調査業務は、調査に向いた個性や技能の無い者がやると人海戦術に頼らざるを得ず、どうしても時間と手間がかかってしまう。
調査能力は作中屈指の無双トップ3、サー・ナイトアイ、ラブラバ、コンパス・キッド。
拘束能力に長けたジェントル、バブルガール、センチピーダー、深夜おねむ。
平地ではなく都市部で高機動力を発揮できるビッグショット。
応用範囲の広い巨大化能力、エニグマ。
あらゆる場所に音速で移動して解決していく本編出禁キャラ、ザ・スカイクロウラー。
チームIDATEN組のビッグショット・エニグマ・深夜おねむと、エンデヴァー事務所のバーニン・オニマー・キドウの三人ずつが同等の能力だったとしても、陣営自体がえげつない。
幾らホークスが『速すぎる男』だとしても、事件発生件数の多い東京を中心に、移動しやすい拠点・六本木マイトタワー、独立していてもおかしくない超優秀なサイドキック達。付け加えるなら、オールライトHDの資金力と技術力、メリッサ・シールド保有の特許技術を使ったサポートアイテム提供なども絡んでいる。
独立の時期の関係で上半期のビルボードチャートに出られなかっただけであって、ザ・スカイクロウラー事務所は10人がかりでオールマイトと並ぶ事件解決数、社会貢献度、支持率を叩きだしてみせた。エンデヴァーの人気失速も絡み、ザ・スカイクロウラーは圏外から一気にNo.1まで上り詰めることができた。
言い換えれば、外伝主人公及び準レギュラーキャラ合計10人がかりでようやく到達できたというぐらいに、オールマイトの牙城が高すぎた証左だった。
* * *
「……今回このような場を設けたのは、節目であると判断したからであります」
ヒーロー公安委員会会長が、壇上で語っていく。
「オールマイトの引退から約三ヶ月。いまだアイコン不在ばかりが取り沙汰されておりますが、次を担うヒーロー達はここにいます。彼らと共に平和な社会を目指していきましょう」
そう語る公安委員会会長だが、裏の顔は黒い。
32巻に掲載されているレディナガンコラムには、こうある。
・前会長は裏の人間を平然と使い捨てにして、ダーティなことをさせていた
・現会長は生涯ダーティなことをさせるための教育を若い内からホークスに施した
どちらも、最終的にやっている事は変わらない。
『お前も、ろくでもない事を沢山させられてきただろうに(byナガン)』となる。
現会長はいい人だと感じた場合、それは公安の印象操作に騙されている。
「一位ってどんな気分なんスか? スカイなんとかさん」
「一年かかると思ってたのに、一年かからなかったよ、ホークスさん」
彼らの前では、既にトップ10ヒーロー達のコメントがはじまっている。
だが、二人の間の空気は冷え切っていた。
「多くは語らん。俺を見ていてくれ」
壇上で、それだけを語ったエンデヴァー。
荼毘の告発の影響は、まだまだ続いている。
壇上も観客席も静かで、拍手の一つすら発生しない。
いや、たった一人。
ホークスだけが、彼に拍手と笑みを捧げていた。
顔の左半分に火傷跡の残るエンデヴァーが、ホークスに無言でマイクを渡そうとした。
「俺は貴方にマイクを渡すはずだった。なんで貴方からマイクを受け取ってるンですかね」
ホークスは、エンデヴァーから荒々しくマイクを奪い取った。
「どういうつもりだ、小僧」
「過ぎたことを引きずってる場合ですか。新たな精神的支柱は今絶対に必要ですが、それは長年No.2だった貴方であるべきだ、エンデヴァー」
「……貴様、自分がそうなろうとは考えんのか」
「俺は格好いい貴方が見たいんですよ。以上です。……さァお次どうぞ、スカイなんとかさん」
マイクを受け取ったザ・スカイクロウラーは、壇上で暫く悩む姿を見せた。
事務所の指示で下げたバイザーを、彼は再び上げてしまった。
ぽややんヒーローはへにゃりとした素顔を皆に見せながら、自分の言葉を語っていった。
「なんていうか……俺、子どもの頃はヒーローごっこが大好きで、よく近所の友達と遊んでたんです。皆でオールマイトの真似をして、
ザ・スカイクロウラーは、空気を読まないからこそ逆に堂々としている。
「でも大丈夫、心配ないよ。ヒーローを信じて待っていてほしい。……
彼がそう言い終えた瞬間、観客席に居たスーツ姿の女性が二枚の団扇を椅子に置いて立ち上がり、力強い拍手をし始めた。
その拍手をきっかけに、ビルボードチャート発表会場が万雷の拍手と歓声に包まれた。
ただ一人、No.2ヒーロー・ホークスだけが拍手をしなかった。
強火エンデヴァーファンの、意地だった。
* * *
夢を見た。
隣には、綺麗で精悍な顔つきの女性が立っていた。
その奥にも、知らない人が沢山居た。
これは前にも見た事がある……いや、前よりも明瞭だ。
ワン・フォー・オールの面影。
白髪で細身の美人女性が、スーツ姿の背の高い男の人と相対していた。
「何故
「間違っているからです。許してはならないからです。兄さんの全てを」
喋れない。鼻から下が無い。
右手の自由はきく。この場所から動けない。足が無い。
ここでようやく、知らない人達の姿が見えてくる。
ぼやけているのは、オールマイトだろうか。
歴代のワン・フォー・オール継承者が僕を含めて八人並んでいる。
だとするなら、あの女性は……初代。
相手の声は忘れられるはずもない、オール・フォー・ワン!
「酷い言い草じゃないか。僕は歩み寄っているのに……!」
「私を汚すだけでは、まだ足りませんか。貴方は自分を満たす事しか考えていない」
近づくオール・フォー・ワンの頬を、初代は引っぱたいた。
だけど、オール・フォー・ワンは身じろぎ一つしない。
張り手の威力が弱すぎるのか、愛おしげに笑ってすらいる。
「ああ、可哀想に……異能を持たずに生まれたばっかりに。力が無ければ、通せる道理もない」
舌を嚙もうとした初代の口の中に、オール・フォー・ワンの指先が突き入れられた。
「それでも僕は、おまえを愛しているよ。哀れな妹にして、僕の愛しい妻」
オール・フォー・ワンの姿が黒いもやと化し、初代の身体を全て包み込んだ。
触れられる事への嫌悪感と、何もかもが奪われる絶望が、僕の中にも入ってきた。
優しい声。
初代の声が、聞こえてくる。
「貴方が、九人目なのですね」
語りかけてきた!?
「気をつけて。特異点は、とうに過ぎています。でも大丈夫……貴方は、一人じゃない」
* * *
雄英高校内、仮眠室。
「初代の記憶を、見たのか……!」
「あれは……オール・フォー・ワンの記憶でもありました」
オール・フォー・ワンは人々から個性を奪い、与え、人々を支配していた。
オールマイト自身は経験しなかった現象なので、大変興味深い。
互いの記憶と経験を共有し、二人でワン・フォー・オールを分析していく。
「私も詳しくはわからない……ごめんな。でもその力は、絶対に君の味方だよ。これから共に探っていこう」
「……頑張ります! あ……あとそうだ。オールマイトのお師匠、綺麗な人でした」
緑谷のその言葉に、オールマイトは
「だろ?」
お師匠こと、
目を
人妻ではあったが、初恋の人でもあったかもしれない。
『道半ばで倒れたとしても、ワン・フォー・オールの中でまた逢える。ロマンだよ』
お師匠のそんな言葉を、オールマイトは思い出した。
そんなロマンなら、ナイトアイの予知通りに死んだとて、悔いは無い。
緑谷にそう伝えながらも、オールマイトは死ぬ覚悟も同時に固めていた。
次回、A組B組対抗合同戦闘訓練。
巻数的にはようやく折り返し地点ですね。