塚内空はヒーローになれない   作:RAP

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「生成AI+画像編集」による挿絵がありますので、生成AIが苦手な方はご注意下さい。


EP.75 「救けを求める顔」

 

【インベシル】《imbecile》

 低能、大馬鹿、愚鈍な。(医学用語としての)精神遅滞。

 救いようのない程の愚かさ。

 

 

 * * *

 

 

 ヒーロー公安委員会主導の計画こと、『ヒーロー活動推進プロジェクト』。

 那歩島(なぶとう)に駐在していたプロヒーローが、高齢で引退。

 後任が来るまでの間、那歩島(なぶとう)を雄英1-A全体でプロヒーロー代理として活動する。

 

「「「ものすごくヒーローっぽいのキターっ!」」」

「話を最後まで聞け」

 

 相澤教師の説明に、皆の興奮が止まらない。

 

「このプロジェクトは、規定により俺達教師やプロヒーローのバックアップは一切無い。当然、何かあった場合、責任はお前等が負うことになる。そのことを肝に銘じ、ヒーローとしてあるべき行動をしろ。いいな?」

「「「はい!」」」

 

 そんな流れで、1-A生徒全員は那歩島(なぶとう)に行くことになった。

 しかしこの島、オセオン国レベルで割と謎な島なのである。

 

 12月中旬、本州では雪も降っている。

 しかし那歩島(なぶとう)は明確に夏同然、太陽も暑いというか熱い。

 

 真夏の海を思わせるビーチで皆は平然と水着姿だし、人口1000人で空港なし。

 漁港とは別に大型フェリー発着用の港があるから、観光客は良く来るのだろう。

 

 歴史のありそうな城跡もある。

 この城跡の歴史は琉球王国と島津家の関係にまで遡り以下略なんか色々ありました。

 

 那歩島(なぶとう)は日本の排他的経済水域(EEZ)内にある、なんか都合よく暖かい島です。

 少なくとも、存在するだけで周辺国の歴史にまで影響を及ぼすオセオンより全然マシ。

 

 

 * * *

 

 

 沖縄よりさらに南西、地図の端っこにある離島。

 冬でもハイビスカスが咲く常夏の楽園。

 那歩島(なぶとう)において、雄英ヒーロー科1-A組は皆でヒーローっぽい何かをやっていた。

 

 ナンパ男に言い寄られて困っていた水着美女達を助け出した峰田(みねた)(みのる)だったが、トラップが地味すぎてわからなかったのか、水着美女達は尾白(おじろ)猿夫(ましらお)の方へと行ってしまった。

 

 個性『複製腕』によって監視能力の高い障子(しょうじ)目蔵(めぞう)が浜辺の監視員をやり、海難事故に強い蛙吹(あすい)梅雨(つゆ)がライフセーバーとなり、砂藤(さとう)力道(りきどう)がボートで駆けつけて沖に流された子供を救助する。

 

 常闇(とこやみ)踏陰(ふみかげ)が遊泳禁止区域を指定し、瀬呂(せろ)範太(はんた)がテープで看板代わりのものを作る。

 

 個性『半冷半燃』の(とどろき)焦凍(しょうと)が、かき氷屋の店主に頼まれて氷を出す。

 口田(こうだ)甲司(こうじ)が迷い犬を探した後に迷いインコを探す。

 

 ギックリ腰で動けなくなったお婆ちゃんを、飯田(いいだ)天哉(てんや)が病院まで輸送する。

 切島(きりしま)鋭児郎(えいじろう)が、漁港でトラックへの積み荷を手伝う。

 

 耕運機のバッテリーがあがったからと、上鳴(かみなり)電気(でんき)が呼び出される。

 八百万(やおよろず)(もも)が、壊れたバイクの修理をする。

 

 落石で通行不能となった道を、塚内(つかうち)(そら)が石を割って切り崩し、芦戸(あしど)三奈(みな)が酸で溶かして通行可能にする。映画では青山優雅がレーザーで溶かしていたが、この世界では塚内空が首を傾げながら岩を割り、「いけるかも」と鍛錬がてら細かく砕いてしまった。

 そばで見ていた芦戸が、真顔になっていた。

 

 

 * * *

 

 

 劇場版二作目から、ナイン一行とホークス要素を差し引くと何が残るのか。

 

 そう、ただの平和な日常である。

 どちらかというと「ヒーローとはなんぞや」という現実に直面する。

 

 ヒーローは警察ではない。

 ヒーローは便利屋ではない。

 

 那歩島(なぶとう)の行政の怠慢が酷いのか、それとも予算が無いのか。

 

 海の監視員(資格不要)やライフセーバー(資格取得や講習アリ)をやってる場合ではない。

 仮にも海泳を許可している観光地で、監視員やライフセーバーをヒーローに任せてはいけない。

 バイトでいいから、ちゃんと専門の人を雇用した方がいい。

 そもそも遊泳区域なのに、沖に流され過ぎないようブイが張られていない。遊泳禁止の磯を区切るのは、ヒーローではなく自治体か観光協会か海水浴場組合でなくてはならない。

 

 落石で通行不能となった道は、確実に行政側の対処である。

 落石防止柵やネットによる、防護工や予防工をしておかないといけない。

 

 バッテリーがあがった耕運機や壊れたバイクはそういうお店に任せよう。

 そういうお店が無いのなら、近い技術職の人にお願いしよう。

 ヒーローは、無料でコキ使えるバッテリーでも、修理屋でもない。

 

 ギックリ腰で動けなくなった事を「連絡できた」のであれば、ヒーローではなく救急車へ。

 

 旅行バッグの紛失は確実に警察だ。ヒーローの権限が弱すぎる。

 弟の迷子も基本は警察で、警察の手が足りない時にヒーローに応援要請があるべきだ。

 

 事務所にパソコン10台以上を置いた上で、ヒーロー仮免保持者20人が連携しなければ対応できない。これは、オールマイト級のヒーローが前任者だったのだろうか?

 

 那歩島(なぶとう)に駐在していたプロヒーローは、高齢で引退したのではなく逃げ出した可能性がある。

 過疎地を一人で支えようと頑張る医者を村人総出で潰すブラックな話に等しい。

 

 ……ヒーローとは、一体?

 

 

 * * *

 

 

 太平洋側から房総半島を回り込み、浦賀水道を通って東京湾へ北上。

 事前通告のない大型クルーザーが東京湾に侵入し、北東進する姿がそこにあった。

 

「貴船は我が国領海内に侵入している、繰り返す、貴船は我が国領海内に侵入している」

「目標、洲崎(すのさき)灯台沖を突破! 東京湾内へ侵入しました!」

「目標転進、針路045(ゼロヨンゴ)、速力50ノット(=約92km/h)」

「このままでは観音崎(かんのんざき)ラインも越えるな」

 

 領海警備中の、 海上保安庁の巡視船が慌ただしく動く。

 

「我が国の領海内の通行は認められない、我が国の領海内の通行は認められない」

 

 拡声器と国際VHF無線の双方が、大型クルーザーに何度も警告を発していた。

 

「貴船は日本国領海内を航行中である。直ちに停船せよ。エンジンを停止し停船せよ!」

《This is Japan Coast Guard. Stop your engine immediately!》

 

 大型クルーザーの甲板、腕組みをしたオールマイトコスプレの男が大声で叫ぶ。

 

「俺は象徴だ! 止まるわけにはいかん!」

 

 巡視船で進路を塞ぐ進路妨害は、互いの速度が速すぎて危険。

 放水行為は、なんだかよくわからない向こうの個性でガードされる。

 

「目標を右舷に捕捉する! おもーかーじ!」

「おもーかーじ!」

「両舷、前進一杯!」

「両舷、前進一杯! ヨーソロー!」

「警告に従わない場合、実力を行使する!」

《Stop immediately, or we will open fire!》

 

 ここまで来ると、もはや密入国ではなく、テロリストの襲撃扱いだ。

 

「もうすぐ東京湾奥、レインボーブリッジが見えてしまいます!」

「ええい、ヒーローズネットワークに緊急連絡!」

 

 ようやく海保が断念し、ヒーローに協力を仰いだ。

 一方、放水をされたゴリーニ・ファミリー達は激おこである。

 

「俺は象徴だぞ!」

「知らんがな! 停船しろ!」

 

 報道ヘリが、テロリスト達と海保巡視船の攻防の様子を捉えていた。

 

「船のスピーカーで、彼は叫んでいます! 『俺が新しいオールマイトだ』……はいぃ?」

 

 

 * * *

 

 

 書き出してはみましたが、読まなくていいです。

 

 

【ゴリーニ・ファミリー(劇場版第4作『ユアネクスト』)】

 

・バルド・ゴリーニ(ダークマイト)

個性: 『錬金』触媒を利用し様々な物体を創造できる。条件は「等価交換」なので無から有を生み出せるわけではない。

特徴: オールマイトに似せた姿で「次は君だ」を曲解して暴走する。215cm。

・サイモン・ゴリーニ

個性: 『怪物召還(モンスター・サモン)』インプ、トロール、ワイバーンを召還する。

特徴: 眼鏡に整えられたヒゲ、ファッションデザイナーのような紳士風の男。175cm。

・ジル・ゴリーニ

個性: 『任意移動(エニーテレポー)』自身及び自身が触れている物質・生物を自分が目視可能な範囲で任意の場所へ移動する。

特徴:無口な巨漢。250cm。ウーゴを肩に乗せて戦う。

・ウーゴ・ゴリーニ

個性: 『念動力(テレキネシス)』無機物の物体を思い通りに動かせる。カミルの下位互換。

特徴: 細長い腕にピノキオの様な長い鼻を持ち、サングラスをかけた老人。帽子の下は禿頭。72cm。ジルの肩に乗る。

・カミル・ゴリーニ

個性: 『回遊(エクスカージョン)』任意の空間内にある人や物を浮遊させることができる個性で、大要塞ほどの大きさまで浮遊させることができる。

特徴: やや小柄な体型で赤い鷲鼻が特徴の男性。

・ブルーノ・ゴリーニ

個性: 『ドレイン・スポット』指パッチンから発動する。自身を中心に半径数メートルのドーム状空間を展開。その空間の中では時間の流れがスローになるが本人は通常通りの行動ができる。

特徴: オールバックともみあげ、割れ顎が特徴のハンサムな男性。194cm。

・デボラ・ゴリーニ

個性: 『ブレイン・リモード』目を合わせるだけで発動できる洗脳系個性で、対象者ひとりに幻影を見せることで、感情、行動を支配する。

特徴: ゴリーニ・ファミリーの紅一点。グラマラスな身体に黒いシックなドレス、つばの大きな帽子。190cm。

・パウロ・ゴリーニ

個性: 『アン・イデオロギー』一定の範囲内に個性が使えなくなるフィールドを形成し、自身の周りだけ個性が使用できるようにするチート個性。

特徴: ペストマスクの顔と黒ハットを被った男性。チート個性を活かせないポンコツ。184cm。

・《補足》

ユアネクスト本編では、アンナ・シェルビーノによる個性強化バフがある。この世界においては、彼女のバフは存在しない。

 

 

 * * *

 

 

 バルド・ゴリーニがコインを投げると、空中に撮影用ドローンが現れた。

 海上を疾走していた三階建てのクルーザーが、突然空中に浮かびあがって飛行した。

 

 この瞬間、事態は領海(Territorial Waters)への侵入から防空識別圏(ADIZ)侵入に切り替わった。

 領空侵犯による東京湾侵入、つまりはレッドライン突破。

 航空自衛隊と防衛大臣が動き、地対空ミサイル(PAC-3)やイージス艦が動員されてしまう。

 

 そして、国内のあらゆるモニターにコスプレおじさんの姿が映し出された。

 電波ジャック系はよくある演出ではあるが、地味に大罪である(後述)。

 

「ハロー・エブリワン! 俺は新しきオールマイト、次代の象徴となる男だ!」

 

 もはや何語で話しているのかよくわからない男が、堂々と宣言する。

 

「俺は誓う。オールマイト誕生のこの地であるこの日本で、いや、この日本から! 世界の新たなる象徴となり飛び立つことを! オールマイトの理想を引き継ぐことを……そう、次は――」

 

 コスプレおじさんは、カメラに向かって堂々と左手の人差し指をつきつけた。

 

「俺だ!」

 

 その後、反転させた親指を自分に向けて突き立てた。

 この男、本来は青山の裏切りが皆に知られた後、AFOを呼び出す作戦の直前に登場する。

 少しは空気を読んで欲しい。

 

「まずはマイトタワーとかいう場所にいるアンナ・シェルビーノを(さら)い、俺の女にしてからこの国を平定してみせる! オールマイトの意思を達成するために!」

 

 ではこの男が何故今このタイミングで来たのかというと、彼らの調査能力の無さゆえだ。

 アンナ・シェルビーノを匿っていた塚内空だったが、「アンナが無事」かつ「日本が壊れる前」ならザ・スカイクロウラーがNo.1になるための餌になるのではないかと判断し、一応アンナとジュリオに確認をとった上でホームページに写真を公開したという裏事情がある。

 

 つまり流れとしては「アンナ確保&隠蔽。いくら経ってもアンナが見つかる気配全く無し。ザ・スカイクロウラーがNo.1になるという方針変更後(神野事件の後なので八月第一週過ぎ)、ホームページで情報をわざと公開。11月のヒーロービルボードチャートJPが終わり、もはや関係者全員がゴリーニ・ファミリーのことを忘れ去っていた12月中旬に、アンナの情報をホームページで得て来日した」ということになる。

 

 何もかもが、ズレていた。

 

「ゆ、誘拐宣言をしたコスプレ男がオールマイトを継ぐと言っています!」

 

 謎の力で乗っ取られていたモニタが回復したので、報道ヘリは即座に中継を再開した。

 

「FUFUFU! 俺が正義! 俺が象徴だ!」

 

 その時だった。

 

 一人は空を飛び、一人はドローンに乗って。

 二人のヒーローが、東京湾に現れた。

 ザ・スカイクロウラーと、サー・ナイトアイだ。

 

 彼らはどこかと連絡を取り合いながら、凄い速度でクルーザーに接近する。

 ぽややんヒーローは、へにゃりと笑いながら呑気に喋っている。

 

「止めちゃっていいんです? あ、撃墜許可なんですね、了解ですー」

「オールマイトを馬鹿にしているのか?」

 

 一方、こちらは激おこ臨戦態勢だ。

 サー・ナイトアイは問答無用で、マッハ1.5以上の速度で5kgの印鑑を素早く三回投げた。

 そのどれもが正確にクルーザーを真正面から貫き、クルーザーを貫通して抜けていった。

 豪華な三階建てクルーザーは、色々な場所から煙を吐きながらゆっくりと高度を下げていく。

 

「新しきオールマイト、次代の象徴となる男に何をするか!」

「ザ・スカイクロウラー・ナックルスタイル」

 

 コスプレおじさんの激怒に対する、ザ・スカイクロウラーの返事は簡潔だった。

 彼だってサー・ナイトアイに負けないぐらいオールマイト好きなのだ。

 

 仮にもオールマイト強火勢の目の前で、「俺が次のオールマイトだから女を誘拐させろ」と言ったらどうなるかというわかりやすい一例である。

 

 ギィィィン!

 

 ザ・スカイクロウラーの拳から四つの光が輝き始めた。

 その光は、流星のごとき速度でクルーザーを殴り飛ばした。

 手加減無しの、やっちゃえ☆ヒーローパンチが一撃でクルーザーを撃墜した。

 

 ゴリーニ・ファミリーは全員海に落ち、溺れかけたところを海保に救出・逮捕された。

 

 

 * * *

 

 

 ・出入国管理及び難民認定法違反(不法入国):パスポートなし、ビザなしで領海・領空侵犯。

 ・航空法違反:無許可での領空侵入、管制指示違反、低空飛行、危険飛行など。

 ・船舶法・港則法違反:無許可入港、航路逸脱、停船命令無視。

 ・自衛隊法違反(領空侵犯に対する措置への抵抗):海保の警告を無視し、強行突破した行為。

 ・破壊活動防止法(破防法)違反:政治的・思想的背景に基づき、国家の統治機構を攻撃しようとする予備陰謀。

 ・公務執行妨害罪:海保の職務を妨害。

 ・国際民間航空条約(シカゴ条約)違反:領空主権の侵害。

 ・国連海洋法条約違反:無害通航権の乱用。軍事行動やプロパガンダ目的での領海侵入。

 ・電波法違反:不法無線局の開設: 無免許で強力な電波を発信し、既存の放送波を妨害・乗っ取る行為。

 ・通信の秘密侵害:通信回線に割り込んでデータを流す行為。

 ・不正アクセス禁止法違反:放送局や通信事業者のサーバー、あるいは街頭ビジョンの制御システムに不正侵入して映像を流した場合。

 ・放送法違反(の幇助・誘発):放送局の正規の番組編成を強制的に変更させる行為。

 ・威力業務妨害罪:テレビ局、通信会社、およびジャックされた全ての施設の業務を麻痺させた罪。損害賠償額は天文学的数字に。

 ・組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織犯罪処罰法)違反:「ゴリーニ・ファミリー」という組織による犯行なので、すべての罪が加重。

 

 空を飛ぶクルーザーで日本にテロ活動をしに来て、国内のあらゆるモニターに自分の姿を映した。劇場版では、これに殺人や誘拐、放火など、沢山のものが加算される。

 

 ・対個人・会社 → 民法・刑法(映画でアンナ達にやったこと)

 ・対国家(治安維持) → 刑法・破防法

 ・対国家(主権侵害・戦争) → 自衛隊法・国際法(空飛ぶクルーザーで首都強襲&電波ジャックはここ)

 

 法律を『ビンゴカード』か何かだと思っているフシがある。

 彼らの行動は、ただの悪事を超えて、国家主権への挑戦になってしまっている。

 法的な保護や人権を主張する余地すら危ういので、タルタロスから出してはいけない。

 

 

 * * *

 

 

 いおぎ荘。

 またの名を、雄英高校ヒーロー科1-A事務所。

 

 ヒーローというよりは便利屋としての仕事の御礼に、島民が御礼の夕飯を用意してくれた。

 これが便利屋の報酬というのなら、あとは皆が納得できるかどうかのみだ。

 

 島民が毎日ご飯を用意してくれるわけではないが、材料は用意してくれる。

 女子達は、明日の献立のおかずをどうしようかと盛り上がっていた。

 

「明日のおかず、どうしよっか」

 

 塚内(つかうち)(そら)が、冷蔵庫に島民達が持ち寄ってきてくれたものを詰め込む。

 

「島の人、魚と野菜さえ私達にあげておけばいいって思ってない?」

 

 詰め込みを手伝いながら、耳郎(じろう)響香(きょうか)が呆れる。

 

「わー、すごっ! お魚新鮮じゃん! やっぱお刺身?」

 

 芦戸(あしど)三奈(みな)が、素材の新鮮さに喜ぶ。

 

「煮付けもいいわね。お野菜はチャンプルーとかどうかしら。南国だし」

 

 蛙吹(あすい)梅雨(つゆ)が、真面目に考える。

 

「私、現地のハーブを使ったソテーに挑戦してみようと思いますわ!」

 

 八百万(やおよろず)(もも)が、意識の高いことを言った。

 

「賛成ー! 男子たち、お腹すかせて待ってるだろうし、ガッツリ系のおかずも作っちゃお!」

 

 葉隠(はがくれ)(とおる)の手袋が、宙でふりふりした。

 

「よっしゃ、腕によりをかけて作るでー! 最高のおかずにしたる!」

 

 麗日(うららか)お茶子が袖をめくって、下拵えの準備をはじめた。

 

 

 * * *

 

 

 いおぎ荘、休憩スペース。

 風呂上がりの一部男子勢が、夜風で涼みながら駄弁っていた。

 

 なおメンバーだけを述べ、誰がどの台詞を言ったのかはあえて秘す。

 峰田(みねた)(みのる)上鳴(かみなり)電気(でんき)瀬呂(せろ)範太(はんた)切島(きりしま)鋭児郎(えいじろう)の四人。

 

「……なぁ、今夜のおかずはどうする?」

「ぶっちゃけ、島に来てからネット回線弱くね? 動画とか止まるんだけど」

「おいおい、こんな健康的な南の島に来てまで、何の話をしてんだよ」

「……で、峰田。お前の手持ちのおかず、ケータイに入ってたりする?」

「オイラのケータイは取り上げられてる」

「飯のおかずの話じゃねぇのかよ」

「バカ野郎! 男子高校生にとって、食欲と同じくらい大事なおかずだろ!」

「おめーのケータイの待ち受け、芦戸のくせに」

「お前だって耳郎が待ち受けじゃねぇのかよ!」

「うるせぇ、こっちは真面目におかずの話をしてんだよ」

「観光地だけあって水着の女性が多いんだよな。あれは極上のおかずになり得る」

「まぁ待て。ウチの女性陣も捨てたもんじゃない……冬に水着が堪能できる、いいじゃないか」

「塚内とか暑そうだよな。汗でシャツがブラ透けすんじゃね?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「いやいや……いっそ、黒のビキニとスーツの上着のセットだよ。どうよ?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「汗だくの塚内が、下から覗かせる黒ビキニ、か……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 いおぎ荘は、いざとなれば島民の避難所になれるレベルには部屋が余っている。

 一人で静かになれる空間も、また多い。

 

「俺、ちょっと旅に出てくるわ」

「良い旅を」

 

 一部男子達のおかずもまた、決まりつつあった。

 

 

 * * *

 

 

 那歩島(なぶとう)では、夜の星がはっきりと見える。

 夜空にまたたく満天の星の下、小さな少年がいおぎ荘を訪れた。

 

「ヴィ、(ヴィラン)が……出たんだ」

 

 おどおどとしながら、そんな事を言う島乃(しまの)活真(かつま)

 

(ヴィラン)が!?」

 

 緑谷(みどりや)出久(いずく)が、慌てる。

 

「くわしく聞かせろ!」

 

 怒鳴る爆豪(ばくごう)勝己(かつき)

 

「……それ、私も行く」

 

 ため息と共に、塚内(つかうち)(そら)も同行を宣言した。

 

 

 * * *

 

 

 活真(かつま)のお姉ちゃんこと島乃(しまの)真幌(まほろ)は、弟がヒーローに憧れるのを止めさせるために、ヒーローの卵達の化けの皮を剥がしたかった。個性で幻影を生み出せる彼女は、大きな幻の(ヴィラン)を出してヒーローを怖がらせてやろうと考えていた。

 

「おめえもグルか……なら――」

「やりすぎだって、かっちゃん!」

 

 劇場版における真幌(まほろ)は、緑谷と爆豪が「子供の悪戯を見逃すかどうか」と言い合っている隙に逃走に成功する。

 だがその展開を知っている塚内空は、あっさり真幌(まほろ)を捕まえてみせた。

 

「はい、捕まえた」

「な、なんなのよ、さっきのバクゴーってやつ……何がNo.1ヒーローになる男よ!」

「うん、それはいいんだけどね。貴方を逮捕します」

「……はぁ!?」

 

 慌てた真幌(まほろ)に対し、活真(かつま)がうなだれる。

 

「やっぱりダメだったんだよ、こんな事……」

「あんたらが本物のヒーローか試しただけでしょ! 一体何がいけないってのよ!」

 

 そう啖呵を切るお姉ちゃんを、ジト目で見る塚内空。

 

「刑法233条、偽計業務妨害罪。嘘の通報をして、ヒーローを呼びつけ、無駄足を踏ませた行為。刑法95条、公務執行妨害罪。みなし公務員となるヒーローの職務中に、嫌がらせや妨害をおこなう行為。第1条、軽犯罪法違反。嘘の通報や、イタズラ行為全般……3年以下の懲役、または50万円以下の罰金、かなぁ~?」

 

 今回は相手が小学生、つまり刑事未成年の行為だから説教で済む。

 同じことを大人がやれば、即逮捕だ。

 

「さっ、3年も刑務所に!?」

「50万円も持ってないよー!」

 

 島乃姉弟が涙目になったところで、緑谷が割り込もうとした。

 

「……塚内さん、そのへんで」

「うん、わかってる。あのね、真幌(まほろ)ちゃん。貴女の嘘のせいでヒーローが疲れ果て、本当に助けが必要な人が救えなかったらどうしますか? 弟さんの夢を折るために、貴女自身が犯罪者になってどうするんですか」

 

 真幌(まほろ)ちゃんの根は良い子なので、理詰めで(さと)した方が早いと塚内空は判断した。

 実際効果はてきめんで、姉も弟もすぐに反省してくれた。

 

 映画では子供のやることだからと見逃そうとした緑谷だったが、爆豪の「そういう態度が昨今のガキの増長を招く」というスタイルの方が今回ばかりは正しい。

 死人が出てからでは、遅い。

 

 

 * * *

 

 

「そもそもね、ヒーローは便利屋じゃないと思うんだけど」

 

 いおぎ荘の休憩スペースは、複数ある。

 そのうちの一室で、塚内空と緑谷出久が休憩していた。

 塚内は深く気にしていなかったが、二人きりである以上、流石に緑谷は緊張している。

 

「チャンネルは五つだけど、事実上四局かぁ……」

 

 NHK総合(1ch)、Eテレ(2ch)、琉球放送(RBC・3ch)、琉球朝日放送(QAB・5ch)、沖縄テレビ(OTV・8ch)。

 ニュースがやっているチャンネルを選び、塚内空はリモコンを置いた。

 

「ヒーロー活動推進プロジェクトはいいけど、那歩島(なぶとう)はダメだと思う」

「そうなの?」

「親切と余計なお世話が、紙一重っていうか……行政の怠慢が酷い」

 

 彼女らしい愚痴に、緑谷は苦笑する。

 

「考え方一つじゃないかな。余計なお世話は、ヒーローの本質だよ」

 

 夜のニュースが流れ始め、部屋を沈黙が支配した。

 塚内空は静かにニュースを見ているが、彼女のラフな格好に緑谷はドキリとする。

 

 なんだかんだで、緑谷に対して彼女は無防備過ぎるのだ。

 どうせお茶子ちゃんとくっつく、という意識が強すぎる弊害でもあった。

 

「あ。ザ・スカイクロウラーだ」

 

 緑谷が、ぼそりと呟いた。

 

「東京湾でクルーザーを迎撃……欧州マフィアのボスがオールマイトを名乗る!?」

 

 よくわからないニュースに、二人で首を傾げた。

 

「電波ジャックって言ってたけど、那歩島(なぶとう)はエリア外だったのかな」

「ここ、遠いもんね……」

 

 やがて、特集じみたボリュームで愛知県泥花市の悲劇が報道された。

 原作の報道は一週間経過した調査後だったが、これは最初の概要のみだ。

 

 泥花市で六桁に及ぶ大量の死者が発生した見込みだが、死者も街も崩れてクレーターのような大穴があいており、詳細がいまだに不明。

 ただ、デトネラットの代表取締役社長・四ツ橋(よつばし)力也(りきや)の死亡、集瑛社役員の死亡、心求党党首の死亡など、判明した死者が続々と報道され続けている。

 

 中でも一番大きかった報道は、犯罪の中心人物と目されるのが(ヴィラン)連合のリュミエール・ノワールだったということ。

 本名・青山優雅、少年法適用外の未成年を殺すしか方法がなかったこと。

 被害拡大を抑えるためにリュミエール・ノワールを殺したものの、ホークスが個性を失う結果となってしまったこと。

 

 異能解放軍とヒューマライズという団体の名前が調査によって判明しつつあるが、情報は完全ではないこと。全容把握には、相当の時間がかかることなどがヒーロー公安委員会の緊急会見で明らかとなった。

 

「彼に罪を償わせることができなかったのは、私の不徳と致すところであり残念に思います」

 

 スーツ姿だが羽根の無いホークスが、記者達の前で頭を下げていた。

 

「そんな……まさか……」

 

 ニュースを食い入るように見つめていた塚内空が、突然頭を抱えた。

 

「ヒーローの本質は、余計なお世話だってこと?」

 

 殺してもらえる理由の大半を潰された塚内空は、茫然自失とするよりなかった。

 自身の罪の大半を、青山優雅に持って行かれてしまった。

 

「……どうしたの? 塚内さん」

「あのね、デクくん。赦すこともわかりあう事も叶わない、救いようの無い人間がいたとして……(たす)けを求めているように見えた人間が、救いようのない人間だった時に……緑谷くんは殺してでも止めるという覚悟は、ある?」

 

 そんな台詞を彼女が言い終えた時、彼女の目の前に緑谷の顔があった。

 思わず赤面した彼女の顔をじっと見つめながら、緑谷は言った。

 

「どうしてだろう。塚内さんが……(たす)けを求める顔をしている」

 

 ひたすら純粋に、塚内空のことを心配する感情が緑谷から伝わってくる。

 本編主人公の真顔にじっと見つめられ、塚内空は恥ずかしくなって目線を逸らした。

 

 

 * * *

 

 

 晩年のプリンスを思わせる小山力也、もとい。

 ハイネスパープル・ロマンスグレー版が那歩島(なぶとう)に到着した。

 

「オフィス・パープルレボリューション代表、ハイネス・パープル……見参ヨ」

 

 老齢となった彼はそれでも引退せず、ヒーロー稼業を続けていた。

 約15年前と衣装も替わらず、元気な姿と胸毛を見せている。

 

 2人の英雄編、(ヴィラン)チームのリーダー・ウォルフラム。

 ハイネスパープルの声を聞いて、ウォルフラムが脱獄したと勘違いした塚内空は驚愕した。

 声質が似すぎていたのでビックリした。

 

「雄英ヒーロー科の諸君。皆もヒーローを(こころざ)すならば、微笑みなさい。自分の力を信じて」

 

 1-Aの全員が島を去る時、フェリー乗り場に島民の大半が来てくれていた。

 島乃(しまの)真幌(まほろ)活真(かつま)の姉弟も、手を振りに来ていた。

 

「「みんなー、ありがとう!」」

 

 島民達の笑顔に、様々な雑用をこなしたヒーロー科の皆も笑顔で手を振り返した。

 大きな事件こそ起きなかったものの、それで良かった。

 

活真(かつま)くーん! 君は……君は、ヒーローになれる!」

 

 緑谷の大声に、活真(かつま)少年が手を振りながら笑う。

 

(私は……ヒーローに、なれそうもないな)

 

 アーマード・ソラチャン リーチの試作版送付メールを確認し、塚内空は青空を見上げた。

 

 太陽の光を受けた波しぶきが、いつまでもキラキラと輝きを放っていた。

 

 




挿絵提供:まねきねこ様(生成AI:LORAなし・使用モデル「Hoshino v2」)

EP.74を全身全霊で書いた反動で何かの糸がぷつりと切れてしまい、暫くのあいだ何も書けなくなっていました。回復に思ったより時間がかかったので、休養は大事ですね。
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