空が夜闇に包まれる中、ゴブリン村から東の草原で、右目に傷を持つ一際大きい一匹の牙狼族が、『自分たち』を照らす満月を見上げながら、良い月だと『念話』で呟く。
【行くぞ…。今宵、あのゴブリンどもの村を討ち滅ぼし、『ジュラの大森林』への足がかりとする…!】
スキルで告げた後、咆哮を上げる牙狼族のボス。それに続いて、百匹以上の群れが遠吠えを上げ、駆け始める。
奴らにはもう、邪竜の『加護』はない。蹂躙の時間だと、そう考えていた。そうであると分かっていた。
しかしなぜだ、震えるほどの圧を、彼らは感じていた。
ゴブリン村が見えてきた段階で、その正体に勘付くことには成功した。
黒い身体に、月白の如き装甲を纏う巨なる竜。しかしその翼は不死鳥の如き輝きを放っており、およそこの世のものではない覇気を放っていた。
『一度しか言わん。今すぐ立ち去れ』
その巨竜が、口を開く。
【なんだ、こいつは…!?なんでこんなものが…!】
額に星の模様がある牙狼族が狼狽える。
(くだらん、ただ異様なオーラを放つ竜ではないか)
宙準星の竜を観察し、そのように考える、牙狼族のボス。
【どこの誰かも分からぬ巨竜の紛い物風情が、誇り高き我らに命令するな…!
行け!その爪と牙で、くだらん柵ごとなぎ倒せ!】
ボスはそう言いながら、配下の牙狼族を宙準星の竜と柵へ向かわせる。
それを見た彼女は、炎を周囲に纏う。
『爆ぜろ。《ブリムストーン》』
その炎が爆発し、牙狼族たちがあっという間に弾き飛ばされていく。
【!?】
『無策で、数の多い貴様らと相対するとでも思ったか?』
【貴様…ッ!】
腰に提げた大剣を抜き、闇を放つ宙準星の竜。
それにより、牙狼族があっという間に一掃される。
(こいつ…只者ではない…!ただの巨竜の紛い物ではない…!)
ボスは宙準星の竜の『危険性』を、群れの長となるまでに培ってきた『直感』で理解する。
そいつを倒そうと襲いかかるも、思いっきり膝蹴りを受けてしまう。
『立ち去れと、言ったはずだ…!』
膝蹴りによる吹き飛ばしで、群れの元まで戻されるボス。
しかし、宙準星の竜は未だに立っていた。
『ここまでにしよう。素直に『負け』を認めたのなら、命は取らん。
ゴブリンたちは、私達に忠誠を誓ってくれている。同じように忠誠を誓うか、逃避を選ぶか…。それはお前達自身で考えるんだ。ただ―――』
そう言って、彼女は魔素を解放する。それを感じ、戦慄した牙狼族は、目が点になるほどだった。天にも昇るような妖気は、まさに、彼女の―――エクセリアの『覇気』だったのだ。
「負けを認めず、未だに襲おうと言うのなら…、私とて、容赦はしない」
顕現を解除し、エクセリアはそのように言い放った。
【【【我ら一同、貴女様方に忠誠を誓います!】】】
返答は、忠誠だった。
………ゑ?
「あのー、エクセリア?終わったの?」
「…みたい…だな…?」
連続投稿は一旦今日で終わりです