牙狼族の強襲から一夜明けて。翌日、リムルと私は、生き残った牙狼族とゴブリン族を村の中央に集めていた。
【野性味のある大所帯になったな…】
「私の所為だと言って罵るか?」
【そこまでは言わねぇよ!】
リムルの嘆きに、自虐を以て返事をする私。
彼らには、一応『ペア』―――二人一組で行動してもらうことにした。しかし名前がないと彼らは言う。名前がなくとも、意思の疎通は容易だから、らしい。
しかし、ないとこちらが困る。俺だよ俺、みたいなことを言われても、私達では区別がつかないからだ。
そうして、私達は分担しながら名付けをした。
魔力をごっそりと持っていかれ、暫くは顕現どころか半顕現さえも怪しい状態まで減ってしまった。私が『そういう』資質のある者でなければ、恐らくは…、十中八九というほどのレベルで石化もしていただろう。
…で、3日後に見た光景はと言うと…ゴブリンのガタイがよくなって、牙狼族の見た目が一回り大きくなっているというものだ。ホブゴブリンとゴブリナだったか…、揃いも揃って『誰だよ』と言いたくなるほどの見た目になっているではないか。
3日前はよぼよぼの爺さんだったリグルドも、今はあんな姿だ…。脳が理解を拒んでしまう。いや、理解をしろと言われても、あまりにもブッ飛んだ劇的ビフォーアフター過ぎてなんも言えないし、理解できない。なんだよ、マッチョマンって。
とはいえ、3日の休息で半顕現が可能な領域まで魔力が回復したが、何かに怖気付くような波長を伴っていた。
何を警戒しているのだろうか…?
その答えは、その2日後に明らかになった。
ドワーフ族の国を訪問し、技術者を徴用する、というものだ。
とあるゴブリナからその話題が出たとき、私は身震いするような感覚に見舞われた。
「どうした?」
「…いや、なんでもない…」
突拍子もない寒気で、私は体が震えてさえもいた。
―――珖焔の召喚獣、コズミック・クェーサーが怯えている。
『武装国家ドワルゴン』に辿り着くその直前に、顕現が解けてしまうほどには。
「おいおい、あと数キロはあるんだぞ…!?」
【エクセリア様!?】
私には、どうにも説明がつかない寒気を、説明しなければならなかった。
「…怖いんだ。人が…いや、人だけじゃない…人の持つ…闇が…」
闇と形容したそれ―――言うなれば『人の悪意』は、私の眼には見えていた。立ち竦んでしまうほどに、その悪意は煌々と燃え盛っていた。
私には、あそこへは近づけない。近づくことさえ叶わない。近づくことを、本能が忌避している。
「おい、エクセリア!お前も来ないと、話が付けられないだろうが!」
リムルがせかすも、私には到底近づけない領域だった。近づけない。ついでに言うと、逆風のように吹き荒れる領域に、手を出せない。
「…リムル、私は戻る。用が終わったら嵐牙に手伝ってもらいながら帰ってくれ。私には到底…近づけない」
そう言って、私はその場を後にした。近づけない。あんなに悪意が溢れる場所には…到底近づけない。あんなにも、人を侮蔑する場所には、とてもじゃないが近づけない。