勇者のメッキは剥がせない   作:ありがとう

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1話

 

 三十年前、世界を暗黒に陥れていた魔王は、勇者と聖女によって討伐された。

 平和をもたらした勇者と聖女は結婚して、今もどこかでひっそりと暮らしているという。

 

 ……ここまでは、この大陸に住む者なら子どもでも知っている英雄譚だ。

 

 事実、勇者と聖女は夫婦になった。

 歳もそれなりにいっているというのに、毎日いちゃいちゃと……いや、それはいい。

 

 ここからはあまり知られていない話だけど、勇者と聖女には、五人の子どもがいる。

 

 魔法の才は親から子に遺伝するから、世界最高峰の才能を持つ二人の子どもは、さぞ優秀なのだろうと周囲からは期待されていた。

 事実、皆ただしく才能を引き継ぎ、さらに勇者と聖女からそれぞれ部分的に遺伝したために、得意分野では両親すらも超える特化した才能を持って生まれた。

 

 第一子は男の子。

 父を超える聖剣への適性と、剣術の才がある。

 齢十二の時には、引退したとはいえ先代勇者を剣術だけで圧倒するほどだった。

 

 第二子は女の子。

 母を超える圧倒的魔力量と、同じく母以上の神聖魔法の適性を持つ。

 また人格にも優れ、母譲りの美貌から人望もある。

 

 さて、一つ飛ばして第四子は女の子。

 父を超える超人的な身体能力と、母もできない、無自覚に常時発動する自己治癒能力を持つ。

 一番元気で、四人目ということもあり愛されて育った。

 

 第五子は男の子。

 精霊に愛される体質と、全属性の魔法適性、脳筋二人の子どもとは思えないほどの頭脳を持つ。

 生まれつき身体が弱いが、その分周囲には最も大切にされている。

 

 残された第三子にいく前に、一つ補足情報がある。

 世界を救った勇者と聖女は、見た目もとびきり優れているのだ。勇者は各国のお姫様を次々と惚れさせた貴公子だし、聖女は微笑むだけで魔王すらも恋に落とす。

 

 上にあげた四人も、やはりそれなりに美しい見た目をしていた。

 

 さて、お待ちかねの第三子。

 長男と長女が世界を揺るがすほどの才能を持っていたから、めちゃくちゃ期待されて生まれたらしい。

 

 第三子は男の子だった。

 両親から引き継いだ才能は……見た目だった。

 

 勇者と瓜二つの甘い顔付きに、聖女の神に愛されたとしか言いようのない美しさを併せ持つ。

 ……それだけ(・・・・)

 

 魔力、皆無。

 魔法適性、なし。

 剣術の才能、ゴブリン以下。

 身体能力、クソ雑魚。

 聖剣、精霊……めちゃくちゃ嫌われてる。

 

 いや、これが市井の一般人なら、見た目がいいだけでちやほやされただろう。

 

 だが、才能を期待していた周囲は、大層がっかりした。両親は変わらない愛を注いだが、それでもどこか失望していたように思う。

 

 才能の遺伝子は枯れたか。そう思われたが、後に続いた二人も天才だった。

 いよいよ、無能の第三子が疎まれた。

 

 なにより、周囲の口さがない者たちは鬼の首を取ったように好き勝手噂した。

 

 見た目がいいだけの無能。

 勇者と聖女の唯一の汚点。

 魔王の呪いを受けた者。……いや誰だよこれ言ったやつ。んなわけあるか。

 

 とはいえ、才能溢れる四人と比べられて育った第三子……つまり俺、エルバは無能の烙印を押された。

 

 その結果……盛大にやさぐれた。

 

「あ~、親の七光り最っ高。働かなくても生きていけるわ~。ビバニート。働かずに親の金で食う飯が一番うめえ」

 

 現在十五歳になった俺は、あらゆる努力を放棄して自堕落に生きていた。

 だって才能ないし、頑張る必要なくね?

 きょうだいが優秀すぎるから、完全に俺いらない子だし。

 

「ていうか、今は魔王とかいないし、戦う才能いらないよね? 今時、どれだけ楽に生きるかよ。あ、俺その才能はあるわ」

 

 管を巻きながら、ぶどうジュースを飲む。

 酒とかいうまずい飲み物は好きじゃない。でもカッコつけたいから、ジュースをワイングラスに入れて飲んでいる。

 

 煙草に火をつけて、一口吸う。

 

「げほっげほっ」

 

 咳き込んだ。

 見た目は好きなんだけど、もっと美味しいの作ってくれないかなぁ。カッコつけたいし。

 

 火を消して、肉を口に運んだ。

 真昼間から豪勢な食事。最高すぎる。

 

 あ~、このまま怠けて生きたい。

 

「クズ、外道、人以下のなにか」

「……あのー、シャルルちゃん? 君、一応俺のメイドだよね……? 淡々と悪口言わないでくれない?」

「私の雇い主は勇者様ですので」

「俺その勇者の息子ぉ!」

 

 つん、メイドのシャルルがそっぽを向いた。

 

 でも、しっかりと俺のぶどうジュースは注いでくれる。優しい。

 

 この家には、俺とシャルル、それと執事のじいやしか住んでいない。

 俺が一人暮らしを望んだら、両親が用意してくれたのだ。

 

 めちゃくちゃ引き留められたけど、押し切った。……実家には居づらいから。

 あの家は輝きすぎている。誰もかれも才能とパッションに溢れ、俺には重たい。

 

 それを超オーバーに号泣しながら訴えたら、母さんが謝りながら許可してくれた。

 ごめん、ほぼ演技。本当は人目を気にせず堕落した生活を送りたかっただけ。

 

 その代わり、メイドと執事はつけるよう条件を出された。仕送りもたんまりあるし、家事もしなくていいとか最高すぎるのでもちろんオッケーした。

 それで与えられたのが、この屋敷だ。親父の持つ別荘の中では一番小さなものだけど、それでも十分すぎる。

 

「ううっ……なんで私がこんな人に……。無能のニートに仕えているなんて、両親になんて説明したら……」

「なんかごめん」

「勇者様に採用されて、人生勝ち組だと思ったのに」

「君も俺に負けず劣らず、イイ性格してるよね」

 

 普通メイドが主人にこんな態度を取れば怒られるだろうけど、俺は気にしない。

 だって、俺が外れクジなのは、だれよりも俺自身がわかっていることだし。

 

 それに、よくも悪くも俺に普通に接してくれる人は貴重なのだ。

 仮にも勇者の息子だから必要以上に畏怖するか、反対に無能だと蔑むかのどちらかの人ばっかりだから。

 

「でもさ、働くなんて馬鹿だと思わない?」

「私がエルバ様とこうして話しているのも、仕事なわけですが」

「まじかよ。お金払わないと話すらできないの?」

「もちろんです。ちなみに、勇者様のお金ですけどね?」

「そうだったわ」

 

 いやー、親がお金持ってると人生楽でいいわ~。

 

「エルバ様も、少しは働いてください。勇者様のように、だれかのために頑張る人は素敵だと思います」

「頑張ってるよ。ほら、俺が働くと周りが迷惑するからさ。こうやってサボるのが、巡り巡ってだれかのためになってるってわけ」

「どうしてもこうも勇者様と違うのでしょう。見た目は同じなのに……腐った目以外は」

 

 シャルルは思いっきり軽蔑した目で見降ろしてくる。年下の美少女からこんな目で見られるなんて……やだ、なにかに目覚めそう。

 

「まあ俺も? 本当に働かなきゃいけない日がきたら働くのもやぶさかではないよ。ただ、今はその時じゃないっていうか」

「へえ? そうなんですか?」

「もちろんさ。魔王が現れたら俺も働くよ。いやー、復活してくれないから暇だな~」

 

 魔王は親父と母さんがきっちり倒したから、復活する心配はない。

 

 つまり、これは一生働く気のない宣言である。

 シャルルもそれをわかっているのか、深くため息をついた。

 

「はぁ~~~」

「どうしたの? 吐いた息を俺に吸わせたいの?」

「キモイ。死んでください」

「直球!!」

 

 このメイド、本当に口悪いね??

 

 まあ、シャルルをからかって過ごすのも楽しい休日だ。毎日休日だけどな!

 

 今日も優雅に自堕落を極めていると、扉の外からどたばたと足音が聞こえた。

 

「エルバ様! エルバ様さまあああ」

 

 ノックすらも惜しんで飛び込んできたのは、執事のじいやだ。

 最近は母さんの元に通って、魔法によって頭皮の後退を食い止めてもらっているらしい。

 

「どうした、じいや。忙しないな。じいやも俺の執事なら、もっと怠けようじゃないか」

「新たな魔王が現れましたぞ!」

「頑張りすぎると身体に……なに?」

「世界各地に、魔王を名乗る者が次々と出現したそうです……! エルバ様、勇者一家の者として、ご決断の時ですぞ!」

 

 勇者と聖女は、すでに全盛期の力を失っている。

 しかし、世界に新たな危機が訪れないとは限らない。そのため、親父は各国と盟約を結んでいる。

 

 勇者一家は様々な特権を得る代わりに、来たる危機には必ず馳せ参じると。

 子どもを勇者クラスまで育てるのも、盟約の一部だ。

 

 それは、勇者の見た目”だけ”を引き継いだクソ雑魚の俺にも当てはまる。

 

「ふむ……」

 

 俺は顎に手を当てて、神妙に頷いた。

 

「兄貴と姉貴に任せて寝よう」

「おいクズ」

「シャルルちゃんの暴言から親しみが消えた……!?」

 

 親しみのある暴言ってなんだろう?

 

「さきほどの言葉、覚えてらっしゃいますか?」

「言葉? なにか言ったかなぁ」

 

 いつも適当に喋ってるから自分が言った言葉なんて覚えてない。

 

「魔王が出たら働くと」

「あっ」

 

 思い出した。

 そういえばそんなこと言った気がするな……。

 

 いや、それはあくまで仮定の話であって、まさか本当に出るとは……。

 言い訳しようとしたら、じいやが感極まって泣き出した。

 

「おおおお! そうでしたか! さすがエルバ様! このじいや、信じておりましたぞ!」

「いや、じいや、あのな……」

「エルバ様は少しサボり癖があるだけで、やればできるお方であると! おおお、老体から涙が止まりませぬ!!」

 

 ダメだ、じいやは基本人の話を聞かない。

 

 魔王? それも何体も?

 なにそれ、世界滅亡の危機じゃん。

 

 俺が行ったところでどうにかなるとは思えないんだけど……。

 

「よ、よし。そうだな。まずは寝てから考えよう。英気を養わないと」

「エルバ様? もし寝たら、私が二度と目覚めさせませんよ」

「いやぁ! 魔王倒したくなってきたなぁ!」

 

 怖い。メイドに殺されちゃう。

 

 ちょっと働くフリをして、魔王と出会わないように頑張ろう。

 なるべく魔王がいなそうな方向に……。

 

「じゃ、じゃあ俺は行くわ! 二人は危険だからここで待ってて!」

「いえ、私はついていきます」

「えっ」

 

 俺の自堕落人生、終わりみたいです……。

 

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