私が作った超超凶悪ダンジョンが映えスポットとしてバズってしまった 作:魔王
「ふふふ! ついに私が日本に来たわよ!」
「お待ちしておりました。第十四魔王女ヒメルメーア様」
転移魔法で降り立つと、執事のジンが待っていてくれた。偉いね。
私が降り立ったのは日本……さっきまでいた魔界と比べると、かなり空気が美味しい。聞いていた通りだ。
見たところ建物の中。ジンが用意してくれた場所だ。
魔界の主たる魔王の娘である私が、地球に来たのは他でもない。
王位継承争いに参加するためだ。
魔王様が指定した条件は、ただ一つ。
己の力で以って、地球の人類を滅ぼすこと。
「先に来た兄さま、姉さまたちは不甲斐ないわね! まだ手こずっているなんて。おかげで、ゆっくり準備できたけれど」
「さすがヒメ様でございます。日本語もマスターされたようで」
ジンと私は魔界語ではなく、日本語で会話している。
現地の文化を知ることは、人類滅亡のために大切だ。言葉を覚えるのもその第一歩なので、魔界で勉強してきた。
「ええ。日本語なんて、二階から目薬よ」
「申し訳ございません。まだ私には難しく……意味を教えていただいても?」
「ジンはまだまだね! ダンジョンの二階でさっそくポーションを使う、弱い冒険者ということよ」
「さすが、博識でございます」
「そうでしょそうでしょ。ジンもありがとうね。先に調査に来てくれるなんて」
ジンは私の執事であり、唯一の部下だ。
十四王女だから、あまり期待されてないんだよね。だから、執事一人しかつけてもらえなかった。
でも、問題ない。ジンはとっても優秀だから。
今回も、私が転移する前に日本に来て、いろいろ調べてくれた。
さらに、特別任務もお願いしたのだ。
「アレは手に入れてあるんでしょうね?」
「もちろんでございます。日本における初任務、失敗などありえませぬ。……こちらを」
とある物を入手するよう、先んじて念話魔法でお願いしておいたのだ。
日本の勉強をしていて、どうしても欲しいと思ったもの。それは……。
「これがたい焼きね!」
たい焼きという、魚の魔物を模した食べ物である。
「……ヒメ様、なぜ人類滅亡のためにたい焼きが必要なのでしょうか?」
「わからない? この形を見なさい」
たい焼きを包みから取り出し、掲げる。
まだほくほくと温かく、少し湯気が立っている。美味しそう……。
「鯛はこんな顔じゃない……きっと魔物よ。もぐもぐ。それを象って食べるということは、潜在的な恐れを意味しているに違いないわ。もぐもぐ。たい焼きの研究が、人類滅亡に役立つの」
「なるほど、慧眼です」
「うまうま……っ。じゃなくて、研究のためにもっと必要よ。これからも常備してね」
「かしこまりました」
こんな美味しいものを作るなんて、人類にしてはやるわね。たい焼き職人を殺すのは最後にしよう。
「ジン、もう一つの調査はどう?」
「そちらも滞りなく。まず、他の魔王候補は、やはりダンジョンを作って力を蓄えているようです。しかし、それは難航しております。人間がダンジョンに適応し、魔界の冒険者のように攻略してきているようで」
「そうなの」
ダンジョンは、私たち魔王族にとって家みたいなものだ。
魔王族なら誰でも使える魔法によって、ダンジョンと魔物を作る。そこに人間を呼んで、中で殺害したり恐怖を与えたりして、感情を吸いあげる。その感情を元にして、さらにダンジョンを発展させる……。
そうやって、魔王族は強くなってきた。
地球に来ても、やることは同じだ。
「元々なんの力もない人間どもでしたが、ジョブに目覚め……魔物による正攻法での殺害は、やや苦戦しています」
「苦戦しています、で終わりじゃないわよね、ジン?」
「ご明察の通りです。未熟者ながら、ヒメ様だけの作戦を愚考してまいりました」
「ふふっ、もちろん私にも策はあるのだけど、ジンの考えも聞いてあげるわ!」
「ありがたき幸せ」
ジンが懐に手を入れて、板を取り出す。
たしか、スマホという通信魔導具だ。
「こちらの動画をご覧ください」
「なになに?」
小さい画面なので、身を乗り出してじっと見る。
流れるのは、一人の女の子がとある店内を歩く動画。
『見てくださいこのぬいぐるみ! 可愛い……死ぬ……』
熊を模した布の人形を手に、そんなことを呟いている。
そこで、ジンが動画を止めた。
「わたくしの調べによりますと、この日本人という種族……可愛いものに囲まれると死にます」
「そうなの!?」
「はい。正式に症名まであります。死因は……きゅん死です」
「きゅん死……いいことを聞いたわ!」
兄さま、姉さまたちは気づいていないでしょうね。きっと、強い魔物を出して力業で殺そうとしているに違いないわ。
私は魔力が少なくて強い魔物は出せないけど、その分、知恵がある!
「きゅん死で人類滅亡間違いなしね。さっそくダンジョンを作るわよ!」
ダンジョンクリエイトの魔法を発動する。
魔法陣が床一面に広がり、ごうごうと音を立てる。
「……ヒメ様は単純で可愛いなぁ」
「えー? なにか言ったー?」
「なにも言っておりませぬ」
「嘘よ。可愛いって聞こえたもの」
「バレてしまいましたか」
「ふふふ、可愛いなんて当たり前のこと、わざわざ言わなくていいのよ!」
私の知恵に有能なジンが加われば、向かうところ敵なし。地球人が可哀そうになってくるレベルだ。
これから始まる魔王就任までの覇道を思いながら、ダンジョン作成を開始した。