ミリアと別れた後、エマは一人で中庭に残り、大きく伸びをした。
空は灰色の雲に覆われていて、太陽の位置さえはっきりしない。
けれど、ミリアと少し心が通じ合えたおかげか、気分は晴れやかだった。
「さてと……次はどこに行こうかな」
牢屋敷での生活は、不気味なほど自由だ。
「監房滞在時間」以外は、基本的にどこへ行っても咎められない。
エマは少し考えてから、まだよく見ていないエリアを探索してみることにした。
***
中庭を抜け、エマはゲストハウスエリアへとやってきた。
ここには「火精の間」「水精の間」「地精の間」と名付けられた、独立したコテージのような建物が並んでいる。
本館の重厚な石造りとは違い、少しだけリゾート地のような開放感があるが、やはり人の気配がなく寂れている。
(このあたりは、昨日も来たけど……)
エマは足を止め、ゲストハウスを見上げた。
昨日、ここで沢渡ココと会ったことを思い出したのだ。
あの時、ココは顔色の悪いエマを気遣って、のど飴をくれた。毒舌でぶっきらぼうだけど、根は優しい子だ。
『ヒロっちはヤバいから気をつけろ』
ココの忠告が、ふと頭の片隅で反芻する。
彼女の魔法【千里眼】が見たという、ヒロの殺意。
(……ううん、そんなはずないよ)
エマは首を振って、その思考を打ち消した。
今日のヒロちゃんは、みんなのためにリーダーシップを発揮していた。
昔と変わらない、責任感の強い、ボクの自慢の幼馴染だ。
きっとココちゃんの見間違いか、何かの冗談だったに違いない。
エマは気を取り直し、エリアの奥へと進んだ。
その「水精の間」の前にあるベンチで、一人の少女が足を組んで座っていた。
宝生マーゴだ。
彼女は手元のタロットカードを弄びながら、じっと本館の方角、少女たちが集まっている場所を眺めていた。
「あら、エマちゃん。散歩?」
エマが近づくと、マーゴは視線をこちらに向け、妖艶な笑みを浮かべた。
「うん。マーゴちゃんは何してるの?」
「見ての通り、少し休憩してるのよ」
マーゴは楽しそうにカードをシャッフルし、一枚だけテーブルに伏せた。
「みんな、必死ねぇ。不安を押し殺して……『私たちは仲間だ』って、自分に言い聞かせてる」
マーゴの視線は冷ややかだった。
そこに同情の色はなく、どこか嘲るような響きがあった。
「でもね、私は信じないわ。友情だの絆だの、そんな耳触りのいい言葉なんて」
「え……?」
「人間なんてね、追い詰められれば誰だって化けの皮が剥がれるのよ。今は綺麗な言葉で飾っているけれど……その裏には、汚いエゴや欲望が渦巻いている」
マーゴは伏せていたカードをめくる。
『月』のカード。欺瞞や不安を暗示するカードだ。
「誰が最初に嘘を吐けなくなるのか。誰が最初に他人を蹴落とすのか。エマちゃんはどう思う?」
彼女はうっとりと目を細めた。
マーゴの声は弾んでいた。
彼女は楽しんでいる。
他人の醜悪な本性が露呈する瞬間を、今か今かと待ちわびている――そんな歪んだ好奇心だ。
「…そんなことにはならないよ。みんないい人たちだもん。…マーゴちゃんは、みんなのこと、信じてないの?」
「信じる? まさか。……期待するから裏切られるのよ。最初から誰も信じなければ、傷つくこともない」
マーゴは肩をすくめ、からかうように笑った。
彼女の瞳には、決して他人を心の中に入れないという、強固な拒絶の意志と、冷徹な光が宿っていた。
「エマちゃんは、どうなのかしらね?みんなを信じる、その無垢な笑顔の下に、どんな怪物を飼っているのかしら」
マーゴは意味深に微笑むと、カードを片付け始めた。
エマは少しだけ背筋が寒くなるのを感じた。
彼女に見透かされているような気がして、けれど、今のエマには、その意味を深く考えることはできなかった。
エマは頭を下げ、逃げるようにその場を離れた。
***
マーゴと別れ、ゲストハウスのさらに奥へ進むと、石造りの立派な建物が見えてきた。
堅牢な作りで、窓には鉄格子が嵌められている。どうやら、重要な物資を保管する倉庫のようだ。
普段なら厳重に施錠されていそうな重厚な扉だが、今はなぜか少しだけ開いていて、中からゴソゴソと物音がする。
(誰かいるのかな?)
エマがそっと中を覗くと、薄暗い室内で夏目アンアンと城ヶ崎ノアが、木箱を漁っていた。
「む……これはただのろうそくであるな」
「アンアンちゃん、こっちに爆竹があったよ!」
「おお! でかしたノア! これがあれば、わがはいの演出がさらに派手になるぞ!」
二人は何やら怪しげなアイテムを集めているようだ。
埃っぽい空気の中で、二人の目だけが楽しそうに輝いている。
「何してるの?」
「うわっ! ……なんだ、エマか」
アンアンが驚いて振り返る。その手には数本のろうそくが握られていた。
「ここ、入っていい場所なの?」
「ふふん、扉が開いていたのだから、入ってくれと言わんばかりではないか」
アンアンは悪びれる様子もなく胸を張る。
「探索していたらたまたま開いていたのだ。これも運命の導きというやつであるな!」
「ドッキリの仕込み?」
「ククク……それもそうだが、これは芸術のための素材集めである」
アンアンは芝居がかった仕草でポーズを決める。
「この退屈な牢獄を、わがはいの脚本で彩るのだ。……ノア、ペンキの類はないか?」
「ペンキはないけど……あ、赤いインクならあったよ」
ノアが棚の奥からインク瓶を取り出す。
「よしよし。これを使えば、血文字の演出も可能であるな……」
「……ほどほどにしてね? ヒロちゃんに怒られちゃうよ」
エマが苦笑いしながら注意すると、ノアが少し怯えたように首をすくめた。
「う……ヒロちゃん、怒ると怖いもんね」
「だが、芸術に犠牲はつきものである! ……まあ、見つからないようにやるさ」
アンアンは悪戯っぽくウインクをした。
二人は楽しそうだ。
この閉塞的な空間でも、自分たちなりの楽しみを見つけて遊んでいる。
その強さが、少しだけ眩しかった。
***
倉庫を後にし、エマは本館へと戻ってきた。
正面玄関の重厚な大扉は、驚くほど軽く開いた。
鍵はかかっていない。
エマは扉を開けたまま、敷地の境界を見渡した。
空は広く続いているが、敷地の境界には巨大な石塀がそびえ立っている。
あまりにも高く、威圧的な壁。
その向こう側に何があるのか、ここからでは全く見えない。
(……ここから出られるのかな)
ただ、世界から切り離されているという事実だけが、静かに突きつけられているようだった。
エマは小さく息を吐いて、本館の中へと足を踏み入れた。
1階の玄関ホールは吹き抜けになっていて、豪華なシャンデリアが吊るされている。
正面には重厚な扉があるが、固く閉ざされており、外へ出ることはできない。
そのホールの一角、大きな姿見の前で、蓮見レイアが入念にポーズを確認していた。
「……顎の角度はもう少し下か。照明が暗い分、表情に陰影がつきすぎる」
レイアは真剣な表情で、何度も同じポーズを繰り返している。
エマが近づいても、彼女は集中を切らさなかった。
「レイアちゃん、すごいね。ここでも練習?」
「む……エマくんか」
レイアは一瞬で表情を「アイドルの顔」に切り替え、優雅に髪をかき上げた。
「当然だとも。私はいついかなる時も、ファンの期待を裏切らない『蓮見レイア』でなければならないからね。たとえ観客が、無機質な石像だけだとしてもだ」
「へぇー……プロだね」
「ふっ、照れるじゃないか」
レイアは満更でもなさそうに笑う。
その自信に満ちた振る舞いは、この閉鎖空間においても揺らいでいないようだった。
「それにしても、この屋敷の鏡は映りが悪いな。私の輝きを十分に反映できていない」
「あはは、そうだね。レイアちゃんの方がずっとキラキラしてるよ」
「そうかい? エマくんは見る目があるね」
レイアは上機嫌で再び鏡に向き直った。
彼女にとって、この牢獄さえも一つの「舞台」に過ぎないのかもしれない。
エマはその強さに感心しながら、ホールを後にした。
***
階段を上がり、2階へ向かう。
長い廊下には赤い絨毯が敷かれ、壁には不気味な肖像画が飾られている。
その奥にある重厚な扉を開けると、そこは図書室だった。
壁一面の本棚には、古びた書物がぎっしりと並んでいる。
独特の紙とインクの匂いが漂う静寂の中、二人の少女がいた。
橘シェリーと、遠野ハンナだ。
「あら、エマさん。ごきげんよう」
ハンナが優雅に会釈をする。
その手には白いハンカチが握られており、彼女の周りの本棚だけ、妙にこざっぱりとしていた。
「こんにちは、ハンナちゃん。シェリーちゃんも」
「あ、エマさん! ちょうどいいところに!」
シェリーが脚立の上から顔を覗かせた。
彼女は手元のリスト、おそらく自分用のメモと本棚を交互に見ている。
「今、ハンナさんのリクエストで詩集を探しているんですが……ここの分類、めちゃくちゃなんですよ。歴史書の隣に料理の本があったりして」
「そうですのよ。わたくし、勉強のために詩集を読みたかったのですけれど……あるのは埃を被った難解な書物ばかり」
ハンナは呆れたように溜息をつき、手元の本をハンカチで丁寧に拭った。
「管理が行き届いていないのは良くありませんわ。本が可哀想です。……わたくし、こういう乱雑な状態を見ると、虫唾が走りますの」
その動きは迷いがなく、家事に慣れ親しんだ者のそれだった。
次々と本を手に取っては埃を払い、綺麗に並べ直していく。
「ふふ、ハンナちゃんって、なんだかんだ言ってお世話好きだよね」
エマが指摘すると、ハンナはビクッとして、慌てて手を止めた。
「なっ……!? ち、違いますわ! これは、高貴なる者の義務……ノブレス・オブリージュですのよ! 汚い環境は心まで貧しくしますからね!」
ハンナは顔を赤くして否定する。
けれど、その指先はまだ埃まみれの本を気にして動いていた。
令嬢として振る舞いながらも、染み付いた「生活感」と「面倒見の良さ」が隠しきれていない。
それがエマには、とても微笑ましく思えた。
「ボクも手伝うよ! 詩集が見つかれば、ハンナちゃんの機嫌も直るもんね」
「エマさん、体調は平気なんですか?」
シェリーが心配そうに尋ねるが、エマは力こぶを作って見せた。
「うん、すごく元気だよ!それに、ボクも少しでも役に立ちたいし」
「そうですか!それは良かったです!では、あちらの棚をお願いできますか?分類もしたいので、本をこのメモに書いている項目に分けてください!」
「わかった! 任せて!」
「エマさん。無理は禁物ですわよ」
ハンナはそう言って、エマにハンカチを一枚手渡してくれた。
エマはハンナの隣に並び、棚の本を少しずつ持ってきて、埃を払いながら分類していく。
静かな図書室に、本を動かす音と、時折シェリーが上げる声だけが響く。
それは、牢屋敷にいることを忘れてしまいそうな、穏やかな日常のひとコマだった。
***
本の分類が一段落したあと、エマは再び1階へ降りた。
ここには「医務室」がある。
扉が少し開いていて、中から話し声が聞こえてきた。
「……ですから、あの薬はもう出せませんっ! アリサさん、飲みすぎです!」
「うっせーな! ……眠れねーんだよ!」
扉越しに聞こえてきたのは、切羽詰まった様子のメルルと、苛立ちを隠せない紫藤アリサの声だった。
エマがそっと中を覗くと、薬品棚の前で二人が言い争っていた。
「前渡したやつ、もうねーんだよ。早く次のよこせよ」
「だ、ダメです……! あれは強い薬なんですよ? 1週間分をお渡ししたはずなのに、たった1日で飲み切るなんて……身体に毒です!」
「……問題ねぇよ。薬には慣れてんだ」
アリサの声が、ふっと弱くなる。
それは脅しではなく、すがるような懇願だった。
「頼むよ……。あれがねーと、ダメなんだ……」
アリサは充血した目でメルルを見つめている。
その目の下には濃い隈が刻まれていた。
ただの不機嫌ではない。薬がないと正気を保てないほどの、極度の不安と依存。
この閉鎖空間が、彼女の過去の傷跡を呼び覚ましているのかもしれない。
「アリサちゃん、メルルちゃん?」
エマが声をかけると、二人が振り返った。
「あ、エマさん……!」
メルルが救いを求めるように駆け寄ってくる。
小動物のように震えていて、今にも泣き出しそうだ。
「よ、よかったぁ……。アリサさんが、無理やり強い睡眠薬を持っていこうとして……」
アリサは舌打ちをし、乱暴に薬品棚の扉を閉めた。
その手には、火傷用の軟膏と痛み止めが握られている。
「……なんだよ。文句あんのか」
「ううん。……眠れないの?」
エマが尋ねると、アリサはバツが悪そうに視線を逸らした。
「…別に。ただ、あんな固いベッドじゃ寝付けねーだけだ」
「嘘だ。……すごい隈だよ」
「うっせーな! ……夢見が悪いんだよ。……クソみたいな過去の夢ばっかり見やがる」
アリサはボソリと呟いた。
過去の罪悪感。
眠れば悪夢に苛まれ、起きれば現実に絶望する。
彼女が求めていた「強い薬」は、ただ意識を泥のように沈めるための逃避手段なのだろう。
「それに……もしもの時のために、在庫確認もしてたんだよ」
アリサは手に持っていた軟膏をエマに見せた。
「……ウチの魔法は『発火』だ。……もし制御できなくなって、誰かを火傷させちまったら……薬がなきゃ、取り返しがつかねーだろ」
乱暴な言葉の裏にある、繊細すぎる配慮。
彼女は自分の魔法で他人を傷つけることを、誰よりも恐れているのだ。
「……アリサちゃんは優しいね」
エマは素直な感嘆を口にした。
「あ? ……何言ってんだ」
「だって、自分のことより、みんなの心配してくれてるんでしょ? …アリサちゃんがいてくれて良かった」
「は、はぁあ!?」
エマの真っ直ぐな言葉に、アリサの顔が沸騰したように赤くなる。
予想外のストレートな言葉に、思考が追いついていないようだ。
「な、ななな、何言ってんだ! ウチはただ……!」
「本当のことだもん。アリサちゃんがいてくれて、本当によかった」
「……ッ!」
アリサはパクパクと口を開閉させ、視線を泳がせる。
威勢のいい態度はどこへやら、完全に虚を突かれて動揺していた。
耳まで真っ赤にして、居心地が悪そうに身をよじる姿は、年相応の少女そのものだった。
エマは、そんなアリサの姿を見て、ふと自分の過去を思い出した。
自分も、誰かに「大丈夫」って言ってほしかった時があった。
誰かに、ここにいてもいいんだって、肯定してほしかった時があった。
「……アリサちゃん」
エマは一歩踏み出し、ためらいがちに、けれど優しくアリサを抱きしめた。
「なっ……!? 桜羽、何して……!」
「大丈夫だよ」
エマはアリサの背中に腕を回し、トントンとあやすように叩いた。
「怖い夢、見ちゃうんだよね。……ボクもそうだよ」
「……」
「そういう時はね、誰かと一緒にいると、少しだけ安心できるんだ。……だから、一人で震えないで。苦しいときはボクと一緒にいよう、ね?」
アリサの身体が、ビクリと強張る。
けれど、彼女はエマを突き飛ばさなかった。
エマの体温が、アリサの冷え切った心を包み込んでいく。
荒々しかった呼吸が、少しずつ、少しずつ落ち着いていく。
「……バカじゃねーの」
しばらくして、アリサはエマの胸元で小さく呟いた。
その声には、もうトゲはなかった。
アリサはエマの腕から身を剥がすと、乱暴に顔を背けた。
顔はまだ真っ赤で、目元も少し潤んでいるように見えた。
「もう行く。……ここにいると、調子が狂う」
アリサは踵を返し、出口へと向かう。
ドアの前で一瞬だけ足を止め、背中を向けたままボソリと呟いた。
「……氷上、悪かった」
「え……?」
「無理言った。……忘れてくれ」
それだけ言い捨てて、アリサは逃げるように医務室を出て行った。
「……心臓が止まるかと思いました」
メルルがへなへなと椅子に座り込む。
その目は、驚きと尊敬が入り混じったような色でエマを見上げていた。
「すごいですね、エマさん……。アリサさんが、あんなに素直になるなんて」
メルルは信じられないといった様子で首を振る。
彼女にとって、アリサは予測不能で危険な存在だったはずだ。
それを、エマは言葉だけで鎮めてしまった。
「魔法みたいです。……どうして、アリサさんの気持ちがわかったんですか?」
「ううん、魔法なんかじゃないよ」
エマは首を横に振り、少しだけ寂しそうに笑った。
「ただ……ボクもそうだったから」
「え?」
「怖くて、寂しくて、どうしようもなくて……誰かに当たったり、自分を傷つけたりしたくなる気持ち。……ボクにも覚えがあるんだ」
病室の天井を見上げていた日々。
孤独に押しつぶされそうだった夜。
誰かの助けを求めながら、差し伸べられた手を振り払ってしまった過去。
「だからかな。アリサちゃんが、泣いてるみたいに見えたの」
エマの言葉に、メルルは少しの間、言葉を失ったように瞬きをした。
そして、どこか眩しいものを見るような目でエマを見つめ、恥ずかしそうに頬を染めた。
「……すごいです。私、怖くて震えることしかできなかったのに……。エマさんは、ちゃんとアリサさんの心を見てたんですね」
「そんな大層なものじゃないよ」
「いいえ、すごいです。……私、もっとしっかりしなきゃ。怖がってばかりじゃダメですよね」
メルルが小さな拳を握りしめ、自分に言い聞かせるように呟く。
その姿は健気で、エマは自然と応援したくなった。
「うん。メルルちゃんなら大丈夫だよ」
「ありがとうございます。あ、ところでエマさんは、体調どうですか? 顔色は……少し良さそうですね」
メルルが上目遣いに、心配そうにエマを見る。
その瞳は不安に揺れながらも、友人としての純粋な親愛の色を宿していた。
「うん、すごく元気だよ!この前は、心配かけてごめんね」
「いえ、元気なら何よりです。あ、あの、何かあったらすぐに来てくださいね。私、治療くらいしかできませんけど……」
「ありがとう、メルルちゃん」
メルルの控えめな笑顔に送られ、エマは医務室を後にした。
***
窓の外を見ると、いつの間にか空が少し暗くなっていた。
夕食の時間が近い。
「……戻ろっか」
エマは来た道を戻り始めた。
足取りは軽い。
この牢屋敷は広くて、冷たくて、出口のない迷宮だ。
でも、そこにいるみんなの温かさがある限り、ここはまだ悪い場所じゃない。
そう信じて、エマは食堂へと向かった。