ウマ噺   作:ヴィルヘルム星の大魔王

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ウマ娘はいいぞい!


プロローグ

 

 

 高校二年の夏、ノリで中央トレセン学園のトレーナー試験に、まさかの一発合格。

 

 「まじかよ、半分記念受験のつもりだったのに、受かっちまった」

 

 俺、風摩光太郎(ふうまこうたろう)は、自宅に届いた中央トレーナー試験の合格証書を眺める。

 なぜ、トレセンの合格証書を持っているのか。それは、去年の夏のことだった。

 

 この世界では、ウマ娘と呼ばれる種族が存在している。人間とは違う耳と尻尾。そして、生まれてくるのは女性だけ。異世界の伝説獣『馬』の名を背負い、生まれてくる。

 加えて、美少女や美女といった眉目秀麗ばかり。

 俺の親戚がウマ娘ということもあり、一般人と比べれば、かなり身近な存在だ。

 

 高校一年生の夏休み、ふとトレーナー試験を受けたくなり、数冊の参考書を頼りに一日二時間ほど勉強に費やした。

 二年生の夏に受験を申し込み、予備試験の筆記を余裕で突破する。筆記試験を通過した後、面接を受け、見事に合格を勝ち取った。

 

 面接の際、面接官たちが怪訝な視線を向けていたのを覚えている。大方、冷やかしと思われたのだろう。常識的に考えて、当たり前だ。

 

 一介の高校生が、日本最高峰の大学よりも最難関とされる中央トレセン学園のトレーナー試験に挑んだのだ。だが、高校生で弁護士試験に合格した事例が過去にもある。面接官達の冷たい視線の中、理事長の肩書を持つ幼い少女だけが、俺の目を真剣に見つめていた。

 

 試験時の思い出に浸っていると、トレセン学園からメールが来た。

明後日の午後、中央トレセン学園で面談を行うとの内容だった。俺はすぐに返信を送り、準備を整えた。

 

 当日、電車を乗り継ぎ、東京都府中市内にあるトレセン中央学園近くに到着する。

 お出迎えがあるらしく、トレセン学園の門前まで歩くと緑色の制服を身に纏っている女性が、此方を手招きしている。俺は、その女性の元まで早足で駆け寄った。

 

 「風摩光太郎君ですね。お久しぶりです。試験の時以来ですね。改めまして、案内を務める駿川たづなです」

 「風摩光太郎です。本日は、よろしくお願いいたします」

 「はい、よろしくお願いします。では、理事長室に案内しますので、私の後ろについてきてください」

 

 たづなさんに合わせ、理事長室まで案内される。試験の時以来だが、中央トレセン学園は、かなり豪華な造りとなっている。しかも、理事長室は豪華絢爛といった手前だ。

 

 

 「歓迎ッ!風摩殿、最終試験以来だな!改めて、トレーナー試験合格、誠に目出度い!高校生で合格した者は、君が初めてだ!心から歓迎するぞ!」

 

 「その、差し出がましい事ですが、相談したく…」

 「む?相談事か?面談なのだ!遠慮なく申してくれ」

 「ありがとうございます。実は――」

 

 秋月理事長は、俺の相談内容に目を見開かせ、身を乗り上げる。

 たづなさんは、苦笑いだ。理事長は、うんうんと唸り、思考を回転させる。

 

 「驚天!此方側としては、高校卒業後にサブトレーナーとしてウマ娘のサポートに専念してもらいたいのが本音だ」

 「まぁ、普通はそう考えますよね」

 「今の時代、企業の大半は大学卒業が世間の基準ですものね」

 「世間は学歴を第一印象にするほど厳しい。では、こうしようじゃないか!」

 

 秋月理事長は、『特例』と書かれた扇子を広げ、処遇を言い渡した。

 

 「提案ッ!風摩光太郎!貴殿の望み通り、大学進学中もトレーナー資格の保持を許可する!その代わり、大学の長期休暇中はインターンとして、サブトレーナー業務に従事せよ!異論は認めん!」(将来の有望株を失うのは痛いからな!ウマ娘達の幸せに繋がるなら、未来への投資も惜しまん!)

 「インターン中のお給料は、労基法に則って全額支給されますので、ご安心ください」

 「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 話はトントン拍子で進み、無事にトレーナー面談は終了した。将来の就職先が一つ決まったことで、本格的に受験勉強に乗り出した。正直、スタートが遅かった為、他の人に追いつくのは大変だった。

 

 

 その後、東應大学の一般試験に次席合格。その後、活動が緩いサブカルチャー系サークルに入る。全単位取得に苦労しつつ、夏休みや冬休みの半分はトレセン学園のサブトレーナーとして経験を積んだ。大学四年生に進級すれば、殆どの学生が就職活動に奔走する。

 一方、卒業単位を粗方取り終え、トレセン学園の内定が確定しているため、卒業論文に集中できた。見事、大学を卒業し、四月にはトレセンの新人トレーナーとして、修行の毎日を送っている。

 

 「はぁ、スカウトしようにも実績が無いから誰も契約してくれない。マジつらたん」

 

 現在、グラウンド近くの芝生に寝転がり、書類仕事やスカウト活動をサボっていた。瞳を閉じて、耳を澄ませば、グラウンドでトレーニングに励んでいる沢山のウマ娘たちの掛け声や走る音が聞こえる。

 

 「平和だなー天気も良いし、絶好のサボり日和だ」

 

 「そうか。それは良かったな。それよりも貴様、仕事をせずに怠けるとは…いい度胸だな」

 

 目線を上に上げれば、一人のウマ娘が此方を睨みながら、腕を組んでいた。

 彼女の名は、エアグルーヴ。トレセン学園高等部の生徒であり、生徒会副会長を務め、会長の右腕として、生徒会業務を切り盛りしている。園芸が趣味で、虫が苦手という可愛らしい一面を持つ。また、てんとう虫管理の会と呼ばれる同好会のメンバーだ。

 

 「お、ベロちゃん!お疲れさ…って、うおっと!」

 

 殺気を感じ取り、咄嗟に体ごと横に動かす。その直後、頭があった位置に足が踏みつけられていた。完全に手加減なしの一撃だ。地面が少し抉れている。驚いた俺は、彼女に苦言を呈する。

 

 「ちょ、危なっ!怪我したらどうすんだよい」

 「たわけ、ゴールドシップの飛び蹴りやカワカミプリンセスの突撃を受けて、何事もなくケロッとしている貴様が、この程度で怪我するとは思わん」

 「さいですか」

 

 心外だ。いくら身体の耐久力が高くとも、ウマ娘と違い、俺はごく普通のか弱い人間だ。内心しょんぼりしていると、エアグルーヴが手元の封筒を渡してきた。表面には俺宛ての名前が記されている。たづなさんからの書類だ。

 

 「おっと、用件を言い忘れていた。貴様宛ての書類を届けに参ったが、トレーナー室がもぬけの殻だったでな、お陰で学園中を隈なく探したのだぞ」

 「こりゃ、失敬失敬。ごめん、ベロちゃんって危なし!」

 「貴様、一度だけでなく、二度も同じ名を!」

 

 迫りくる彼女の手刀を真剣白刃取りで受け止める。力を込めるエアグルーヴに抵抗するべく、腰を低く落として両手に力を入れ、拮抗状態に持ち込む。

 

 「どうやら、本気で私を怒らせたいようだな」

 「単なる冗句だよ。怒ってばかりだと可愛い顔が台無しだぞ」

 

 エアグルーヴは、ある言葉に反応し、手刀の力を緩めた。厳しい生徒会副会長といえど、その中身は年頃の少女。彼女は意外と初心なのだ。

 

 「か、可愛っ!?は、話を逸らすなバ鹿者!大体、怒りの原因は貴様なのだぞ!」

 「書類を届けてくれてありがとうな。仕事に戻るわ」

 「話を聞かんか!」

 

 封筒の中身を取り出し、書類を一読した俺は、トレーナー室へと戻ろうと封筒を脇に抱えた。去り際に、彼女に言いそびれたことを思い出し、顔を上げる。

 

 「あ、そうだエアグルーヴ」

 「なんだ?私も忙しいんだ。手短に話せ」

 

 俺は、エアグルーヴのスカートを指差し、一応注意しておく。

 

 「さっき、スカートの中がちょっと見えそ…いや、やっぱ忘れてくれ…次からは気を付けろよ」

 

 エアグルーヴは、言葉の意味に気付き、速やかにスカートを押さえる。その隙に、逃走準備に入る。今の彼女は、怒りに怒りが重なり、般若のような風貌でこちらを睨み付けている状態だ。俺は、全身を回れ右と方向転換させ、脚に力を入れて、スタコラサッサと走り出す。古代中国に活躍した兵法家孫子の兵法『三十六計逃げるに如かず』だ。

 

 「逃げるんだよぉー!」

 「待たんか!貴様!」

 

 鬼気と迫る表情で追いかけてくるエアグルーヴ。俺は腕を振って、某ジョナサンのように逃走する。

 どうやら、 彼女の琴線に触れたらしい。エアグルーヴの殺る気が上がった。

 さっきの発言は、セクハラだったか。今度、コンプライアンス講習会でも受けよう。

 さて、このままじゃ、追いつかれるのも時間の問題だ。

 

 「仕方ない。アレを使うか」

 

 俺は、懐から煙玉『鳥の子』を取り出し、地面に叩き落とす。煙玉から発生した煙幕が周囲の視界を遮る。突如として、視界を奪われたエアグルーヴは、ウマ耳をピンと立て、音を拾う。

 気づかれないように、足音をなるべく消して、木の枝に飛び移った。煙幕が晴れ、彼女は周囲を見渡す。

 しかし、どこにも彼の姿が見当たらない。

 そのことを確認したエアグルーヴは、深い溜息を吐いた。

 

「あのたわけめ、覚えておけ!」

 

 エアグルーヴは、ぷんぷんと怒りながら、生徒会室へと戻っていく。

 近くの木の上に身を潜めていた俺は、エアグルーヴが去ったのを確認して、地面に飛び降りる。

 

 「ベロちゃんには悪いことしたな。反省反省。さて、お仕事に戻りマスカット」

 

 エアグルーヴと鉢合わせしないように、人通りが少ない道順を歩く。

 今は、お昼時間。トレーナーやウマ娘達が昼食のランチに行っている。

 ちなみに、食堂の飯はウマ娘なら無料。トレーナーや教師の職員は安価な食事を楽しめる。例を挙げるならば、かけうどん一杯の値段が一五〇円だ。

 

 

 

 

 トレセン学園の学び舎から少し離れた場所にあるトレーナー室に戻る。

 扉を開けて、部屋に入ると、そこには一人のウマ娘が立っていた。

 

 「トレ公、出かけていたのか。待ちくたびれたよ」

 「あれ?ヒシアマゾン。どうして、トレーナー室にいるんだ?」

 

 褐色肌にキリっとした赤目、青みがかったロングヘア、八重歯と左耳に付けた赤いシュシュが特徴のウマ娘。俺は、トレーナー室にいるウマ娘に声を掛けた。

 彼女の名は、ヒシアマゾン。俺がインターンシップを兼ねたサブトレーナー時代に知り合ったウマ娘だ。彼女は、美浦寮の寮長を務め、面倒見のいい性格から、寮生達のお姉さん的存在として親しまれている。

 

 「トレ公、お昼はどうすんだい?いつも、コンビニのおにぎりとかだろう」

 「いや、今日は兵糧丸で腹を満たそうかと」

 

 冷蔵庫から兵糧丸の入った笹包を取り出す。それを見せた瞬間、取り上げられた。

 取り上げと同時に、ヒシアマゾンから布に包まれた箱を渡される。

 

 「ほら、弁当作ってやったから、偶にはまともなご飯を食べな!」

 

 素直に弁当を受け取る。正直、弁当を作ってもらえるのは嬉しい。ましてや、美少女の手作り弁当だ。ヒシアマゾンに対する言葉が、ぽつりと口から漏れた。

 

 「ヒシアマかあちゃん」

 「誰が母ちゃんだっての」

 

 ビシッと手刀で軽く頭を叩かれる。だが、俺は甘んじて受け入れた。エアグルーヴの場合は、一撃確殺の手刀だ。頭部に直撃すれば、一溜まりもない。まぁ、俺が悪いんだけどね。反省はしているが、後悔はしていない。

 

 「まったく、アタシは教室に戻るから、ちゃんと食べるんだよ」

 

 呆れたヒシアマゾンは、教室へ戻った。時計を見れば、短針が十二時、長針がニ十分を

指していた。学生にとって、昼休みは有意義だからな。

 

 「んじゃ、ヒシアマ姐さんの弁当ありがたく頂きますか」

 

 行儀良く椅子に座り、お手製弁当の中身を空ける。その中身は、桜でんぶ飯、ミートボール、卵焼き、タコさんウインナー、レタスと卵の炒め物と色鮮やかなおかずで彩られている。

 

 「…アイツとの出会いは、もう三年前か。卵焼き、美味っ!」

 

 弁当をつつきながら、ヒシアマゾンと出会った頃の記憶を遡る。

彼女と出会ったは、大学一年生の夏休み中にサブトレーナーとして、下積みをしていた頃だった。新米サブトレーナーだった俺は、先輩トレーナーからのOJTを受け、トレーニングの準備や事務作業の補助といった雑用に従事していた。

 その日は、理事長へ書類を渡しに行く予定だった。帰り道、飲み物を飲みながら、グラウンド近くを歩いていた。

 全国のウマ娘の憧れにして、最高の舞台と設備を用意してくれる中央トレセン学園。

 華々しい学園生活の裏には、厳しい現実がある。それは、極めて激しい競争社会であることだ。トレーナーとの相性もあるが、デビューレースを経て、周囲との差を知り、事故や精神的負担による挫折を自主退学として学園を去る娘も多くない。それほどまでに、中央アスリートとして生き残ることは容易では無い。戦わなければ、生き残れない。

 

 今日も元気にウマ娘達がトレーニングに励んでいる。

 

 「見てると軽く走りたくなってくるな」

 

 ウマ娘達の練習の邪魔にならない端っこで、柔軟を行い、身体の筋肉をほぐす。

 足腰を落とし、目視十丈(三〇メートル)先にある松の木まで駆ける。

 松の木を一周して、往復する。軽く走るだけでも気持ちいい。

 ペットボトルの蓋を開け、失われた水分を補給する。

 褐色肌に青みがかった髪のウマ娘が、ギラギラとした赤眼でこちらを見ていた。

 

 「アタシはヒシアマゾン!早速で悪いけど、タイマン張らせてもらうぜ!」

 「本当にいきなりだな。俺にタイマンとは、物好きだな君は」

 「アタシの直感がアンタを見てうずいている!そんなことよりもタイマンだ!」

 

少女に少し待ってもらい、先輩トレーナーに、少し遅れる旨を送信する。

 

「見せて貰おうか。中央のウマ娘の実力とやらを」

 

 近くでは、複数のウマ娘とトレーナーが見物に来ていた。有力候補のヒシアマゾンが走るのだ。しかし、その視線はもう一人の方に向けられていた。

 

 「あ!ヒシアマゾンさんだ。あれ?隣にいるのは人間?」

 「なんか、タイマンを申し込んだから競争みたいだよ」

 

 練習していたウマ娘たちの余所で、近くにいたトレーナーたちは、ヒシアマゾンと競走するサブトレーナーを軽蔑な目で見ていた。

 

 「もしかして、ヒシアマゾンと走るつもりか?無理無理、人間がウマ娘に敵う筈ないって」

 「だよなぁ。しかもアイツ、高校生でトレーナーバッジ取得した噂のサブトレーナーだぜ。ムカつくよ」

 

 ヒシアマゾンのやる気は十分。いつも通りに走るだけ。

 スタート係の合図と共に、俺たちは一斉に駆けだした。

 結果についてはいずれ話そう。時間はたっぷりあるからな。

 

 

 「懐かしいな。あの頃からか色々なウマ娘と交流関係を持ち始めたのは」

 

 ヒシアマゾンとの出会いを懐かしみながら、弁当を食べ終え、梅昆布茶で喉を潤した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、風摩に弁当を手渡したヒシアマゾンは、教室へ向かう道中、心が浮き立っていた。耳がピクピクと上機嫌に揺れ、尻尾は彼女の感情を隠すことなく、ぶんぶんと揺れている。

 

 (今日の弁当は我ながら上出来だった。へへっ、トレ公が喜んでくれるといいな)

 

 母親から、『心を掴むには、胃袋から掴むべし』と教わってきたヒシアマゾン。

 自ら料理・家事・洗濯を教わり、花嫁修業を邁進してきた。

 そのニマニマとにやけた表情は、教室に戻っても続いていた。

 

 「ヒシアマゾン、随分と機嫌が良いみたいだな。なにか良い事でもあったのか?」

 

 「エアグルーヴか。いやさ、トレ公に弁当を渡しただけだよ」

 

 彼女の言葉に、エアグルーヴの耳がピクッと動く。それを知らないヒシアマゾンは、惚気擬きに近い愚痴を話す。

 

 「トレ公のやつ、兵糧丸とか携帯補給食ばっか食べててさ。ちゃんと食っているのか心配になるんだ」

 「そ、そうか」

 「トレーナー室も少し散らかってるからさ、今度掃除でもしに行こうかね」

 

 ヒシアマゾンの口から繰り出される風摩への愚痴に、エアグルーブの目がピクピクと動く。不慮の事故で逃走を図られ、怒り心頭な最中、当の本人は他のウマ娘からの弁当を呑気に食べていたのだ。到底、彼女の腹の虫が収まらない。ヒシアマゾンの愚痴話も止まらない。

 

 「サブトレーナー時代のトレ公は大変だったよな。夜になると何処かに行くしよ」

「そういえば、ヒシアマゾン。その頃のトレセン学園で流れていた噂の一つ【深夜に聴こえる笛の音】を覚えているか?」

 

 ヒシアマゾンは、エアグルーヴの言葉に、首を横に振る。

 

 「案外、噂の原因は近くに居たりしてな」

 「ふっ、違いない」

 

 授業のチャイムが鳴るまで、二人は談笑のひと時を楽しんでいた。

 

 

 

                     【馬】

 

 

 

 弁当で気力が回復した俺は、溜めていた事務作業に徹した。

たづなさんに承認を得て、本日の書類仕事が終わる。日報を書いたのち、トレーナー寮へ戻った。帰宅後は、晩飯を食べ終え、風呂に入り、自由時間の晩酌を始める。

 

 「今日のつまみは、缶チューハイ『ほんのり酔い』のホワイトサワーと水渇丸だ!」

 

 スマホで好きな配信者の動画を流し、晩酌タイムに垂れ込む。酒を飲んで、水渇丸を一口齧る。戦場で渇きを抑えるように作られた代物だから、ほんのりと酸味がある。

 

 「くぅ~!練梅の酸味で酒が進む!」

 

 アルコールが血液中を巡り、眠気でベッドに直接ダイブして寝た。

 

 翌日、エアグルーヴが俺の部屋にやってきた。今日は学生にとって貴重な休日だ。

 エアグルーヴの来訪は唐突だった。断ろうとしたが、凄みのある視線で断り切れなかった。

彼女は、そのまま、部屋に上がり込む。少し散らかった部屋に呆れながら、荷物から掃除道具を取り出し、掃除を開始した。エアグルーヴから見逃しやすい箇所の汚れやテレビ裏の掃除方法といった指導を受け、午前は終わった。

 お昼は、彼女の手料理を食べた。美味しいと褒めたら、そっぽを向いて、恥ずかしがっていた。尻尾が左右に揺れていたのを、俺の目からは誤魔化せない。

 そこからは、談笑したり、テレビゲームで遊んだりと堕落的な時間を過ごす。

 夕方には、自身の寮へと帰っていった。彼女を寮の前まで見送り、部屋に帰る。

 部屋に戻った瞬間、テーブルの一角を見て、衝撃を受けた。

 

 

 「まじかよ。なんてこった」

 

 

 他の雑誌でカモフラージュしていた大人向けの雑誌がご丁寧にテーブルの上へ積み上げられていた。年端もいかないウマ娘、ましてや、風紀に厳しいエアグルーヴにバレた。自身の詰めの甘さが招いた結果だ。

 次に会うのが怖い。なんか怖い。知り合いだからこそ、余計に怖い。

 

 

 もういいや!気分転換に大人向けのそろぴょいゲームをしよう。そうしましょう。

 俺は、現実から逃げた。その時、エアグルーヴの個人ウマインからメッセージが届いた。画面欄を開くと、ある言葉が書かれていた。

 

 

               ―――『たわけ』の三文字が―――

 

 

 

 

おまけ① (エアグルーヴ)

 

 私、エアグルーブは、たわけのいる部屋に訪れた。その理由としては、昨日のヒシアマゾンとの会話だ。

 

 「風摩トレーナーに弁当を作っただと?」

 「そうだ。トレ公は、いつも手短な物で済ませるからな」

 「そうか、ヒシアマゾンも大変だな」

 

 それを聞いた私は、心の奥がモヤつく。彼女に一歩先を越された。

 

 「風呂掃除してくる」

 

 たわけが風呂掃除に取り掛かっている間、リビングの掃除に取り組むとしよう。

 掃除機で床の汚れを吸い取る。そして、粘着ローラーで細かい汚れを取る。

 ソファの裏を確認すると、雑誌やコミックが乱雑に積み重なっていた。

それを目撃した私は、本の整理に取り掛かる。まったく、仕方のない奴だ。

 

 「ん?この雑誌は異様に薄いな。大方、週刊誌だろう」

 

 雑誌の表紙を見る。そこには、水着を着た女がデカデカと写っている。

 決して、興味があるわけではないが、手に取った雑誌を開いた。

 俗に言う週刊誌の類だと勘繰っていたが、私の予想は大いに外れる。

 中々に際どいラインを攻めた水着や衣装を着た女の写真が掲載されたグラビア雑誌だった。中身を見た瞬間、勢いよく本を閉じた。今の私の顔は、赤く火照っているだろう。

 

 「こんな低俗な物を隠そうともせず、本当にたわけは!」

 

 雑誌の表紙を再度確認すると、次は心の奥底から怒りがこみ上げてきた。

 怒りの感情と呼応して、尻尾がバシンバシンと床を叩く。

 

 (なぜ、ウマ耳の雑誌なのだ!しかも、鹿毛だと!)

 

 人間の女の雑誌なら、まだ許容範囲内だ。しかし、件の雑誌名は、『ウマ耳娘・魅惑の鹿毛ボイン特集』というふざけた俗物だ。そっと、薄目でページを捲っていく。その後もパラパラと捲り続ける。この雑誌を読むうちに、とある仮説が見受けられる。

 私と似た髪色と目つきのウマ耳、ヒシアマゾンと同じ肌の者、他にも顔を知っている知人に顔つきが似ているのだ。私の中の悪魔が、脳内で囁く。

 

 「この雑誌で昨日の仕返しといこうか。くくく、女帝を無礼るなよ」

 

 雑誌を処分したいのは山々だが、他人の所有物を勝手に処分するのは違法だ。

 だからこそ、帰り際、奴に気付かれないようにこっそりと積み上げた。

 たわけの驚く顔が楽しみだ。

 

 

 翌々日、私の姿を確認した風摩のたわけは、私が話しかけるとかなり狼狽えていた。

 私は、してやったりの表情で静かにほくそ笑む。私ではなく、そんな無機物に目を向ける等、許せるはずがない。許さない、絶許だ。憤怒、嫉妬という黒い感情が蠢く。

 私の胸に渦巻く様々な感情を理性という蓋が心を抑えている。私以外にも、あのたわけに恋情を抱く者も多い。

 

 

 

 「覚悟しておけよトレーナー。貴様の隣の愛バはこの私だ」

 




お読みいただきありがとうございました!ウマ娘ユーザーを引退しましたが、再びウマ娘熱が入り、執筆した所存です。エアグルーヴとヒシアマゾン最高!

そんな私が初めて担当した愛バは、シンボリルドルフ。
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