非凡な身に灯る唯1つの光   作:Aoi2873

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この0話目に出てくる暈せられた表現や透明文字になっている部分はなるべく読もうとしないでください。それだけで楽しみ方が変わるような努力をするつもりです。ご協力の程よろしくお願いします


プロローグ
0.非凡な体に宿す憧憬


Reco*27になりたかったお前如きがなれるわけないだろ

 

chAos@暴走PのようにVOCALOIDにしか出せない声を追い求めたかった何自惚れているんだ

Mikanstarさんのように人々の背中を優しく押すような曲を作りたかった馬鹿丸出しだな

escapeのように心を揺さぶるような強烈な想いをぶつけたかった心なんてないお前が?

Shimaenagaのように独自の世界観を想起させたかったできるはずないだろ

 

だが、自分には音の才能など吹けば飛ぶようなものしかなかったそんなこと誰の目から見ても当たり前だ

思いのままにボカロを電子の海から拾い上げるしか能のなかった、自分の身の丈に合わないほど放置されていた貯金の山を抉り取り、ゲーミングPCを専門店で組み上げ、その勢いそのままに『電子の歌姫』なるものを購入。音楽理論に関する初心者向けの本を2〜3冊ほど近所の寂れた書店から買い求め自分の脳を焼いた、人の形をした歌の化身に楽譜を渡すこんなものに金を使うなんてお前はどうかしている

初めてミントグリーンの美少女が自分の耳に響かせたのは『きらきら星』稚拙な出来だな

そうみんなご存知、幼稚園(保育園の人もいるか)などで1度は歌うか親に教えてもらうであろうあの『きらきら星』だ親から嫌われていたがな

なんでもないような、それこそ昨今の世の中では当たり前のように多種多様な楽器や声で表現されるはずのこの歌を聴き、日々デスクワークで疲弊しているはずの眼に、若かりし頃の潤いが戻っているのを感じたその程度で涙を流すのか。泣き虫だな

 

全能感に包まれた自分はチャンネルを開設。会社員としてデスクワークをしている傍ら、イヤホンで今まで毛嫌いしていたボカロ以外のジャンルの曲を聴き漁り、自分の曲で表現するのに使いたいと思ったメロディを再生リストに投げ入れ、帰宅してからはああでもない、こうでもないと旋律が叫び、2ヶ月に1本のペースで童を電子の海に旅立たせる日々を15年続けた報われることない無駄な15年だったな

今までに自分が漂流させてきた蕾は全部で94曲。チャンネル登録者は5万人を少し下回る程度。最多再生数は9.7万回。これが15年の成果だ。笑えるだろ。自分みたいな有象無象な中に消えるような淡い灯火では、巨星の瞬きの前には無力だと言うのにそもそもお前程度の凡人が作曲なんて大それたことをするからだ

もう自分は52歳、いい年した哀れな老害の完成だ。当然体はボカロを作り始めた頃とは比べ物にならないほどガタが来てるし、医者には癌が身体中に転移して余命は1月も無いだろうと言われた。人間ドックを受けず、健康診断だけ惰性で受けて自分は健康だと思い込んでたバカにはこれがお似合いってか。そう考えるも延命治療はする気にはなれなかった。どうせ死ぬと分かっているのなら最期に鎮魂歌を作りたかったのだ死ぬと分かっているのに、まだしがみつくのか

 

SNSのやり方がよくわからなかった自分は、いつも概要欄に曲に込めた想いや願いを書いている浅はかな想いだ

ただ今回ばかりはそれだけで済ますわけにはいかない

 

自分が癌を患っており余命が1月もないこと本当に馬鹿なやつだ

延命治療はせず、この曲がこのチャンネルの最期の篝火(かがりび)になること最後の悪あがきだ

独り身として生涯を終えた後に残る自分の貯金や素人のまま始めNISA?とかなんとか呼ばれるものに移行し入金だけして放置し続けてきた株、機能だけを優先させた安い中古の軽自動車は全て、ベッドの上で立ち上げた新人ボカロP発掘コンテストの軍資金にし、自分みたいな木偶の木と交流し続けてくれた数人の作曲者やボカロPに運営や審査員になって欲しいことを伝えるメールを送ったこと厚顔無恥なことこの上ない

もし彼ら彼女らが断ったとしてもその人の考えあってのものだから批判はしないで欲しいことをキーボードの上をガタガタと痙攣するように震え枯れ木のように痩せ細った指で書き込むもう見てられないな

そして最後の童…いや歌を電子で構成された空に羽ばたかせる。最後の歌のタイトルは『シオン』花がタイトルとは珍しい

花言葉は追憶。こんなジジイのことを(しの)んでくれる稀有な人がいるかどうかは謎だが、最後まで生への執着をを捨てきれなかっただけだろう、と冷めた部分で考えるお前は想ってもらえるかもしれんが俺は誰の記憶にもいねえよ

そうして、『シオン』が羽ばたいて言った幻風景を眺めながら指は自然と『電子の歌姫』に声をかけていた未練たらたらだな

耳は…もう聞こえない。『シオン』だって最後は記憶の中に漂う音を拾い集め完成させたのだ。眼は酷くぼやけている。だから当然『歌姫』の声は届かないし、その言の葉は自分の耳に聞こえるはずもなかった当たり前だ。もう終わらせよう

だが、何故だろうか。『電子の歌姫』…いや『初音ミク』の声は聞こえない。ただの音楽ソフトなのだから当然その姿が見える。なんてこともないはずなのに、自分の前で労わるような微笑みを浮かべる少女の姿が、声が、伝わったような気がした歌姫よ。やめてくれないか。俺たちに希望(甘美な毒)なんて見せないでくれ

来世があるとすれば何が欲しい?

 

その声に自分...いや、僕は俺は

 

圧倒的なまでの音楽の才能が欲しい!「こいつが救われる世界に連れて行け!」

と、こぼしたようなそんな気がした

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