NOIR LINK   作:aroma moko

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第3話

 

 

第3話 散歩 The Calm Offensive

 

あのあと、一旦《ECHO-LINE》へ戻ってクローン体を低温ポッド内で安置してから作戦会議を行なった。

 

《ECHO-LINE》の中には表向きの仕事である義体修理工房、その裏には依頼のための準備室が備えられている。

 

キドがいつも着ているフォーマルスーツの予備や、武器弾薬が収められたロッカーや使う時がくるのか分からないものまで。

 

キドはその準備室で腰のホルスターから拳銃を抜き、弾倉を取り消費した3発分の弾丸を補充しながら虚空へ話しかける、無論独り言ではない。

 

「今回はユリシーズの能力を全力で使って依頼を達成しよう」

 

《肯定、目標はかなり強固なプロテクトで守られているようです…通常のアプローチでは時間がかかるでしょう》

 

「ええ、無策で行くと。アリアちゃんが危険な目にあってしまいます」

 

ここで、給湯室へ繋がる奥の部屋からコーヒーを2つ、お盆に載せてレナがやってくる

 

「はいコーヒー、ここに置いておくわね」

 

キドの側へ湯気が立つ香しいコーヒーがそっと差し出された

「ありがとうございます…んー良い香りです」

 

早速手に持ち香りを楽しむ、レナはいつもキドの好みの為に深煎りにしてくれる。本来はコーヒーの淹れ方なんて知らなかった…とは本人の談だが、覚えてくれた

 

「はいはい…で?どうアプローチする?」

 

キドは弾込めを終えた弾倉を拳銃に差し込み薬室内を確認して初弾が装填されている事を確認しセーフティをかけてからホルスターへ納めた。

 

「今回は私1人で向かいます、バックアップはあなた方に任せます」

 

多数の警備が居る企業の支社へ1人でいくと言い出したキドに対してレナは大した反応も返さず

 

「わかった、リンクだけは繋げといてね」

 

とだけ言うと自分の分のコーヒーを手に地下への階段に歩みを進めていった

 

「…こう言う時に気を付けての一言があってもいいと思うんですけどねぇ」

 

《信頼の現れだと考えるが?》

 

「だとしても少し寂しいんですよ」

 

『貴方なら問題ないでしょうに』

突然脳内にレナの声が反響した。地下にある通信ルームから連絡を取ったようだ。

 

『感度良好、ノイズも無し』

 

「えぇ、貴方の綺麗な声が響いてますよ」

 

『はいはい』

照れた様にぶっきらぼうに答える彼女にバレない様に笑う

 

「…申し訳ありませんが、貴方には逃走ルートの確保をお願いしたい」

 

『任せて…ん?…グレイヴスから連絡が来てるよ』

 

「こちらに回してください」

はて、調査を受けてからまだ1日と経っていないのに何用だろうか?

 

 

『キド様、夜分遅くに申し訳ありません』

執事のグレイヴスはもう深夜であると言うのにも関わらず、声には微塵も疲れが滲んでいない。

 

「構いませんよ、どのようなご用件で?」

 

『旦那様と奥様から貴方への伝言をお預かりいたしまして』

 

「あぁ…分かりました。お聞きしましょう」

今回の依頼はグレイヴス氏の個人的依頼という事で、あまり気にしてはいなかったが、両親から何か聞かれるのではないかと考えていた。

 

『では失礼しま…旦那?…しかし…はい…はい…分かりました』

 

こちらから話しかける事はせず、端末の前で待機する

 

しばらくすると、先程まで話していたグレイヴス氏とは違う別の男性の声が端末から聞こえてきた。

『…聞こえているかな?』

 

「はい、私の名前はキドと申します、今回のご依頼でウェストン家のお嬢様の捜索を依頼された探偵の様な者です」

 

『私の名前エドワード。君達の噂は聞いたことがあるよ、どのようなプロテクトも一瞬で解除、どのような敵が現れても刹那に排除する。存在を疑われている傭兵だそうだな』

 

「まぁ、そういうふうに言われることもあります」

 

『そうか…それで?何か分かったかね?』

余裕たっぷりな声色に聞こえるが、ユリシーズがウェストン邸内の監視カメラをハックして確認しているエドワードの心拍数は非常に高い。

 

自らの立場故、慌てふためく事は出来ないのだろうが、キドにはユリシーズのお陰で彼の心理状態がある程度推察できた。

 

なるべく硬い声で伝える

「お嬢様の痕跡を発見しました」

『本当か、何処で?』

心拍数がさらに上昇した

(このままでは倒れかねませんねえ)

 

「封鎖されて随分立つ地下鉄B-9線…ご存知ですか?」

『いや…そこに娘が?』

 

「いいえ、お嬢様は一度そこに運ばれてから別の場所に移された様です」

『そう…か…失礼と思うだろうが君の言葉を全て信じ切れる訳ではないので念の為に我が家の警備部門を向かわせてもらうよ』

 

「無論構いませんが…多分何も出てこないかと」

『どういう事だ?』

 

(レナさん、この通信の暗号強度を極限まで高めてくれ)

『とっくにやってる』

(…仕事の早い事ですね)

 

「今から話す事を伝える人は限られた人にだけ伝えてください」

 

エドワード氏の心拍数が上がり続けている

(申し訳ありません、ですがこれだけは伝えないと)

 

「お嬢様を誘拐したのはリベリオン・メディカルの傘下、ブルーハンドと言う警備会社です」

『なっ…』

 

『どう言うことだ!?』

監視カメラの映像では、エドワード氏の近くでグレイヴス氏が宥める様な動きをしているのが分かる。

 

「状況は不明ですがお嬢様は中層区画に存在するリベリオン・メディカル社が保有する実験場へ移送された模様です」

 

『…では…君達は動けないな…リベリオンといえばあの6大企業、レッドシフト・バイオテックの傘下…手を出せば消される』

項垂れるエドワード氏と同じく意気消沈しているグレイヴス氏。

 

ーーしかし

 

「いえ、ご依頼通りお嬢様は彼等から返していただきます」

 

『ど、どうやって!?』

 

「正面から行きます、逃げも隠れもせず堂々と」

 

『ふ、不可能だ!?ふざけているのか!?…まさかこの件で俺を脅迫するつもりじゃないだろうな!?』

 

「ふふ、冗談でもなければお嬢様を諦めた訳でも、ましてや貴方を貶めたい訳でもありません、子供を利用するなどもやは人間のすることではありますまい」

 

『で、ではどうやって…?』

 

「それはですね」

 

 

ーー

 

中層区 リベリオン・メディカル支社施設

 

『この施設の全監視カメラと全警備員の“目”は頂いた、もう貴方の事を見る事が出来る人は皆無よ』

 

《アリア様の現在位置を特定、位置情報を送ります》

 

「はい、ありがとうございます…電子の神と電子の妖精に守られた私はさしずめ電子の騎士と言ったところでしょうか?」

 

《否定します…貴方はどちらかと言うとその騎士に討たれる運命の孤児院などにいる胡散臭い神父枠でしょう》

 

「思いの外グサリとくる事を言いますね」

 

なんでもない会話をしながら支社の正面玄関へと向かう、道中ブルーハンドの警備小隊や警備ドローンとすれ違うが誰も、何も反応しない。

 

「レナさん、正面玄関開けてくれますか?」

 

『はいはい』

 

本来は社員証と指紋認証・声紋認証をパスしなければならない正面ドアを、するりと通過し、その先にある金属探知機も無反応で通過。

 

ユリシーズが手に入れたこのビルの青写真を元に作られたナビシステムは最短ルートで捕らえられているアリアの元へキドを導いた。

 

ユリシーズは旧政府軍が極秘開発したスーパーAIでありキドに拾われるまでは自らを作り放置した人類への復讐心に溢れていた。

レナも数々の人体実験によりまさしく神業と言えるハッカー能力を持つ女性。そんな2人の電子的攻撃に耐えられる防壁など無く。

 

その気になればこの都市全てのネットワークインフラを掌握する事ができるコンビがレナとユリシーズだった。

 

「はい、ご苦労様です」

キドはアリアが捉えられている部屋の前に立つ兵士2人に挨拶してから内部へ入った。

 

中は独房と見紛うほど殺風景だった、撮ってつけた様に熊のぬいぐるみが放置してあるのと、アリアの金髪と着せられている患者服だけが唯一の色と言えるだろう。

 

「アリアちゃん」

キドは務めて優しく声をかけた、軽く観察しただけでも手首に酷いアザが見えたからだ。

 

「っ…だれ?」

不安と警戒心の混ざった目で部屋に突然現れた男の事を凝視する

 

「おじさんはね、君を助けに来たの」

「…うそ」

「嘘じゃないよ?どうしてそう思うんだい?」

会話をしながらこの部屋の電子ロックを解除して中に入る

 

「少し前にもおんなじ事を言って、連れ出した人達がいたの」

「…その人達は?」

「…あたしを別の部屋に入れて血とか、髪の毛とか取っていった」

それは

それは…

「それは怖かっただろう」

アリアちゃんの目の前にしゃがみ込みゆっくり頭を包み込む様に抱きしめる

 

「でもおじさんは本当、そんな事はもう2度とさせないから」

「ほんとう?」

「うん」

「ほんとにほんと?」

 

「本当、心配なら約束しようか?知ってるかな?指切りって」

小指を差し出す

「おじさんはね、自慢じゃないけど…約束はほとんど破った事ないんだ…破っちゃった事も…あるけどね」

 

アリアちゃんの小指が少しずつ伸びてきたのを待つ事なくこちらから指切りした

 

「…よし、これで約束したよ。おじさんは君を助ける!」

「うん…うん!」

 

《お見事でございますキド様、後でこの部屋の監視カメラ映像をお見せいたします、治安局のあの方に見せれば間違いなく現行犯で逮捕してくれる証拠映像が撮れました》

 

『やめなさい、彼がそう言うの気にしてるの知ってるでしょう?』

 

「ちょっとおじさんの仲間とお話しするから静かにできる?」

「?うん」

 

「アリアちゃんは無事に確保、目立った外傷は手首のアザぐらいで簡易スキャンでも電脳汚染やウィルスの反応は無かった、これから帰投しますけど…この施設はどうしましょうか」

 

『貴方達が脱出してから5分たったら、自動警備ロボット達を暴走させてできるだけ破壊しとく』

 

《ええ、特に研究区画は念入りに焼いておきます》

 

「それでお願いします、帰りの支度も出来てます?」

 

「うん!」

『えぇ』

《抜かりなく》

 

ーーでは帰りましょうか

 

 

ーーーーーーーーーー

 

『本日04:25時、中層区にあるリベリオン・メディカル社の支社施設で大規模なロボットによる暴走事故がありました』

 

『この事故による死者は居ませんが、重症者78名負傷者248名の大損害を出しており、治安局は事件・事故の両方で捜査を進めています』

 

『リベリオン・メディカル社社長マーカス氏は今回の事故で負傷した全ての従業員に見舞金と謝罪を述べました』

 

『続いてのニュー』

 

 

『キドさん、今回の事は感謝してもしきれない。貴方がいなければ娘は…』

泣き腫らした目で頭を下げるエドワード氏、彼は上層住みにしては随分と人間味が残っている人の様だ

 

「良いんですよエドワードさん。娘さんを取り返せてよかった」

心からそう思う、この街では似た様な事件は今この瞬間も起きているし、酷い時では親が子を売る時だってある。

 

『あぁ…報酬の件だが、いくら支払えばいい?いくらでも良い!』

本当にいくらでも払う勢いのエドワード氏に苦笑いを送りつつも頭の中で報酬額を考える…

 

……こんなものだろう

 

「…こちらです」

 

エドワード氏が目を見開く。

『こ、こんな…』

 

『これだけか…?』

 

「はい、今回我々が使用した物質は拳銃弾3発と高性能爆弾1発程度ですので…調査料金も含めてその金額です」

 

『や、安すぎるだろう!?いくらなんでも!?こ、こんな報酬で君は従業員に給料を支払っているのかね!?』

 

「うちは少し特殊でして…」

ハハハと笑う隣でレナが冷ややかな視線を向けてくるが務めて無視を決め込む

 

《キド様、このままですと基礎インフラ料金で我々の拠点が》

(静かになさいユリシーズ)

 

『き、君!グレイヴスの話によると奥方と2人でこの家業をやっているのだろう!?』

 

……

………奥方?

 

「あの、私は妻帯者ではありませんが…?」

 

視界の端でレナが身じろぎするのが分かる

 

『嘘をつけ!美しい銀髪の女性と共に家業をしていると!こんな報酬では奥方を満足に着飾る…いや!それどころか毎食食べれているのか!?』

 

「あ、あの」

 

『君は善人なのだろう!しかし私の様な他者にその善行をする前にだな!身近にいる人にまずあいじょ』

 

レナが耐えきれなかったらしく通信を閉じた…

 

気まずい空気が流れる室内の中で、最初に動いたのはレナだった。

 

「コーヒー…入れてくる」

 

「え、ええ。お願いします」

 

《…なんですかこの2人の感情値は?》

 

「気まずいって感情だよ」

 

《なるほど…しかし今までの会話で気まずい事などありましたか?辞書によると気まずいとはお互いの感情がズレていたり、他者からの評価が、著しく間違っている場合に該当するのでは?》

 

「うん、だから気まずいんだよ」

 

《しかし私の観測データ的には貴方とレナさんは一般的には夫婦、あるいは恋人なのでは?》

 

「いや〜…違うんじゃないかなぁ、そう言うのに該当する肉体的接触なんてしてないし」

 

《しかし古い記述にはそう言った事をしない清い結婚というものも》

 

「ユリシーズ、たまった電子メールから依頼関係のものがないか、探してきて」

 

《…わかりましたよ、しかしレナさん、その様な感情値はあまり健康的とは言えません、なにか解消に手伝える事があればまたお声がけを。キド様もです》

 

「…はい、コーヒー」

睨む様な顔でこちらにコーヒーカップを差し出すレナを見ていると、無意識のうちに笑ってしまった

 

「ふふ…えぇありがとうございます」

 

「別に笑わなくても」

 

「随分可愛らしい反応だと思いまして…あぁ、やはりこの苦味…落ち着きますねぇ」

 

「…また同じこと言ってる、毎回毎回飽きないの?」

 

「飽きなんて来ませんよ!毎回同じ感想が浮かんでくるだけです」

 

しばらく呆れた様に見てきた後

「…そう」

そう言いながら彼女もコーヒーを飲んだ

 

 

 

 

 






ここまで見ていただき感謝いたします。

息抜き作品としてここまでしか制作はしておりませんが存外書いていて楽しい組み合わせの子達だったので、また近いうちに書くことになるかもしれません。

もし気に入って頂けたのなら幸いです。
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