今作もスティルインラブの育成シナリオグッドエンドのネタバレを一部含みます、ご了承ください。
最初にその話を聞いた時、彼女は絶対に無理だ、と思った。いくらなんでも、自分にはそんな事はできない、と。しかし、相手はそんな彼女を宥めすかすように言う。
「でも、ぜ〜ったい、喜んでくれると思うなぁ、貴方のトレーナーさん」
「そ、そうでしょうか……」
「勿論。せっかくの夏なんですもん。素敵な水着、買いに行きましょ?」
彼女はそう言って、朗らかに笑う。確かに、目の前の彼女——ラヴズオンリーユーであれば、そうだろう。女の目から見ても、彼女のプロポーションは目を引く。そんな彼女が派手な水着を着れば、さぞ華やかだろう。きっと彼女のトレーナー——彼女は“トレーナーくん”と呼んでいる——も、喜ぶに違いない。
対して自分はどうだろうか、とスティルインラブは思う。彼女に比べれば、はっきり言って”薄い“プロポーション。とてもではないが、派手な水着など着る気にはなれない。まして、ラヴズが言い出したのは、彼女にとってはとんでもない内容だった。
「だから、どうでしょ。2人で水着を買いに行く配信、やりません?」
「さすがにそれは、恥ずかし過ぎますって……!」
スティルは顔を真っ赤にして、今の彼女のできる最大限のボリュームで言った。
事のきっかけは、先日2人が行った動画配信だった。普段からラヴズは動画配信を行っているのだが、ゲストとしてスティルが呼ばれ、2人で動画配信を行なったのだが、それが非常に好評だったらしい。
「レースの時の猛々しい感じと違って、凄く可愛らしかった」
「普段のスティルさんを見れて嬉しい」
「トレーナーさん大好きなのダダ漏れで尊い」
などなど……それで、ラヴズとしてはもう一度、コラボ企画を……と思ったのだそう、だが。
「また2人でお話する、とかじゃダメなんですか……?」
「それもいいと思いましたけど……折角なら、違う事したいなぁって思って。水着どうしようかな、ってのも思ってたし」
「……あっそうだ、私強い日差しが苦手なんです、だから水着はちょっと」
「ならナイトプールですね! 良いじゃないですか、雰囲気バッチリだわ」
駄目だ。夏の日差しに弱いという言い訳も潰された。うう、と呻きながら、なんとかスティルは抵抗を続けようとする。
「私じゃなくて、クロノさんとかグランさんとか、もっと仲良しの他の子じゃ駄目なんですか……」
「うーん。この企画は、やっぱりスティルさんが一番向いてると思うんだけどなぁ〜」
ラヴズは引きそうにない。スティルは結局、押し切られてしまうのだった。
かくして撮影当日。二人は店の前から配信を始めた、のだが。
「ラブミー♡ ラブユー♡ ラヴズオンリーユーで〜す。そして〜」
「ス、スティルインラブです……」
「今日は、新しい水着を買おうって事で〜こちらのお店にお邪魔致します。あ、勿論事前に撮影OKを頂いていま〜す。ところで……スティルさん。今日2度目のゲスト出演ということで、ご出演ありがとうございます」
半ば無理やり、という言葉は、飲み込んだ。受けてしまったのは、事実なのだ。
「なんで今回、スティルさんと水着を選ぼうって事になったのかって言うと〜……ズバリ! トレーナーくんをドキドキさせたい! いっつも私の為に頑張ってくれてるもん……ね? スティルさんも、トレーナーさんにドキドキして欲しいでしょ?」
「えっ!? あっ……はい……」
頬を染めたスティルが、俯き加減で言う。これだけでも、相当な撮れ高だ。これがあるから、ラヴズは彼女を是非と誘ったのだった。クロノは自身のトレーナーへの想いをまだはっきり認識できていないようだし、グランは明るすぎる。ラヴズ自身はノリノリで水着を選ぶのだから、もう一人は恥じらいが欲しい。そう考えた時に、スティルインラブは最適だった。可愛らしく、控えめな性格で、そして何より自分のトレーナーにぞっこん惚れ込んでいる。彼女自身にとっても、これは悪い話ではない……筈だ。
「という訳で〜早速! お店を見ていきましょう!」
「あっ、待って……!」
ラヴズは慣れた様子で、意気揚々と入店すると早速水着の一つを手に取る。真っ黒で、大人びた雰囲気を感じるビキニ水着だ。
「う〜ん、ちょっと大人っぽいかな。どう思います?」
そう言いながら、スティルに手渡す。彼女は首を横に振った。
「こ、こんな大人びた……もの、私には無理です……」
「え〜、アリだと思うんですけど」
「……前から思ってたんですけれど。ビキニって、実質下着ですよね、布面積。そんな、はしたない……」
「だから、彼をドキドキさせられるんじゃない。今は女の子からもガンガンアプローチしていかないと!」
アプローチどころか、な行為も既にしてしまった事があるのだが、ラヴズはそれについては知らない。それにあれは、自分とは違うものがやった事で、私はあんな事……とも、スティルは思う。
「とにかく、私には、これは無理です……」
「残念。似合うと思ったのに〜……あっ! これはどうかしら!」
そう言ってラヴズが取り出したのは、真っ赤なスリングショット……
「わっ、私の話、聞いてました!?」
思わず、普段絶対に出ないような声が出た。流石にこれは、ラヴズも冗談で言っている。この反応が欲しかったのだ。
「冗談はこのくらいにして。じゃ、逆に私に似合いそうな水着、探してくれます?」
「そうですね……」
少し疲れながら、スティルは言う。そう言われても、水着の良し悪しなどよく分からない。ただ大人びて、キュートさもセクシーさもある彼女に似合う、となると。
「これなんて、どうでしょう」
そう言って彼女が選んだのは、白地に緑の花のワンポイントが入った、ビキニ水着だった。ラヴズはうんうんと頷きながら、それを自分の体に当ててみる。
「良いじゃない良いじゃない! とっても素敵、ありがとうございます♡」
「い、いえ……喜んで頂けたなら」
「じゃ、スティルさんのも決めちゃいましょう! そうね……あんまり露出が多いのは恥ずかしいって事だから……」
これとか! と彼女が選んできたのは、水色のビキニだった。通常のビキニの上に、赤を基調としたフリルが付いているので、多少は露出が抑えられている。スリングショットよりはマシだろうが、それでもやはり露出度は高い。しかし、スティルがそれを言うより先に、ラヴズは別のものを取り出す。
「それに、これを合わせちゃいましょう!」
それは、薄い赤色をした、パレオだった。確かにこれなら、ボトムの露出度の高さも軽減できるだろう。
「……いい、かも」
思わず、そう呟いていた。これを着た自分を、想像してみる。本当の自分は強い日差しが苦手でも、空想の中なら自由だ。夏の日差しの中で、この水着を着て海を楽しむ自分を空想する。勿論、彼も一緒だ。水を掛け合ったり、一緒に泳いだり。そんな風に、彼と――
「……お〜い。お〜い? スティルさ〜ん?」
はっ、として現実世界に引き戻される。ラヴズが、じっと彼女の方を見つめていた。
「ご、ごめんなさい、ぼーっとしちゃって」
「……うふふ。楽しそうでしたよ、すっごく。じゃ、これで行きましょうか」
「はい」
少し照れながら、彼女は言った。いつになるかは分からないが、これをトレーナーに見せるのが楽しみだな、そう思いながら。しかし。
「じゃ、さっそく試着してきましょう」
「え」
世界が凍りつく。ラヴズは、不思議そうな表情を浮かべていた。
「最後は、皆にお披露目でしょ?」
「あ……あ……」
「ここまで来たら……ね?」
そんなの無理です、とは言わせない。そんな迫力を、スティルは感じた。