ゴールドシチーやトーセンジョーダンも可愛いですよね……ただ学生時代陰キャだった自分には彼女達のセリフ回しは難しい。
あとやっぱり栗東プロレスリングでプロレスネタは入れたかった。プロレスファンですし。池添さんっぽい後輩も出てきてるし。スティルが活躍した2003年、この年のプロレスと言えば……という事で。最後がよく分からない人は「三沢VS小橋 GHC」とかで調べて頂ければ……
その少女は、深刻な表情を浮かべていた。そんな彼女の顔色を見て、思わずトーセンジョーダンとゴールドシチーは顔を見合わせる。
「……なんというか、珍しいよね」
「うん。頼られるのは、悪い気しねーけど」
二人はそう言いながら、目の前の少女を見る。彼女、スティルインラブが、急に二人に声をかけてきたのだ。ご相談に、乗っていただけませんかと。それで取りあえず、教室の椅子に腰掛けて話を聴こうということになったのだが。少しおいて、ああと声を漏らしたのはシチーだった。
「アタシ、分かったかも」
「マ? あたし分かんねーわ……」
「うん。ね、スティル。多分だけどさ、悩みってあれでしょ。お肌の事じゃない?」
びくり、とスティルインラブの体が震える。頬が真っ赤に染まり、眉が絵に描いたような八の字を描いた。
「あの、はい、そうです」
「えーシチーすっご、良く分かんね?」
ジョーダンは感心した様に言う。ふふん、とシチーは得意気に笑った。
「プロのモデル舐めんなって。確かに、この前の“ギャルさんぽ”の時よりちょっと荒れてんな~って思ったけど」
ウマさんぽ、という企画がある。ウマ娘達の日常を、というようなテイストで、ちょっとした場所に出かけるのを写真に収めて、というような企画で、これがファンから根強い人気があるのだが、この企画の一つで、ゴールドシチーやトーセンジョーダン達、ギャル系のウマ娘達と一緒に街を歩いたり、ネイルをしてもらったり……というのがあった。それで、スティルは彼女達と知り合ったのだが、最もその時は、あの企画の後に親しくすることはあまり無いだろう……とスティルは思っていたのだが。
「実はその、お恥ずかしいのですが……最近、ちょっと、お菓子を……食べ過ぎてしまいまして」
「あー……例えば? ポテチ?」
「いえ。その、例えばクッキーを……」
なるほど、とシチーは頷く。脂質の取り過ぎは、そのまま肌荒れなどの原因になる。モデルでもある彼女にとっては、常識レベルの話だ。とはいえ、全く食べてはいけない、というほどでもない。ようはバランスだ。
「ちな、どこのなん? そんなに美味しいなら、ちょっと食べてみたいし」
ジョーダンがそう訊くと、スティルの頬が更に赤くなった。
「あの……一つ、ではなくて。その、皆様から」
「へ?」
「私、しばらく学園を出ていたのですが……それで、皆様に随分、ご心配をおかけしてしまったのですが。帰って来てから、皆さんが私に、と色々と……」
「あー……」
二人が顔を見合わせた。少しして、シチーが言う。
「成程、一回一回は少ないけど、って事か」
「はい、お断りするのも気が引けますし……それに、今は私もトレーニングをしていませんから、それも」
「オッケー。じゃ、どうするか……だけど。とりま、アタシの使ってるスキンケア用品とか、使ってみる? 色々あるし……」
「……うーん、でもさ」
ジョーダンが、不思議そうな表情を浮かべていた。スティルはなんでしょう、と彼女の方を見る。
「こう言っちゃなんだけど、そんな気にする事無くね? あたしは気が付かなかった位だし……そりゃシチーみたいに仕事があるってんなら分かるけど。スティルちゃんそういうのないっしょ?」
「まあ、そう……ですが。ただ……」
「ただ?」
「その……トレーナーさん、に……こんな姿、見せられない……」
消え入りそうな声で、彼女が言った。可愛い、と思いつつ、ジョーダンは明るく言う。
「そっかそっか。じゃ、しっかりやらないとじゃん。ってか、体重は大丈夫そ? そんなにお菓子食べてたって事は」
「あう……そう、ですね」
「ま、原因は一緒だし。そっちもアタシ、いつもやってる事だしさ。任せて貰おうじゃん」
シチーが得意げに言う。スティルはお願いします、と頭を下げた。
[newpage]
それから数日後。スイープトウショウのトレーナーが先輩に呼び出されていた。なんでも、相談したい事がある、との事だが。
「先輩、何です、相談って」
「……俺、スティルに嫌われたかもしれない」
ずうんと落ち込んだ表情で、彼はそう言う。それを聞いた後輩は、はあとため息をついた。
「何ですか、惚気ですか」
「なんでそうなるんだよ」
「だって、他の子ならともかく……スティルちゃんでしょ、無いですよ」
「まあ、聞いてくれ」
そう言いながら、彼はコーヒーのカップを差し出す。自分でもコーヒーを飲みながら、彼は話を続けた。
「最近、彼女に避けられてる……気がするんだ」
「え? 昨日だって一緒にいたじゃないですか」
「でも、いつもより一歩分くらい離れていてな……」
「やっぱり惚気じゃないですか、帰って良いですか?」
「さっきから当たりが強くないか?」
「だって、その程度で嫌われてるなんて言われても……こっちは練習が嫌だって、雪の中で僕立ち往生させられた事もあるんですよ。それに比べたら何ですかそれ」
後輩はそう言うが、先輩の方はそれだけじゃない、と更に続ける。
「そもそも、俺にあまり顔を見せてくれなくなったんだ。この前まではトレーナー室に色々訊きにきてくれたり、お菓子食べに来てくれたり……折角色々買ってあるのにな……」
「いや、用が無いなら来ないのが普通ですって。さっきから何なんすか本当、そろそろエルボーぶち込みますよ」
「前までは来てくれたのに、急に来てくれなくなったら不安になるだろ……」
「そうですね。仲良しカップルの痴話喧嘩程度にも思えませんが。キスでもしてあげれば良いんじゃないですか」
「で、出来る訳ないだろう! 教え子に」
「そこはまだ気にするんすね」
はあ、とため息をつきながら、先輩の顔を見る。彼は基本的には、できる男だ。性格も温厚で、担当のスティル以外にも多くの人に好かれている、それは間違いない。しかしどうも、担当のスティルインラブに入れ込み過ぎている。いや、トリプルティアラに加えてエリザベス女王杯も制し、ジャパンカップではあのメジロラモーヌさえ下したのだ、入れ込むの自体は分かるのだが……そこを、ほぼ飛び越えている。彼自身は必死に踏みとどまろうとしている……が、スティルの方も彼にかなり強烈な好意を抱いているのもあって、傍から見ていると非常に危うい。実際、彼は体調を崩し入院、その後スティルは退学届けを出して失踪、退院した彼も彼女を探しに行くとして一時姿を消し……と、余りにもスキャンダラスな事になりかねない事態まで起こした。本人達曰く「色々あった末」に戻って来て、ほっと一安心……ではあるのだが。
「ま、まずは直接話を聞いてみれば良いんじゃないですか」
「でも……」
「でも、じゃない。大丈夫だと思いますけどね、僕は」
先輩はなおもうーんと唸っていたが、やがて意を決した様に、頷いた。
それから更にしばらく経った頃。彼は再び、先輩に呼び出された。今度は居酒屋だ。着いてそうそう、俺のおごりだと彼は笑顔で言う。
「本当に、助かったよ。君の言う通りだった」
「何ですか。奢ってくれるのは良いですけど」
「スティルの事でさ。……嫌われてる訳じゃなかった。良かったよ、本当に」
「なんかもう帰りたいんですが」
そう言いながらも、彼はビールをぐいと呷る。
「で、何だったんです? 聞いてみたんですか?」
「ああ。なんでも、ちょっと肌荒れ気味だったらしい。それで、あまり俺に顔を見せたくなかったんだと。距離が離れたのも、まあそういう理由だとかで」
「やっぱ惚気じゃないですか。机の上からタイガースープレックス仕掛けて良いですか」
「死んでしまうよ。まあ俺も反省だな……また一緒になれたのが嬉しくてさ、お菓子とか、結構考えなしにあげちゃってたから」
「ハムスターに餌あげ過ぎたみたいな言い方っすね」
ばくばくと唐揚げを口に入れながら、後輩は言う。先輩の惚気に付き合っているのだ、この位なら許されるだろう。
「でも、良かった……俺が何かしでかしたのかと……いや、俺も原因の一端ではあるんだけど」
「可愛い話じゃないですか、ようは可愛い所だけ見て欲しいって事でしょ?」
「まあね。ゴールドシチーやトーセンジョーダンが協力してくれたみたいだし、後で俺からもお礼を言わないと……」
そう話す彼の顔は、すっかり紅潮している。話しながら、ぐいぐいジョッキを空けているせい、だけではないだろう。
「いや、本当に、良かったよ。それで、ちょっと俺も考えてさ。なるべくそういうのの原因になる様な成分を含めずに、クッキーとか作れないものかと……」
「そうですね。どうぞご自由に」
「あの娘、口が小さいからさ。食べるのが人より遅いって、気にしてるんだけど。クッキーなんか食べてると、本当にリスみたいでさ、……こんな事言うべきじゃないんだろうけど、本当に、可愛い……」
「……分かりました」
ゆっくりと、後輩が立ち上がる。
「うん? どうしたの?」
「いえ。流石に僕にも我慢の限界ってものがありますので」
「え?」
「ここだとお店に迷惑掛かりますからね、外に出ましょう。バーニングハンマーで良いですね?」
「封印を解く気?」