【ヒカあか】報われない恋でもいいから   作:無名のヒカあか好き

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「幼馴染の特権というものは、確かに存在する」

 

私は、ヒカルの力になれているのかな?

 

 


 

 

「――という感じで過ごしてました」

 

 

 あかりは一週間前に駄菓子屋であったことを、美津子へ説明する。

この二人にヒカルと正夫を加えた四人は、シティホテルのイタリアレストランで、夕食にオーダービュッフェを楽しんでいた。*1

 

 

「素敵。二人で思い出の場所に行ってみたのね。

 それじゃあ、喫茶店の方はどうだったの?」

 

「あ、その日はお菓子を食べたら何となく満足して。そのまま帰っちゃったんです」

 

 

(それにその時は、ヒカルが何となく打ちたそうにしているように見えたから……)

 

 日曜日にヒカルの下へ通うのが常態化しつつあったあかりだが、今でも変わらず二人は多くの時間を囲碁に費やしている。

あかりはそれが負担にならないと言うよりも、むしろ喜ばしく感じていたのだが。

その一方で、休日に自分が押しかけて指導碁をお願いするという構図がヒカルの負担になってはいないのかは、どうしても気に掛かることではあった。

 

(でもそれも、ヒカルはやっぱり囲碁が好きで、指導碁の時もすごく楽しそうにしているから。

 多分、私の考え過ぎだったみたいなんだけど)

 

 数瞬ヒカルを横目で見て、考えを巡らせていたあかりの意識が、美津子の一言で戻される。

 

 

「あら、それじゃあお店にはまだ行けてないのね。

 ヒカル、駄目じゃない。

 きちんとあかりちゃんを連れて行ってあげなさい」

 

「あっ、いえ。喫茶店には今日連れて行ってもらえました。

 ケーキも評判通りで……。

 そうだ。おばさんも今度一緒に行きませんか?」

 

「まあ」

 

 

  将来の義娘*2からのかわいらしいお誘いに、目をぱちくりさせる美津子。

このくらいの年頃の子だったら、自分の想い人に夢中になっても仕方がないのに。

美津子は『やっぱりヒカルには、あかりちゃんしかいないわね……』と、改めて確信する。

 

 

「……あかり、それ食わないならくれよ」

 

 

 あかりとは対照的に、あまり積極的に会話へ加わらずマイペースに食べ続けている息子を見て、美津子は内心で溜め息を吐く。

 

(我が息子ながら、愛想がない……デート*3の邪魔をされたことに腹を立てているのかしら)

 

 夕方早くに、ヒカルへ「今日の夕飯は外で食べましょう。あかりちゃんも連れて来なさいね」と連絡した時に「いや、俺は明日仕事だし。外食すると遅くなるだろ? 父さんと母さんが夜まで帰ってこないなら、俺はあかりに作ってもらう」と主張され、軽く言い争いになったことを美津子は思い返す。

 

 

「これ、うまいぜ。あかりも食うか?」

 

「うん。食べる。

 ……このラグーソース、豚肉はローストしてあるんだ。

 すごくおいしいね」

 

「だろ? あかりはこういうのが好きだと思ったんだよな」

 

 

 ご機嫌ナナメな息子に『どうしたものかしら』と考えていると、目の前で始まったヒカルの世話焼きに、一転して『あらあら』という気分になる美津子。

思わず隣にいる正夫を肘で突くと、「ああ。あかりちゃんが色々なメニューを食べられるように、ヒカルなりに気を遣っているんだろう」と小さな声で返される。

 

 

「……もしかして、お父さんは気付いてました?」

 

「うん。まあ、母さんはあかりちゃんとのお喋りに夢中になっていたみたいだからね」

 

 

 正夫はおっとりとした口調で「ヒカルは何も言わないから、分かり難いね」と結んだ。

そこで美津子は、今度はメニューを開いて次に何を注文するか相談しあっている二人を目の前にして、『……私とあかりちゃんの会話を邪魔しないようにしていただけなのかしら?』とヒカルへの見方を改めた。

 

(それにしても、随分とあかりちゃんに優しくするようになったものね……)

 

 思わず二人の関係について詳しく聞きたくなった美津子だが、まずは食事を一段落させようとグラスを手に取り、喉を潤すのであった。

 

 

「……それで、ヒカル。

 最近はよくあかりちゃんと会ってるみたいだけど、今後もそのつもりなの?」

 

 

 四人全員がデザートを頼んだりコーヒーを飲んだりする段に入って、ついに美津子は本丸の話題へと切り込む。

 

 実は今回の会食は、美津子とあかりの母、燈華との事前協議によって設定されたものだった。

その背景には今年4月の半ば、あかりが初めてヒカルに呼ばれて行った日の夜。あかりの部屋で二人きりになっていた事実*4を燈華に知られたことがある。

 

 この二人の逢瀬は可及的速やかに燈華と美津子の間で共有され、『ヒカルの本気度』を推し量る必要があるとのコンセンサスが得られた。*5

その後、ヒカルが毎週あかりを呼んだことでこの会食が設定されたという次第。

 

 なお、ここ数週間にわたって、美津子は日曜日は終日家を空けることでヒカルがあかりを呼びやすい状況を作っていたのだが。ヒカルが休日の過ごし方を決める際に、そんなことを気にしたかは微妙なところである。

ただ、美津子が不在でなければヒカルが毎回あかりに昼食を作らせるという結果にはならなかったかも知れず、二人の母親は観察期間をもう少し長くとった可能性は高い。

 

 ともあれ。ここで重要なのは、ヒカルがあかりとの付き合い(・・・・)をどのように考えているかである。

質問に何でもなさそうな顔で「ああ。そうだけど」と応えた息子へ、美津子は更に一歩踏み込んだ言葉をかける。

 

 

「ヒカル。あかりちゃんは良い学校に通っているし、お勉強も大変でしょう?

 ヒカルのわがままが、あかりちゃんに迷惑をかけていないか心配なの」

 

「いや、俺は……。

 あかりは……」

 

 

 美津子の指摘になんとか反論しようとするものの、何も言葉が浮かばずに悔しげな顔をするヒカル。

ヒカルの内側にあるのは全て言い訳がましい言葉や、不明瞭な事実ばかりだったからだ。

 

(俺は、そんなにわがままを言ったつもりは……わがままだったのかも知れねえけど。

 でもあかりは嬉しそうにしてたし。

 あかりと会っていたのだって、あかりから『また遊んでほしい』と言われたからで。

 けど俺だって会いたくない奴は呼ばねえから。

 俺があかりに会いたかっただけって言われたら反論できねえ……。

 あかりの勉強のことだって何も聞いてない……俺は聞こうとすらしなかった。

 ……これが俺のわがままだったってことなのか?

 けど、母さんはあかりの前でこんな話をするために、俺達を呼び出したのかよ。

 もうガキじゃないんだから、昔みたいには遊べないんだぞって、釘でも刺したいのかよ)

 

 ヒカルの胸の中を、寂しさのような、悲しさのような、そんなもやもやとした感情が満たしていく。

悔しげだったヒカルの表情は、徐々に悲痛なものに塗り替わっていった。

 

 母子の会話に口を差し挟むことができず、ヒカルの横でおろおろしていたあかり。

しかし、どんどん暗くなっていくヒカルの表情を見ていられず、ここでついに声を上げる。

 

 

「あ、あの……わたし、わたし。ヒカルに迷惑なんかかけられていません。

 ヒカルは私にすごく良くしてくれて。私は、ヒカルにもらってばっかりで……」

 

 

 あかりは震えそうになる声を必死で抑えつけて説明しようとする。

しかし、自分がヒカルの重荷になっていないかと心配していたあかりに、ヒカルは自分に迷惑などかけていないと。そのような反対の主張を即興で行うのは容易なことではなく、どうしても、たどたどしい話し方になってしまう。

 

 ただ本当のことを説明するだけなのに、そんなことも上手くできない自分が悔しくて、情けなくて。

落ち着いて話さないといけない場面なのはわかっていることなのに、あかりの目にはどんどん涙が滲んでくる。

 

(私が、しっかりしないといけないのに……。

 嫌だ。このままだと、ヒカルは、私のことを諦めちゃう(・・・・・)よ……)

 

 何年も幼馴染の後を追い続けてきた自分と、ヒカルは違うのだという認識が、あかりにはあった。

ヒカルにとって、あかりはただの幼馴染なのだ。少し付き合いが長いだけの、知り合いの一人でしかないのだ。

 

 二人の立場が違ってしまったというだけで、ヒカルが離れていってしまう。告白して振られたわけでもないのに。

失恋するよりも残酷な未来が目前に控えていることを直観してしまったあかりは、ついに無言で泣き始めてしまう。

 

 そして、言葉を見失いずっと沈黙していたヒカルは、あかりの涙を目にした瞬間に自身が言うべきことを見出した。

これは論理や会話の文脈において正しい言葉ではなかったが。今ここで言わずにいることは、ただヒカルには全く我慢がならないことだったのである。

 

 ヒカルはあかりの頭にそっと手を置いて、はっきりと自分の意志を宣言する。

 

 

「母さん。

 俺はあかりに迷惑をかけても、こいつに会うのを止めるつもりはないから」

 

「……それはどうして?」

 

「あかりに囲碁を教えるのが楽しいから」

 

「楽しいだけじゃ……」

 

「楽しいだけじゃないぜ?

 あかりに囲碁を教えることは、ちゃんと俺のためになってる。

 これはあかりが俺に教えてくれたことなんだけどな。

 人に囲碁を教えるってのは、すげえ勉強になるんだ。

 今まで俺は、棋院から指導碁の仕事をもらってたから、そのことがよくわかってなかった。

 誰か一人に継続して指導をするって、棋院経由だと難しいんだよな」

 

 

 ヒカルはそこで「とにかく、あかりは特別。あかりに会うなって言われても、俺が困る」と続け、一息ついた。

 

 自分の意志を示した息子の姿に、美津子はもうここで話を終わりにしても良いような気がしていたが。中途半端はよくないとばかりに、ここで正夫が口を出す。

 

 

「ヒカル、それでは自分のことばかりじゃないか。

 あかりちゃんのことは、どう考えているんだい?」

 

「俺には! ……俺には、あかりの迷惑なんじゃないかとか、本当はそんなのわかんねえよ。

 でもよ。父さんは見たことないだろうけど、あかりは囲碁を打ってる時、すげえ真剣なんだぜ?

 俺が指導碁を打って、検討してる時だっていつも一生懸命だった。

 あかりはずっと楽しそうだったよ。

 俺から見ての話だけどな」

 

「……うん」

 

 

 ヒカルの言葉を聞いて静かに頷き、正夫は目線で続きを促す。

 

 

「ええと、だからさ。

 俺はあかりと囲碁をしたい。

 あかりも俺と囲碁をしたい……と思ってる、はず。

 こうしてみっともなく泣くくらいだし」

 

「わ、わたしもヒカルと囲碁がしたいです。

 学校の勉強も、授業にはちゃんと付いていけてます。

 ヒカルのおかげで、囲碁部の部長としても立派に活動できると思います。

 そうなれば内申点だって……」

 

 ヒカルの言葉に続けて、先ほどしたかった説明をなんとか全て口にするあかり。

しかし、『学業成績のためにヒカルと会って指導碁をお願いしている』かのような発言をしなければならなかったのは、今のあかりには非常に辛いことだった。

胸が潰れそうな気持ちのまま、何とかヒカルの両親に自分の主張を伝え終えたあかりは、いよいよ我慢が限界を超えて。あかりは涙をぼろぼろと流しながら、すすり泣きを始めてしまう。

 

 

「ああ、ほら。あかり……」

 

 

 ヒカルはあかりの涙腺が決壊したと見るや否や、こいつの泣き顔を周囲に見せてたまるかとばかりに、あかりを胸に抱き寄せる。

あかりはヒカルの胸の中で声を震わせながら、「みっともなくないもん……」と、幾分に遅い抗議の声を上げた。

 

 

 

*1
あかりが遠慮せず好きなものを頼めるようにと選ばれたお店。ドレスコードはカジュアルだが、まあまあ良いお値段がする。それだけに一般的なビュッフェと異なり時間無制限。本格イタリアンを心ゆくまでどうぞ。

*2
美津子の中では。

*3
美津子の目線では。

*4
第2話〜第8話。ここでは特に第8話。

*5
あかりのそれについて触れられなかったのは、そういうことです……






・個人的なヒカあか萌えポイント⑤(※願望込み)
 レストランとか、喫茶店とか、ヒカルの家でお昼ご飯を食べる時とか。
 そんな時ヒカルは、当たり前のような顔をしてあかりの隣に座る。

・個人的なヒカあか萌えポイント⑥
 あかりはヒカルの家に戻る時、「(ヒカルの)家に帰る〜」みたいな表現をする。
 自宅じゃないのに、半ば自分の家と同じ扱いを無意識にしている。


・ヒカルの両親が悪役っぽくなってしまいました。
 でも、これはどうしても必要なことだったんです。
 美津子と正夫はヒカルの親で、あかりちゃんは他所から預かった娘さんですから。
 ヒカルに対して「いい加減な気持ちでいるんじゃないよな?」と確認しないわけには……。

・おそらく美津子もまた、帰宅後にちょっぴり泣いてしまうと思います。
 問い詰めなければならなかった心労と、ヒカルとあかりの仲が壊れずに済んだ安堵で。


・ついにここすきまでいただいてしまい、嬉しさで気絶しそうになりました。
 本当に皆様の応援に支えられながら書いています。
 いつもありがとうございます。
 毎日投稿がだんだんしんどくなってきましたが、完結まで走りきりたい。

R-18版の需要はありますか?

  • あかりを性的に食べるヒカル……ありだな!
  • やっぱりヒカあかはプラトニック路線で。
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