【ヒカあか】報われない恋でもいいから 作:無名のヒカあか好き
予約投稿の日付を誤り、今回の更新分が書きかけの状態で公開されてました。
ご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ありません。
(公開予定を2031年に設定して随時保存しながら書いているのですが、
今回はそれができていなかったということです。ひぃん……)
あかりのことを、大切にしようと思った。
……どうやって?
レストランからの帰路、車の中で。
幸いにも飲酒をしていなかったため、美津子から運転を代わった正夫が口を切った。
「今日は本当にすまなかったね。
二人を、あかりちゃんを傷つけるつもりは決してなかったんだ」
「……ええ。あかりちゃん、本当にごめんなさい」
「私と母さんが目的にしていたのは、あかりちゃんにお礼をすることだったんだよ。
いつもヒカルに良くしてくれてありがとう、とね。
……失敗してしまったけれどね」
正夫の言葉に美津子は無言で目を伏せた。
とは言え、今ここで何もかも詳らかにすることが好ましいことだとは美津子には思えなかった。
「その意味でも本当にすまなかったと思っている」
「そうね。あかりちゃん、ごめんなさいね」
「いえ、おじさんもおばさんも、そんなに謝らないでください。
私の方こそ、ご迷惑をかけてしまって……申し訳なかったです」
ヒカルの両親からの重ねての謝罪に、あかりは慌ててぺこぺこ頭を下げた。
「いやいや。それこそ私たちのせいだからね。あかりちゃんは謝る必要なんて無いんだよ。
あかりちゃんは遠慮するかもしれないけど、お詫びはまた改めてさせてもらうよ」
「そんな」
「あかりちゃんが私たちに好意を持ってくれているのは、わかるのよ。
だからこそ、きちんとお詫びをしないといけないの。
おばさん達のためだと思って受け取って欲しいわ」
「……母さんも父さんも、その辺にしておけば?
あかりが困ってるだろ」
大人が二人と少女が一人、延々と続く謝罪合戦・遠慮合戦が始まりかけたところで、ヒカルから制止の声がかかる。
そしてヒカルは「あかりを困らせてたら、意味ねーじゃん」と正論過ぎて逆に配慮の足りない言葉で結んだ。
「まあ、そうね」
「うん。この話は日を改めて落ち着いてからにしよう」
「えっと……はい」
あかりは『ここで頷いていいのかなあ?』という顔をしていたが、直前の美津子による切々とした訴えを聞いていただけに反対する気にはなれず、了承の返事をした。
それからしばらく、車内には沈黙が続いた。
しかしその沈黙は気まずい雰囲気のものではなく、緊張から解放されたことによる弛緩した雰囲気のものだった。
食後の満腹感と併せてどことなくぼんやりとした三人とは違い、正夫だけは運転に集中していた。
あと数分ほどで自宅に着くというタイミングで、ヒカルは正夫に声をかける。
「あ、父さん。
俺コンビニで買い物していくから、そこで降ろして」
「ああ、わかったよ」
「あかりも、買いたい物があるよな?」
「……え?
あ、うん」
あかりは特に用事などなかったが、ヒカルから無言で手を掴まれたことでなんとなく『そういうこと』だと察して、反射的に頷いた。
程なくして、四人を乗せた車はコンビニの駐車場で停車する。
端的に「行ってきます」とだけ言い置いて、あかりの手を引きながら降りようとするヒカルに、美津子は忠告する。
あかりがややヒールの高い靴*1を履いて来たことに、美津子はちゃんと気付いていたのだ。
「ヒカル。あかりちゃんは女の子なんだから、あまり連れ回したら駄目よ」
「んー」
「おじさん、おばさん。今日はありがとうございました。
とても素敵で、お料理もおいしいお店でした」
「気をつけて帰るんだよ」
「……あかりちゃん、今日は本当にごめんなさい。
懲りずにまた付き合ってちょうだいね」
「はい。楽しみにしています」
母親の精一杯の忠告に生返事を置いて行った
礼儀正しい言葉と明るい笑顔を置いていった
美津子の胸の内を様々な思いが駆け巡っていたが、再び走り出した車中で「よかったわ……」とだけ呟き、溜め息を吐いた。
「えっと、ヒカル。買い物しないの?
あと、これ……」
コンビニの前でじっと立ち、去っていく車を眺めているヒカル。
そんなヒカルに、未だに掴まれたままの手を揺らしながらあかりは疑問の声を上げる。
「うん? ああ……。
いや、あかりが何か言いたそうにしてたから。
別に買いたい物とかはねーんだ」
「もう。それで私まで降ろしたの?」
「違ったか?」
「ううん。
もっとヒカルと一緒にいたかった……」
もじもじとしながら身を寄せてくるあかりに、ヒカルは『かわいいやつ』と思いながら掴んでいた手を離し、今度はしっかりと手の平を合わせてつないだ。
あかりのペースに合わせるようにゆっくりと家に向かうヒカルへ、あかりは「ね、ヒカル。ちょっとだけ遠回りしてもいい?」と細やかなお願いをする。
元よりあかりの話を聞くつもりだったヒカルは、それに快く頷いて。二人の行く先をあかりに委ねた。
「おー、ここか」
「うん……」
あかりがヒカルを連れて来たのは、二人の家のほど近くにある公園。
相応に思い出は蓄積されているが、それ以上に『いつもの』『何の変哲もない』場所だった。
あかりは遊具の前でヒカルを誘う。
「ヒカル、座ろ?」
「……あかり、おまえ座るって、ベンチじゃなくて
「えへへ。
何だか懐かしくなっちゃって……駄目?」
「まあ、いいけど」
昔よりも随分低く感じられるようになった座面に「うわ、小っせえ」と零しながら腰を下ろすヒカル。
あかりが「本当だ。もう、座り漕ぎはできないなあ」と返事をしながら座るのを横目にしながら、ヒカルはチェーンを掴んで、静かにあかりの言葉を待った*2。
十数秒ほどの沈黙の後、あかりは話し始める。
「ヒカル、ありがとう。
私、嬉しかったよ。私のことを特別だって言ってくれて……。
あのね?
あの時本当は、おばさんの言う通りに『あかりに迷惑かけないようにする』って。
ヒカルがそう言っちゃうような気がしたの」
「……」
「だって、そうでしょう?
私は高校生になって、ヒカルはプロ棋士になって……。
毎朝顔を合わせて一緒に登校なんて、できなくなった。
寂しいけど、すごく寂しいけど。もう昔みたいな関係には戻れない」
「……ああ」
「今は私、ヒカルの家の近くに住んでいるけど、あと2年もしない内に私は大学に行って。
どこかの会社でOLさんになって……。その頃には私、一人暮らしだよ。
ヒカルと街中で偶然すれ違って『久しぶりだね』なんて話をすることもなくなっちゃう」
「……」
「でも、それが普通なんだね。
幼馴染って、もしかしたら付き合いが長いだけの、知り合いの一人でしかないのかも。
すごく……悲しいけど」
「……」
「ヒカルだって、あと何年かすれば素敵な恋人ができて、結婚して……。
だから……だから……
いつまでも一緒にはいられないのかもしれないけど。
いつかヒカルとはお別れするのかもしれないけど……。
今は、嫌だった」
あかりは目に浮かんだ涙を「えへへ」と誤魔化すように笑って、「ね? これって、すごくわがままな考えだよね」と続ける。
「ヒカルが『私の迷惑になるとしても会うのを止めない』って言ってくれて本当に嬉しかった。
私も同じ気持ちだったんだもん。
最近ね。ヒカルの迷惑になってないか、私はずっと気にしてたんだよ?
それでも指導碁をお願いしにヒカルのところに通ってた……」
「あかり……」
「本当にわがままなのは、私なんだよ。
……だって、私まだ子どもなんだもん。
ヒカルと違って、働いてお金を稼いでるわけじゃない。
自分一人じゃ何もできない……。
お父さんやお母さんに『ヒカルの迷惑だから止めなさい』って言われたら、
『将来のためにならないから今は勉強しなさい』って言われたら、
私は言うことを聞かないといけないんだと思う」
「……」
「でも、そんなの私は嫌。絶対に嫌だ。
今日のヒカルと同じで『それでもヒカルと囲碁がしたい!』って言い張っちゃうよ」
あかりは胸のうちを一気に吐き出しきって、ヒカルに花が咲いたような笑顔を向けた。
そしてどこか勝ち誇ったような調子で「……ね? 私の方が、わがままでしょう?」と言葉を結ぶ。
本来であれば輝かんばかりの笑顔は、あかりの大きな目から溢れ出した二筋の涙で輝きを曇らされていた。
あかりの言葉に対して、反駁してやりたいことがヒカルにはいくつもあった。
しかし、あかりの
あかりが求めているのは、そんなものではないから。それがわかったから。
「あかり」
ヒカルはそっと立ち上がると数歩前に出て、あかりに自分の下へ来るように手招きをする。
手を貸す気にはなれなかった。あかりが自身で立ち上がり、来ることをヒカルは望んでいた。
「ヒカル……」
あかりがチェーンを固く握りしめていた手をなんとか解いて、ふらつきながら自身の下へ来るのをヒカルは辛抱強く待った。
無事に目の前に辿り着いた幼馴染の頬へ、ヒカルは優しく手を添え、涙を拭う。
「今日はもう、泣くな」
「うん……」
あかりの返事に反してしばし降り続ける涙雨だったが、ヒカルが幾度となく拭っている内にそれも止んだ。
涙が取り去られた後もヒカルが優しく頬を撫で続けていると、不意にあかりが目を閉じて、心持ち顔を上に向ける。
ヒカルにはそんなあかりの姿が愛おしく思えて。あかりの頬へ一つ、二つと唇を落とした。
「しょっぱいな」
「……?」
目を開き、不思議そうな顔で自分を見上げるあかりへ、ヒカルはニヤッと笑い、反論を押しつぶすように抱きしめた。
「あかり。俺たち、気が合うな?」
「……ひ、ヒカル?」
「でもな。おまえはわがままなんかじゃないぜ。
あかりを散々振り回す俺に、昔からよく付いてきたよな。
何の得にもならないのに、俺のフォローを一生懸命してさ」
あかりがわたわたと身じろぎするたびに、ヒカルはぎゅうぎゅうとあかりを抱きしめて。儚い抵抗を完璧に封じながら言葉を続ける。
ちょっと、いや大分『おもしれえ』と思いながらヒカルがあかりを抱いているのは。感情をかき乱してくれやがる言葉を、散々にぶつけまくってくださった幼馴染への仕返しだったりするようだ。*3
「あかりがわがままだったら、世の中の人間はみんなわがままってことになっちまう。
けど、優等生のあかりと、トラブルを起こして回る俺。
おまえと俺でこんなに違うのに、肝心な時にはこうやって意見が合うんだ」
「うん……」
「さっきあかりは、幼馴染は付き合いが長いだけって言ってたよな。
本当は俺もそんな風に考えていたけど……けどな?
たぶん、それは間違いだったんだ」
「まちがい?」
「ああ。
長く一緒にいられるのには、ちゃんと理由があるんだ。
今日だってそうだろ?
俺とおまえで
「……ぁ」
「あかり。
昔の俺と知り合ったのがおまえだから、俺の隣にはこうして幼馴染がいる。
幼稚園の頃の知り合いなんて、俺はおまえ以外はとっくの昔に忘れちまってる。
幼馴染があかりなんじゃない。あかりだから、幼馴染なんだ」
「…………ヒカルぅ」
「だからさ。付き合いが長いだけなんて、もう言うなよ?
って、おい。
あかり、泣くなよ……」
「な、泣いてないっ。
これは嬉し泣きだから、泣いてないもん」
ちょっとよくわからない言い訳で強行突破しようとするあかりの姿に、ヒカルは『やっといつものあかりに戻ったか』とくつくつ笑いながら頭を撫でた。
一頻り
そしてあかりに手を差し出しながら、からっとした調子で刻限を告げた。
「明日も早いし、そろそろ帰ろうぜ」
「う、うん」
その瞬間まで存在したはずの、『なんとなくいい雰囲気』があっという間に消え去ったことに目を丸くするあかり。
そんなあかりがおずおずと伸ばした手を素早く捕まえ、ヒカルは自宅へ向けて歩き出す。
(キス、唇にしてくれなかった……。
やっぱり私は、ヒカルにとって恋愛対象じゃないのかな。
……でも不思議。以前だったら、それですごくショックを受けていたはずなのに。
今はただ、ヒカルが頬へキスをしてくれたことが嬉しい。
ヒカルに特別だって認めてもらえたことが嬉しい。
ヒカルにべったりだった幼い頃よりも、私とヒカルの心はずっと近づいている気がするの。
ねえ、ヒカル。ヒカルはどう思ってる?
こんなところでも、『気が合う』関係でいられたら嬉しいんだけど……)
二人揃って仲良く沈思黙考しながら、ゆるゆると歩みを進めていく。
公園からあかりの家までは数百メートルほどの距離しかない。
たとえ牛歩であっても、二人は5分と経たずにあかりの家に到着できてしまうのであった。
そしてあかりの家まで着いて、そこでようやくヒカルは考えていたことを口にする。
「なあ、もうすぐ誕生日だろ」
「えっと、そうだよ。覚えてたんだ」
「あー、まあな。*4
それで、何か欲しいもんあるか?」
「くれるの?」
「こうして聞くからにはな。
……俺にあげられるものを言えよ?」
あかりはヒカルの言葉に顔を上げ、まじまじとヒカルを眺めた。
(ヒカルにあげられるものなら、何でもいいの?
……それって、すごいよ)
最初は戸惑ったような顔をしていたくせに、今はどことなく浮かれた雰囲気でこちらを見て、うんうん悩み始めたあかり。その現金な姿に、ヒカルは思わず苦笑する。
「すぐに考えつかないなら──」
「……棋譜」
「うん?」
「私、ヒカルの棋譜が欲しい」
「は、棋譜ぅ?」
なんでそんな珍妙な要望になるのか……と変なものを見る目を全く隠さないヒカルに、あかりは懇懇と訴える。
「私、まだ全然ヒカルのことを知らないんだなって。最近そう思うことがあって。
週刊碁もヒカルの対局は結果しか載せてくれないし。
本当は去年も『ヒカルの棋譜で勉強したい。ヒカルの棋譜を解説して』ってずっと思ってたの。
それに」
「だぁっ! わかった、わかったよ。
プレゼントは俺の棋譜な?
ったく。プレゼントにそんなもんを欲しがるなんて、あかりだけだぜ……」
怒涛のようにほとばしり出たあかりの❞棋譜がほしいトーク❞に、ヒカルは早々に白旗をあげた。
内心ちょっぴり『悪かったよ。棋譜を載せてもらえないペーペーで』と拗ねてもいたのだが。
それでも『棋譜を渡してそれで終わりじゃ、あかりがかわいそうだろ』と思い直したヒカルは、念を入れて次の約束をする。
「ってもなあ。あかりの誕生日はおじさんとおばさんが祝ってくれるだろうし……。
あかり、来週の予定は空けとけよ。俺たち二人で適当にどっか行こうぜ」
「え……?
わ、わかった。予定は、空けとくね」
「うん。じゃあ帰るわ。
またな、あかり」
最後の最後に誕生日デート*5という特大の約束を、一方的に押し付けて帰っていくヒカル。
『今日はもうこれ以上何もなくて、このまま家の前で別れて終わるんだろうな』と考えていたあかりは呆然とヒカルの背を見送っていたが、数メートルほどヒカルが離れたところで何とか返事をする。
「……ヒカル!
ありがとう! 来週、楽しみにしてる!!」
「ああ」
あかりの言葉に一つ頷いて、そのまま帰っていったヒカルを最後まで見送るあかり。
門扉を開けて家に入るヒカルの背に、もう一度「ヒカル……また来週」と呟いて、あかりは空を見上げる。
(また来週も……だね。
私とヒカルの間でそれが当たり前になっていることが、本当に嬉しい。
今日もありがとう。そしておやすみなさい。ヒカル)
脳裏に描いた想い人へもう一度挨拶をして、幸せそうに微笑むあかり。
小さな恋模様を、こと座のベガが見守っていた。
・ヒカルがあかりの頬にキスをしたのは『なんとなく』です。
特に理由はありません。(ヒカルの主観では)
・今更ですけど、原作のヒカあかでは見られなかったような場面を書きたくて書いてます。
ヒカルが佐為との離別やプロの世界で揉まれることで精神的に成長して。
一足先に大人っぽくなっていたあかりへ追いついた(追い越した?)イメージです。
でも碁バカなところは変わらないし、まだ10代だし。
あまり洗練されてるのもおかしいですよね……バランスが難しい。
・こと座のベガは織姫の星だそうです。5月の星座にあったので採用しました。
織姫様は年に一度しか想い人に会えないのですが。
一週間に一度のあかりも応援してくれる……といいね。
・アンケートへのご協力ありがとうございます。
開設の期限ですが、結果閲覧用以外の回答が100に達した時点で閉めたいと思ってます。
・何やらルーキー日間に載せていただいてたみたいです。
応援してくださり本当にありがとうございます。
R-18版の需要はありますか?
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あかりを性的に食べるヒカル……ありだな!
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やっぱりヒカあかはプラトニック路線で。
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