【ヒカあか】報われない恋でもいいから   作:無名のヒカあか好き

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「幼馴染が相手でも、わからないことばかり」

 

好きで、好きで、好きで。

 

 


 

 

 ヒカルから連絡があったのは翌日の朝、日曜日の9時過ぎだった。

 

 週末の課題も早々に終わらせ、翌週の授業範囲を予習しようと教科書を広げてはいたものの、あかりは昨日の失意から全く立ち直れていなかった。

1ページも進まない教科書を前にぼんやりと座っていたあかりは、不意に鳴った携帯をあたふたと開いて、そして液晶画面に表示されたヒカル(想い人)の電話番号に硬直する。

 

 数瞬、画面を凝視して深呼吸をしてからあかりは通話ボタンを押下した。

 

 

「……はい。藤崎です」

 

「あかり? おまえさぁ、せっかく番号教えてるんだから家じゃなくてこっちに電話しろよ」

 

 

 なんとか電話対応したあかりの耳に飛び込んできたのは、遠慮も会釈もない幼馴染の文句の言葉。

それでもあかりの胸に去来したのは『ヒカルの声だぁ……』という歓喜の感情だった。

 

 あかりは声が震えてしまわないよう、懸命に自己を抑制しながらヒカルの言葉に応える。

 

 

「あ、うん。ごめんね。

 昨日電話した時はお昼ご飯の時間も過ぎていたから、ヒカルが仕事中だといけないと思って……」

 

 

 あかりの言葉に嘘はなかった。

しかし昨日の電話が一般に昼休みと思われるような時間帯であったとしても、それはそれで『ヒカルの食事を邪魔したくない』と日和ってしまったであろうことも、また事実なのだが。

 

 そんな幼馴染の考え過ぎとしか思えない発言に対して、ヒカルは呆れたように返す。

 

 

「おまえからの電話が迷惑とか思うなら、そもそも番号を教えないって」

 

「そうなんだ……ごめんね」

 

「まあいいけどさ。あかり、今日は暇?

 暇ならうち来いよ。久しぶりに打とうぜ」

 

「う、うん。特に予定はないけど……何時頃行けばいい?」

 

「いつでもいいよ。今日はずっと家に居るから」

 

「わ、わかった。じゃあ、10時頃に行くね」

 

「オッケー。俺も今から朝ごはん食べるし、それくらいがいいや。

 じゃ、また後でな」

 

 

 通話は最初から最後までヒカルのペースで終わり、一方的に切られる。

あかりは役目を果たした携帯をそっと畳んで胸に抱えた。

 

 

「夢じゃない、よね」

 

 

 小学生の頃のあかりであればヒカルのマイペースさに文句の一つは口に出ただろう。

しかし現在のあかりには違うものが見えていた。

 

 

「ヒカル、優しかったな。……変わらないね」

 

 

 うじうじと考え込んで、連絡をすることすら怖くなっていたあかりに気づいて、遠慮しなくてもいいんだと教えてくれたヒカル。

幼馴染が見せてくれた不器用な優しさに、思わずあかりは目に涙を浮かべてしまう。

 

 

「準備、しないと」

 

 

 あかりはうっそりと息を吐いて想い人の美徳に触れた感動に浸っていたが、約束の時間までそれほど余裕がないことに思い至り、席を立つ。

そしてそのまま鏡の前へ移動して身だしなみを整え始める。

 

 

「おでこにニキビができちゃったんだよね……。

 絆創膏を貼って、前髪で隠せるかなぁ?」

 

 

 前日の睡眠の質が良くなかったせいか、ニキビができてしまったことにがっくりと肩を落としながら、あかりはケアクリームを塗って絆創膏を貼る。

できるだけそれが目立たないようにヘアピンを何度かつけ外しして、納得できる仕上がりになったところで一つ頷いた。

 

(お化粧のしかたも勉強しておけばよかった。校則で禁止されてるからって無関心すぎたよね……)

 

 せめてこれだけでも、とあかりは色付きのリップクリームを唇へ塗った。

次の問題は何を着てヒカルの家を訪ねるか、である。

服が決まればバッグが、それに入る持ち物が、靴が……と続く。女の子は大変なのだ。

 

 残り数十分ほどしか猶予が無いため、大変に慌ただしい。

それでもあかりは早くヒカルに会いたかった。

本当は「今すぐ行くね」と言いたいところをとっさの自制心で1時間遅らせたのだ。

バタバタと準備をしながら、あかりは最近は見せることがなくなっていた明るい笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「お邪魔します」

 

 

 インターホンを鳴らしたところ、ぶっきらぼうに「鍵は開いてるから」とだけ言われ、あかりは遠慮がちにヒカルの家に上がる。

靴を脱ぎ『これからどうしよう』ときょろきょろしているあかりに、ヒカルが居間から顔を出して声をかけた。

 

 

「よお、久しぶりじゃん。元気だった?」

 

 

 あかりはデートに臨むような気持ちで精一杯のお洒落をしてきたのだが、ヒカルはそんなあかりの姿を興味深そうに眺めた後、何の変哲もない挨拶をした。*1

何か言われるんじゃないかとドキドキしていたあかりの肩の力がそれでふ、と抜ける。

 

 

「うん。元気だったよ。ヒカルは?」

 

「バッチリ。今年は風邪もひかなかったなぁ」

 

「今年は……? 今年もじゃないの」

 

「言ったな。あかりが風邪ひいたらバカにしに行くから」

 

「じゃあ私はヒカルにうつして治しちゃうよ」

 

「残念、俺は風邪ひかないんだ」

 

 

 ヒカルのひょうきんな態度にきゃらきゃらと笑って「もう、何それ!」と応えるあかり。

何でもない会話を通じて厳しい冬の寒さに凍りついていた二人の関係が、あっという間に溶け出していくのをあかりは感じていた。

 

 

「ここで話してても仕方ないし、俺の部屋に行こうぜ」

 

「うん。……今日はおばさん達は?」

 

「出かけてる。夜まで帰って来ないって」

 

「そうなんだ。

 ヒカル、今日のお昼はどうするの?」

 

「あかりを呼ぶ前は適当にどうにかするつもりだったけど。

 まあ、それは後にして打とうぜ」

 

「わかった。

 ヒカルに打ってもらうのは久しぶりだね。すごく楽しみ」

 

 

 楽しげに会話をしながらヒカルの私室に入り、手際よく対局の準備をしていくヒカルとあかり。

 

(ヒカルの家で二人きりなんて、昨日までの私だったら絶対におかしくなっちゃってたなぁ……。

 でもヒカルは全然意識してないみたいだし、私も今、すごく嬉しくて楽しい。

 ヒカルと囲碁ができる、この幸せを大切にしよう)

 

 あかりは疎遠になってしまっていたことへの焦りや寂しさは一時忘れることにして、正面のヒカルへと頭を下げる。

 

 

「「お願いします」」

 

 

 と、まあ。幼馴染二人の、当人同士の関係はこれはこれで良いのであるが。

後に年頃の少女(あかり)を親のいない間に部屋へ連れ込んでいたことを知った、ヒカルに対する美津子の目線はお察しの通りである──

 

 

 

*1
ヒカルは「綺麗になったな」と言いかけては止め、次いで「あかり、小さくなったんじゃね?」とからかいの言葉を口にしかけては止めている。自制心を複数回発動した結果の第一声がこれ。





・ヒカルから折り返し連絡があったのは、美津子さんがヒカルへ『土曜日にあかりが待っていたこと』を伝えたからです。
次話の本文中でもう少し詳しい描写を入れたいところ。

・『ヒカルは佐為との記憶がたくさん残っている部屋から出て行きたくないんじゃないか……』という説が個人的に解釈一致だったので二十歳くらいまで実家で暮らしているイメージ。

・あかりちゃんのイメージソング『ずっとこのまま』を聴きながら書いてたら、ヒカルがびっくりするほど優しくなっていく……。
でも今のところはあかりちゃんの片思い。
大切な幼馴染に対する普通の優しさ*1ですね。
優しさを素直に表現できるようになったのと、世間一般の常識に照らせばあかりちゃんみたいな子はそういない……ということを理解するようになったということで。
原作後のヒカルならこれくらい成長しててもいいよね。
うちのヒカルは今後もこんな感じで、あかりちゃんを笑顔にし続けます。


*1
ヒカル基準

R-18版の需要はありますか?

  • あかりを性的に食べるヒカル……ありだな!
  • やっぱりヒカあかはプラトニック路線で。
  • 回答しない(アンケ結果の閲覧用)
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