【ヒカあか】報われない恋でもいいから   作:無名のヒカあか好き

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「幼馴染であることを疑わずにいた頃に、戻りたくなったりもする」

 

ヒカルのためなら、何でもできるよ。

 

 


 

 

 ヒカルとあかりは肩を寄せ合って座りながら、内緒話をするような声量でお喋りをしていた。

 

 

「──それでね、もう優香里*1は石の形を覚えてるんだ。

 置き石をすれば対局もできるようになってるの」

 

「そいつ、元運動部だろ?

 高校から始めて半年続いてるのは珍しいかもな……良い友達じゃん」

 

「うん。だから優香里にはもっと囲碁を好きになって欲しくて。

 優香里は石を取るのが好きみたい。

 だから、最近は楽しく石を取りながら勝てるように打ってあげてる」

 

「ふぅん……」

 

 

(あかり、気付いているか? それって立派な指導碁だぞ)

 

 さんざんに手こずったものの*2、ようやくヒカルはあかりを泣き止ませて、元の話題へ回帰することに成功していた。

ちなみにこの過程で、あかりは自分の恋心が暴かれたわけではないことを理解して、内心ホッとしてもいる。まあ、ヒカルの鈍さにモヤモヤもしているのだが。

 

 話題はヒカルがあかりを泣かせたことで中断されていた、あかりが棋力を伸ばせた理由について……である。

意外にも、このテーマがヒカルに与えた刺激は小さくないものだった。

 

 

「棋譜並べ、詰め碁、そして初心者への指導……か。

 それでちゃんと強くなれるんだよな」

 

 

 嘆息するようにしてヒカルはあかりの言に応えた。

 

(そして、熱意を持って継続して取り組んだこと、だな。

 結局『無駄なこと』なんて何も無いってことか。

 ……最近の俺は、手合いのことだけで頭がいっぱいになってなかったか?

 塔矢と違って未だリーグ戦に出場できてないことで、ずっと焦っていたよな。

 そのせいで相手の棋風の分析や、その対策に時間を割き過ぎていたかもな。

 

 ……あかりに教えられちまったなあ)

 

 反省することしきりといった心境に陥ったヒカルは、そっとあかりの手を握った。

そして無言で、この健気でかわいい幼馴染の指を撫でる。

 

 

「……ヒカル?」

 

「いや、あかりの手も碁打ちの手になってきたな……と思ってさ。

 あかりはよく頑張ってるよ」

 

「あ、ぅ……うん」

 

 

 想い人にいきなり手を握られ、褒められて。

ゆっくりと、だが確実に頬が紅潮していくあかり。

そんなあかりのことなど気にかけず、ヒカルは「よしっ!」と発声しながら腰を上げ、あかりの両腋に手を突っ込んで持ち上げた。

 

 

「え? え? ヒカル? な、なんで?」

 

「ははっ、やっぱりあかり、小さくなってるじゃん!」

 

 

 超弩級のセクハラムーヴを、彼女でもない相手に爆笑しながらぶちかまし、「軽すぎだろ」とトドメの一言を放つヒカル。

残念ながら、自分がどれだけヤバいことをしたのかをヒカルが自覚する日は、相手があかり(ヒカル大好き娘)であったため永遠に来ないだろう。

 

 そしてとことんマイペースなヒカルは、胸の内で超大型台風が暴れ狂っている(激しく混乱しているかわいそうな)あかりを抱きしめ、一心に自分を思ってくれている*3幼馴染の少女へ、飾らぬ思いの丈をぶつけた。

 

 

「こんなに小さいあかりが頑張ってるんだから、俺も頑張らないとな。

 あかり、一緒に頑張ろうぜ!」

 

 

 ヒカルに心も身体もめちゃくちゃにされて*4硬直していたあかりだが、しばらくして落ち着きを取り戻したのか、おずおずとヒカルを抱きしめ返す。

 

 

「……うん。

 私も、頑張る」

 

 

(囲碁も恋も、諦めないで、頑張る。

 これ以上ヒカルに置いていかれないように。

 ヒカルが何を考えてるのか、よくわからないけど……。

 何でもない相手を抱きしめたりは、しないよね?)

 

 方向性は随分と異なるものの、二人は決意を胸に秘め、熱い感情を燃やしていた。

あかりが『好き、ヒカルが好き』とぎゅうぎゅう抱きつく一方で、ヒカルは『こいつ髪は伸びたのに身長は全然だな。ちゃんとメシ食ってるのかな〜』と思いながら後ろ髪を弄ぶという締まらない光景ではあったが。

 

 言葉もなく抱き合っていた二人だが、ヒカルのいたずらが次第にエスカレートしてあかりの首筋を撫で始めたところで、あかりはむずがるようにヒカルの腕の中で身を(よじ)った。

内心で『あっ、ヤベぇ』と察したヒカルは、先手を取ってあかりに声をかける。

 

 

「あ〜、あかり。もう12時過ぎてるし、昼メシにしようぜ」

 

 

 続けて「どっか食べに行くか?」と言おうとしたヒカルだが、今日は何となく家から出たくない気分だったため、言葉に迷う。

その内にあかりは静静(しずしず)とヒカルの腕の中から抜け出して、自然な動きでヒカルの隣に戻り、ヒカルの提案に応えた。

 

 

「うん。あまり長くなかったけど、集中して打ったからかな。

 私もお腹空いちゃった」

 

「俺も。朝食べたのは9時過ぎてからなんだけど」

 

「そう言えば、ヒカルは私が来なかったらどうするつもりだったの?

 適当にすませるって言ってたよね」

 

「適当は適当だよ。ラーメンでも作って」

 

「えっ、料理するの? ヒカルが?!」

 

「いや、料理っていうかインスタントのだな……」

 

「そんなのダメだよ!

 ヒカル、いつもラーメンばっかりじゃん。

 それもインスタントなんて絶対ダメ!」*5

 

 

 流れるような会話の展開で、あかりからお小言をもらっていることに困惑するヒカル。

昼食にしようという何でもない提案が、どうしてこうなるのか。

 

 もちろんヒカルも、あかりの言うことが正しいことはわかっている。ヒカルも、未だ成長期であるからして。

だからヒカルは「あかりが来たんだから、もうしないって」と言い返そうとしては、「私がいなかったら適当なままなの?」と更に叱られる不毛な未来を予見して止め、「店屋物でも頼もうぜ」と提案しようとしては、『でも、あかり、俺が払おうとしたら絶対遠慮するよな……』と思い、割と頭を悩ませていた。

 

 

「わかったよ! じゃあ、あかり。昼メシ作って」

 

 

 悩んだ末にヒカルの口から出てきたのは、そんな提案だった。

思いついてしまえばいいアイディアだと思ったのか、ヒカルはあかりの反応を待たずに「昨日おまえが作ったのもうまかったし、いいよな。買い物に行くなら、これ使って」と問答無用であかりに財布まで押し付けてしまう。

 

 ヒカルの強引さにワンテンポ遅れたあかりだったが、言いつけられたことを理解するにつれ、ヒカルへのお小言モードが解除されて、代わりにじわじわと嬉しさがあかりの胸にこみ上げてくる。

あかりは緩んでしまいそうになる頬を必死で押さえつけ、できるだけ神妙な顔をしながらこくりとヒカルに頷いた。

 

 

「……うん。それでは、お買い物に行ってきます」

 

「おー。頼んだ」

 

 

 

 

 

 

(時間が時間だし、手早く準備できるものにしないと。

 それにヒカルは麺類が好きだし。パスタかなぁ……)

 

 最寄りのスーパーでてきぱきと買い物を進めていくあかり。

手にする買い物かごには栄養のことを考えて、お肉に野菜と多様な食材が入れられていく。

必要なものを揃えたところでレジに向かう途中、製菓コーナーの前でぴたりとあかりの足が止める。

そして数十秒ほど逡巡した後、あかりはチョコレートをはじめとした材料もかごに入れてレジに並んだ。

 

 

「えっと、ただいま戻りました……」

 

 

 ヒカルの家へ戻ったことになんと言えばいいのかわからず、小さく呟くように声かけしながら家へ上がり、あかりは急いで台所へ向かう。

昼食は簡単にパスタとサラダで済ませる予定だったが、あかりには他にもう一品作りたいものがあるのだ。

 

 ──そして複数の工程をオーバーラップさせ、割と修羅場としか言いようがない流れでなんとかお昼の用意を済ませたあかりは、ヒカルの部屋へ向かって「できたよー」と呼び声をあげる。

あまり行儀がよくないのはわかっていたが、シンクには洗い物がごっちゃりと溜まっていたし、配膳もまだ完了していない。

内心であかりは『おばさん、ごめんなさい。絶対に片付けて帰ります』と美津子へ謝罪をして、時計を見上げる。

時刻は13時半より数分前、あかりが買い物へ行く前に想定していた、ギリギリの時間だ。

 

 そしてあかりが配膳まで済ませて息を吐いたところで、ヒカルがダイニングに姿をあらわした。

 

 

「サンキュ、あかり。

 ……なんか甘い匂いがするな」

 

「うん。おやつにチョコマフィンも焼いてるの。

 ほら、スパゲティが伸びないうちに食べちゃお」

 

「ああ。いただきます」

 

「いただきます」

 

 

 半ば衝動的に追加した一品へさっそく言及されて、そのことを深く説明するのが恥ずかしかったあかりは、誤魔化すようにヒカルへ食事を促す。

もちろん、時間のない中あかりがわざわざチョコマフィンを焼いたのは、単なる思いつきではない。

 

 今年の2月14日、あかりはヒカルにチョコレートを渡せなかった。

より正確に言えば、手作りのチョコレートを渡せず、既成品で済ませていた。

当日にヒカルの対局が入っていることを把握していたため、あかりは手作りするのを控えたのである。

これは小学生の頃から毎年ずっとヒカルへチョコを渡し続けてきたあかりにとって、ひどく悲しいできごとだった。

過去のバレンタインは、嬉しい思い出ばかりではなかったけれど、それでもあかりからすれば幼馴染へ好意を伝えられる特別な日だったのだ。

 

 だからあかりは、バレンタインを過ぎてから数日の間は、何年か前のようにヒカルから「今年はチョコないの? あかりの手作りのやつ*6」と連絡が来ないかそわそわしていた。

あるいは、一言「モ○ゾフのチョコとか、手抜きじゃん*7」と不満を伝えてくれれば、たとえ数日遅れでも渡しに行くつもりだったのに。

ヒカルから何も言われないまま、ホワイトデーに例年とほぼ変わらないクッキーのお返しを母親経由で渡された時、あかりの心は折れた。*8

電話一つするのにもうじうじと悩んでいた今朝までのあかりは、このようにして生まれたのである。

 

 そのような機微な心情を、あかりが説明したくないのは当然のことである。

あかりに言われるがまま「うまい、うまい」とスパゲティを食べているヒカルを見て、あかりは小さく、安心したように笑った。

 

 

「──ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさま。うまかったよ。

 あかり、これ何て料理?」

 

「チキンソテーとトマトのスパゲティ……かな。

 思いつきで適当に作ったから、ナポリタンみたいなわかりやすい名前はないかも」

 

「じゃあ母さんに言うより、次もあかりに作ってもらう方がいいのか」

 

「え、うん。そうだね。また作るよ。

 ……

 …………ヒカル、私、洗い物をたくさん出しちゃったから。

 おやつは片付けが終わってからにしよ。

 その後で、もう一回ヒカルに対局をお願いしてもいい?」

 

「ああ。いや、悪いから片付けは俺も手伝うぜ」

 

「だ、大丈夫だよ。二人並んで洗い物するのは大変だと思うし」

 

「そっか。悪いな」

 

「いいの。私がしたくてしてるんだから」

 

 

 食事の後、ヒカルからもらった思わぬ言葉に、あかりは再び泣いてしまいそうになる。

 

(ねえ、ヒカル。私、またヒカルにご飯を作ってもいいの?

 ヒカルが言ってるのはそういうことだよ。

 今日のヒカル、絶対変だよ。

 どうしてこんなに優しいんだろう。

 やだ、またヒカルの前で泣いたら面倒な女だって思われちゃう……)

 

 涙をこらえる表情を見られないよう、俯きがちにしながらヒカルに部屋へ戻ってもらうあかり。

ヒカルが二階へ上がったのを確認してから、あかりはギュッと胸を押さえて何度か深呼吸をした。

それから目に滲んだ涙をぐしぐしと拭ったあかりは、むんと気合を入れ直して洗い物の山に取り掛かった。

 

 あかりがヒカルに泣かされそうになる機会はまだまだ残されているのだが……今のあかりにはそれを知る余地はどこにもないのであった。

 

 

 

*1
昨年の冬に囲碁同好会に入ったあかりのクラスメイト。

*2
涙を拭いて、肩を抱き寄せて、辛抱強く頭を撫でただけ。

*3
恋愛的な意味ではない。ヒカル目線では。

*4
事実。

*5
ヒカルがやろうとしていたのは具無しのインスタントラーメンで、あかりはそれがわかっているのでダメ出ししている。ノンフライ麺で野菜たっぷり……とかならお目こぼしされたはず。

*6
図々しい……。

*7
図々しい! なお、モ○ゾフのチョコはとてもナイスなチョコです。

*8
ヒカル → ヒカル母 → あかり母 → あかりの流れ。さすがに過去はこんなことはなかったはず。





・個人的なヒカあか萌えポイント①(※願望込み)
 ヒカルはヒカルなりにあかりのことを大切にしているし、ちゃんと愛情も抱いている。

・個人的なヒカあか萌えポイント②
 ヒカルにだって性欲があるし、えっちな本も一冊くらいは持ってるし、自慰行為の経験もある。
 でも、あかりのことをエロい目で見たことはない。

・今更だけど作者は囲碁ができないので囲碁関連のパートはフィーリングで読んでね(小声)
 一応は棋院のホームページやらを参考にしながら書いてますが……。

・書けば書くほどヒカルがクソボケになっていく悲しみ。
 だからアンチ・ヘイトタグが必要だったんですね(メガトン碁石)

R-18版の需要はありますか?

  • あかりを性的に食べるヒカル……ありだな!
  • やっぱりヒカあかはプラトニック路線で。
  • 回答しない(アンケ結果の閲覧用)
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