【ヒカあか】報われない恋でもいいから   作:無名のヒカあか好き

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「幼馴染のかわいさは、実は十分にわかっている」

 

おまえって本当に、俺のことが好きだよな。

 

 


 

 

 ──コンコン

 

 あかりは二階に上がり、ヒカルの部屋の扉をノックする。

 

 

「あかりー? どうしたー?」

 

「ヒカル、お茶の準備ができたから。どうかなって」

 

「ん、今いくー」

 

「うん。待ってるね」

 

 

 ヒカルに声かけを済ませたあかりがダイニングに戻り、キッチンタイマーを確認するとティーポットにお湯を注いでから一分半が経過していた。

今からカップに注いだ湯を捨てて紅茶を注いでいけば、抽出にかけたのはおよそ二分ほど。

理想的な抽出時間であることに、あかりは「よし」と小さく頷いてカップを持ち上げた。

 

 

「──ヒカル、おまたせ」

 

「サンキュ」

 

 

 あかりが茶器を手にしている間に席に着いていたヒカルへ、マグカップを差し出す。

 

 

「あれ。母さんのティーセット使わなかったんだ」

 

「うん。おばさんが大事にしてるみたいだったから、勝手に使うのはよくないと思って。*1

 ティーポットだけ借りたの。

 それにヒカルも、ティーカップとソーサーで出されるより、こっちの方が好きでしょう?」

 

「まあな。それでこれがさっき焼いてたやつか。

 ……俺にちょくちょくくれてたお菓子も、本当にあかりが手作りしてたんだな」

 

「もう。何それ!」

 

「いや、小1か小2の頃から、毎年あかりにバレンタインをもらってただろ?

 実はガキの頃『これはあかりのお母さんが作ってるんだ』って思ってた。

 昔からずっと、自分で買って食べるお菓子よりうまかったからな。

 さすがに中学に入る頃には、そんなこと考えなくなったけど」

 

 

 ヒカルの衝撃的な告白に、「もう、私は怒ればいいの? 嬉しく思えばいいの?」とあかりはくすくす笑う。

目尻に薄く浮かんだ涙をさりげなく拭って、あかりは続けた。

 

 

「でもよかった。ヒカルにそう言ってもらえて。

 ちゃんと喜んでくれてたんだね」

 

「……悪かったよ。素直に礼も言えないクソガキで。

 ああ、学校で『いらねえ』って言いながら、

 放課後あかりの家に『くれよ』って行ったりもしたよな。

 ハハ、俺ってあかりに酷いことばっかりしてるのな」

 

「ううん、いいの。

 だってヒカルは、最後には必ず受け取ってくれたから……」

 

 

 言葉を切って潤んだ目でヒカルを見つめるあかり。

 

 脳裏に蘇るのは放課後、小学校の校門前で、チョコを差し出したあかりに『いらねえ!』と叫んで拒絶するヒカルの姿。

それが悲しくて、当時のあかりはヒカルを置いて帰ってしまったのだった。

帰宅後の玄関であかりが泣きじゃくっているとチャイムが鳴って、扉を開けたらヒカルが『チョコ、くれよ』と手を差し出してくれた。

 

(息を切らせて私を追いかけてきたヒカルの姿は、この先何があっても、絶対に忘れることがないんだろうな……)

 

 何しろあの頃のヒカルはあかりよりもずっと背が低くて。

だから、あかりのことを必死で追いかけてくれたに違いないのだ。

 

 ヒカルはそんなあかりと数秒見つめ合った後、ふっと笑って、「食べようぜ。あかり、去年くれたケーキよりうまくなってるんだろうな?」とからかうように誘った。

 

 

「ふふ。それは食べてからのお楽しみだよ。

 いただきまーす」

 

「いただきます。

 ……うん。うまいよ」

 

「そうだね。我ながら上手にできたかも。

 あ、おかわりもあるからね」

 

「ああ。サンキュ」

 

「でも10個は作りすぎたかな。*2

 ヒカル、どうしよっか? 食べきれないなら何個か持って帰るけど……」

 

「いや、母さんと父さんも食べるだろうし。余っても俺が全部食うからいいよ」

 

「そう?」

 

 

 早速2個目のマフィンをぱくつきながら「あかりのは甘すぎないのがいいんだよな」と呟くヒカルを、あかりは『幸せだなあ』と思いながら眺めた。

 

 そうしてしばらく、あかりが微笑みながらヒカルの健啖ぶりを見ていると、不意にヒカルが顔を上げ、何でもない風にあかりの心を揺さぶる質問をしてくる。

ヒカルはヒカルなりに思うところがあっての言動なのだが……。

 

 

「そう言えば、あかり」

 

「うん?」

 

「変な質問かも知れないけどさ。彼氏でもできた?」

 

「……

 …………えっと。どうしてそう思ったの?

 あ、彼氏はできてないよ」

 

 

 よりにもよってヒカルから恋愛関係の話題を振られると思っていなかったあかりは、一瞬頭が真っ白になるが、ここで咄嗟ながらほぼ満点の回答をしてみせる。

特に『彼氏がいない』ことを誤解の余地なく伝えられたのは、ヒカルとあかりのどちらにとってもファインプレーであった。

 

 目を丸くして、心底驚いたという表情を浮かべているあかり。

その様子をじっと見て、あかりの言葉に嘘がないことを確認したヒカルは、質問の意図を説明する。

 

 

「いや、今年のバレンタインは手作りじゃなかったからさ。

 あかりに彼氏でもできて、そいつに気でも遣ってるのかって思ったんだ。

 それだけ」

 

「なんだ、そんなこと?

 今年の2月14日は、ヒカルは対局が入っていたでしょう。

 当日に渡せるかわからなかったから、手作りじゃないほうが安心かなって思ったの。

 それにしてもヒカルがそんなことを考えるなんて……」

 

 

 不意に心の柔らかいところへ踏み入られて、ドキドキと高鳴る胸の鼓動を悟られないように、あかりは「ヒカルも大人になったんだね」と殊更に笑って見せた。

 

 

「ちぇっ。俺だって、少しは人間関係ってやつを考えるんだぜ」

 

「ふ、ふふっ、ふーん。そうなんだ?」

 

「なんだよ。その変な笑いは。

 だったら、あかりの方こそどうなんだよ。

 俺以外に誰かチョコを渡すような相手はいるのかよ」

 

「……ぃ、いるもん」

 

「ほ〜、ふぅん。で、それは誰?」

 

ク、クラスの友達とか……

 

「男の?」

 

……女の子、です

 

「女の子に? 手作りのチョコを?

 あかり……おまえ……」

 

「ち、ちがうもん! 買ったやつ!!

 ヒカル以外は義理チョコなの!」

 

「へえー」

 

 

 ヒカルにニヤニヤとした意地悪な笑顔で見られ、あかりは自分が売り言葉に買い言葉でとんでもない発言をしてしまったことを悟る。

 

 顔を耳まで赤くして「ちがうの。ちがうの」と机の上で頭を抱えるあかり。

さすがにからかい過ぎたか……とヒカルが謝るタイミングを計っていると、突如がばりと顔を上げてあかりは早口で弁明した。

 

 

「違うんだよ。ヒカルには小さい頃からバレンタインをしてたから、それが当たり前になってたというか。確かに見方によってはそれが特別扱いに見えるのかもしれないけど、それは私がヒカルにチョコを手作りしてあげたかったからそうしてただけで。あくまでも私はチョコを手作りしたかったのそしてヒカルにあげたかったの。わかるよね? だからヒカルのことが好きとかそういうのとは限らないというか、そう大切な幼馴染だから好きというか、そういう気持ちを伝える日だから」

 

「あ〜……。あかり、大丈夫だから。

 わかってるよ。

 俺も毎年あかりから本命をもらってきたなんて、そんなに自惚れてねーよ」

 

 

 ヒカルは苦笑しながら、「大体俺、ガキの頃からあかりに冷たくしたり、泣かせてばかりだしなあ」とぼやく。

そしてヒカルは「結局、俺もあかりも。まだ彼女とか彼氏とか、あんまり興味がない感じか」と言葉を結んだ。

 

 辛うじて窮地は脱したものの、なんだか非常に不本意な方向で話をまとめられてしまったことに、あかりは微妙な表情を隠せない。

『もう、このまま勢いで告白しちゃったほうがよかったのかな……』と内心ガックリしつつも、『でも、ここで振られたら悲惨すぎるよ。久しぶりにヒカルと遊べてすごく幸せな気持ちなんだから、今日はこれでいいよ』と思い直した。

 

 

「……そうだよ。

 同級生の子たちは合コンに行ったり同じ部活の男子と付き合ったり、

 そうやって彼氏を作るみたいだけど……

 私は今日みたいにヒカルと遊べたらそれで十分幸せなんだよ。

 バレンタインだって、ヒカルにあげるのがいいの」

 

「……そっか。

 まあ、俺もおまえといっしょにいると落ち着くし、楽しいよ」

 

 

(あかり、ずっと昔から俺の後ろをうろちょろしてきたよな。

 こいつはそれが楽しいんだって言うけど……

 俺、あかりのことをあんまり大切にしてこなかったよなあ)

 

 そこでヒカルは、マフィンを一口ぱくりと頬張り『やっぱりおいし〜♪』と言わんばかりにほにゃっ(・・・・)と緩んだ顔をしているあかりを見つめ、おもむろに切り出した。

 

 

「なあ、あかり。おまえ何か欲しいもんとかある?」

 

「えっ? 急にどうしたの、ヒカル」

 

「いや、俺っておまえにもらってばっかりじゃねえ?

 ……あれだ。ホワイトデーなんかも毎年適当に済ませてたことに気付いちまったっていうか」

 

 

 神妙な表情で申し出るヒカルに、あかりはできるだけ気楽な調子で返す。

 

(私は、ヒカルにそんな顔をしてもらうためにやってきたわけじゃないんだよ。

 ヒカルには、明るく笑っていて欲しいなあ)

 

 

「ヒカル、そんなの気にしなくていいよ。

 私がやりたくて勝手にやったんだから、ヒカルが無理に気を遣わなくても大丈夫だよ」

 

 

 これはあかりなりにヒカルを思いやった言葉なのだが、しかしこの答えはヒカルを苛立たせるだけだった。

ヒカルが『あかりをもっと大切にしないとな』と申し出てるのに、本人が自分を低く見ているのだから、さもありなんといったところか。

 

 

「だぁーっ、今はそういうのはいいんだよ!

 あかりだって欲しいものとか、俺にして欲しいこととか、何か一つくらいはあるだろ?

 なんでもいいぜ? だから言ってくれよ」

 

「……なんでもいいの?」

 

「おう」

 

「じゃあ……じゃあね? ヒカルに指導碁して欲しい。

 さっきはもう一回って言ったけど、やっぱり二回……ううん、三回して!」

 

「……そんなのでいいのか?」

 

そんなの(・・・・)がいいの!」

 

 

 あかりが頬を膨らませながら「もう、ヒカルは自分の囲碁の価値が全然わかってないんだから」と不満をこぼす姿に、ヒカルは苦笑しながら「わかった、わかった。じゃあ、上に行こうぜ」と返した。

 

 ヒカルが席を立った瞬間、膨らんでいたあかりの頬がしゅるるんと元に戻って「はーい。ヒカル先生」とおどけるのに、思わずヒカルは噴き出して「あかりのそういう姿は珍しいな」と大笑いしながら階段を昇っていく。

 

 あかりはそんなヒカルの後を幸せそうに追いかけていくのであった。

 

 

 

*1
近い将来「自分の家だと思って、台所の物は好きに使っていいのよ」と美津子から言ってもらえるが、今のあかりにはそれを知る由もない。

*2
製菓する際に少量作ろうとするのは、却って手間だったり、コスパが悪くなることも多い。






・個人的なヒカあか萌えポイント③(※願望込み)
 あかりの周囲にいる女性陣*1は全員あかりの恋心に気付いていて暖かく見守っている。


・これまで某ソシャゲの叡智な小説を1万字を目安にポツポツ投稿してきたのですが、
 どうしてもブランクがあると筆が止まりがちになってしまい……。
 今作では文字数にこだわらず、コンスタントに投稿するやり方を試しているところです。
 読み応えが足りなかったり、どこまで読み進めたか混乱されるようでしたら申し訳ない。
 よろしければ、しおりのご活用をお願いします。
 お気に入り登録もしてもらえたらめっちゃ嬉しいです(YouTuber感)

*1
母親とか姉とか。

R-18版の需要はありますか?

  • あかりを性的に食べるヒカル……ありだな!
  • やっぱりヒカあかはプラトニック路線で。
  • 回答しない(アンケ結果の閲覧用)
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