【ヒカあか】報われない恋でもいいから   作:無名のヒカあか好き

7 / 12
「幼馴染としておまえと一緒にいられる、それはとても幸運なことだと思う」

 

あかりがいなかったら、今頃俺はどうなってしまっていたんだろうな。

 

 


 

 

「ヒカルくん、どうかしら。これで足りる?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「ははは、ヒカルくん。遠慮せずに好きなだけ食べて行きなさい。

 今日は母さんもヒカルくんのためにはりきって支度していたようだから。

 特に私はこのイワシのグラタンが好きなんだ。

 ワインを飲みすぎるからと、普段はあまり作ってくれないんだが……」

 

「もう、お父さん。

 そんなにあれもこれもって薦めても、ヒカルだって食べきれないよ」

 

「いや、あかり。このくらいの歳の男子は本当によく食べるんだよ」

 

 

 あかりと連れ合って藤崎家を訪れたヒカルは、現在あかりの両親から大歓迎といった雰囲気でもてなしを受けていた。

夕方にあかりから「今日の夜ごはん、ヒカルも一緒に私の家で食べてもらっていい?」と連絡があり、それに燈華*1が肯いた時には、成実*2は何やら重苦しいオーラを放っていたはずなのだが。

 

 しかし成実がはじめに振った「仕事はどうだい? そんなに若い頃から働いてると苦労も多いだろう」という平凡な話題に対する、ヒカルの実感の篭もった「地方のイベントも多く、移動が大変ですね」という応え。

成実の関心を引いたそれから、何故か駅弁やビジネスホテルの当たり外れをネタにして二人は大いに盛り上がり、またたく間に打ち解けていた。

もっとも、ヒカルが平素の姿からは信じられないほど礼儀正しくしていたことも、大きな要因だと思われるが……。

 

 一方、あかりの父とヒカルが歓談している隣で『ヒカルをお父さんに取られた』と内心でうーうー唸りつつ、食事を摂っていたあかり。

だが、成実が上機嫌であかりの昔話を始めたところで『もう、お父さんは……』と恥ずかしげに俯き、ピタリと箸を止める。

 

 

「あかりは昔から、ちょっと抜けたところがあってね。

 あれは幼稚園の何組の頃だったかな。近所の公園に行くのにも迷子になったことがあるんだ。

 覚えているかな? その時にあかりを連れて帰ってきたのがヒカルくんだよ。

 思えばそれ以来、あかりはヒカルくんにくっついて回るようになったんだなあ……」

 

 

 かわいそうに。ほろ酔いの父親から羞恥エピソード*3を暴露されてしまったあかりは、顔を真っ赤にしてちらちらとヒカルを横目に見てはさっと顔を伏せるという、不思議な動きを繰り返すことになる。

そして何度目かにヒカルの顔を盗み見た時、ついにヒカルと目が合って。

そこでヒカルから優しく微笑みかけられたあかりは、びくりと体を震わせて、今度こそ下を向いて顔を上げなくなってしまった。

 

 そんなあかりの醜態を、ほのか*4はこれ以上は見ていられない、とばかりに助け舟を出した。

 

 

「ほら、お父さん。

 そうやってお喋りに巻き込んでたら、二人ともいつまで経っても食事が終えられないでしょ」

 

 

 ほのかはそう言って素早い手付きで成実からワインボトルを取り上げ、「もうすぐお父さんが見てるドラマも始まるし、晩酌の続きはリビングでしよ」と続けた。

 

 上の娘からの強引なアプローチに「だが、今日はせっかくヒカルくんが……」と抵抗していた成実だが、「なによ。実の娘が晩酌に付き合ってあげましょうってのに、喜ばない父親がいるの?」とあっさり押し切られ、市場に売られる子牛のようにリビングへ移動していくのであった。

 

 

「あらあら……。ヒカルくん、最後まで騒がしくてごめんなさいね?

 私もお父さんが戻って来ないように、見張りに行くことにするわ。

 あかりは置いていくから、ゆっくりしていってちょうだい」

 

 

 燈華はいたずらっぽく笑いながら成実を見張ると宣言し、あかりの耳元で「お片付けはお願いね」と言い置いて、夫と上の娘に続きダイニングを出ていく。*5

 

 

「……食べよっか?」

 

「ああ」

 

 

 三人が嵐のように去っていった後に、小さく笑みを交わし合うあかりとヒカル。

いつの間にかあかりを襲った羞恥心の波は引いていたらしい。

 

 そして静かに食事を進める中で、ヒカルは小さく呟いた。

 

 

「知らなかった」

 

「ヒカル?」

 

「いや、幼稚園の頃の話なんてすっかり忘れちまってたなって」

 

「私は……。

 私も、そうかも?」

 

「あかりとは昔からずっと一緒だったと思ってたから。

 そうじゃなかった時代もあったんだなって、驚いた」

 

「うん」

 

「けどなあ。

 迷子のあかりを助けに行くなんて、そんな立派なことを俺がするかあ?」

 

 

 ヒカルは肩を揺らしてくつくつ笑いながら「だって、俺だぜ? あかりと遊ぼうと思って探し回ってたとかじゃねえかな」と言葉を結ぶ。

 

 そんなヒカルの自虐に対してあかりは、口をぱくぱくと開いては噤みと幾度か逡巡した後、ヒカルに真実を伝えることにした。

 

 

「……違うよ。あの時のヒカルは、本当に私を探しに来てくれた」

 

「覚えてるのか?」

 

「う、うん。その時のことだけ……」

 

「そっか。

 よりにもよって、ガキの頃の俺がねえ」

 

「あの時のヒカル、かっこよかった。

 ほ、本物のヒーローみたいで。

 それで、幼稚園のヒカルはアニメのヒーローごっこが大好きだったから。

 私は『ヒカルの正体は本当にヒーローだったんだ!』って勘違いして……」

 

「……それで?」

 

「ふふっ。もちろん、ヒカルにくっついてるうちに、ヒカルはヒーローじゃないってわかったんだけどね」

 

「なんだよ、それ」

 

 

 呆れたように声をこぼすヒカルに、あかりはくすくす笑いながら「オチはないよ?」と言葉を返した。

 

 

「でも。あの時、私を探しに来てくれたのがヒカルでよかった」

 

 

 照れくさそうに笑いながら、あかりは「アニメのヒーローが来てくれるよりも……」と言葉を結んだ。

そんなあかりの笑顔を見ていると、ヒカルは妙に落ち着かない気持ちになる。

 

 あかりに釣られるようにして自分の頬も熱くなってくるのを感じたヒカルは、それを誤魔化すように慌てて言葉を紡ぎ、普段であれば決してしないようなことを口にする。

 

 

「じゃあ、幼稚園の頃の俺がよくやった(・・・・・)から、俺はあかりと幼馴染になれた……ってことか」

 

「そうかも」

 

「ははっ! なんだよ、俺ってガキの頃からすごかったんだな。

 あかりを捕まえるなんてさ」

 

「う、うん」

 

 

 ここでヒカルは、もじもじと身じろぎしながら潤んだ目で、自分を見つめるあかりの姿に気付く。

あかりの目を見ているとますます落ち着かない気分になってきたヒカルは、「やっぱ今のなし! 俺はあかりに捕まった側だった!!」と素早く前言を翻して、その後はあかりのことを見向きもせずに料理にがっついた。

 

 あかりはそんなヒカルのあからさまな照れ隠しに、一寸だけ頬を膨らませて。それから『仕方がないなあ』とばかりに小さく笑い、同じく食事を再開したのであった。

 

 

 

*1
あかりの母

*2
あかりの父

*3
あかりが恋に落ちた瞬間。恋心の自覚はもうしばらく後になるが。

*4
あかりの姉

*5
実はあかりの母はドラマを見たかっただけ説。






・あかりは"ちょっと抜けたところがある"というよりは、しっかりしている側の子ですが、
 成実の発言は、娘を心配する父親目線であるがゆえに……です。

・すまない、オリキャラ(あかりの家族)が多くてすまない……。
 プロット的に名無しのままというのは厳しかった。
 あくまでもヒカあかがメインなので、オリキャラの存在感は極力抑えていく方針ではあります。

・評価やお気に入り登録をいただきありがとうございます。やる気につながっています。
 何かお礼をしたくとも私にできるのは執筆し続けることだけなのですが、精一杯に励みます。

R-18版の需要はありますか?

  • あかりを性的に食べるヒカル……ありだな!
  • やっぱりヒカあかはプラトニック路線で。
  • 回答しない(アンケ結果の閲覧用)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。