【ヒカあか】報われない恋でもいいから   作:無名のヒカあか好き

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「幼馴染と言えるのは、私だけ。この先あなたが、誰と結ばれても」

 

ヒカルにとって、私はどんな存在?

 

 


 

 

 一度食事に集中してしまえばそれからは早く、二人は恙無く夕食を摂り終えた。*1

 

 二人で静かに「ごちそうさまでした」と唱和した後、あかりは「片付けは私がするから。ヒカルはリビングでテレビでも見てていいよ」と申し出る。

それに対してヒカルは「いや、さすがにそこまで図々しくなれねーよ。二人でやって、さっさと片付けちまおうぜ」と言い、ちらりと家から持ってきた碁盤に目をやった。

 

 ヒカルが中断していた検討を再開させたいと考えていることを察したあかりは、ヒカルの厚意を喜んで受け入れた。

 

(本当にヒカルは囲碁に関して真剣だね。

 私への厚意でやってくれた指導碁なのに、中途半端なことはしないんだもん。

 そして今、私もそれを喜べている。

 たとえそれが碁バカと言われるようなことでも、ヒカルと同じになれているなら嬉しいな……)

 

 

「──じゃ、さっきの続きからだな」

 

 

 息を合わせ、スピーディーに片付けを終えた二人は、早速検討を再開した。

対局中にヒカルが気になった局面を、一つ一つ確認していく。

その内のいくつかにはあかり本人も良くない手だったと自覚しているものがあり、「こうすればよかったのかな?」との案出から実戦のシミュレーションへ発展し、二人の会話は自然に熱が高まっていく。

 

 そんな検討もヒカルがチェックしていた局面を網羅することで終わりを迎える。

そこであかりはほっと一息ついて、素朴な疑問をヒカルにぶつけた。

 

 

「結局今日は、ヒカルに4回も指導碁で打ってもらったのに全部負けちゃったなあ。

 良い勝負はできたと思うんだけど……。

 ねえヒカル、私が1回も勝てなかったのは、何が問題だったんだろう?」*2

 

 

 あかりの疑問に対して、ヒカルはくつくつと意地悪そうに笑いながら、二つの答えを提示する。

 

 

「優しい説明と、あまり優しくないネタばらし、どっちがいい?」

 

「く、詳しく教えてもらえる方でお願い……」

 

「よし。優しくない方だな。さすがあかり、囲碁部の部長になっただけあるな。

 こっちを選んでくれると思ってたぜ?」

 

「ヒカルのいじわる……」

 

「まあ、結論から言えばだな。

 おまえが勝てなかったのは、俺がギリギリの勝負になるように打ったから。

 あかり、おまえが打つ碁の長所は何かわかるか?」

 

「えっ? えっと……定石をきちんと覚えている、とか?」

 

「まあそれも、部分的には正解だな。

 あかりの打ち方はな、地と厚みのバランスがきれいに整ってるぜ? 基本に忠実だな。

 滅多なことでは大崩れしないけど、力技で勝ちに行くのも得意とは言えないタイプだ。

 だから俺はあかりと打つ時、あかりが勝負の流れを簡単に相手へ渡してしまわないように。

 そしてピンチになった時は、逆境をはね返す手が打てるように意識している。

 で、ここからおまえに一番足りなかったものが何かわかるか?」

 

「う……わ、わからないよ」

 

「先に言っておくけど、こっから話すのは今でもあかりはある程度できてることだからな?

 その上で指摘するけどな。

 あかりは割とよく自分の石や地を守ることに集中しちまって、相手の意図を見落としてるな。

 勝負の流れってのはそういう話。

 検討の時も言ったけど、俺の手を逆に利用すれば勝てるような局面もちゃんとあったんだぜ」

 

 

(それって、私が不甲斐ない打ち方をしたから全敗したってことだよね。

 私、情けないなあ。せっかくヒカルが打ってくれたのに……)

 

 ヒカルから伝えられた手厳しい講評に、思わずしょんぼりした表情になるあかり。

そんなあかりの、叱られた子犬のような顔を目にしたヒカルは、「あかりも十分わかってることだけど。棋力は一日であがるもんじゃないからな? 少しずつ勝てるようになればいいんだよ」と伝える。

 

 しかし、そんなヒカルの正論にもあかりは「でも……」と俯いたままでいる。

 

(次にヒカルと打てるのは、いつになるかわからないし……

 一度くらいは、ヒカルにいいところを見せたかったよ)

 

 あかりの激しく落ち込んだ様子に、ヒカルは苦笑しながら「もう一回やるか?」と提案した。

 

 

「する!」

 

 

 ヒカルの提案を聞いた瞬間に、あかりは勢い良く顔を上げ、明るく応える。

そのあまりにも現金な態度にヒカルは噴き出しそうになりながら、一応の確認をする。

 

 

「明日学校だろ? 大丈夫なんだよな」

 

「大丈夫だよ。もう宿題は全部終わらせてるから」

 

「ならいっか」*3

 

 

 ヒカルはちらりと時計を見上げ、時刻が21時半過ぎであることを確認して頷く。

 

(ちょっと遅い時間だけど、23時くらいには帰れるだろ)

 

 そして次の対局に備え盤上から碁笥へ石を戻している最中、あかりは不意に、家のダイニングでヒカルと対局しようとしていることがおかしくなって。

日本中の何処ででも手合いする、プロ棋士という職業の不思議に感じ入った。

あかりは少し浮かれた様子で、その不思議についてヒカルに尋ねる。

 

 

「ね、ね、ヒカル。

 ヒカルはイベントとか指導碁を入れたら、本当に色々な場所で対局するよね。

 それでも幽玄の間での対局は、何か特別に感じる?」

 

「あー、どうだろ。俺は新初段シリーズでしか使ったことがないし。

 その時は塔矢の親父のことだけで頭がいっぱいになってたからな」

 

 

 そしてヒカルは「次があるとしたらタイトル挑戦だけど、そんなのまだ全然だしな」と、神妙な態度で言葉を結んだ。

ここであかりはプロ棋士の対戦成績という微妙な話題へ迂闊に踏み込んでしまったことを察し、とっさにフォローの言葉を入れる。

 

 

「で、でもヒカルは予選でもいいところまで勝ち進んでたし……」

 

「……予選と本戦の間には高い壁があるんだぜ」

 

 

 しかしフォローも空しく、ヒカルはあかりの言葉を静かに否定した。

 

 

「大丈夫だよ。ヒカルならすぐに──」

 

「あかり」

 

 

 ヒカルのわずかに沈んだ様子を見て取り、努めて明るく励まそうとしたところで、あかりは強い語調でヒカルに言葉を遮られた。

その語気の強さに一瞬気圧されたあかりだったが、ヒカルの瞳が切なげな色を浮かべているのを見て、なんとか言葉を返したくて。

何を言えば良いのかわからないまま、一生懸命に口を開いた。

 

 

「だって、私は……私は、ヒカルのことを知ってるよ。

 幼稚園の頃からの付き合いなんだから。

 ヒカルは、囲碁のことで妥協したりしない。

 ヒカルはいつも、ひたむきに取り組んでいたよ。

 だから、ヒカルなら大丈夫だよ。絶対、大丈夫だよ」

 

 

 切々と訴えかけるあかりから、ヒカルは目を逸らすようにして俯いてしまう。

そして下を向いたヒカルの口から、血を吐くようにして、誰にも言えずにいた弱音が溢れた。

 

 

「あかり……俺は本当にまだまだなんだ。

 俺は、棋戦で一度も予選を突破したことがないんだぜ?

 塔矢の奴はあっさりリーグ戦出場を決めちまったのにな。

 あいつは、いつも俺の一歩先を行っているんだ。

 その塔矢でも挑戦すらできないのがタイトルで……だから、今の俺には、遠すぎる」

 

「でも、でも……。

 私は、ヒカルのことを、信じてるの」

 

「あかり……」

 

「信じてるんだよ」

 

「はは、理屈も何もないな……」

 

 

 あかりの真っ直ぐ過ぎる言葉に心を揺さぶられたヒカルは、憂い顔のまま、掠れるような声で笑った。

 

(ごめんな、あかり。

 俺はそんなに大した存在じゃないんだ。

 同年代の塔矢にだって、まだ一歩も二歩も遅れてる。

 ましてタイトルどころか神の一手なんて……遥か彼方に霞んで目にすることすら叶わない。

 

 ……俺は本当に、この碁盤という小さな世界(無限の宇宙)の中で、佐為と再び巡り合うことができるのか?

 それでも囲碁の研究に没頭している時はいいんだ。

 なんでもない時に、こうして弱気の虫が顔を出しちまう。

 何よりも……

 佐為から託されたものを、あかりの信頼を、重たく感じちまってることが、苦しい……)

 

 あかりの信頼をうまく受け止められずにいる弱さを自覚して、ヒカルはくしゃりと顔を歪めた。

 

 苦悩するヒカルの姿を目の前にして、あかりは何かを決意したような表情で、静かに席を立つ。

そしてヒカルの耳元で「……私に付いてきて」と囁き、ダイニングを離れようとする。

あかりがダイニングの出口で振り返りもう一度手招きをすると、ヒカルはそれに釣られたようにふらふらと立ち上がり、あかりに付いていった。

 

 

 

 

 

 

「ほらヒカル、ここに座って」

 

 

 自室のベッドを背に、もたれるようにしてぺたりと座ったあかりは、自分の隣をぽんぽんと叩いてヒカルを招く。

流されるまま付いてきたとは言え、夜にあかりの部屋で二人きりという状況にやや戸惑っていたヒカルだが、なんでもないことのように振る舞うあかりの姿に、小さく首を振って腰を下ろした。

 

 

「ここなら二人きり、だね。

 本当はあまりよくないことだって、それはわかってるけど。

 後でお父さんに怒られちゃうかもしれないけど……。

 でも、さっきヒカルがすごく苦しそうな、悲しそうな顔をしてたから。

 ヒカルが泣いちゃうんじゃないかと心配しちゃった」

 

 

 秘密を打ち明けるような囁き声で、あかりは自室にヒカルを招いた理由を説明して「ここまできたら、私にできることは全部しちゃうね」と優しく笑いかけた。

 

 

「ヒカル、今度はこっち。私の膝の上に頭を置いて」

 

「いや、あかり、それは駄目だろ……」

 

「もう! かわいい幼馴染が膝枕をしてあげるって言うんだから、文句は禁止!」

 

「……かわいい? 誰が?」

 

「私が! 悩みごとのあるヒカルのために、こんなに一生懸命なんだよ?」

 

「ははっ! あかり、今のおまえ、大分テンションおかしいぜ」

 

「うっ……それは言わないでよ。かなり無理をしてたんだからね?

 それよりも。ほら、ヒカル早くして」

 

「膝枕は譲らないのかよ……わかったよ」

 

 

 ひと悶着はあったものの『この意見は絶対に通すからね』というあかりの態度に折れて、ヒカルはあかりの太ももを枕にして体を横たえる。

 

 あかりはヒカルの目元を左手でそっと覆い隠すと、右手で優しくヒカルを頭を撫でる。

ヒカルはあかりの触れる手に一瞬身じろぎをしたものの、すぐに体から力を抜いてくつろぎ始めた。

 

 

「あかり……サンキュ」

 

 

 ヒカルの感謝の言葉を最後に、穏やかな沈黙があかりの部屋を支配する。

 

(……ごめんね。私の期待が重荷になっちゃったんだね。

 でもね。本当にヒカルなら大丈夫だよ。

 けどこんな言葉でも、今のヒカルには辛いのかもしれないね。

 

 じゃあこんなのはどうかな?

 ヒカル、安心してね。

 もしもヒカルが一歩も前に進めなくなったら、私が力になるから。

 今はこんなことしかできないけど、ヒカルの苦しい気持ちを、私にも分けて)

 

 そうしてあかりが静かにヒカルの頭を撫でる時間が、十数分ほど続いた。

あかりはヒカルの呼吸がすっかり穏やかになっていることに気付いて、小さく声をかける。

 

 

「ヒカル……寝ちゃった?」

 

 

 しばらく待ってみても返事がなかったために、あかりは『どうしよう。ヒカル、疲れてたのかな? それだと起こしちゃうのはかわいそうだよね』とわたわた慌てだす。

そしてあかりが「えっと、じゃあ。ヒカルには私の部屋でお泊りしてもらって、私はお姉ちゃんの部屋で寝るしかないのかな……」と相当に混乱した答えを口にしたタイミングで。あかりの言動のおかしさ(・・・・)に堪えかねる、とばかりに声を震わせ「いや、起きてる」とヒカルは返事をした。

 

 

「もうっ、からかってたんでしょ!」

 

「いや……ちょっと考えごとをしてただけ」

 

「本当に?」

 

「ああ、割と真面目にあれこれ考えてた。

 ……なあ、あかり」

 

「うん」

 

「俺、たぶん今年は塔矢に勝てるわ」

 

「……うん」

 

「塔矢には、その、いないからな。

 ……あかりみたいなお節介なやつが」

 

 

 そしてヒカルは「塔矢の人間関係の狭さは俺もよく知っているし」と、何かへ言い訳するように早口で続けた。

 

 普段であれば、ここであかりは『お節介って……ひどいよ』などと応え、ヒカルの言葉を遮ってしまったかもしれない。

しかしあかりはヒカルが『俺が言いたかったのはこんなことじゃない』と、次の言葉に悩んでいる雰囲気を感じ取り、辛抱強くそれを待った。

 

 

「つまり、だな。

 塔矢は一人で、俺は……俺とあかりは二人だ。

 ……簡単な話だろ?」

 

 

 そしてヒカルは、あかりの手に隠されることなく露わになっていた口で、ニヤッとした笑みをあかりへ向けて作った。

 

 

「うん……! うん……!!」

 

 

 いっそ清々しいほどの傲慢さで言い放たれたその言葉に、あかりは感動で身を震わせ、何度も頷く。

 

 自身の頭上であかりが赤べこ(・・・)のように首を縦に振っているのを感じて。ヒカルは苦笑しながら、目元を覆っていたあかりの手を優しく横にずらして立ち上がる。

 

(こういうのを勝利の女神って言うのか?

 いや、違うよなあ。あかりは勝利の女神なんて、全然似合わねえし。

 あかりは……あかりだろ)

 

 ふと過ぎった妙な考えを、ヒカルは首を振って頭から消し去った。

 

 

「わりぃ、長居しちまったな。そろそろ帰るわ」

 

「あ……。わかった。おやすみ、ヒカル」

 

 

 名残惜しさを隠さない声で、ヒカルに別れの挨拶をするあかり。

ヒカルからもらった嬉しすぎる言葉に、今の今までぼーっとしていたあかりは。

去っていくヒカルの背を見てようやく我に返り、「玄関までだけど送るね」と急いで立ち上がった。

 

 

「はは!」

 

 

 また後ろでうろちょろし始めたあかりの姿に、思わず笑ってしまうヒカル。

さっきまではその両手で不安を消してくれたのに、この幼馴染ときたら!

 

 

「ヒカル、もう夜遅いから気をつけて帰ってね」

 

「ああ」

 

「ヒカル、今日みたいに、また遊んでくれる?」

 

「ああ、また電話するよ」

 

「うん……待ってる」

 

「じゃあな、お邪魔しました」

 

「ヒカル……またね」

 

「ああ、またな」

 

 

 結局、玄関の外までヒカルを追いかけて、ヒカルが家に着くまで後ろ姿を見守っていたあかり。

あかりは玄関の扉を開ける直前に、もう一度ヒカルの家の方を振り返り、「……待ってるからね」と呟いてから扉を開けた。

 

 あかりが愁眉を開くのはそれから一週間後、再びヒカルから連絡が入ってからのこと。

たかが一週間、されど一週間。期待と不安で揺れる心を、あかりは学業と囲碁で必死に抑えつけて過ごすのであった。

 

 もっともその前に、二人で一緒に部屋から出てきてヒカルを見送る姿までを、ばっちり目撃していた燈華()ほのか()への説明が先になるのだが……。

 

 

 

*1
夕食と言うには大分遅い時間ではあるが。

*2
指導碁に際して指導を行う上級者は、指導を受ける下手の側が対局中に良い手を打てるように誘導していく。すなわち上手の側は、原則的には結果の勝敗に拘泥しない。

*3
美津子(ヒカルの母)「よくないわよ」






・個人的なヒカあか萌えポイント④(※願望込み)
 あかりはヒカルに対して時々妹になったり、お姉ちゃんになったり、ママになったりする。
 幼馴染って尊いね。

・調べた限り幽玄の間=タイトル戦ってわけではなさそうなんですが、
 この世界では挑戦手合いで一回は使うから代名詞と化してるとか、そんな感じで……。
 話の本筋と関係ないので自由に補完してください。

R-18版の需要はありますか?

  • あかりを性的に食べるヒカル……ありだな!
  • やっぱりヒカあかはプラトニック路線で。
  • 回答しない(アンケ結果の閲覧用)
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