アイビー・トラヴィスの「日常」〜女王國物語   作:mizumega

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2・依頼

***

 

バイクはチョッパーと呼ばれるタイプの、ハンドルバーが異様に長く斜めになっているものだった。

「イージーライダー」と呼べば通じる。

燃料タンクに派手なアメリカ国旗が描かれている。

2本の巨大なマフラーが斜め上に突き出、爆音を響かせていた。

 

その座席に背中を預け、どっしりと女が座っている。

乱雑なポニーテールを風に靡かせ、眼鏡ごと覆う大きなゴーグルを被っている。

革製の、いわゆる「童貞を殺すセーター」を、はち切れそうな乳房が押し上げていた。

裾の短いセーターはバイクにまたがると捲り上げられるので、股間のパンティが丸見えなのだが、羞恥心がないかのように堂々と見せびらかしている。

 

女はウッドデッキの前にバイクを停めた。

 

階段を登って「よう」と軽く手を挙げる。そして、断りもなしに隣の安楽椅子に腰を下ろした。

同時に、腰に挿していた2本の棒をゴロリとテーブルに投げる。

棒は鎖でつながれていた。ヌンチャクだ。

 

この豪快な女が、サン=シモンだった。

 

周囲からは「寮長」と呼ばれているが、別に学生寮の管理人ではない。自然にそういうふうになったのだ。

「仕事?」

アイビーが聞くまでもないことを尋ねる。

シモンは答えるかわりにポケットから紙巻煙草の箱を取り出し、一本抜くと、ジッポーのライターで火を点けた。

フ〜ッ…と紫煙を吐く。

 

「5人来た」

「多いな」

「今回はまとめてだ。一人一人の出自は違うが、初心者組に編入して、慣れてもらうことにした」

「私は必要か?」

「大いに必要だ」

シモンは頷いた。そしてまた煙を吐く。

「ここの空気は旨いなぁ」

「灰皿はない。自分で始末して。ゴミを捨てるな」

「わーってるよ」

シモンは、アイビーが煙草のポイ捨てを嫌っているのをよく知っていた。憎んでいると言っても過言ではない。なぜなら、火の残る煙草が枯葉に着火し、山火事を起こすことがあるからだ。そういう不注意な人間を見つけたら、アイビーは決して容赦しないだろう。

シモンはポケットから携帯灰皿を取り出し、その中に灰を捨てる。本当はこんなちまちました動作は嫌いなのだが、アイビーを怒らせるわけにはいかない。

 

アイビーは『戦争と平和』に栞を挟んで閉じ、テーブルに置いた。

「女王はお帰りになったか」

「まだだ。『財団』の件で長引くかもしれない」

「周りは動いているの?」

『周り』とは、女王国の周囲に徘徊する敵対勢力のことだ。

裏世界につい最近登場したヘレン・ハイドの国は、色々な勢力を刺激している。女王不在の時も警戒は怠れない。

まだ「この国」は幼かった。

「そいつはノルンの担当だが、情報チームは兆候を掴んでいない」

「何もないといいのだが」

「同感だ。こっちは呑気に酒を飲んでいる方がいい」

「それはお前だけの話だ」

ピシリとアイビーが釘を刺す。

シモンは唇の端を曲げた。

「へっ、そいつは全く的外れだね」

酒豪はいくらでもいる。

もっとも、昼間から飲みたがるのはスルーズかシモンくらいだ。

 

吸い殻を携帯灰皿へ投げ入れ、立ち上がる。

う〜ん…と伸びをすると、横乳のはみ出たところから腋が丸見えだった。

きれいに脱毛している。妙に艶めかしい眺めだ。

サン=シモンは眼鏡の端からアイビーを盗み見、誘うように腰をくねらせた。

アイビーは目を逸さなかったが、その目つきは対象を分析しているようだった。例えば、今シモンが攻撃を仕掛けるなら、それはどんな動作か?というような。

横目で見ていたシモンが面白くない顔つきをする。

科(しな)を作る動作をやめ、ヌンチャクを取ると腰に挿した。

「明日、9時にそいつらを向かわせる」

「了解した」

サン=シモンはウッドデッキの階段を降り掛け、途中で振り向いた。

「…なあ、ずっと一人で居るつもりか?」

「どうかな」

アイビーは小首を傾げた。

「だが安心しろ。お前にはそのうち他の嫁ができるさ」

「あーそう。嬉しいねえ」

心のこもらない返事を残し、シモンはバイクに跨った。

 

「…つまんねーやつ」

「聴こえてるぞ」

「あーあーあー」

シモンは派手にバイクを空吹かしし、嫌味ったらしく走り出した。

とはいえ、ロリータな外見のアイビーだったが、中身はまるで違うこともよく承知している。

実際、見てくれも心もロリータな方がサン=シモンはだんぜん好みだ。アイビーが誘いに乗っても長続きはすまい。

それが分かっていても、やはり不満だ。

「はーやーく嫁がーこーなーいーかーなぁー」

爆音に紛れて叫んでいた。

 

アイビーはアイビーで、スマホで済む用事をわざわざ直接出向いて来るシモンの気持ちは分かっている。

それには応えられないが、面白い奴だとは思っていた。

シモンは数少ない友人の一人なのだ。

 

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