アイビー・トラヴィスの「日常」〜女王國物語 作:mizumega
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モコシが仲間を振り向く。
「ど、どうする?」
「とりあえず隠れよう。散開して、土が盛ってある所に逃げて」
セマルグルが言う。
「散開?」
ヤリーロがキョトンとした。
「散らばって広がるってことさ。グズグズするんじゃないよ。あたしは右に行く」
ランチャーを肩に担ぎ、ヴェレスが言う。
セマルグルは頷き、
「私は左へ」
「…クソったれ、舐めんじゃねえ!」
マグーラが大刀を握って立ち上がった。怒りで我を忘れている。
「馬鹿、やめろって!」
ヴェレスが制止するのも聞かず、マグーラは突進していた。
「うらぁあああぁ…!」
いきなり、足を投げ出して倒れる。
わずかに遅れてターン…という銃声。
「いってぇええええ」
腹を撃たれたマグーラが地面を転げ回る。
「…言わんこっちゃねえ!」
ヴェレスが地面の凹みに隠れながら毒づいた。
「実弾を撃ってる…!」
驚きで向こうのセマルグルが目を丸くしていた。
「あの人、正気なの!?」
「正気も正気、マジで本気だぜ」
額に汗を浮かべながらヴェレスが答える。
「そ、それよりマグーラを!」
ヤリーロが焦って叫んだ。
ヴェレスが怒鳴り返す。
「今のを見てなかったのかい? あいつはそれを待ってるんだぜ。撃ち殺さなかったのは、わざとああして敵を誘い出し、さらに負傷者を出すつもりなんだ」
「だからって、」
ヤリーロは立ち上がった。
「放っておけない!」
「あっ、バカ」
「戻れ!戻れ!」
ヴェレスとモコシの叫びも届かず、ヤリーロは勇敢に進んだ。
(私の盾なら防ぎ切れるはず…!)
ババババ!と掩蔽壕から銃弾の嵐が襲ってきた。地面が抉れ、呻くマグーラの周囲に土埃が立つ。
(50口径の重機関銃か…エグいことしやがる)
ヴェレスは歯噛みした。
しかしヤリーロの盾はそれをことごとく弾き返し、着実に前進していた。
「マグーラさん!大丈夫?」
「うぐぐ…見りゃわかるだろ…」
マグーラは腹の穴を両手で塞いでいた。
すでに血は止まり、徐々に回復しつつある。
12.7ミリの銃弾を浴びれば普通の人間なら即死だ。だが、ハイドの女たちにはかすり傷にしかならない。
それでもこの状況は屈辱以外の何物でもない。
「あの野郎、絶対ブッ殺す…!」
「黙って。今後ろへ下がっ…」
ーーーパアン!
横っ飛びにヤリーロが突き飛ばされていた。
そのままゴロゴロ転がり、アイビーが逃げていった溝へ落ちる。
「右!2時の方向!」
セマルグルが叫ぶ。
「ちくしょう、なんで…他にもいるのか!?」
ヴェレスが地面にうずくまる。
「違う、おそらく正面の銃撃は遠隔操作!あちらに気を取られているうちに側面へ回られた」
「RWSですね!」
「もう、どうしたらいいのよ!?」
モコシが髪を掻きむしる。
ヴェレスが叫んだ。
「前へ出るしかねえ! このままじゃ全員殺られる! あたしが援護するから、みんなは行け!」
「あの溝を通るのは?」
セマルグルの問いは、バァン!と溝から発した爆発によって答えが分かった。再び吹っ飛んだヤリーロが今度は上の地面へ叩きつけられる。
「あっちも地雷が仕掛けてある! 見分けがつくのは奴だけだ!」
「なんて狡猾な人なの!」
セマルグルは一瞬だけ身を乗り出し、あらかじめ引き絞っておいたアーチェリーの弓を放っていた。
ヒュン…と微かに空気を引き裂く音がし、続いて右手に巨大な火球が炸裂した。爆風が土煙を上げ、少しの時間戦場を覆い隠す。
「おまえ、スゲェな!?」
「早く、正面を!」
「ガッテン!」
ヴェレスはロケットランチャーを構えた。彼女のランチャーは魔導性で、本体は現実にある既製品だが、ロケット自体は錬金術で生み出される魔導弾なのだ。念じればかなり正確に当たる。
「喰らいな!」
ドン、と輝くロケット弾が発射され、煙を引きながら掩蔽壕へ突っ込む。
盛大な爆炎が上がり、重機関銃が沈黙した。
ヴェレスは立ち上がった。
「全員、錬装で肉体を強化しろ! 地雷に構わず走りまくれ!…うおおおお」
巨乳を揺らしながら突進する。残った者も叫びながら続き、途中で何度か地雷を踏み、爆発でつまづいたり転んだりしつつ、前方の塹壕へ突撃していた。
「ねえっ…、これっ…、訓練っ…、なんだよねっ…?、」
一歩進むたびに対人地雷をお見舞いされる不運なモコシは、頑強な体を頼みによろめきながら走った。
「違う、殺し合い! これはれっきとした戦争です…!」
セマルグルがヤリーロに肩を貸しながら言う。
モコシは駆け寄ってマグーラを担いだ。
「礼は言わねえぜ…」
「言ってる場合か!黙れ!」
殺気立ったモコシが答える。
ヴェレスは魔力の続く限りランチャーを撃ちまくり、反撃を封じていた。
5人は掩蔽壕へ雪崩れ込んだ。
ヴェレスの砲撃により、砕けたコンクリートから鉄筋が根のように覗いている。内部は瓦礫の山で、重機関銃はその下で潰れていた。
しかし、アイビーの姿は影も形もなかった。
突入したと同時に、セマルグルは弓を構えつつ左の塹壕通路を狙った。ほとんど同時に、ヴェレスが右の通路をランチャーで狙う。
「クリア!」
「クリア!…掩蔽壕は!?」
「誰もいません!」
モコシが応えた。
「…でも、奥に通路が…」
「正面に立つな!撃たれるぞ!」
慌ててヴェレスがモコシの肩を掴んで引き戻す。セマルグルは弓で通路の奥を狙いつつ、相打ちの態勢で構えた。
(私の直感なら、銃撃の寸前に分かる!)
「…どうだ?」
ヴェレスの問いに、セマルグルはアーチェリーを下ろした。
「ここには居ないと思う。私は狙撃手だけど、この距離なら必ず感知できる」
「ってことは、攻撃が始まった時点で逃げたんだな」
5人は顔を見合わせた。
皆、顔は煤だらけ、体は泥だらけだ。
「しけた面ばかりだぜ…」
マグーラの呟きに、失笑が漏れる。
「あんたは立てるか?」
「ああ。なんとかな。すまねえ」
モコシに頷く。
彼女は首を振った。
「仲間だもの、当たり前だよ」
「いきなり即席のチームが出来あがっちまったわけか」
ヴェレスが肩をすくめる。
「みんな、動けるか?」
「すまない、私は無理」
うずくまったヤリーロが弱々しく手を挙げる。
「背骨が一部折れてる。2、3時間したら戻ると思うけど…役には立てない」
「残りは4人か」
「あいつ、これで終わらせると思う?」
自然とセマルグルに視線が集まる。彼女は首を横に振った。
「やめないと思う。私たちがここに居る以上、戦う意志があると見做すでしょう。
選択肢は2つ。
前進して彼女と戦うか、それとも背中から撃たれる危険を犯しながらこの場から逃げるか」
「んじゃ、一択だな」
ようやくマグーラが立ち上がり、大刀を背負った。
「やられっぱなしじゃ気が治らねえ」
「やられっぱなしって…貴女は一度勝ったでしょう?」
「あんなもん勝負じゃねえよ。あいつ、俺を殺せるならなんぼでも手があったはずだ。舐めやがって…」
「あんたはどう思うんだい?」
ヴェレスの問いに、セマルグルは考えつつ答えた。
「撤退するのが筋だと思う。相手はここの事を熟知しているし、分はこちらに悪い。状況からそう判断できる。互いに援護しながら下がれば、これ以上損害は増えないかもしれない」
「じゃあモコシは」
「ぶっ潰そう。あいつ、絶対背中からためらいなく撃つよ。なんかそういう気がする」
怒気を露わにしながらポールアックスを強く握った。
ヴェレスは頷いた。
「あたしも同感だ。それに下がるならヤリーロを置いてゆくしかないけど、奴が何もしないという保証はないしね。叩くなら今しかない」
「…民主主義、ってやつですね。いいでしょう」
セマルグルは肩をすくめた。