アイビー・トラヴィスの「日常」〜女王國物語   作:mizumega

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4・死闘

***

 

モコシが仲間を振り向く。

「ど、どうする?」

「とりあえず隠れよう。散開して、土が盛ってある所に逃げて」

セマルグルが言う。

「散開?」

ヤリーロがキョトンとした。

「散らばって広がるってことさ。グズグズするんじゃないよ。あたしは右に行く」

ランチャーを肩に担ぎ、ヴェレスが言う。

セマルグルは頷き、

「私は左へ」

「…クソったれ、舐めんじゃねえ!」

マグーラが大刀を握って立ち上がった。怒りで我を忘れている。

「馬鹿、やめろって!」

ヴェレスが制止するのも聞かず、マグーラは突進していた。

「うらぁあああぁ…!」

いきなり、足を投げ出して倒れる。

わずかに遅れてターン…という銃声。

「いってぇええええ」

腹を撃たれたマグーラが地面を転げ回る。

「…言わんこっちゃねえ!」

ヴェレスが地面の凹みに隠れながら毒づいた。

「実弾を撃ってる…!」

驚きで向こうのセマルグルが目を丸くしていた。

「あの人、正気なの!?」

「正気も正気、マジで本気だぜ」

額に汗を浮かべながらヴェレスが答える。

「そ、それよりマグーラを!」

ヤリーロが焦って叫んだ。

ヴェレスが怒鳴り返す。

「今のを見てなかったのかい? あいつはそれを待ってるんだぜ。撃ち殺さなかったのは、わざとああして敵を誘い出し、さらに負傷者を出すつもりなんだ」

「だからって、」

ヤリーロは立ち上がった。

「放っておけない!」

「あっ、バカ」

「戻れ!戻れ!」

ヴェレスとモコシの叫びも届かず、ヤリーロは勇敢に進んだ。

(私の盾なら防ぎ切れるはず…!)

 

ババババ!と掩蔽壕から銃弾の嵐が襲ってきた。地面が抉れ、呻くマグーラの周囲に土埃が立つ。

(50口径の重機関銃か…エグいことしやがる)

ヴェレスは歯噛みした。

しかしヤリーロの盾はそれをことごとく弾き返し、着実に前進していた。

「マグーラさん!大丈夫?」

「うぐぐ…見りゃわかるだろ…」

マグーラは腹の穴を両手で塞いでいた。

すでに血は止まり、徐々に回復しつつある。

12.7ミリの銃弾を浴びれば普通の人間なら即死だ。だが、ハイドの女たちにはかすり傷にしかならない。

それでもこの状況は屈辱以外の何物でもない。

「あの野郎、絶対ブッ殺す…!」

「黙って。今後ろへ下がっ…」

 

ーーーパアン!

 

横っ飛びにヤリーロが突き飛ばされていた。

そのままゴロゴロ転がり、アイビーが逃げていった溝へ落ちる。

 

「右!2時の方向!」

セマルグルが叫ぶ。

「ちくしょう、なんで…他にもいるのか!?」

ヴェレスが地面にうずくまる。

「違う、おそらく正面の銃撃は遠隔操作!あちらに気を取られているうちに側面へ回られた」

「RWSですね!」

「もう、どうしたらいいのよ!?」

モコシが髪を掻きむしる。

ヴェレスが叫んだ。

「前へ出るしかねえ! このままじゃ全員殺られる! あたしが援護するから、みんなは行け!」

「あの溝を通るのは?」

セマルグルの問いは、バァン!と溝から発した爆発によって答えが分かった。再び吹っ飛んだヤリーロが今度は上の地面へ叩きつけられる。

「あっちも地雷が仕掛けてある! 見分けがつくのは奴だけだ!」

「なんて狡猾な人なの!」

 

セマルグルは一瞬だけ身を乗り出し、あらかじめ引き絞っておいたアーチェリーの弓を放っていた。

ヒュン…と微かに空気を引き裂く音がし、続いて右手に巨大な火球が炸裂した。爆風が土煙を上げ、少しの時間戦場を覆い隠す。

「おまえ、スゲェな!?」

「早く、正面を!」

「ガッテン!」

ヴェレスはロケットランチャーを構えた。彼女のランチャーは魔導性で、本体は現実にある既製品だが、ロケット自体は錬金術で生み出される魔導弾なのだ。念じればかなり正確に当たる。

「喰らいな!」

ドン、と輝くロケット弾が発射され、煙を引きながら掩蔽壕へ突っ込む。

盛大な爆炎が上がり、重機関銃が沈黙した。

ヴェレスは立ち上がった。

「全員、錬装で肉体を強化しろ! 地雷に構わず走りまくれ!…うおおおお」

巨乳を揺らしながら突進する。残った者も叫びながら続き、途中で何度か地雷を踏み、爆発でつまづいたり転んだりしつつ、前方の塹壕へ突撃していた。

「ねえっ…、これっ…、訓練っ…、なんだよねっ…?、」

一歩進むたびに対人地雷をお見舞いされる不運なモコシは、頑強な体を頼みによろめきながら走った。

「違う、殺し合い! これはれっきとした戦争です…!」

セマルグルがヤリーロに肩を貸しながら言う。

モコシは駆け寄ってマグーラを担いだ。

「礼は言わねえぜ…」

「言ってる場合か!黙れ!」

殺気立ったモコシが答える。

ヴェレスは魔力の続く限りランチャーを撃ちまくり、反撃を封じていた。

 

5人は掩蔽壕へ雪崩れ込んだ。

ヴェレスの砲撃により、砕けたコンクリートから鉄筋が根のように覗いている。内部は瓦礫の山で、重機関銃はその下で潰れていた。

しかし、アイビーの姿は影も形もなかった。

突入したと同時に、セマルグルは弓を構えつつ左の塹壕通路を狙った。ほとんど同時に、ヴェレスが右の通路をランチャーで狙う。

「クリア!」

「クリア!…掩蔽壕は!?」

「誰もいません!」

モコシが応えた。

「…でも、奥に通路が…」

「正面に立つな!撃たれるぞ!」

慌ててヴェレスがモコシの肩を掴んで引き戻す。セマルグルは弓で通路の奥を狙いつつ、相打ちの態勢で構えた。

(私の直感なら、銃撃の寸前に分かる!)

「…どうだ?」

ヴェレスの問いに、セマルグルはアーチェリーを下ろした。

「ここには居ないと思う。私は狙撃手だけど、この距離なら必ず感知できる」

「ってことは、攻撃が始まった時点で逃げたんだな」

5人は顔を見合わせた。

皆、顔は煤だらけ、体は泥だらけだ。

「しけた面ばかりだぜ…」

マグーラの呟きに、失笑が漏れる。

「あんたは立てるか?」

「ああ。なんとかな。すまねえ」

モコシに頷く。

彼女は首を振った。

「仲間だもの、当たり前だよ」

「いきなり即席のチームが出来あがっちまったわけか」

ヴェレスが肩をすくめる。

「みんな、動けるか?」

「すまない、私は無理」

うずくまったヤリーロが弱々しく手を挙げる。

「背骨が一部折れてる。2、3時間したら戻ると思うけど…役には立てない」

「残りは4人か」

「あいつ、これで終わらせると思う?」

自然とセマルグルに視線が集まる。彼女は首を横に振った。

「やめないと思う。私たちがここに居る以上、戦う意志があると見做すでしょう。

選択肢は2つ。

前進して彼女と戦うか、それとも背中から撃たれる危険を犯しながらこの場から逃げるか」

「んじゃ、一択だな」

ようやくマグーラが立ち上がり、大刀を背負った。

「やられっぱなしじゃ気が治らねえ」

「やられっぱなしって…貴女は一度勝ったでしょう?」

「あんなもん勝負じゃねえよ。あいつ、俺を殺せるならなんぼでも手があったはずだ。舐めやがって…」

「あんたはどう思うんだい?」

ヴェレスの問いに、セマルグルは考えつつ答えた。

「撤退するのが筋だと思う。相手はここの事を熟知しているし、分はこちらに悪い。状況からそう判断できる。互いに援護しながら下がれば、これ以上損害は増えないかもしれない」

「じゃあモコシは」

「ぶっ潰そう。あいつ、絶対背中からためらいなく撃つよ。なんかそういう気がする」

怒気を露わにしながらポールアックスを強く握った。

ヴェレスは頷いた。

「あたしも同感だ。それに下がるならヤリーロを置いてゆくしかないけど、奴が何もしないという保証はないしね。叩くなら今しかない」

「…民主主義、ってやつですね。いいでしょう」

セマルグルは肩をすくめた。

 

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