アイビー・トラヴィスの「日常」〜女王國物語   作:mizumega

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5・決着

***

 

ブービートラップを警戒しながら、ヴェレス、セマルグル、モコシ、マグーラの4人は通路の奥へ進んだ。

入り組んだ灰色の道は狭く、1人1人が通るだけの幅しかない。

いつ襲われるか分からない状況に、新入りたちの心は徐々に消耗していった。

やがて通路が上へ傾斜し、入り口に光が見えてきた。

「…ここで手榴弾を転がされたら全滅だねえ」

ヴェレスの言葉に、セマルグルが反応した。

「全員停止。各人間隔を10m離して。グレネードがきたら素早く伏せること。ヴェレス、私が先頭に立ちます。鼻が利く方なの」

「よろしく」

入り口へ差し掛かると、セマルグルは再び停止を命じ、矢をつがえた。

そして外へ向かって一本放つ。

 

途端に、バリバリ!と激しい銃声が響いた。

 

「…やっぱり待ち構えてる。でもそんなに近くじゃない。100mは離れているわ」

「十分近いじゃないか。…よし、分かった。あたしが煙幕弾を撃つから、あんたらは全力で走り抜けるんだ。外へ出たら散開し、隠れられる所で身を伏せる。いいね? 抜け駆けするんじゃないよ」

ヴェレスはマグーラをジロリと睨んだ。

「怖い顔すんなよ。先走ったりしねえって」

「ヴェレス、頼みます」

「いいかい? 3… 2… 1…!」

シュポン、と緊迫した状況にしてはいささか気の抜けた音を発し、煙幕弾が飛んでいった。

「今だ!」

4人は煙の立ち込める外へ向かって素早く出口を抜けた。

 

ムッとする濃い草いきれが鼻を襲う。

出た先は、深い森林だった。

下生えが生い茂り、視界を遮っている。

「まずいね…先が見えない」

ヴェレスが舌打ちした。

「固まっていると危険だわ。散開しましょう」

セマルグルの言葉に頷き、

「あたしは右に行く。セマルグルは左。あたしたちの間にマグーラとモコシが入りな。各員、さっきと同じく10m間隔」

モコシが異議を唱えた。

「なんで散らばるの? みんなで行ったらいいじゃない」

あまりに初心者な言葉に、ヴェレスはため息をついた。

「あんなあ、みんなでひと所にいたら、機関銃の良い的なんだぜ? 蜂の巣にされたいのかい」

「散らばっていれば、1人が倒れても、残りが銃撃の方向から敵の位置を割り出せます。でも、正面から水平に薙ぎ払われたら一瞬で全滅。常に遮蔽物に隠れながら進みましょう」

「声掛けを忘れるな。見失うほど離れるな。特にお前、自分だけ手柄を立てるつもりでいるなよ。そういう奴ほどみんなの迷惑になるんだ」

「いちいちうっせえなあ。分かってるって」

「どうだかねえ」

マグーラの言葉に首を振りつつ、ヴェレスは前進を開始した。

 

マグーラの文句にもかかわらず、4人は慎重に動いた。必ず大木の幹に隠れ、移動する時は隣に声を掛ける。敵に位置を悟られる危険があるものの、向こうは1人だ。攻撃すればかえって危うくなる。

 

(それほど広くはないみたい…これは追い詰められる)

いつでも矢を撃てる姿勢を保ちつつ、セマルグルの頭に勝算がよぎった。

その時。

ゾクッ、と寒気が背中を上る。

(…後ろ!?)

振り向いたセマルグルは、後方にアイビーの存在をはっきり感じた。

茂みに遮られて直視できないが、彼女の勘が外れたことはない。

「7時の方向!距離じゅ…」

ーーーザクッ!

両足の太股に衝撃が走った。

「え………」

絶句した。

太股から、尖った杭が飛び出ている。

セマルグルには分かっていた。

これはブービートラップだ。

鏃のように鋭く削った杭を何本も枝に付け、水平に振るように出来ている。

「うわぁあああああ」

恐怖に襲われ、セマルグルは矢を放っていた。茂みの向こうで爆発が起こり、爆風が彼女へ吹いてくる。その風に乗るように、一瞬だけアイビーの姿が見えた時、パ!パ!パ!と額を拳銃の弾で撃たれていた。

(最初から仕組んでいたのか…紐を引っ張ってトラップが発動するように)

銃撃を警戒するあまり、現地の材料を使って罠を張ることを完全に見落としていた。

自分のミスに舌打ちする間もなく、セマルグルの意識は途切れていた。

 

同時に、残りの3人が振り向く。

「そっちか!」

「セマルグル!」

「待て、やめろ!」

ヴェレスの忠告が届くより先に、

「きゃぁあああああ」

モコシの姿が消えた。

「モコシ!?」

慌ててマグーラが駆け寄る。

深い穴がポッカリと口を開けていた。

そして、穴の底に何本もの杭が…

マグーラは思わず顔を背けた。が、気を取り直し、串刺しにされているモコシを直視した。

(腹と足を貫通してやがる。あの野郎ぉ…!)

「待ってろ、今助けてやる」

「早…く、逃げ…」

血の泡を吹きながら、モコシが言う。

「馬鹿野郎、逃げられるかよ!」

 

(くそっ…全部お見通しか! だったら!!)

「出てきやがれえええ」

ヴェレスが立て続けにランチャーを放った。持てる魔力を全部注ぎ込み、多数の弾丸を森の中へ叩き込む。たちまち周囲から派手な爆発が連続して起こり、360℃の弾幕を張る。

この攻撃で当たらないはずはない…

そう思った時、ゾクリと地面から殺気が昇ってきた。

ふと足元を見ると、茂みに隠れてアイビーがこちらを上目遣いで見ている。

「…くっ!」

ランチャーはもう撃てない。

とっさに腰の拳銃を引き抜くも、

ーーーブウン…

何かが空中を飛んできた。

丸太だ。

人が何人も乗れるほどの巨大な丸太が、ロープに吊るされてこちらを狙っている。いくら体が丈夫でも、あんなのを喰らったら…

横っ飛びに避けようとすると同時に、アイビーが地面をスライディングして、ヴェレスの足を払っていた。

「!?」

一瞬だけ宙に浮いた彼女の体を、まともに丸太が叩く。文字通り十数メートルも吹っ飛んで、茂みへ落ちていた。

 

アイビーが立ち上がる。

冷ややかな目で、新入りたちの無惨な姿を眺めながら。

 

「野郎ぉ…」

マグーラが大刀を手に立ち上がった。

本気で殺意が湧いている。

刃が魔力で輝いていた。

鉄をも断ち切る魔刀だ。

 

一方のアイビーも、アーミーナイフを抜いていた。

こちらも刃が魔力で輝いている。

 

(落ち着け。奴の策略に乗るな)

先程とは違い、マグーラは摺り足でアイビーに近寄っていった。

「…よお。お次はどんな卑怯な手を使うんだ…?」

アイビーは答えず、こちらも摺り足で接近してくる。

そして、間に大木を挟んだ状態で、両者は向き合った。

アイビーが逆手にナイフを構える。

あと少しで、大刀の間合いに入る。

 

マグーラの額に汗が流れた。

ヘレン・ハイドにスカウトされるまで、マグーラは無敗を誇っている。

人間の時でも喧嘩で負けたことはなかった。

むろん斬り合いでも。

それなのに…こんな小娘に気圧されている。

(ありえねえ)

魔力は明らかに自分より小さい。

だが、なぜこれほど圧力を感じるのか。

あと半歩。

間合いに入れば、なんだろうと斬れると確信している。

奴がどう防ごうと、鎧ごと叩き斬る。

 

ふいに、アイビーがナイフを投げた。

それまで斬り合う気満々でいたのに、突然得物を捨てたのだ。

ナイフは真っ直ぐマグーラへ飛んでゆく。

避けなければ当たるが、

キンッ!

簡単に弾いていた。

サッとアイビーが大木の陰に隠れる。

反射的にマグーラは大刀を振っていた。

「きえいっ!!」

必殺の一撃だ。

大木の幹ごと奴を斬る。

手応えが、あった。

大人の腕では抱え切れないほど太い幹が、一刀両断されていた。

が…

(なにっ!?)

アイビーの姿はない。

その、一瞬の硬直が命取りになった。

幹がグラリ…と倒れてくる。

その上に人影が乗っていた。

アイビーだ。

下へ伏せるのではなく、上へ跳んでいたのだ。

そして、軍用ブーツが微かに光っている。

魔力が込められていた。

「しまっ…」

避けようとする前に、ブーツが倒れる幹を強く蹴っていた。魔力で倍加された筋肉が、通常ならあり得ない力で一気に大木を倒す。瞬時に地面へ激突した。

そしてマグーラはというと、広がった枝に逃げ場を失い、まともに挟まれていた。

「ぐおっ」

ズシン…と地響きが鳴る。

アイビーは幹から軽く飛び降り、マグーラに逃げる暇を与えず、立て続けに拳銃を額へ撃ち込んでいた。

タ!タ!タ!タ!タ!

9ミリパラベラム弾がマグーラの額にボツボツと穴を開ける。

グルン、と目玉が裏返った。

ピクリ、ピクリ…体が蠢き、それから痙攣が止まった。

 

 

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