アイビー・トラヴィスの「日常」〜女王國物語   作:mizumega

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6・教訓

***

 

アイビーは感情のない目でマグーラを見下ろし、拳銃のマガジンを抜くと、フル装填した新しいマガジンと交換した。常に弾切れを考慮し、全弾をいつでも撃てるようにするのが彼女の癖だ。

拳銃をホルスターに収める。

それから、マグーラを軽く蹴った。

「起きろ。いつまで寝ている」

マグーラの目がもとに戻った。

「あ……れ?」

(…生きてる?)

 

アイビーは構わず、穴の方まで歩き、飛び降りた。

「痛いか?」

「痛いに決まってるじゃないですか…」

相変わらず腹に杭が刺さったままで、モコシが睨みつける。

アイビーは刺し傷を指で触り、

「いや。傷口は回復しつつある。痛覚はないはずだ。お前の思い込みが痛みを生じさせている」

淡々と告げ、手を貸してゆっくり杭から引き抜いてゆく。

モコシは呻いたが、傷口から血は流れなかった。

「一人で出られるか?」

「…やってみます」

(優しさのない教官…)

思いつつも、両腕を振ってしゃがみ、その反動で跳び上がる。意外にも1発で届いた。

アイビーが続く。

 

向こうからセマルグルが足を引きずりながら歩いてくる。

反対側から腹を押さえてヴェレスがよろよろと来た。

全員、恨めしげな顔つきだ。

アイビーは頓着せず、

「整列」

4人が横並びした。

ボロボロの状態を眺め、

「…このように、相手が有利な状況では、戦力が小さくとも侮り難いのがよく分かったと思う。くれぐれも猪突猛進せず、可能な限り情報を集めた上で行動するように。

しかし、初顔合わせにも関わらず、互いに連携し、率先して行動したのは良かった。戦術眼も悪くない。特に仲間を見捨てず、皆が協力したのは貴重な教訓となる。

もし諸君らがもっと学びたいというのなら、私は喜んで協力する。

以上で、本日の訓練は終了する。

武器の手入れを怠らず、よく休むこと。

解散」

 

誰も動かなかった。

ただジッとアイビーを穴の開くほど見ている。

しかしアイビーは毛ほども気にしていなかった。

皆が動かないようなので、アイビーは頷いた。

「では…」

と、一人だけその場を離れようとする。

「待って下さい」

セマルグルが一歩前に出た。

「自分は納得できません。これだけの事をしておいて、ただの訓練だったというのですか」

「そのとおりだが」

「しかし…これは…」

「ただの殺し合いじゃないのかい!?」

「酷すぎると思います!」

「あんたイカれてるぜ!」

次々に非難の言葉を浴びせる新入りたちに、アイビーは微笑みで応えていた。

「なんで笑ってんだ。狂ってんのか!?」

「諸君らは何を学んだと思う?」

「なんでしょうかね。汚いやり方ですか」

苦虫を噛み潰したモコシ。

「私もフェアではないと考えます」

セマルグルが詰め寄る。

「軍隊の経験はありますが、ここまで過酷な訓練は記憶にありません」

「だろうな。私は綺麗事を教えたつもりはないからな」

「なんだって?」とヴェレス。

 

アイビーは皆へ振り向いた。

「私は『戦争』を教えているのだ。他に何がある?

いいか、戦争に『フェア』などという考えはない。

綺麗だろうが汚かろうが生き残った方が『勝ち』なのだ。

そのためにはどんな手段でも取る。今日、私がしたようにな。

言っておくが、今日の事は初歩中の初歩に過ぎない。

本物の戦争ではもっと汚いやり方が幾らでもある。

小手先の戦術ではなく、戦争という『思想』を理解しろ。

マグーラが私に挑んだような決闘は、戦場では何の意味もない。

私が弱ければ、強い味方を呼べばいい。あるいは罠を仕掛けるか。

誤解しないでもらいたいが、私は諸君に同じ真似をしろとは

薦めていない。むしろその逆だ。

戦争はどこまでも汚い手段であり、人間をケダモノに変える所業なのだ。

だが、戦争を止めたければ、諸君らはまず戦争の仕方を

学ばねばならない。分かるか。

敵を知り、味方を知れば、百戦危うからずとはよく言ったものだ。

セマルグル、ヴェレス、貴様らの経験をよく思い出せ。

諸君らには才能がある。それを無駄にするな」

 

言いたいことだけ言うと、アイビーはさっさとその場を離れていった。

 

「…だってさ」

ヴェレスが肩をすくめる。

「自分の経験は思い出したくないのですが…確かに一理ありますね。異形帝国もいることですし…」

セマルグルは考え込んだ。

「だけどあの人、な〜んかいけすかない!」

モコシはまだ怒っていた。

「ま…ああいうタチなんだろうよ。人のケツを蹴り飛ばすのが上手いっていう」

マグーラが呟いた。

 

4人がああだこうだ言い合っている頃、アイビーは掩蔽壕のヤリーロを背負って、訓練場を後にしていた。

「痛むか?」

「いえ。それほど…」

「グローア殿に診てもらおう。自己診断は禁物だ」

「あの…聞いていいですか」

「なんだ」

「教官は、どうしてあんな事を…いえ、怒っているのではないのです。ただ、最初から私たちを煽っていたというか…」

「そういうわけではない。素直に訓練をしてくれれば、それ相応の対応はする。今日は一人が反抗的だったので、ああいうことになった」

「帰っていいと言われたのは本気ではないですよね?」

「いや、本気だとも。別に戦うことが全てではない。それ以外にも有意義な時間の過ごし方は幾らでもある。戦いたくなければ戦わなくていいと私は思う」

「でも、悪い奴らが来たらと思うと、やっぱり訓練が必要なのでは」

「心配するな。私が戦う」

「えっ…」

淡々と答えるアイビーに、思わずヤリーロは教官を見つめた。

気負ったところは少しもない。

ただ事実を述べているに過ぎないというふう。

「参りましたね…」

ヤリーロがため息をついた。

「そんな事を言われれば、嫌でも教えて頂かなくてはなりません」

「嫌ならやめればよかろう」

「いえ、ですから、…教官って、鈍いって言われません?」

「どうかな。シモンあたりは言いそうだが…」

「あ、でも、実弾はさすがにダメだと思います」

「そんな事はない。これからも使うぞ」

「だって…」

「あのな、ヤリーロ君。『ハイドの女たち』が銃弾ごときで死ぬと思うか? 私は微塵も思わん。それに訓練は緊張感があったほうが良い」

「はぁ〜〜〜…教官ってやっぱり変です」

「そうなのか」

言いながら、アイビーはヤリーロを背負って歩いた。

 

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