【完結】光を失った少年の話   作:野口さん

1 / 26
 
 オリ主くんは名無し。
 相手のことを「(苗字)さん」と呼びます。


【本編】光を失った少年の話【完結】
一週目


 

 

 謎の屋敷に集められた13人、否、14人の少年少女。

 

 全員がこの状況に困惑していた。

 そんな中ひとり、中性的で騎士のような風格を持ち合わせた少女、蓮見レイアが前に出た。

 

「みんな初対面だろうから、良かったら自己紹介をしていかないか?まずは私から―――」

「そのまえにひとついいですか!!!」

 

 蓮見レイアが名乗りをあげようとした時、彼が入り込んできた。

 その黒髪の少年は白を基調とした和服に赤い帯を着ていた。腰には本物と思われる刀と、目元には濃いサングラス。

 

「この中に自分男ですよーって奴いますか!はい!!」

 

 彼の質問に、手を挙げているのは彼自身のみ。

 いくら待とうとも、それ以上手をあげる者はいない。

 

 周りを見て、誰も手が挙がっていないことを改めて確認すると、彼は膝から崩れ落ちた。

 

「男一人だけかよぉ!」

 

「……まずは私から名乗らせていただこうか」

 

 レイアは自己紹介を続行することにした。 

 他の少女たちもそれに続く。

 彼を除いた13人の少女が自己紹介を終わらせると同時に、どこからともなく一羽のフクロウが舞い降りてきた。 

 

 そのフクロウ曰く、自分たちは囚人であること、魔女因子を持っていること、そして全員が魔女になる危険性を持っていることが明かされる。

 

 事態を飲み込めない少女たちだったが、ゴクチョーと名乗るフクロウの話に崩れ落ちた彼が立ち上がって割り込んで見せた。

 

「見ての通り俺は男なんだけど、それでも魔女扱いされるのか?」

「魔女というのは何も女性のみの呼称ではないですよ。魔法が使える人間は性別関係なく魔女とみなされます」

 

 彼の質問に、ゴクチョーは嫌な顔を見せず素直に話して見せた。

 会話が通じる余地はありそうだと、少年は質問を続ける。

 

「この中にも男がもう1人ぐらいいる可能性は……」

「ないですね。生物学上の男性はあなた1人です。こんなことは今までなかったのですが……牢屋敷のルールをまた追加しなくてはいけないようですね」

 

 やれやれ、なんて言うゴクチョーはめんどくさいという心情を隠そうともしていない。

 少年は再び膝から崩れ落ちた。

 

「こんな環境で男1人とかめちゃくちゃ過ごしづらいんですけどぉ……」

「あら、男の子1人に対して同い年の女の子が13人、一体何が起こってしまうのかしら♡」

 

 妖艶な雰囲気をもつ紫の和服をした少女、宝生マーゴが薄く笑いながら少年をからかう。

 少年は顔を赤くしてあとずさった。 

 

「ほんとに同い年!?なんか色気やばいんですけど宝生さん」

「正しくない」

 

 少年の言葉を遮り、凛とした声が響いた。

 彼女は二階堂ヒロ。なぜか火かき棒をもっている。

 

「すんません!!」

「違う、君ではない。正しくないのはそこのフクロウだ。私は悪ではない」

 

「悪は死ね!!」

 

 二階堂ヒロは、正しくないものを排除しようとした。

 しかし、

 

「キャアアアアア!!」

 

 誰かの悲鳴が響いた。

 

 二階堂ヒロは看守によって一瞬のうちに殺されてしまった。

 

 少女たちは、目の前で起きた凄惨な出来事に悲鳴を上げることしかできない。

 そんな少女たちの心情など知ったこっちゃないのか、ゴクチョーは平然と話をつづけた。

 

 いずれこの牢屋敷内で殺人事件が起きる。

 殺人事件が起きたら魔女裁判を行い、魔女を特定してもらう。

 特定できなければ全員処刑。

 

 地獄のような生活がはじまろうとしていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 なにかこの屋敷から脱出する方法はないだろうか。

 ひとまず少年はあたりを捜査することにした。

 そして同じように屋敷を調べていた桜羽エマ、橘シェリー、遠野ハンナと合流し一緒に探索を進めていくこととなった。

 

 そんな中、ラウンジでひとりでいる沢渡ココと出会った。

 なにか知っていることはないだろうか、少年が沢渡ココに話しかけようとすると、なぜだか強く拒絶された。

 

「あてぃしの配信見てないやつと話したくないんだけどー」

 

 どうやら配信の同接数がすくなかったことを気にしているようだ。

 しかし、少年はその配信を見ていたのだ。拒絶されるいわれはない。 

 

「俺は配信見てたぞ?お話しようぜ」

「はぁ?うそつくなし!あてぃしの魔法発動しなかったから―――あっ」

 

 口を滑らせたのか、ココは自らの口をふさぐ。しかし遅かった。

 

「ココさんの魔法って、配信を見ることが条件なんですか?」

 

 好奇心旺盛な探偵少女、シェリーが詰めてきた。

 ココは観念したのか、ちっと舌打ちをする。

 

「はぁ。あてぃしの魔法は千里眼。あてぃしのことを見ているやつがいたら、あてぃしもそいつのことを見れるって魔法」

 

 自分を見ている人間を見ることができる魔法『千里眼』。

 

(俺の魔法の逆だな)

 

 少年はぼそりと呟いた。

 その呟きは、次に聞こえるエマの声にかき消された。 

 

「そんな魔法を持ってるんだ、すごいね。ボクは何も使えないから……」

 

 ココの魔法を聞いて、エマは悲しそうな顔を見せていた。

 この牢屋敷で唯一魔法が使えない存在であることを、本人は気にしているようだった。

 それを励ますため、少年は声をかける。

 

「気にすんなよ。そのうちめっちゃスゴイ魔法が覚醒するかもしれないしな。魔法って結構精神状態に左右されるんだぜ」

「わぁ!魔法に詳しいんですね!なにかご存じなんですか?」

「ただの実体験だよ。俺は心の底から魔法が使いたい、欲しいって思った瞬間使えるようになったからな」

 

 懐かしいぜ、なんて言いながら少年は笑っていた。

 サングラスをかけていて目元を見ることはできないが、遠くを見るような目をしていることだろう。

 

「心の底から……一体どんな状況だったんですの?」

 

 魔法の起動条件について気になったのか、ハンナが少年にそう質問した。

 すると、少年が答えるより先にココが割り込んできていた。

 

「はっ、どうせ寝る前に妄想とかしてたんでしょー?お前くらいの歳の男子なんてそんなもんだよねー。真っ暗な部屋のベッドで布団被ってキモい妄想してんだろ?」

 

 歯に衣着せぬ物言いにハンナはドン引きしていた。

 その言葉を受けた彼はムッとした顔になって左手を突き出した。

 

「ちょっと待って!寝る前の俺の部屋は真っ暗じゃない、小さい電気が付いている。眠れないからな」

「ガキかっ!!」

「知ってるか?男はいつだって心に少年を持っているんだ」

「知るか!もういい!」

 

 沢渡ココはそう言い残して、部屋を立ち去ってしまった。

 ツッコミがうまい子だな、と彼が思っていると、横から橘シェリーが声をあげた。

 

「あなたはどんな魔法を使えるんですか?」

 

 話の流れから質問されることを予想していたのか、彼は慌てずに答えた。

 

「名前を付けるとしたら、俺の魔法は『視覚強化』だな。遠くのものをある程度ズームして見ることができるし近くのものを虫眼鏡みたいにくっきり見ることができる。あと自分のことを俯瞰して見ることもできるぞ、沢渡さんとは逆だな」

「地味ですね!」

「どいつもこいつも言葉がつよすぎますわー!!」

 

 

 

【魔女図鑑が更新された】

 

 

 

 ◇

 

 

 

 就寝時間

 

 囚人たちは決まった時間に自分の部屋で眠らないといけない。

 違反した場合は罰則。

 

 少年はおとなしくその規則に従って自室に入る。

 彼と同室である氷上メルルは、少年を見るとびくりと体を震わせた。

 

「悪いね氷上さん。俺と同室で寝ることになっちまって」

「い、いえいえ、あなたが悪いわけではないですから……うぅ」

 

 メルルは不安げにしていた。

 当然だろう、彼女もいい歳だ。男性と同じ部屋で眠ることに危機感を覚えないわけではない。

 

「大丈夫大丈夫俺なんもしないからさ!お前なんて妹みたいなもんだよ!」

「そ、そう思ってたんですか?」

「おぉっと冗談を真に受けちゃうタイプか」

 

 冗談を言って雰囲気を柔らかくしようとしていたが、そう簡単にはいかないらしい。 

 

 少年は頭をかきながら、懐からロウソクを取り出した。

 

「氷上さん。ちょっとロウソクつけててもいい?」

「ロウソク、ですか?」

「暗いと眠れなくてね、明かりがないと落ち着かない。ここには電気が通ってないみたいだからこれでどうにかね」

「わぁ、おおきなロウソクですね。明日の朝まで使えそうな……」

 

 特にこれといって特徴的なロウソクではないが、市販の物よりもサイズが大きい。

 10時間は持ちそうだった。

 

「く、暗いの、お嫌いなんですか?」

「あぁ、ちょっとトラウマでね。点けててもいいかな?」

「はい!もちろんです!ロウソクの光、安心するので好きですから」

 

 ぱぁっと明るく笑ったメルルを見て、少年は安心してロウソクに火をつける。ロウソクと一緒にマッチも見つけることができたのは、彼にとって幸運だった。

 

 ほのかな明かりが部屋を照らす。

 文明人が使う常夜灯や豆電よりやや暗いが、暗闇が多少マシになった。

 

 ロウソクを床に置いてから、二人は自分のベッドに入っていった。

 少年が上、メルルが下である。

 

「んじゃおやすみ」

「はい、おやすみなさい」

 

(なんか今の言葉エッチだな……)

 

 おやすみなさいと言い合う行為にドギマギとしながら、彼はゆっくりと意識を眠らせていく。

 

 

 

 しばらくたって、深夜。

 どの少女も深い眠りについており、静かだった。

 

 しかしギシッとベッドのきしむ音が聞こえる。誰かが起き上がったのだ。

 起き上がったその人物は静かに静かに、だれも起こさないように静かに、ロウソクに近づいて行った。

 

 そして、ロウソクの火を―――

 

「えと、氷上さん?なんでロウソク消そうとしてんの」

 

 少年の声が、その人物を遮った。

 氷上メルルがなぜかロウソクの火を消そうとしていたのだ。 

 

「ひえぇ!?お、起きてらしたんですか?」

 

 かなり驚いたのか、メルルは目元に涙が浮かんでいる。 

 

「起きてたっていうか起こされたっていうか……俺って寝てる時も魔法使えるんだよね。だから周りの様子も寝ながら見てる」

「すす、すごいですね。そんなこと、できるなんて」

「褒めてくれてありがとう。だからロウソク消そうとするのやめてね」

「あぁ、ご、ごめんなさい!無意識に消そうとしてしまって」

 

 メルルの言葉は、苦し紛れの言い訳だ。

 彼女がなんらかの目的をもってロウソクを消そうとしていたことは誰の目にも明らかだった。

 しかし、少年は少年だった。

 

(氷上さんは優しいから、火事になったら危ないと思って消そうとしたんだろうな)

 

 実際のところは、少年の嫌がることを実行して魔女化させようとしていただけなのだが、少年はそんなことには気が付かない。

 そして寝起きの頭では思考を深めることもできない。こんな優しい子がそういったのだから、そうなのだろう。

 

(氷上さんはやさしいなぁ)

 

 眠い目をこすりながら出した彼の結論は、事実と大きく異なるものだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 牢屋敷で二度目の殺人事件が起きた後、なぜか橘シェリーが屋敷を破壊しまくっていた。

 魔女化かと思われたが本人はとても理性的であったため、ひとまず少年は安心する。 

 

 桜羽エマは、この事態をチャンスととらえていた。なぜなら、牢屋に抜け道ができたからだ。

 

「シェリーちゃんが暴れまわって、牢屋に穴が開いたんだ。これで夜にも探索に出られるよ」

「探索?夜に?大丈夫なのか?ブチギレ看守に襲われたりしない?」

「見つからなければ大丈夫です!!それで、あなたも一緒に探索に行きませんか?」

 

 シェリーが少年を誘うも、彼は珍しく微妙な表情をみせていた。

 これまでの彼ならば女子から誘われたことに喜んで二つ返事で同行してくれたのだが。

 

「あーっと、うーん。ほら、外めっちゃ暗いだろ?街灯もないし、暗いのは好きじゃなくてな……おっ」

 

 彼は近くを通りがかった紫藤アリサに声をかけた。

 

「紫藤さーん、火ぃ貸してくれ」

「はぁ?なんでウチが……」

「夜中探索するんだ。頼むよ、今キミのチカラが必要なんだ!!」

 

 必要、その言葉をアリサは無碍にできないらしい。

 感情の揺らぎが見て取れた。

 

「……明かりが欲しいってんなら、お前のロウソクでいいだろうが」

「もし何か出てきても紫藤さんなら前に出て戦ってくれそうじゃん」

「お前が前出ろよ、男だろうが!」

「コラコラダメだぜ紫藤さん。今の時代男だから女だからで行動を強制するのは悪いことだ」

「……悪い」

「そうそうそうやって頭下げて女らしく俺の三歩後ろについてきなぁあだだだだだだ!!!ごめんごめんごめんなさい冗談ですぅ!」

 

 彼の悪ふざけにアリサが関節技で返すのはよくあることだった。

 アリサはため息を吐く。

 

「ったく・・・それで、どこに行くんだよ」

「アリサちゃんもついてきてくれるの?うれしいな、ありがとう!!」

 

 エマは嬉しそうに笑ってアリサの手をとった。

 恥ずかしいのか、アリサはエマから視線をそらして頬をかく。

 

「別についてくだけなら構わねぇよ。ただしおめーはダメだ」

「え!?俺!?」

 

 困惑する少年、アリサはグイッと距離を詰めた。

 

「暗いのが怖いなら、大人しく休んでな」

 

 アリサは彼の耳元でそう言った。

 少年は自身の不安を言い当てられ、驚いた様子を見せる。

 

「どんな事情があんのかは知らねぇけど、部屋にロウソクあれだけ置いてるのは異常だろ。なにか闇にトラウマでも持ってねえなら、な。探索でいいもん見つけたら、情報共有はする。だから大人しく寝てな」

「そんなに俺のことを気にしてくれてたなんて……紫藤さん、さては俺のこと好きだな?」

「は?」

「君の気持ちはうれしいよ。でも俺たちはまだ知り合ったばかり、まずはお友達からでぇえええぃいだだだだだだ」

 

「学習能力をもったほうがいいんじゃないかな」

「桜羽さん、あなた意外と毒舌だよね」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その日、空は雲一つない晴天だった。

 

(気持ちがいい天気だから、すこし散歩でもしようか)

 

 そう思い立ち、少年は外を歩いていた。

 

 そんなときだった。

 

「急に草むらから飛び出してきた女の子に押し倒されてる件について。何この状況、エロ路線に振り切ったポケモン?」

 

 少年は奇襲してきた黒部ナノカに馬乗りにされていた。

 いくら木々に囲まれた場所だからといっても、魔法がありながらまったく反応できないなんて、気が緩んでいるなと少年は自分を戒める。

 

 馬乗りになった黒部ナノカは、そのまま少年の両手を自分の手で拘束していた。

 正直に言えば、彼はいくらでも抵抗できた。

 男女の筋肉量の差は、多少の姿勢の有利があろうともこの状況をひっくり返せそうだった。

 

 しかし、それをしなかった。理由はふたつ。

 ひとつは、女の子に乗ってもらうという状況が美味しかったから。

 そしてもうひとつは、ナノカがとても悲しそうな顔をしていたからだ。

 

「私の魔法は幻視。対象に触れることで相手の過去を見ることができるの」

「……まさか」

「あなたのことを黒幕だと疑っていた。でもそれは違った。あなたも被害者だったし、それに……」

 

 黒部ナノカは少年と目を合わせた。いいや、目を合わせたわけではない、目を見ただけだ。

 しかし彼が身に着けているサングラスは、その先を見せてはくれない。

 

 過去を見てしまった。

 

 ナノカは、少年の目の秘密を知ってしまった。

 

 なんと声を掛ければいいだろうか。

 ふたりの間に沈黙が落ちる。

 

 その時だった。

 

 ガサッ

 

 近くの草木が揺れる音がした。

 風でなった音ではない。

 

「誰!!」

 

 ナノカが声をあげると、その草に隠れていた少女を見つけることができた。

 

「見つかっちゃった!」

「お、おふたりとも!破廉恥ですわあああああああああ」

 

 草木の隙間からこちらを覗いていたのは、桜羽エマと遠野ハンナだった。

 ふたりは出歯亀がばれるとすぐに逃げ去ってしまった。 

 

 少年が少女に押し倒されて、無言で見つめ合っている。

 覗きに徹するのも無理はない話だった。

 

「っ!」 

 

 逃げ去っていくふたりの背を見て、ようやくナノカは自分がどんな状態なのかに気が付いたのだろう。

 あわてて彼の拘束を解き、体から降りる。

 

「ふいーっ、役得だったぜ」 

 

 彼はゆっくりと起き上がって笑った。

 ナノカは赤くなった表情を隠すようにそっぽを向いている。

 どう勘違いをただそうかと考えるも、それよりもナノカは彼に聞きたいことがあった。 

 

「見えて、ないのよね?」

 

 なにが、という主語は不要だった。

 自分の過去を見てしまったのだろうと、少年はあきらめたように立ち上がって口を開いた。

 

「あぁ。昔、事故にあって目はもう使い物にならない。視覚はぜーんぶ魔法に頼りきりだよ」

「そう……ごめんなさい。あなたの過去を覗き見てしまった」

「気にすんな、ただあんまり言いふらさないでくれよ。自分のこと噂されるの恥ずかしいし」

「誰にも言わないわ……」

 

 少年が冗談めかして言うも、ナノカは暗い表情のままだった。 

 きっと彼女は本当に誰にも言うことはないだろう。

 

 再び沈黙が生まれる。

 

(どうしたもんかな)

 

 少年は自身の秘密がバラされる不安よりも、この気まずい空気をどうすべきかと考えていた。 

 しかし、彼が何か行動を起こす前に、ナノカが口を開く。

 

「お詫びになるかはわからないけれど、私の秘密も伝える」

「マジ!?スリーサイズ!?」

「……」

「冗談だから銃向けてくるのやめて!?」

「私がここに来た理由、そして看守について」

 

 ナノカが隠してきた過去を話そうとした時、再びガサッと音が聞こえた。 

 先ほどのふたりがまた覗きに来たのだろうかとそちらに視線を動かすと、そこにいたのは予想外の人物だった。

 

「看守!?」

 

 現れたのは、初日に二階堂ヒロを一瞬で殺害した、大きな鎌を持つ、囚人たちにとっての『恐怖』。

 

 そして

 

「お姉ちゃん……」

 

 だれかにとっての『家族』であった。

 

 ナノカが悲しそうな声で看守をそう呼んだ。

 それによって、彼はだいたいの事情を理解した。

 

(よくよく考えれば、当然か。看守も元は人間。それが、黒部さんの姉さん)

 

 看守は何も言わない。何も行動しない。

 ただ、ふたりを見つめていた。 

 

 少年が一歩前に出る。

 

「あんたも、()()ってことか?」

「……」

 

 看守は何も答えない

 

「返事はできないか、まぁ洗脳されてるらしいし……」

「えぇ。なんども声をかけてきたけれど、無理だった。」

「そうか」

「……」

「……」

 

「フンッ!!」

 

 何を思ったのか、彼は急に変顔を始めた。

 顔をゆがませ、指を使い、コロコロと変顔を見せていく。

 

「なにをっ、く、くふっ」

 

 彼は自身の魔法によって、自分の顔をいつでも見ることができる。

 それによって磨いてきた変顔は常人では笑わずに堪えることは不可能だった。

 ナノカは吹きだすのを必死に耐えている。

 

「くっ、俺の必殺変顔100連発が効かないとは……なんて効果の強い洗脳なんだ!」

「ま、まって、やめ、くすっ、やめて」

「いいぜ、いくらでもやってやる黒部の姉さんよ。お前の表情がゆがむまで何度でも変顔を喰らわせてやるよ!」

「くぅ、やめて、おなか、ふふっ、おなかいたいっ」

 

 ナノカは耐えられずお腹を押さえて笑っていた。

 それは普段から表情の変わらない彼女が、ようやく見せた笑顔であった。

 

 看守はその様子をじっとみていた。

 ナノカが笑っている様子を見ていた。

 

「ちょっと黒部さん?笑いすぎ」

「ふふっ、だって、あなたの、あなたのかおが、あははっ」

 

 ツボにはまったのか、ナノカはずっと笑っている。

 

「笑いすぎだってば、ほら……」

 

 少年が振り返ってナノカの方を見た時、ふと聞こえた。

 

 

 たくさん笑わせてあげて  

 

 

 そんな声が聞こえた気がして、少年は看守のほうにバッと向きなおった。

 看守はすでに立ち去っていた。

 

「これは……」

 

 看守がいた場所には、なぜかロウソクが何本か置かれていた。

 そのロウソクは、普段彼が寝るときに使用していたロウソクとおなじ種類のものだった。

 

 今まで大量に部屋に保管していたのだが、今朝()()()()メルルが全部割ってしまったらしく、使えなくなっていた。

 今日寝るときにどうしようかと悩んでいた彼だったが、このロウソクがあればしばらくは大丈夫そうだ。

 

「……ありがとう」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「みなさんのこと大好きでした!」

 

 

 事態は最悪な結末に近づこうとしていた。

 

 皆を牢屋敷に閉じ込めたのも、殺人事件を起こさせたのも、全部全部全部。

 すべての黒幕は、氷上メルルだった。

 

 悲しみに浸っている時間はない。

 怒りに震える時間もない。

 

 少年とマーゴは同じタイミングで飛び出した。 

 

「エマちゃん!ココちゃん逃げるわよ」

 

 マーゴはココとエマの手を掴んで走り出す。 

 

 そして少年は、刀を抜いて看守とメルルの前に立ちふさがった。

 

「俺が殿(しんがり)をする。その間に逃げてくれ。みんなの仇だ、絶対に許せない」

 

 無謀だ。

 看守の力は絶大だ。とてもひとりで対抗できるわけがない。

 

「そんな!一緒に逃げなきゃ!」 

「無理だ。すぐに追いつかれる。俺が足止めするからそのうちに、生き延びてくれ」

 

 エマが少年の方に手を伸ばすが、彼は刀を握り締めるのみだった。

 

「頼んだよ、宝生さん」

「……えぇ」

 

 彼の覚悟が伝わったのか、マーゴは短く返答し出口へと消えていく。

 ココとエマもマーゴに連れられて外へ出ていった。

 

「じゃあなみんな。なるべく長生きしてくれよ」

 

 その言葉を最後に、裁判所の扉が閉じられた。

 

 

 

 

 

「優しいですね。自ら最後方に立つだなんて、とてもかっこいいです!」

 

 メルルは拍手をしていた。

 その言葉に嘘はない。心の底から少年のことをほめているのだ。

 

 少年は何も答えない。

 

「でも、私たちは全員を殺さないといけなくって……看守さん」

 

 メルルが指示を出すと、看守が人を超えた速度で少年の下へ向かっていく。

 

「ごめん、笑わせてあげられなかった」

 

 少年が看守に向けてそう口にした。

 

 看守は鎌を振り上げる。

 そこにある感情は怒りか、悲しみか、あるいは何もないのか、彼にはわからなかった。

 

「俺も死ぬべきなんだろうけど、ごめん。後ろにみんながいるんだ」

 

 振り下ろされた鎌を、刀で受け止めた。

 鎌と刀がぶつかり合い、鍔迫り合いが起きる。

 

 看守とは魔女のなれはて、並みの人間が力で対抗できるものではない。

 しかし、二人の力は拮抗していた。

 看守が加減しているのか、少年が根性で耐えているだけなのか、メルルは判断のしようもない。

 

「看守さん!がんばってください!」

 

 まるで運動会に出場している友人を応援するかのように、メルルは看守にエールを送った。

 それに合わせて、ゴクチョーも翼を広げる。

 

「このあとまだまだたくさん仕事あるんですから、さっさと終わらせてください」

 

 その言葉とともに、突然看守の力が何倍にも膨れ上がった。

 ゴクチョーの命令はそれほど強力なのだ。看守の心情なんてしったことではない。

 

 少年は力で吹き飛ばされ、体制を立て直す前に看守によって幾度も幾度も斬撃を浴びせられる。

 

「あぁ……かわいそう、いたそうです」

 

 メルルが憐みの言葉を口にすると、看守はようやく動きを止めた。

 返り血にそまった姿はまるで死神のようだ。

 

「さぁ、次はエマさんたちを」

「待てよ」

 

 メルルが出口の方へ行こうとすると、そう止められた。

 あろうことか、少年は立ち上がっていた。

 

 全身を切り刻まれ、白かった衣装が真っ赤に染まっている。

 左腕は肩から先が無くなっていて、左足は腱を斬られたのか力が入っていない。 

 それでも彼は立っていた。

 

「わぁ……すごいですね。あれだけ斬られて、まだ立っていられるなんて」

 

 ふらふらと少年はメルルに向かって歩き出す。

 動かない左足を引きずりながら、残った右手で刀を強く握りこむ。

 

 メルルはいつもと変わらない様子で少年の身を案じていた。

 

「あぁ、無理なさらないでください!ち、ちが、血が出すぎているんです!早く手当しないと、死んでしまいます」

「……」

「無理に動かないでください!」

 

(死ぬなぁ、これ)

 

 少年は自身の死期を悟った。

 

(世話をやいてくれた紫藤さんが自殺に追い込まれるのに気づけず、あれほど頼まれた黒部さんを死なせて、あれだけ一緒にいた黒幕の正体にすら気づかない)

 

 血が流しすぎたのか、少年の体から力が抜けていく。

 立っていられなくなり、少年は前のめりに倒れる。 

 

(なんて役立たず)

 

 意識を保っていることすら難しく、少年は鉄の味を感じることしかできない。

 

(せめて、さいごくらいは、いちびょうでも、ながく、あし、どめ、を)

 

 彼はゆっくりと()を閉じた。

 

 

 

 

「あぁ……死んでしまいました」

 

 血の池に浮かんでいるかのような恐ろしい出血量の死体を前にして、メルルは彼が死んだことを悲しんでいた。

 

「なかなかしぶとかったですね。メルル様、私は先に残りの少女たちを見つけてきますので、失礼します」

「はい、早く見つけてあげてくださいね。野宿させるのはかわいそうですから」

 

 ゴクチョーが外に飛び去って行くのを確認し、メルルは彼の死体をそっと撫でる。

 

「埋葬してあげたいですけど……今は、エマさんたちを見つけに行かないと……」

 

 メルルが出口に向かおうと彼の死体に背を向けたその時だった。

 死体から、声がした。

 

 

 

 行かせるかよ

 

 

 

「え?」

  

  

「ウオオオオォォォォ!!」

 

 

 それは、獣のような咆哮であった。

 とても人間からでた声とは思えない。

 それも当然だ。彼はもう、人間ではないのだ。

 

「まさか、自ら魔女化したんですか?そんな……」

 

 魔女となった彼は、破壊衝動に身を任せメルルに襲い掛かった。

 

 しかし、看守がその間に割り込む。

 鎌を振り少年の刀を止めた。

 再び鎌と刀の鍔迫り合いが起きる。 

 

 今度は簡単に勝敗が決まることもない。

 二人の力は拮抗していた。

 

「なんて素晴らしいんでしょう。そうまでして、あなたはエマさんたちのことを守りたいんですね」

 

 メルルはホロホロと涙を流すと看守の背に手を当てる。するとメルルの手から光があふれだした。

 

「看守さん、お願いします」

 

 治療の魔法により、看守の力が一気に増し、再び彼は吹き飛ばされた。

 

 彼はすぐに立ち上がって、看守と斬り合いになる。

 魔女化して条件は同じとなったが、状況は二対一。

 

 じわりじわりと、彼は追い詰められていた。

 魔女化によって傷はすぐに再生するも、『洗脳された看守』と『暴走するだけのなれはて』では勝敗が決するのは時間の問題だった。

 

「!!」

 

 看守の手によって、彼の首が斬り落とされた。

 こうなっては、いくら魔女化していたとしても長時間行動不能となる。

 

 メルルはそっと少年の頭を拾い上げ、

 

「とってもかっこよかったです。お疲れさまでした」

 

 口の中に『トレデキム』を流し込んだ。

 

「ア……ガ……」

 

 一瞬のけいれんの後、彼は動かなくなった。

 魔女を殺す薬が、正常に働いた。

 

 

 こうして、彼は生命活動を終えた。

 完全に、完膚なきまでに。

 

 

 

 彼の瞳は、キラキラと、黒色に輝いていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「――【戻った】、ということか」

 

「それなら、初めから、やり直さないと」

 

 





【魔女図鑑】

囚人番号671
男性

牢屋敷唯一の男性。腰の刀は本物。
【視覚強化】の魔法が使える。

他人を笑わせることが好きなようで、積極的に少女たちと交流を深めている。
なぜか頑なにサングラスを外さない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。