牢屋敷で過ごしていた少年少女達、
しかし突然、牢屋敷での日常にそぐわない大きな音が
慌てて外に出て音の正体を確認する。
空に浮かんでいたのは、なんとヘリコプター。
ようやく帰れるのかと歓声をあげる面々だったが、そのヘリコプターの目的は物資の運搬のみだったようだ。
囚われていた彼女たちへ向けて、様々な物資を置くだけ置いて、再び飛び去ってしまった。
帰れるわけじゃないのかと落ち込む彼女たちだが、今までなにもコンタクトがなかったことと比べれば大きな進歩だろうというレイアの言葉により、前向きに捉えることとした。
送られてきたその物資を確認すると、それは煌びやかな衣服や化粧品、甘味やゲーム機など。
いわゆる娯楽品と呼べるようなものが様々な種類送られてきた。
その中にあったもののひとつとして……
「新しい映画フィルム?」
「うん!それと一緒に最新型の映写機も送られてきたんだ」
嬉しそうにミリアは笑った。
娯楽室に置かれていた映写機は、白黒の影像しか映し出せない古い物だった。
だがこの最新機のものなら、フルカラーな上にクリアな音声もついている。
「電源もどうにかなりそうだな」
「うん、電池で動くみたい。おじさん楽しみだなぁ」
「……『暇つぶしの道具をやるからもう少し待て』っていう政府からのメッセージかね、これは」
「あ、あはは……」
少年と同じことを思っていたのだろう。ミリアは苦笑いをした。
社会的に抹殺されていた人間を呼び戻すのはまだ時間がかかるようだ。
ミリアと少年のふたりは娯楽室でガチャガチャと映写機の設置を始める。
普段なら誰かしら遊んでいるこの娯楽室だが、今はこのふたりしかいない。
他の少女たちは皆、一階で送られてきた物資で遊んでいるようだ。
特に送られてきた衣服は多くの少女にとって評価の高い物だったらしい。
色々と着せ替えて楽しんでいるらしい。
「ファッションショーは楽しそうだな。ここまで歓声が聞こえてくる」
「君は行かなくてよかったのかい?」
「女の子のファッショントークに混ざれって?冗談キツイぜ佐伯さん。ダッシュで逃げてきたよ」
少年はそこまでファッションに明るくない。衣装をみて何かしら意見を出せるほど知識があるわけではなかった。
それにもしも逃げ出さなければ、マーゴの悪ふざけでヒラヒラのドレスを着せられていたかもしれない。
女装癖は持ち合わせていない彼は、怪し気に笑ったマーゴと視線が合った瞬間逃げだしてきた。
「うーん、みんな君の意見を聞きたいんじゃないかな。唯一の男の子なんだし」
「『これとこれ、どっちがいいかな?』なんて質問をされるのが怖い。どっちもかわいいって言ったらどうなっちゃうんだろう」
ミリアは少年を安心させるように声をかける。
「君の言葉なら、みんな素直に受け取ると思うよ。今から下に行って試してみたらいいんじゃないかな。映写機はおじさんがひとりでできるし」
「いいって。それより佐伯さんこそ行ってきなよ。俺が映写機やっとくから」
容姿端麗なミリアなら、いろいろと楽しめることだろう。
そう思った少年がファッションショーに行くことを進めるも、ミリアは首を横に振る。
「映写機はみんな使うだろうから、すぐに使えるようにしておきたいんだ。それにおじさんはかわいい衣装とか似合わないよ」
「そうか?佐伯さんならなんでも似合うと思うけど……」
「そ、そうかい?なら、どんな服だと似合うと思う?」
ミリアから質問がされると、少年は腕を組んで悩んだ。
頭を捻り、あーでもないこーでもないと熟考する。
「そ、そんなに悩むんだ……」
少年は何度も頷いた。
「佐伯さんなんでも似合いそうだからなぁ」
「そ、そんなことないと思うよ?」
「あぁそうだ、一周回って着ぐるみとか似合いそう」
「どう一周したらそうなるんだい?!」
だって着ぐるみの中から佐伯さんみたいな美少女出てきたら萌えるじゃん。
そう言いかけた少年だったが、セクハラになりそうなので飲み込んだ。
ガチャガチャと映写機をいじる。
「服のほかに、いろいろ映画のフィルムももらえたんだよな」
「あ、そうそう。有名な作品とかたくさん」
送られてきた物資の山を思いだす。
これだけあればしばらくは映画鑑賞しているだけで時間を潰せるかもしれない。
「なんだかたくさんもらいすぎて、申し訳ない気持ちになってくるね……」
「逆だよ佐伯さん。これでも足りないくらいさ。俺たちは国によって誘拐されてたわけだし」
少年は毅然とした態度でそう言い切った。
自分たちは被害者なのだ、国に対して要求する権利があると主張した。
少年の言葉にミリアは小さく頷いた。
「そうだよね。こっちは何も悪いことしてないんだし、堂々としていればいいよね」
「だな。図々しくもっといろいろ要求してもいいのかも」
「今欲しい物といえば……外と繋がれるネット回線、とか?」
「沢渡さんが喜びそうだな。」
ココは毎晩配信をしている。
それは魔法から解放された今も変わらず雑談配信をし続けている。
もしもネット回線が完成してしまえば、彼女は嬉々として配信活動を続けていくことだろう。
「『屋敷から配信してみた!』とかやるのかなココちゃん」
「いーや『魔法少女の真実をお話します』ってタイトルで自分の身の上話を始めるね。そんでコメントで嘘松扱いされて視聴者にブチギレてる」
「負の信頼がすごい……よし、これでいいかな!」
どうやら映写機の調整が完了したようだ。
ミリアがボタンを押すと映写機が正常に起動し、スクリーンに光が写る。
少年が思わず、おぉと感嘆の声をあげた。
以前使っていた映写機とは違うことがこの光の強さだけでわかる。
「これで使えるようになったね!みんなとどんな映画を見ようかなぁ」
「せっかくだしなんか流してみようぜ……お、これ知ってる」
「あ、有名な映画だよね。男の子と女の子が入れ替わる映画だよね」
彼が手に取ったのは有名な映画作品だ。
恋愛映画、と評することもできるかもしれない。
「10年近く前の映画なんだなこれ」
「10年?あはは、それは無いよ。さすがにおじさんも、それは嘘だってわかるよ」
「ここに公開日書いてある。ほら、来年で10年目」
「そんな……」
当時はきれいな映像とストーリーにより一躍有名となった作品だ。
今でも語られることのある名作である。
「確か俺は公開日に見に行ったよ。でも全然ストーリー覚えてねぇ」
「公開日だと、4歳か5歳の時だもんね。覚えてなくてもしょうがないよ」
「おじさんはテレビで見たから覚えてるよ。男の子と女の子が入れ替わって、みんなを助けるお話」
「入れ替わり、か」
「おじさんの魔法みたいだね」
「何回か入れ替わったよな」
魔法がまだ使えた時のこと、少年は何度かミリアと入れ替わっていた。
誰にも気づかれないようにこっそりと、ふたりで手を繋いでいた。
ミリアと入れ替わって外の景色を見たり、映画を見たり、様々な景色を堪能していた。
肉眼での景色を忘れかけていた少年にとって、それは素晴らしい時間であった。
何回ミリアの体で涙を流してしまったのかわからない。
「あのときはありがとう、佐伯さん」
「お礼なんていいよ。おじさんはただ魔法を使っただけなんだからさ」
「それでも、だよ。実は不安だったんだ。魔法で見る景色と、みんなが本当に見てる景色って違うんじゃないかって」
魔法で見る景色は、実際のそれと大きく異なることはない。しかし、少年はそれを確かめようがない。
自分が見ていた景色が本物かどうかなんて、どうやっても証明できないものだ。
しかし、入れ替わりの魔法を持つ少女、佐伯ミリアが現れた。
彼女のおかげで、彼は自分の見ている景色が本物なのだと安心することができたのだ。
「本当に、本当にあのときは安心したんだ。ありがとう、佐伯さん」
少年があまりにも真っ直ぐと感謝を伝えるものだから、ミリアは照れ臭くなって思わず視線をそらしてしまう。
常に周りから一歩引いて大人びた雰囲気を醸し出す彼女だが、ふとした時に出るこういった仕草は、少年と同い年の少女のそれである。
やっぱり同い年なんだな、と少年は今更ながらに理解した。
そらした視線の先に映画のフィルムを見つけたようで、ミリアはそれを手に取る。
「映画、ふたりで見ちゃおっか。みんなまだ時間かかりそうだし」
「お、いいね。せっかくだし明かり消してマジの映画館っぽくしよう!」
「わぁ、面白そうだね。でも、大丈夫?」
「映画の光があるし、隣に佐伯さんもいてくれるんだろ?なら、暗くても俺は大丈夫だ」
そう言うと少年は自分から部屋のカーテンを閉め、照明を消した。
映写機の光が室内を照らす。
思ったよりも暗いなと少年の呼吸が少し浅くなるが、近くにいるミリアの気配をとらえ落ち着く。
ふたり並んでスクリーン前のソファに座った。
「お、始まるぞ!佐伯さん、ポップコーンとってくれ」
「え、えぇ?持ってないよ!?」
「ならコーラ」
「食堂にいってもないと思うよ?!」
「ヘリコプターでコーラとポップコーン持ってきてもらうか」
「……確かに、久しぶりに食べたいかも」
「決まりだな。『佐伯ミリア様がコーラとポップコーンを要求している!今すぐ持ってこい!!!』って本土に伝えとくね」
「おじさんそこまで強くは言ってないよ!?」
◇
映画が始まった。
スピーカーも映像も問題なく動いている。
最新型の映写機による綺麗な映像と同じく高そうな見た目のスピーカーによって、本当に映画館で映画を見ているようだと少年は感じていた。
それはミリアも同様であり、感動しているのか映画に見入っている。
ふたりは静かに映画を見ていた。
一階で行われていたはずのファッションショーの歓声がどこか遠くに聞こえる。
完全に締め切ったこの娯楽室は、映画の音声と、時々ふたりのちいさく笑う声が聞こえるのみだった。
お互いに昔見た映像を懐かしんでいた。
(……あ、ヤバい)
映画が進むにつれて、少年は昔の記憶を思い出していく。
昔、10年近く前の記憶。
この映画を見た時の記憶。
右隣には母親が、左には父親が。
もう二度と会えない両親との記憶が鮮明に思いだされていく。
(ヤバい、まだ全然、泣く場面じゃないのに)
もう乗り越えたと思っていた。
しかし、ふとした瞬間に思いだしてしまう。
大好きだった両親の喪失。
(……何年前の事だよ、もう乗り越えただろっ)
少年はこらえようとするも、ポロポロと涙があふれ出てくる。
何度拭っても止まらない。
呼吸が上ずって嗚咽が漏れそうになるのを少年は必死に耐える。
彼の右隣では、ミリアが映画を見ているのだ。
それを邪魔するわけにはいかないと必死に呼吸を落ち着けようとした。
その時だった、
少年の隣に座っていたミリアが、そっと彼の手を握っていた。
映画館と化した娯楽室は暗いが、映写機の光のおかげで相手の顔をみることぐらいならできる。
ミリアは映画を見続けていた。
少年の涙になんて気が付いていない、そういうように。
しかし、その握られた手はとても暖かかった。
(ほんと、優しすぎるよ佐伯さん)
その手を握り返し、空いた手で涙をぬぐった。
映画の終わりが近づいてくる。
少年が泣き止むまで、そして泣き止んだ後も、ふたりは手をつないでいた。
お互いになにか言葉を交わすこともない。
映画もスタッフロールが終わり、スピーカーは音を流さなくなる。
静寂に包まれる娯楽室で、ふたりは黙って手をつないでいた。
流した涙の跡が消え始めて、少年はようやく口を開く。
「佐伯さんには、泣いてるとこ見られてばっかだね」
「なんのことかな、おじさん映画見てたからわからないよ」
「……ありがとう。助けられてばっかりだな俺は」
「おじさんも助けられてばかりだよ。だから、お互い様」
「そっか……」
「ありがとう」
◇
――記録:ある日のお茶会
「最近あのおっさん急に可愛くなってね?」
「そうかな?ボクは変わらないように見えたけど」
「あら、ココちゃんも気が付いたのね。ミリアちゃんったら、急に可愛くなっちゃって、私も驚いたわ」
「マーゴちゃんが言うならそうなのかな?あ、そういえば最近、服装とかをよく気にしていたよ。それにハンナちゃんに裁縫のこととか聞いてたみたい」
「あとナノカに料理とか教わってたっぽいし。急にどしたんって感じー」
「……彼氏でもできたのかしらね♡」
「「!?」」
「まさかアイツ、おっさん落としたの?マジ!?」
「そ、そうとは限らないんじゃないかな?ただミリアちゃんが練習したいって思っただけかもしれないし!」
「えぇ、そうね。ただの憶測、可能性の話よ。でもそうなると、辻褄が合うと思わない?」
「……確かにあいつら、ずっとふたりでいる気がする」
「……娯楽室にふたりでいるのをよく見かけるよね」
「昨日、彼と手をつないで寝ていたのはミリアちゃんね。おとといもその前も、そしてきっと今日も、ね」
「確定じゃん!!」
「わ、わぁ、すごいね。ふたりは恋人ってこと?」
「どうでしょうね?そこまで関係が進んでいるのかはわからないわ」
「今度おっさんに聞いてみよっ、あいつと付き合ってんのかって」
「だ、ダメだよ!そっとしておいてあげたほうがいいと思う!」
「エマちゃんの言う通りよ。こういうのは陰から応援してあげるのが一番。私たちのせいでふたりの関係に溝が入ってしまってはいけないもの。からかうのは、もっと後」
「……後って?」
「ふたりが
「お前やっぱり魔女だろ!」
最後のお茶会を書きたかっただけ感
✋<ちょっと待って!僕が誘われてるなんておかしいよ!
特に意味はないアンケートその2
-
エマ
-
アンアン
-
レイア
-
シェリー
-
ハンナ
-
ココ
-
メルル
-
ユキ