【完結】光を失った少年の話   作:野口さん

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吾輩は主人公である。名前はまだ無い。
正確にはあるのだが、どのタイミングで公開したものかとんと見当もつかぬ。
もう名無し主人公が定着してしまったのでもう公開しない方がいいと思ったことだけは記憶している。



Ifルート 夏目アンアン

 

 

 図書室にて、

 

 アンアンは()()に座って本を読んでいた。

 

「~♪」

 

 鼻歌を歌い、どこか楽しそうだ。

 今読んでいる小説が面白いから、というのも理由のひとつであろうが、彼女が楽しそうな一番の理由は、その()()にある。

 

「……楽しい?夏目さん」

「うむ!」

 

 その()()とは少年であった。

  

 劇制作の時以来、アンアンは彼がどこかに座るたびにその足の上に座るようになった。

 

 彼女の体格もあって重たいだとか足が痛いだとかは感じたことはなかったが、同い年の少女が自分の足の上に座っているという状況は、彼にとって毒であった。

 

 しかし下ろそうとすると赤子のように少年の体にしがみつくし、無理に引きはがそうとすると目元をうるうるさせるものだから、少年は諦めるほかなかった。

 

 それに少年の体を背もたれにしている、アンアンはどこか楽しそうなのだ。 

 以前と比べて笑顔の回数がずっと増えていた。

 

 ならば、少年は彼女をおろす選択などできはしない。

 黙って彼女の椅子になるしかない。

 

「……」

「ふふっ」

 

 時折、こうして後ろから彼女の頭を撫でてみると、彼女はそっと少年に体重を預けてくる。

 その仕草は、少年のことをとても信頼しているのだと感じさせた。 

 

「……」

 

 少年は何となく気がついている。アンアンは自分に父親を重ねているのだと。

 

 最終裁判の時、彼女の両親は魔法によって人形のようになってしまったことが明かされた。 

 意志も持たず、命令されたことのみを実行する存在のことを、生きていると呼べるだろうか。

 彼女からすれば、それは死んでしまったこと同義だろう。

 

 夏目アンアンという少女は、自分の魔法のせいで両親が物言わぬ人形となったことを深く悲しんだ。

 

 だからその魔法が無くなった今、自分のような男に()()を重ねてしまう。

 

「……」

 

 少年もまた、両親を小さいころに失っていた。

 

 だから彼女の気持ちがわかる、なんてことは言えない。

 両親を失った悲しみなんて、だれにもわかるわけがないのだから。

 

 しかし、もしも彼女がその悲しみで膝を付いてしまったとき、支えられるのは自分だけだろうと思っていた。

 彼女に理解を示せるのは、自分だけだろうと思っていたのだ。

 

 もしも彼女が寄りかかる場所を欲しているのなら、自分がその役割になろう、そう考えていた。

 

「まさか物理的に寄りかかってもらえるとは思っていなかったんだがな」

「むふー」

「どう言う感情の顔それ」

 

 少年は動けないので、アンアンと同じように適当な本を手に取って読んでいた。

 読める文字で書いてある本であるだが、たいして内容は面白くない。

 

 面白い本を探そうと席を立とうとすると、アンアンが少年の服を掴んで引き留める。

 日頃の彼女の態度も相まって、まるでネコのようだと少年は思った。

 

「……夏目ニャンニャン」

「?????」

「やっべスベった。あーいや、えーっと」

 

 心に浮かべた言葉がついつい口から出てしまった。

 慌てて少年は空気を変えようと言葉を探す。

 

 そういえば、彼女には伝えていなかったなと未来の話題を口にする。

 

「夏目さんは、牢屋敷に残るんだよね」

 

 アンアンは小さく頷いた。

 仕草が小動物みたいでかわいいなと少年は思った。

 

 外の世界に執着のない彼女は、魔女因子が消える前からずっと、この牢屋敷で暮らすことを望んでいた。

 その望みは今も変わっていない、というより外の世界に帰る理由がないのだろう。

 

「俺さ、一応ちょっと本土帰る予定なんだよね……」

「……」

 

 少年の言葉にアンアンはすこし悲しそうな顔になった。

 背を向けていた体の向きを変え、少年の顔を見る。

 

「ちょっと本土に会いたい人がいるってだけ、その人に会ったらすぐ帰ってくる」

「……会いたい人とは?」

「お医者さん。俺のことずっと心配してくれててさ、その人にだけ魔法のこと伝えてたりしてたんだ」

「……わがはいとこうして一緒にいるよりも、医者と会うことの方が大事なのか?」

「夏目さんと一緒にいたいから、その人に会うんだよ。お世話になった人に目のこと伝えない悪い奴なんて、夏目さんと一緒にいるべきじゃない」

 

 アンアンはその言葉を聞くと黙って頭を伏せてしまった。

 意地悪な質問をしてしまったと自分でわかっているのだろう。

 

 少年は気にせず話をつづける。

 

「お医者様に目がどうにかなってさらに大切な友達ができましたーって報告して、そんで帰ってくるよ」

「……どれくらい、いなくなるのだ?」

「うーん、現在地がわかんないからなぁ……一日で帰ってくるかもしれないし、一週間ぐらいかかるかもしれない」

「一週間……」

 

 ここは自分の故郷である町から近いのか遠いのか、そもそも国内なのか、わからないことだらけだ。

 もしもここが国外なら、移動にかなりの時間と手間がかかるだろう。

 

 アンアンはぐっと拳を握って少年の方を見上げる。

 

「一週間も、待てない」

「あぁ、だからなるべく早く帰ってくるから――」

 

 すこしだけ待ってて。

 

 少年がそう言おうとしたがその言葉は彼女の声によってかき消された。

 

「【わがはいの、傍に――っ!!」

 

 何かを言いかけて、彼女は顔を真っ青にして動きを止めた。

 自分の発言が信じられないと口元を抑えている。

 

「わがはいは、今、何を」

「夏目さん!」

 

 呼吸が荒くなり、カタカタと体が震えている。

 少年は即座に彼女の手を握った。

 

「落ち着いて、夏目さん、深呼吸」

「う、うぅ、はっ、はっ」

 

 まるで、子供が仕事に出かけようとする父親に「行かないで」と引き留めるように。 

 彼女は彼に、わがままを言おうとしたのだ。 

 

 

 ()()()()()()使()()()

 

 

 無論、魔女因子が無くなった以上、彼女の洗脳は発動しない。

 少年の行動に何も影響はしない。

 

 しかし、彼女自身は、その魔法で何が起こるのかを知っている。

 

 かつて自分がわがままを言ったせいで人形となってしまった両親。

 洗脳の魔法を使いすぎたせいで、廃人となってしまった大切な人。 

 

 もう絶対に、大切な人には魔法を使わない。

 そのために、スケッチブックで会話をしてきたのに。

 

 少年を家族のように信頼するあまり、彼女は再びわがままを言いそうになってしまったのだ。

 

「はっ、はっ」

「大丈夫、魔法はもう無いよ、大丈夫だから」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 また、大切な人を失ってしまう。

 あれほど注意していたのに、また自分のせいで。

 自分が幸せを望んでしまったから、また、また、失ってしまう。

 

 アンアンは泣きながら自分を責める。

 

「大丈夫だよ、夏目さん」

 

 少年は、彼女の体を抱きしめた。

 自分は魔法なんてかかっていないと示す。

 

「大丈夫。夏目さんは洗脳なんてしてない。俺はなんにも影響されてない」

 

 そう言って、胸の中で震える少女の頭を撫でた。

 

 昔、自分が泣いていた時、母がこうして頭を撫でてくれていた。

 

「大丈夫だ、大丈夫だから」

 

 昔、自分が泣いていた時、父がこうして声をかけてくれた。

 

 少年は記憶の中にいた両親の姿を思い出し、アンアンを慰め続ける。

 いつしか、彼自身も、記憶の中の両親と出会い視界が潤んでぼやけていた。

 

「俺は夏目さんのわがまま、聞けて嬉しいよ」

 

 声が震えていないか、彼は不安になりながらそう声をかける。

 

「わがまま言ってくれるってことは、それだけ俺のこと信頼してくれるってことだろう?」

 

「だから、言われるたびに俺、すっごい嬉しくなるんだ」

 

「これからもさ、たくさん求めてくれていいんだよ。だってもう魔法は無いんだから」

 

 そう言って彼女の背中をポンポンと叩く。

 

 その言葉を聞いてアンアンは落ち着いたのか、体の震えも止まり、嗚咽も聞こえなくなる。

 少年が無事なのだとわかり安心したようだ。

 

「わがはいは……」

 

 鼻をぐすっとならしながら、アンアンは口を開いた。

 

「わがはいは……今とても幸せだ」

 

「ノアがいて、ヒロがいて、ミリアがいて、みんながいて」

 

「毎日、とても楽しい」

 

 そこで言葉を区切り、アンアンは少年の顔を見上げる。

 涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。だが、その顔は笑っていた。

 

 自分はすでに幸せだ。

 これ以上求めてしまうと、また自分は幸せを壊してしまうかもしれない。

 

 しかし、彼が、もっと求めていいというのなら。

 もっと幸せになっていいと言うなら。

 

 わがままを、言っていいならば、自分は

 

「これからもずっと、わがはいの傍にいてほしい」

 

「ずっと、ずっとだぞ!」

 

 そのわがままに、少年も明るく頷いた。

 

 

 ◇

 

 

 それからしばらくたったある日の食堂にて。 

 

 少年とアンアンの食事の風景は、他の少女の注目を浴びていた。

 以前のように少年の足の上にアンアンが座っている。

 これだけでも注目を浴びるのには十分だが、それだけではない。

 

「はい、あーん」

「あーん」

 

 アンアンは毎回、食事を口に運んでもらっているのだ。

 食事が始まって以来、彼女は手を全く動かしていない。 

 

「仲がいいのは結構ですけれど……さすがにお食事は自分でとったほうがいいのではありませんこと?赤ちゃんじゃないんですから……」

「なんでも、移動したいときは毎回だっこしてもらって、お風呂の時も体を全部洗ってもらってるらしいですね」

「い、一緒に入ってるんですの!?……でもなんだか、親子が一緒に入っているだけのように見えてきましたわね……」

 

「アンアンちゃんいいなぁ。のあもそこ、座ってみたいなぁ」

「ダメだ、ここはわがはいだけの場所である」

「むー。あ、ヒロちゃん。みてみて、アンアンちゃんがね、お姫様になっちゃったの」

 

 以前から、少年とアンアンが親子のように見える、ということはちらほらとあった。

 少女のわがままを、少年が仕方ないなと言うように答える。

 その行動自体は微笑ましい物であった。

 

 しかし、これは度が過ぎている。

 

「君たちは……いつから主従関係を結んだんだ?」

「わがまま言っていいって言ったら夏目さんの日常生活全部助けることになっちゃった」

「……君は、それでいいのか?」

「別に苦しくはないかな、なんなら楽しそうな夏目さんがたくさん見れて嬉しいまである。あ、でも風呂トイレに呼びつけるのは勘弁してほしい。俺耐えられなくなっちゃう」

「……(絶句)」

 

 普通の親子関係でもアンアンの歳でそんなことをさせる家族は極々稀であろうし、そこまでしてしまえばもはやそれは親子関係とは呼べないのでは。

 

 そのツッコミは、言葉にならずに消えていく。

 

 外からどう見えるかはどうあれ、アンアンは幸せそうに笑っていた。

 両親を失った彼女が笑ってくれるならば、少年はこの関係を続けることにした。

 

 

「ずっと、ずっと一緒だぞっ」

 

 

「この先も、ずっと!」

 

 





劇の回が実質アンアンとのIfルートだったのでそこからどう発展させれば……と頭を抱えました。
ストーリーに違和感を感じた方は申し訳ありません。

特に意味はないアンケートその2

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  • ハンナ
  • ココ
  • メルル
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