【完結】光を失った少年の話   作:野口さん

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本来なら、ノアの次くらいに投稿する予定でした。
ですがなかなか自分の納得のいくものが書けず、後回しに……



Ifルート 蓮見レイア

 

 ある日の食堂にて、少年は朝食を取っていた。

 周りにはだれもいない。みんな既に食べ終わった後なのだろう。

 

 昨日はすこし寝つきが悪かった

 その影響で、朝起きるのが遅くなってしまった。

 もう9時を過ぎようとしている。

 

「二階堂さんに見つかったら怒られちまうな」

 

 コソコソと少年が急いで食事を食べ終わると、それを待っていたと言わんばかりに彼の正面に座る者が現れた。

 

「おはよう、君が寝坊なんて久しぶりだね」

 

 蓮見レイアだ。

 少年の背がピンと跳ねる。

 

「は、ははす、ははは蓮見さんっ!?」

「驚かせてすまないね。君と少し話したいことがあるんだ」

「はい!どのようなご用事でしょうか?!」

「……そんなにかしこまる必要はないんだが……」

「すいません!」

 

 レイアは少年の緊張をほぐそうとするも、少年は背筋をピンと張ったままだった。

 彼にとって、あの蓮見レイアが目の前にいるという状況はそれほど大きいのだ。

 

 彼の様子が変わらないことに少し残念そうな顔をしたレイアだが、すぐに持ち直す。

 そして口を開いた。

 

 

「君と手をつないで寝たことがないなと思ってね」

 

 

「……」

 

 

 少年が固まった。

 

「あのココくんでさえ君と寝ていたというのに、私だけまだ君の隣では眠っていないんだ」

 

 レイアは自分だけが少年の隣で寝ていないことを気にしていたらしい。

 自分だけ特別、という立場は彼女も嫌いではないが、疎外感というものも無視はできないようだ。

 

 少年は一歩後退る。

 

「沢渡さんは一緒にゲームしてたらふたりで寝落ちしてたってだけで……」

「では手を握っていたのはどうしてかな?」

「あれは沢渡さんが気を使ってくれていただけっす、俺に頼まれなくても握ってくれてたってだけで、」

「なら私も、君に頼まれなくても握っていいかな?」

 

 少年はレイアが自分の手を握って眠っている姿を思い浮かべる。

 

「……」

 

 ダメでは?

 ダメですわね

 ダメだと思うよ

 

 舞台上でキラキラと輝くあの蓮見レイアと寝る?

 いやダメだろう。

 

 少年はブンブンブンと首を振る。

 

「ダメですマズイです!」

「そうか……もしかして、私のことが嫌いなのかな?」

「滅相もございません!大好きです!!!」

「ふふっ、ありがとう」

 

 レイアは少年のファンっぷりに顔をほころばせる。

 だが彼がYESと言わないことにすこし悲しそうな顔になった。

 

「私が隣で眠るのは嫌かな?」

「嫌ってわけじゃ、ただその、申し訳ないというか」

 

 少女たちが彼の隣で手をつないで眠っている理由は、彼のトラウマに起因していることだ。

 先の見えない暗闇の中に閉じ込められると彼は恐怖で眠れなくなってしまう。

 誰かに手を握ってもらわないと、彼は安心して眠れないのだ。

 

「正直、他の子たちにも悪いとは思ってたんです。俺のわがままで手握ってもらってて」

 

 男と手を握って眠れ、なんて年ごろの少女たちに頼むのはいかがなものだろうか。

 少年は悩んでいた。

 

 もはや日常と化してしまった就寝時の同衾だが、みんな15歳そこらの少女達である。

 早くこのトラウマを克服して、少女たちを解放してあげるべきなのではないかと少年は悩んでいた。

 

「この先ずっと、誰かが手を握ってくれるとは限らない。だからもう、俺はひとりで眠るべきなんじゃないかと」

 

「ですので蓮見さんも――っ」 

 

 少年が言い切るより先に、レイアが彼の手を取っていた。

 彼の右手を下から掬うようにして掴む。

 

「っ!?」

 

 あの蓮見レイアと手が触れている。

 慌てて少年が手を引こうとするも、レイアはその手を掴んで離さない。

 

「君は、私たちのことを少し誤解しているようだね」

 

 そう切り出しながら、レイアは彼と距離を詰めていく。

 顔が近づくにつれ、少年の表情は赤くなっていった。

 

(瞳キレイ!まつ毛長い!肌キレイ!顔が良い!)

 

 慌てる少年とは対照的に、レイアはとても穏やかに、そして何よりも優雅に少年と距離を詰めていく。

 ふたりの視線が真正面から交差した。

 

「君が私たちのことを大切にしているように、私たちも君のことが大切なんだよ」

 

 レイアの言葉は、とてもやさしかった。

 ひとりでどうにかしようとする少年をやさしく引き止める。

 

「手を握って眠ることを、苦に思っている子なんていないさ。逆に、これしかできないのかと悔やんでいる子も多い。私もそのひとりさ」

 

「君は、もうすこし貪欲になっていいんだ。手を握ってほしい、傍にいてほしい、そう私たちに言ってほしい」

 

「ただ、もしもみんなに向かってそれを言うのが恥ずかしければ……」

 

「私の前でだけ、すこしわがままになってみないかい?」

 

 レイアはそういたずらっぽく笑った。

 

 こんな表情もできるのか。

 少年が彼女の実力に驚くのは何度目だろうか。

 

 今の彼女は、大人の雰囲気を醸し出す高貴な令嬢、いやすべてを受け入れてくれそうな優しい女王様。

 

 レイアの立ち振る舞いはとても美しく、そしてなによりも

 

 

(かっこいい)

 

 

 少年がその言葉を彼女に送りたくなったのは、もう何度目だろうか。

 

 舞台上でも、テレビ越しでも彼女はいつも輝いていて、人々の視線を集めていた。

 誰も彼も、彼女から視線を逸らせなかった。

 

 彼女の魔法は『視線誘導』だ。

 視線を逸らせなかったのは、ただ魔法を使って視線を集めていただけなのかもしれない。

 

 しかし少年は知っている。自分には視線誘導の魔法が効かなかったことを。

 自分の視線が動いたのは、まぎれもない彼女の実力によるものだと。

 

 牢屋敷の生活でその事実が明らかとなった時、蓮見レイアの()()を知った少年は確信する。

 魔法なんてなくとも、彼女は間違いなく最高の女優になっていたと。

 

「……」

 

 少年は動けなくなっていた。

 彼女の手を振りほどくことも、握り返すこともできない。

 

「蓮見さん相手にワガママ言うなんてそんな……悪いですよ」 

 

「ふむ……君は私のことを過大評価しているね」

 

 レイアは少し考えるようにあごに手を当てる。

 その仕草ひとつとっても、少年にとっては動画に保存して拝みたくなってしまうような動きだった。

 

「君が役者としての私を応援してくれることは嬉しいけれど、そのせいで君から目を逸らされてしまうのは少し悲しいな。ならば……」

 

 そう言葉を斬ると、レイアは指を空に向けた。

 

 

「私のことを『蓮見レイア』だと思ってみるというのはどうだろう?」

 

 

「……?」

「君からすれば役者としての私の存在はとても眩しく映るだろう。しかし、今の私は舞台に立っているわけでもなければ、カメラも観客もない。つまり、ただのひとりの人間さ」

「ただの……人間……」

「そう!今の私は舞台上のアイドルでもなんでもない、ただの君の友人である『蓮見レイア』だ」

 

 ようするに、蓮見レイアのことをただひとりの人間として扱え、ということだろう。

 俳優とそのファンという関係を取り払い、友人として接してほしいのだ。

 

「なら……いいのか?」

 

 少年はすこし考え、ゆっくりと彼女の手を握り返す。

 満足げに笑うレイアを見ていると、この選択は間違いではないのだろうとわかった。

 

「手を取ってくれてありがとう。せっかくだから、今日は私と寝ようじゃないか!」

「言い方気を付けてね蓮見さん」

「そんな堅苦しい呼び方しないでくれ。私は君の友人なのだから名前で呼びあうのがいいと思うんだ」

「……レイアさん?」

「さん、なんて付けないでくれて構わないよ」

「レイ、ア」

 

 少年の心臓が高く跳ねる。

 あの蓮見レイアを、名前で、呼び捨てで、こんな距離で話すなんて許されるわけが――

 

「ありがとう!」

 

 しかしその迷いも、彼女のとても嬉しそうな表情と声の前にすべて消え去った。

 彼女が笑ってくれるなら、これは間違いなく正しい選択だ。

 

 蓮見レイアのためならば彼女をただの友人のひとりとして扱うことぐらいなんてことはない。蓮見レイアのファンでいるためには自分は蓮見レイアの幸せを第一に考える必要があるし蓮見レイアを幸せにするためにはひとまず笑顔でいてもらえることが一番であってそのために自分は蓮見レイアが提案した通り彼女を役者としてではなく友人として扱う必要があって蓮見レイアが提案したことならば自分はその案に乗るべきであり役者としての蓮見レイアに自然に笑ってもらうためには蓮見レイアを親しい友人として接することが必要でありしたがって蓮見レイアを蓮見レイアとしてではなく蓮見レイアとして考えるべきであって――

 

「System error:Error code 662」

「ど、どうしたんだい!?」

「すいません、脳が蓮見レイアの入れすぎでショートしてしまったみたいです」

 

 ふぅ、と少年が息を吐いた。

 そうすると意識が切り替わったのか、みるみるうちにその表情が変わっていく。

 否、変わったというよりは、戻った。

 普段の彼の表情に戻ったのだ。

 

 先ほどの妙にかしこまっていた表情が急にほぐれ、レイアが思わず驚く。

 

「とりあえず、レイアを親友だと思いこめばいいんだな?了解した!」

 

「一緒に遊ぼうぜレイア!娯楽室でボードゲームしよう!」

 

 突然の変貌に驚くレイアの手を握って、少年は駆け出した。

 

 

 ◇

 

 

「信じられないくらいボコボコにされた……」

「ま、まぁ勝負なんて時の運さ、そう気を落とさないでくれ」

「フォローまでされてしまった……」

 

 げっそりとした表情で娯楽室から少年が出てきた。

 隣にはレイアもいる。

 

 朝からぶっ通しで様々なゲームでバトルをしていた二人だが、勝敗の結果はその表情をみればわかるだろう。

 

「明日は全勝してやる……」

「そうだね、また明日もやろうか」

 

 明日もまた遊ぶと言質をとれたことを、レイアは密かに喜んでいた。

 

「昨日はよく眠れなかったようだし、今日は早めに寝てしまうというのはどうだろう?」

「さっすがレイア、名案だ!」

 

 医務室にはまだ誰の姿もなくガランとしていた。

 氷に囚われていた少女を助けるため、連日満員だった医務室。

 ただ最近は彼女たちも回復してきており、医務室が使われる機会も減っていった。

 

 早く寝てしまおうと少年がベッドに横になると、隣にレイアも乗ってきた。

 

「さ、一緒に寝よう」

 

 そういえばと、少年は元々彼女とはそう言う約束だったことを思い出す。

 自分の隣で手を繋いで眠りたいんだとか。

 

 まだ消灯時間ではないため、部屋は明るい。

 おかげでお互いの顔がよく見えてしまう。

 

 少し顔を赤くする少年とは対照的に、レイアは堂々としていた。

 

「手を」

 

 レイアがそう言うと、不思議と彼の体は勝手に動き出した。

 そっと彼女の手を握ってしまう。

 

 少年は、かつて彼女が自身の魔法を『魅了の魔法』と嘘を付いていたことを思い出していた。

 しかし今思えばそれも間違いではなかったのだろう。

 

 だって自分はこんなにも彼女に魅了されているのだから。

 

 手を握ったレイアは、嬉しそうに笑っている。

 

「ようやく、私の願いが叶いそうだ」

「んな大げさな……」

「そうでもないよ。私はずっと、君とこうしたかったんだ」

 

 その言葉に、どのような感情が込められているのだろうか。

 彼女と視線を合わせられない彼にはわからなかった。

 

「眠れそうかい?子守歌でも歌おうか?」

 

 ただ、彼女がとても喜んでいるのだということは声色から伝わってくる。

 とてもやさしい声が少年の耳を撫でた。

 

 みるみるうちに彼の顔が赤くなっていく。

 

「眠れます、眠れるので、もうちょっと離れていただけませんか?」

「そう言わないでくれ。今まで距離を置かれてしまった分、すこしくらい構わないだろう?」

「蓮見さん……」

 

 友人として彼女と接していた少年だがもう限界のようだ。

 名前呼びを忘れ、どうにか彼女と距離を置こうとする。

 

 しかし

 

「レイア、と呼んでくれ」

 

 掴んだ手は離れない。

 

 彼女の甘い囁きを耳に感じた少年は断言する。

 

 無理だ、寝れない。

 

 あの蓮見レイア本人がこれほど間近にいる状態で眠れる人間はこの世に存在しないだろう。

 あの輝きを、あの美しさを、あの声を、あの姿を。

 この距離で感じておいてぐっすり眠れる人間がいるとすれば、それは人間とは呼ばない。

 

「ねれない、です。蓮見さんを、見ていると」 

 

 少年が震える声でそう言った。

 震えているのは声だけでなく、体も目元も震えている。

 

 彼の手を握っているレイアは、その震えを感じていた。

 

「眩しすぎる……」

 

 少年は泣いていた。

 

 彼にとって、蓮見レイアは崇拝するべき対象。

 すなわち神に等しい存在なのだ。

 

 もしもこれがノアだったら、彼もギリギリなんとかかろうじて一緒に眠ることができていたかもしれない。

 彼が惹かれていたのはノアの描いた絵だったから。

 

 しかしレイア相手にはそうもいかない。

 

 舞台で見た彼女が、テレビで見た彼女が、目の前で、手を握って、同じベッドで、眠る。

 

「恐れ多くて……俺はとても……」

 

 泣き始める少年に、さすがのレイアも驚きを隠せない。

 

 まさかそこまでだとは思っていなかった。

 

 レイアは自分の実力を疑っていない。

 役者をしていた自分に多くのファンがいたことは認識しているし、彼が自分のファンであることも当然知っている。

 

 しかしここまでだとは思わなかったのだ。

 

 目の前で涙を流され、さすがに困惑が勝っている。

 

 それでも口を開くことができたのは、彼女の舞台経験のおかげだろうか。

 

「すまない……私は、君のことを見ていなかったんだね」

 

 少年の涙を拭いながら、レイアはつづける。

 

「君が私を見てくれているように、私も君を見るべきだったんだ」

 

「自分が見られていることだけを喜んで、君自身を見ていなかった」

 

「どうか教えてほしい。君自身のことを」

 

「私に、君を見せてほしい」

 

 握っていた手に力が籠められる。

 暖かくも、力強い。

 

 レイアの言葉はいつもまっすぐだった。

 舞台に立つときも、そうじゃないの時も、ずっと。

 

(かっこいいなぁ)

 

 少年の心が震える。

 そんな彼女だから自分は彼女が好きなのだ。

 

 しばらくたって、少年は小さく口を開いた。

 ぽつりぽつりと、言葉を紡いでいく。

 

 いつから蓮見レイアを知ったのか。

 どれほどあなたを追いかけたのか。

 どれだけあなたが好きなのか。

 

 レイアは静かに聞いていた。

 時に相槌をうち、当時を懐かしむように目を細めたり、静かに少年の話を聞いていた。

 

 夜は長く、医務室にはまだ誰も来ない。

 

 ふたりの会話はしばらく続いていた。

 





 ヤンデレ魔法少女書いてらっしゃるクロウトさんはすごいですね。
 自分はレイアをうまく書けず……
 
 次回はハンナです。
 明日か明後日予定です。
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