【完結】光を失った少年の話   作:野口さん

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二週目

 

 

 牢屋敷での生活がはじまってすぐ、城ケ崎ノアの魔法によって新たな部屋、「ノアのアトリエ」が発見された。

 様々な少女がここを活用していたが、そのなかでもよくここに来るのが城ケ崎ノアと夏目アンアンの二名だ。

 

「あ、あぁぁ、あの!あ、あののあの!城ケ崎さん!!」

 

 アトリエで絵を描いていた城ケ崎ノアへと少年がめちゃくちゃ緊張した面持ちで話しかけていた。

 

『なんだこいつは』

 

 ノアと一緒にいたアンアンがスケッチブックで困惑している。

 

「うん?なぁに?」

「貴方の描く絵、めちゃくちゃ好きっス!以前から、拝見させていただいてましたぁあ!!」

 

 ノアの正体は有名ストリートアーティスト『バルーン』である。

 彼はそれをシャワールームに描かれた落書きから察することができた。

 

 バルーンと話せるというチャンスを彼は我慢できない。

 

「そうなんだ。えへへ、嬉しいな。のあね、お絵描きが好きなんだ。いっぱい見せてあげるね」

「ウッヒョー!!!」

 

 うれしいという感情を隠しもしない。彼はバルーンの大ファンであった。

 

『なんなんだこいつは』

「あのバルーン直々に絵を見せてもらえるんだぜ!こんな素晴らしいことがあるかよ!!」

 

 アンアンは困惑するばかりであったが、友人のイラストがほめられていることに悪い気はしないようだった。

 スケッチブックに続きの言葉を書く。

 

『わがはいの小説も楽しみにしておけ。いずれノアと同じくらいの名作を書くのだ』

「あぁ、うん。楽しみにしてる」

「……なんだそのテンションの落差は」

「いや?めっちゃ楽しみだよ?うっひょーって感じ」

「もっと【楽しみそうに言え】」

「うっひょおおおおおおおおおおおい!!!!!!!!!」

『うるさい』

 

「もうすぐ就寝時間だというのに、君たちは元気だな」

 

 少年の叫びを聞きつけたのか、二階堂ヒロが頭を抑えながらアトリエに入ってきた。

 

 ノアがヒロの方を見て悲しそうな目をしている。

 

「……ヒロちゃん」

「……」

 

 先日、二階堂ヒロと城ケ崎ノアとの間にちょっとした事件が起きたことは知られている。

 ノアが地下牢を真っ白に塗りたくって、アンアンが倒れてしまい、ヒロがノアを厳しく叱りつけた事件だ。

 それ以来、ヒロとノアの二人の間にはどこか気まずそうな空気が流れていた。

 

(居心地がわるいな。早く彼との要件を済ませてしまおう)

 

「君の視覚強化の魔法について聞きたいことが――」

 

 二階堂ヒロは、少年になにか質問があったようだった。

 しかし、

 

「バルーン様を悲しませないでくれます??」

「ノアを泣かせるな。はやく【仲直りしろ】」

 

 この場にいるのは、城ケ崎ノアの大ファンと、城ケ崎ノアの友人である。

 ヒロがなにか言おうとするのを、少年が遮り、夏目アンアンが魔法をかけた。 

 

「なっ……洗脳か!」

「ヒロちゃん、ノアね……言わなきゃいけないことが、あったんだ――」

 

 

 

 

 

 

 ラウンジは大広間になっている。

 この場所を通る少女は多く、ここで話を弾ませることもよくあった。

 

 蓮見レイアはなぜか自分と目が合わない少年のことが気になったようで、自分から話しかけに行くことにした。

 

「……少しいいかい?」

「うっす!蓮見さん!お疲れ様です!!」

 

 少年は声を掛けられたとたんピンと背筋を張って軍人のように挨拶をした。

 

「えっと、なぜそんなにかしこまっているのかな」

「ずっと前からファンでした!アイドルしてる姿めちゃくちゃカッコイイです!ここじゃないところで出会ったらサインして握手して一緒に写真撮ってほしいです!!」

「おぉ、それはうれしいな、ありがとう」

 

 まさかこの牢屋敷に自分のファンがいるとは知らなかった。

 

「あの時の劇でーー」

「よく知っているね。あの場面ではーー」

「5回目のライブではーー」

「その時はーー」

 

 レイアはうれしくなって会話を続けると、彼が結構細かいところまで見てくれるガチなファンであることがわかり、口角があがっていく。

 

 しかし彼に話しかけた本来の目的を忘れていない。

 

「……うん。やはり効いてないみたいだね」

 

 少年が首を傾げると、レイアは答えた。

 

「私の魔法だよ。視線誘導がなぜだか君に効いていない。今までこんなことはなかった」

 

 レイアの魔法は視線誘導。相手の視線を固定することができる魔法である。

 しかしその魔法が彼には効いている様子がないのだ。視線が動いているように感じられない。

 サングラスをしているから、というわけではない。首も頭も全く動いていないし、視線を固定してもほかの物をみることができていた。

 

 少年は蓮見さんの魔法ってそうなんですね、なんて言いながら答えた。

 

「えっと俺は普段、視覚強化の魔法で物を見てるんですよ。多分、蓮見さんの魔法は肉眼にしか効果がないんじゃないですかね。沢渡さんの魔法も肉眼で見てないと効果ないらしいんで、それと一緒なのでは?」

 

 以前、ココの配信を見た見ていない問題で実験したことがある。

 その際に、少年にココの千里眼の魔法は効かないということがわかった。

 自身が盲目であることがばれそうになり、冷や汗をかいたのは本人の秘密である。

 

「なるほど。つまり、君の視線を集めるためには実力でつかみ取るしかないようだね」

「かっけぇ……」

「ふふっ、私に釘付けにしてあげよう!」

「もう釘付けですぅぅぅうううう!」

 

「……なにをしているのかな、君たちは」

 

 二階から二階堂ヒロが現れた。

 ノアのアトリエにいたのだろう。仲直りして以来、ヒロがあそこにいる時間が増えた。

 

「やあヒロ君!君も、私に釘付けにされてみないかい?」

「遠慮しておく。そこにいる彼のようになりたくない」

「うおおおぉおおおおおおお!!!蓮見レイア様ぁぁあああ!!!」

「以前から私のファンだったようだからね。ふふっ、サービスしすぎたかな?」

「……はぁ、君の視覚強化の魔法について、というか君本来の視覚について、すこし質問が……」

「ふおおおおおおおおお!!」

「ははっ、まったく、会話ができないほどファンを魅了してしまうとはね!なんて私は罪な存在なんだ!」

「かっこいいいいいいいい!!!」

「……後にする」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 娯楽室には、佐伯ミリアがよくいた。

 あまりおもしろくない映画をよく見ていて、少年はおっさんくさい趣味だなと思っていた。

 さらに一人称が『おじさん』である。本当におじさんなのかもしれない。

 

 真相はわからなかったが、持っている魔法が『入れ替わり』であるということが少年の興味を強く引いた。

 

 入れ替わってみたい。少年はそう強く思った。

 そこでダメ元でミリアにお願いをしてみた。

 返答はまさかのOK。

 

「男の子ひとりで寂しかったんだよね?いいよ、入れ替わってみよっか」

「最高かよ佐伯さん。代わろう代わろう今すぐに」

「わわ、すごい食いつき。えと、その、あまり変なことはしないでほしいなーなんて」

「しないってばマジで!先っちょ!先っちょだけだから!」

「絶対ダメそうなセリフ……」

 

 しかし言っている言葉とは真逆に、彼はとても丁寧にミリアの手を握った。

 優しく丁寧に刺激しないようにとしている。

 ミリアの魔法を絶対に邪魔しない、そんな風に言っているように見える。

 

 ミリアは彼の様子に少々違和感を覚えるも、入れ替わりの魔法を使用した。

 

 一瞬の間を置いた後、ミリアは自分の視線の先に自分の顔がある鏡合わせのような状態となる――

 

 はずだった。

 

(え?)

 

 視線の先には、黒。

 なにも、なにもない。ミリアも、彼も、光も、影も、なにも映っていない。

 黒、黒、黒。

 

 彼が毎日身に着けているサングラスのせいかと思って外してみても、何も変わらない。

 見渡す限り、黒い景色。

 

 いいや、黒という言葉が正しいのかすらわからない。

 今見ているこの景色は、今までミリアが見てきた景色、色、どれとも合致しない。言葉では説明ができない

 

「ありがとう、佐伯さん。戻ろうか」

 

 自分の声で話しかけられ、ミリアはようやく自分が入れ替わっていたことを思い出した。

 手を握られる感触がして、反射で握り返す。すると魔法が再び発動する。

 

 自分の体に戻ってきた。 

 入れ替わっていた時間は5秒ほどだっただろうか。

 

 そうして戻ってきたミリアは、自分の顔に冷たい物が流れていることに気が付く。

 

 涙だ。

 

 ミリアの両目から涙があふれている。

 しかしこれは、ミリアの涙ではない。 

 

(泣いていたんだ)

 

 入れ替わっていた彼がミリアの体で流した彼の涙だった。

 

「ごめん、事前に説明するべきだった。どうしても早く入れ替わりたかったから、後回しにしてしまった」

 

 それだけでミリアはすべてを察することができた。

 

 彼は、目が見えていないのだ。

 自分が先ほど見ていた景色は、視覚がない人間が見ていた景色。視覚を持つミリアが言葉で説明できるものではない。

 

 日常生活でそんな風に見えなかったのは、彼の魔法が関係しているのだろう。

 視覚強化という魔法は、彼に普通の生活をさせていた。

 

 ミリアは彼の過去にどのようなことが起きたのか知らない。

 しかし彼がどんな気持ちで自分と入れ替わりたいと願い、そして何を見たのか。

 想像して胸を抑えた。 

 

 少年はミリアの涙をぬぐってからバツが悪そうに口を開いた。

 

「佐伯さんさ、今見た光景はみんなには内緒にして欲しい」

「君は……」

「みんなに変な心配させたくないんだ。ただでさえストレス抱えてるだろうに、これ以上迷惑かけたくない」

 

 彼はずっとそんな生活をしていたのだろう。

 誰にもばれないように、普通の生活をし続けていたのだ。きっと牢屋敷に来る前からずっと。

 それがどれほどつらい生活だったのか、ミリアは胸が苦しくなった。

 

「……わかった。誰にも言わないよ」

 

 ミリアは彼の言葉に強くうなずいた。

 

「おじさんでよければ、また入れ替わってあげるから、いつでも言ってね!」

 

 そう言って手を差し出した。

 彼女の魔法『入れ替わり』を使用するための条件のひとつとして、手を握るというものがある。

 この手は、いつでも入れ替わっていいという彼女の言葉の表れだろう。

 

「佐伯さん……」

 

 少年はミリアの言葉に返すように、差し出された手を握り返す。

 そして――

 

「はい言質取りましたー!!!!佐伯さんの体いつでも好きに使っちゃいまーす!!」

「え、えぇ!?そう言う意味じゃなかったんだけどな?!」

「入れ替わっていろんなもの見てやるよぉ!グヘヘヘ!」

「どっちの意味か分からない!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 二階堂ヒロはページをめくり、彼の筆跡で書かれたそれを見つけた。

 

「死に戻りの魔法を持つ誰かへ」

 

「魔女因子をもつ人間が救われるには、大魔女を呼び出すしかない」

「多分、俺たち全員が魔女化すれば大魔女を呼び出せる」

「それができるのはもうあんたしかいない。過去に戻れるあんたしか」

「でも、別に無理してやってほしいとは思ってないよ。自殺を強制するなんて()()()()()だろ?」

「ただ、もしもここにいるみんなのことを助けたいとおもっているなら、頼まれてほしい」

「ここにいる少女たちが救われるためには、大魔女に頼み込んでこの世にある魔女因子を全部回収してもらうほかにない」

「全員魔法が使えなくなるが、それでいい。もとよりなかったものだからな。殺人衝動に呑まれて殺し殺されるより百倍マシだ」

「だから、頼んだぜ。二階堂さん」

 

(あぁ……頼まれた)

 

(私は、必ず会いに行く)

 

(――君たちを救いに)

 

 






【魔女図鑑】

ノアとレイアの大ファン。
かなりコアなファンであるようだ。

視線誘導と千里眼の魔法が彼には適応されない。
そのせいで配信を見ているのかどうかわからないため、たびたびココと言い合いになっている。

「あてぃしの配信ちゃんと見てんだろーな!」
「もちろん隅から隅まで見ているとも!それどころか全部録画して毎日枕元で流してる。今日も一緒に寝ようね沢渡さん」
「キモ!!!」
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