恋愛ルートはこれで完結、とする予定だったのですが、ちょっと長くなりそうだったので……分割……したんだ。
:本編に入る前にちょっとだけ補足:
主人公くんは基本的に「ヒカリくん」「ヒカリ」「日向」などと呼ばれているが、マーゴからのみ「ヒカリちゃん」と呼ばれている。
マーゴも最初はくん付けをしていたが、ある日ふざけてちゃん付けしたら少年がめちゃくちゃ照れて面白かったため、その日以来「ヒカリちゃん」で通している。
それは前触れもなく、突然起こったことだった。
今日一日、特にこれと言って大きな事態もなく平和だった。相変わらず本土からの帰還用ヘリは来ず、少年少女は屋敷でのんびりと過ごしていた。
そうしていつものように医務室で静かに眠ろうとした、その時だった。
「「「!!!」」」
突如として、全員が頭をおさえ、苦悶の表情を浮かべる。
それは
「これは……っ」
「あの時の、佐伯さんの魔法!?」
最後の裁判で佐伯ミリアが魔女化した時、その魔法の真価が発揮された。
それは、記憶の共有。
異なる世界の自分たちの記憶が共有された。
その時に生じた頭痛と、今のこの頭の痛みは一致していた。
しかし言うまでもなく、ミリアはもう魔法を有していない。この説明し難い痛みを感じることはもう二度と無いはずだったのだが。
「「「っ!?」」」
瞬間、彼女たちの脳内にあふれ出した
「いたた……」
少女たちは痛む頭を押さえながら、ベッドに手をつけながら体を起こしていく。
そして思い起こされた記憶を
「この、記憶は……」
少女たちの脳内に生まれた記憶は、ひとりひとり違う記憶だった。
それは彼女たちの年齢らしい、ピンク色の記憶。
彼との会話、彼との遊び、彼との記憶
彼との蜜月の記憶が、次々と脳内にあふれ出した。
少女たちは、自分が彼と恋仲になる
表情を赤くしたり、恍惚とした顔を浮かべたりする少女達。
「みんな、大丈夫かい?!」
そんな中、レイアは少し顔を赤くしながらも他の少女たちの様子を確認する。
痛みは一瞬のものであり、少女たちは次々と起き上がっていく。
しかし、
「ヒカリくん!!」
彼はまだ頭を押さえていた。
とても苦しそうに頭を押さえ、ベッドに倒れ込んでいる。
「ヒカリ!」
「ヒカリちゃん!!」
ヒロとマーゴが血相を変えて彼に近寄る。
誰がどう見ても、彼の様子は普通では無い。
「いだあああああああああ!!!!!」
ゴロゴロとベッドの上で転がりまわる。
悶絶するほどの痛みだったようだ。
少女たちが駆け寄るも、彼はそれを気にする余裕がないほど痛みだったようで、必死に頭を抑えてのたうち回るのみ。
「いっだぁ―――」
「ヒカリっ!!!」
やがて、糸が切れたようにプツンと彼は気を失った。
◇
彼が気絶してから数日。
突然の魔法の発動によって屋敷は混乱状態となっていたが、優れたリーダーとその相棒によって、ひとまずは落ち着きを取り戻した。
全員が最初に行ったことは屋敷中の調査だ。
発動した魔法によって屋敷に何か変化が起きているかもしれない、また魔法が発動してしまうかもしれない。
少女たちは屋敷中を調べてまわった。
結果として成果は何も得られなかった。
屋敷に何も変化は起きていなかったし、なぜ魔法が発動したのかを突き止めることもできなかった。
後に残ったのは、脳内に埋め込まれた
「というのが、君が眠っている間に起きた出来事だ」
「……」
「確認するが、本当に体に異常はないんだな?尋常でない様子だったが」
「もうすっかり大丈夫デス……」
医務室のベッドの上に寝かせられていた彼が目覚めたのが今日。
ヒロは彼が眠っている間に起きたことを説明していた。
一方少年は、恥ずかしそうに顔を伏せている。
その理由はヒロにも予想がついているようだ。
「……察しの通りだ。みんな、君と恋仲にあった時の記憶を持っている」
ヒロもすこし恥ずかしそうにしながら答えた。
「君が今まで気絶していた理由は、単純に記憶の量が原因だろう。私たちは自分1人分の記憶だけを送り込まれたから頭痛のみで済んだが、君は12人分の記憶を受け取った」
多すぎる情報を送りこまれて、脳がショートしたのだろう。ヒロはそう推測した。
「君は覚えているのだろう?私たちとの……その……」
「うん、めっちゃ頭に入ってる。何コレ、
「記憶があるだけで、君自身が不義理を働いたわけではないだろう」
「必要以上に私たちに何かを感じたりする必要はない。君は、君がしたいようにすればいい。今の私たちは、ただの友人だ」
「そう、か。そうだよな、うん。別世界、別世界の記憶……」
「聞き分けがよくて助かる……はぁ。みんな、君のように聞き分けが良ければよかったのだが」
「うん?今なにか言った?」
「いや、何でもない。じきにわかることだ」
少年が首を傾げると、ヒロは少し疲れたような顔を見せた。
「記憶を単純な記録として切り分けられない者もいる、ということだ」
ヒロの言葉を、少年は後になって十分に理解することになる。
◇
「夏目さん、城ケ崎さん、足の感覚無くなってきたからそろそろ降りてほしいんスけど」
「むん」
「アンアンちゃんが降りないからのあも降りなーい」
「ふ、ふたりとも、ヒカリくん困ってるよっ、そろそろ足から降りたほうがいいんじゃないかなーって……」
「……そういうミリアも、さっきからヒカリと手を繋いでるではないか」
「あっ、ご、ごめんねヒカリくん、なんだか体が勝手にっ」
「お前らべったりしすぎ!そいつあてぃしの彼ぴなんだけど!!!」
「あなたのではないわ沢渡ココ。彼は私とお姉ちゃんで引き取る」
「は?何言ってんの?」
「二対一ね、彼は私たちがもらうわ」
「はぁぁあああ????」
「……」
「ハンナさんは行かないんですか?ヒカリさんが取られてしまいますよ?」
「えぇ、いいのよ。だって私は、彼に迎えに来てもらえるんですもの。そう約束しましたから」
「それは別の世界の話なのでは?」
「いいえ、ヒカリさんは絶対に会いに来てくれます!だって私のこと、す、好きって言ってくれたんですもの!」
「ですから、それは別の世界のお話であって、今のヒカリさんがしてくれる保証はないですよね?」
「ムキ―ッ!!!」
「ヒカリちゃん、モテモテね。さすがだわ」
「……」
「私もちょっかい掛けちゃおうかしら♡」
「……」
「……アリサちゃん?」
「っ!?な、なんだよっ」
「どうかしたの?」
「べ、別になんもねぇよ」
「……あぁ、そういうこと。彼との記憶に浸っていたのね?」
「ウチは別にっ、あいつとはそんなんじゃっ」
「いったいどんなコト、していたのかしら♡」
「う、うるせぇ!」
食堂は賑やかだった。
彼の無事を確認するため、少女たちが食堂に集まって彼とともに食事を摂っていた。
彼が倒れた時は屋敷中がお通夜と思わせるように静かになっていたが、その空気はすっかりなくなった。
しかしヒロの表情は優れない。
理由はひとつ。少女たちと彼との距離感が近すぎるからだ。
「うん……ある程度予想はしていたが、ここまでとはね。ヒロくん、私たちも混ざりに行こうか」
「馬鹿なことを言うな、レイア。わかっているだろう、このまま放置していては牢屋敷の風紀が乱れる。早急に対策を練る必要があるな」
「ボクも手伝うよ!ヒロちゃん!」
「……」
「……」
「あ、あれ?」
「エマ、君はどちらかと言えば要注意人物、警戒される側だ」
「え!?」
ヒロは今後の屋敷をどうするべきなのか、頭を回す。
そしてみんなが集まっている今が、方針を決めるちょうどいい機会だと席を立った。
「みんな、注目」
そう言って手をパンと叩いた。
その場にいる者たちがヒロに注目する。
「今後のことについて話がしたい。みんな、彼との記憶にそれぞれ思うことはあるだろう」
「その記憶を今ここで全員に開示しろ、とは言わない。その思い出は皆、心に秘めていて構わない」
「私から言いたいことはひとつのみ、彼と過度の接触をしないこと。それぞれ男女の距離感というものを考えてから行動してほしい」
「特に、ココ、マーゴ、ナノカ、エマ。君たちはしばらく彼との単独での接触を禁ずる」
「は?なんで?」
突然自分たちに矛先が向けられ、ココがあからさまに嫌そうな反応をした。
他の言われた少女たちも声にこそ出さないが、似たような反応を見せる。
「あぁ、安心してほしい。日ごろの生活、例えば食事の時や医務室で眠るときは彼と会話してくれていい。二人きりにならないようにしてくれれば、彼と日常を過ごしてくれて構わない」
「いや構わないじゃなくてさ、なんでそこまで言われなきゃいけないのってハナシ!」
ココが少し怒ったようにヒロを睨みつけるも、ヒロは逆にその視線を真っ向から睨み返した。
「彼を見る視線が怪しすぎるからだ。彼と一線を越えようとしているようにしか見えない」
「……」
鋭い反論に、ココは視線を逸らして口笛を吹くことしかできない。
記憶が埋め込まれて以来、彼を(色んな意味で)狙っている少女はそこそこいた。
先ほどヒロが名を呼んだ少女たちはその筆頭である。
「そうね。ヒロちゃんの言う通りだわ」
反対意見を覚悟していたヒロの予想を裏切り、マーゴはヒロの提案に素直に頷いた。
「私たちは政府に隔離されている身よ。いつあちらから接触をしてくるかわからないわ。彼と
「いや、そもそもそんな淫らなことをするなという話なんだが」
「あら?私は
「……」
「フフッ、すこし彼と遊ぶくらいならいいのでしょう?」
「……遊びの内容次第だ。彼の負担にならないように」
マーゴはヒロの言葉には返事をせず、怪しく笑ってから彼にウィンクをして食堂を出ていった。
(何か考えがあるのは間違いないな……)
ヒロが心の中でマーゴへの警戒度をひとつ引き上げている間に、いつの間にかナノカも扉の方に向かっていた。
「二人きりにならなければいいのね、わかったわ。私は彼と絶対に
「ナノカ、身内を使えば三人だからセーフ、というのも禁止だ」
「!?」
図星を突かれたのか、ナノカが飛び切り驚いたような顔をみせる。
ナノカは自身の姉を使って彼と二人きりならぬ三人きりの状態にしようとしたのだろう。
彼女の姉は妹の行動を手助けするだろうし、良い作戦だったといえる。
しかし、相手がヒロでは分が悪い。
作戦を言い当てられ、とぼとぼとナノカは扉に手をかける。
そしてマーゴの真似なのか、彼に向けてウィンクをしようとして失敗し、思い切り両目を閉じてから部屋を出ていった。
その背中を見届け、ヒロはエマの方に目を向ける。
突然視線を向けられ、エマの体が小さく跳ねた。
「エマ」
「な、なにかな?ヒロちゃん」
「君は……しばらく私と一緒にいるように」
「え?」
エマは指示の意味を理解できず、ポカンと口を開ける。
ヒロも少し困ったような表情をしていた。
「君の行動が予想できない。大胆な一手を打つようにも思えるし、理詰めでじっくりと彼と距離を詰めていくことも考えられる」
「ボ、ボク、そんなこと……」
「しない、と言い切れるのか?」
「し、しない、よっ!」
「……」
二人の確執が解けて以来、ヒロはエマをむやみに疑ったり目の敵にするようなことはなくなった。
昔のように親友同士の距離感を取り戻している。
しかし、それはエマを盲目的に信じているというわけではない。
親友が間違った道に進もうとしていたらそれを止めることがヒロにとって正しいことだ。
ヒロはじっとエマを見つめる。
「ひとまず、君は私から離れないことだ」
「きゅぅん……」
「かわいい声を出してもダメだ」
その様子を見ていたココがジト目でヒロを見つめる。
「つか、なんでヒロっちはそんなに彼ぴ……ヒカリとあてぃしの仲を邪魔したいのさ!」
「邪魔をしたいわけじゃない。君たちが彼と仲を深めること自体は好ましいことだと思っている。ただ、この劣悪な環境下での不純異性交遊は正しくない。また何かしらの魔法が発動しないとは言い切れないし、もしその魔法が発動した場合は、私たち全員が一丸となって対処する必要がある。だから今屋敷にいる者たちの仲に不和を生み出すようなことは未然に防いでおきたい。それにここは現代医療の設備が整っているとは言い難い場所だ、
「なげーよっ」
ココはうんざりしたようにヒロの言葉を遮った。
「あてぃしは絶対、推しにヒカリのことをあてぃしの彼ぴとして紹介するから!」
そう力強く言って、ココは食堂の出口へと向かう。
「……どこへ行くつもりだ?」
「マーゴやナノカと一緒。あてぃしもちょっとひとりで考えたいだけ」
「考える、とは?」
「そんなの決まってんじゃん。ヒカリをゲットする方法!絶対、ぜったいぜったいあてぃしのものにするから、覚悟しとけよ!!」
そう挑戦的に笑ってココは少年を指さした。
少年は先ほどから自分がめちゃくちゃ告白されている事実に顔を赤くしている。
その反応に気をよくしたのか、ココもまた、部屋から出ていった。
(犯行予告をされてしまった……まぁいい)
ひとまず要注意人物たちへの注意喚起はすんだ。
ヒロは続いて少年の周りにいる少女達に目を向ける。
「ノア、アンアン、君たちはシンプルに距離が近すぎる。もうすこし距離を置くように」
「ふん」
「えー……」
不満を顔いっぱいに表現するノアとアンアンは、彼の足の上から降りるつもりは無いらしい。
それどころか彼の体にしがみつく始末だ。
自分の言うことを聞かない二人と、彼女たちが落ちないように背中を支えている少年と、彼女たちに対してわずかに
ヒロの怒りの視線を敏感に感じ取り、彼の背中にくっついていたミリアは慌ててノアとアンアンを説得し始めた。
「ほら二人ともっ、ヒカリくんとはまたいつでも遊べるからさ、今日のところはひとまずおしまいにしよう?ね?」
「ミリア、君も距離が近すぎる。もうすこし離れるんだ」
「え!?」
「とりあえず、彼の背に胸を押し当てるのをやめるように。先ほどからヒカリが鼻の下を伸ばしっぱなしだ」
「あ、あわわっ」
ミリアは恥ずかしそうに胸を抑えて後ろに下がった。
どうやら自覚はなかったらしい。
(ノアとアンアンに警告するつもりだったが……ミリアも危険だな)
『すこし大人びた視点で人と接することができる彼女ならば、彼に対して過度な接触を取るようなことはないだろう』というのがヒロの考えであった。
しかし、彼女は無自覚ながら、彼に対してアプローチを行っている。
それがどれほど効果的であるかは、背中に感じていた感触が無くなってひどくがっかりしている少年の顔をみれば一目瞭然だ。
「ミリア。君も彼との距離感を考えるように」
「はい……気を付けます……ヒカリくんもごめんね」
「もっかいやってください(全然気にしてないよ)」
「言ってることと思ってることが逆だよ!?」
だらしない表情を浮かべる少年とは逆に、彼にしがみつくノアとアンアンは頬を膨らませて怒った顔をしていた。
「目の前にいるのは、のあたちなのに」
「背後に立つミリアの方が気になるのか」
ふたりは低い声でそう言うと、ぴょいと少年の足元から降りた。
先ほどは
「もうヒカリのことなんて知らん!」
「じゃあね!」
そのまま出口の方に駆け出していき、あっという間に食堂から出て行ってしまった。
それほど怒らせてしまったのかと、少年とミリアが慌てて引き留めようとしていたが、ふたりの去り際に気が付いてしまった。
彼女たちの顔が、笑っていることに。
「押してダメなら引いてみろ作戦だ」
「うん、これできっと、のあたちにメロメロになっちゃうよ!」
耳を澄ませるまでもなく、そんな会話が廊下の方から聞こえてきた。
彼女たちなりに頭を使っているようだ。
(微笑ましい、微笑ましいが……今はそう言っていられる状況ではないな)
続いてヒロは水色髪の少女に目を向ける。
屋敷がこのような状況でも、彼女は元気そうだ。
「……シェリー」
「はい!シェリーちゃんです!」
「……」
(行動が読めない、という意味ではシェリーはエマより厄介だ。心で何を考えているのかがわかりにくい)
シェリーの表情はいつものように笑顔である。
彼との記憶をどのように自分のなかで落とし込んでいるのかわからない。
シェリーの心情はわからないが、シェリーの隣には心情が分かりやすい少女が椅子に座っていた。
ヒロは熱がこもった視線を少年に送るハンナを見やる。
「ハンナ」
「な、なんですかしら??私、何もしていませんわよ!待っているだけですから!」
「ヒロさんヒロさん、そう心配しなくても大丈夫だと思いますよ?ハンナさんは自分から攻めるとかできません!」
「それ、どういう意味ですの!!」
シェリーの推測にハンナは怒っているようだが、ヒロも同様に感じていた。
今のハンナであれば、妙な行動を自ら起こす可能性は低いだろう。
シェリーと一緒に居れば、さらにその確率は下がりそうだ。
そしてシェリーの方も、ハンナという目がある前でおかしな行動はとれないだろう。
ふたりが一緒にいる限りは何か起こることはなさそうだ。
ヒロはそう判断して、これ以上何かを言うことはしなかった。
シェリーはヒロからの話が終わったことを確認すると、席から立ち上がる。
「ハンナさん、今日はもう行きましょう。今のヒカリさんは忙しくて迎えにくるどころじゃないと思います」
シェリーはハンナを立たせ、背中を押した。
ハンナは大人しく出口の方へ歩いていくが、最後に少年の方に振り返る。
「ヒカリさん、私、待っていますから。あなたが来てくれることを、ずっと」
そう言い残し、ハンナは部屋を出ていった。
ハンナと目が合った少年は、言い表しようのないドロドロとした何かを彼女から感じとる。
「おぉ……!私の知らない感情がハンナさんから溢れています!また殺人事件が起きてしまいそうですね!」
シェリーはウキウキとしながらハンナの後をついていった。
また殺人事件が起きてしまうかもしれない。
ハンナの様子を見るに、シェリーの発言はあながち的外れでもないようにヒロは感じた。
浮気や嫉妬といった痴情のもつれから起こる悲惨な事件は、調べればいくらでも出てくる。
(早急に対処しなくては……そのためには人手がいるな)
自分と同じように、屋敷の風紀を正してくれる存在が必要だ。
そう考え、ヒロは見た目こそヤンキーであるが心優しい少女、アリサに視線を向ける。
「アリサ」
「な、なんだよ二階堂。いっとくけどウチは変なことする気は無いからな」
「その点についてはある程度信頼しているが……」
食堂に彼が現れてから、アリサの様子がおかしい。
顔を真っ赤にして、チラチラと彼の方を見てはブンブンと頭を振っている。
どう見ても何かあったとしか思えない。
「……その顔はいったいどういうことかな。まさか君、
「い、いや、あれはこいつが勝手にっ!じゃなくてウチはそんなこと……」
「……そうか」
「アリサちゃんとヒカリくんの間に何があったか気になる人は、R18版を読んでね」
アリサの反応を見て、ヒロは察した。
彼女もまた、ただならぬ関係を彼と結んでしまい、その記憶のせいで彼と普通どおりに接することが難しくなっているのだ。
(自制心の強い彼女であれば妙な行動はとらないと信じたいが……準警戒対象、としておくか)
そう心にメモを残し、ヒロは続ける。
「アリサ、君は頭を冷やせ。風紀が乱れている今の牢屋敷には、君の力が必要だ。常に冷静であってくれ」
「……わかってるよ」
アリサは最後にちらりと少年の方を見てから、顔を赤くして逃げるように食堂から出ていった。
頼りにしていたアリサがこうでは、あと頼れる人物はもうひとりしか残っていない。
ヒロは自分の近くで凛々しく背筋を伸ばしている彼女に目を向けた。
「最後に……レイア」
「なにかな、ヒロくん」
レイアはなぜか得意げにしながら返事をする。
それは自らに絶対の自信を持っている時の彼女だ。
自分はヒロから説教を受けることはないと確信しているのだろう。
実際、ヒロはレイアに何かを咎めるような発言をする気はなかった。
記憶が埋め込まれ皆が混乱する中、最初に行動したのは彼女だったし、彼の異常に真っ先に気が付いたのも彼女だ。
今までの生活を振り返っても、彼女が記憶に振り回されているようにも思えない。
現状では、最も頼りになる人材だ。
「屋敷の風紀のため、協力してくれ」
「もちろんだとも!!」
そう力強く頷くレイアに、ヒロは頼もしいと感じた。
今の状況では、リーダーシップがあって周りの人間を動かせるような人材は喉から手が出るほど欲しかった。
「最初の仕事だが、エマをはじめとした要注意人物たちの監視を頼みたい」
「えっ!?」
「そうだね。先ほどの様子をみるに、彼女たちが何かを企んでいることは間違いない」
「ボ、ボク、企んでなんてないよっ!」
「早速、みんなの様子を見てくるよ。エマくんのことは、任せたよ」
「あぁ。そちらも頼んだ」
「ボク、そんなに怪しいのかな……」
レイアが部屋から出ていくのを見送ってからヒロはしょんぼりとするエマの方を見る。
「自分の潔白を証明したいのなら、簡単な方法があるじゃないか」
「え?」
「君が、彼とどのような体験をしてきたのか。つまり記憶の内容を話してくれればそれで済む」
彼と健全な付き合いをしていたのなら、必要以上にエマを拘束したりはしない。
ヒロはそう伝え、エマの言葉を待つ。
もしも彼女が嘘偽りなく彼との
しかし……
「え、えっと……えへへ……」
エマは恥ずかしそうに笑うばかりであった。
彼とは
「君はしばらく、私と行動するように」
「うん……」
エマは大人しくなった。
しゅんと縮こまり、ヒロの後ろに付く。
「……さて」
ヒロは最後に、なぜか椅子に座ったまま微動だにしない少年の方に目を向ける。
「君にも何か警告をした方がいいかな」
「ちょっと待ってね二階堂さん、いま佐伯さんの胸の感触を思い出すことに全神経を使ってるから」
「……」
「あ、あはは……」
ヒロは大きなため息を吐き、部屋から出るタイミングを失っていたミリアは顔を赤くして苦笑いした。
いくら自分たちが彼を守ろうと動いても、本人がコレでは彼が色んな意味で襲われるのは時間の問題だろう。
「自分が今どのような立場に置かれているか、これでわかっただろう。君にはまず、1人にはならないことを徹底してもらう」
今の彼が要注意人物のいずれかとふたりきりになれば、そのままIfルート続行からの殺人事件からの魔女裁判だ。
それだけは絶対に防がなくてはならない。
「それと迂闊な発言は慎むことだ。誰かを褒めたり誘ったりするセリフ、そして性的な言葉も決して言ってはならない」
少女たちも馬鹿ではない。
彼に少し褒められたりセクハラ発言をされたりするだけで突発的な行動を起こすことはない。
しかし状況が状況だ。彼の発言が
「窮屈に感じるかもしれないが、牢屋敷から解放されるまでの期間だ。君が記憶を頼りに誰かと関係を持ちたいのなら、本土に帰ってからにしてほしい」
外部との接触方法が限られている今は、内輪で揉めているわけにはいかない。
彼が特定人物と付き合おうものなら、大きな混乱が起こることは容易に想像できる。
そんな愚かな事態は未然に防ぎたい。
「自分が大いに好かれているという自覚を持つように」
そう最後に締めくくり、ヒロは少年の方に目を向ける。
少年はいたって真剣な表情で返事をした。
「ゴメン、佐伯さんのおっぱいに集中してて何も聞いてなかった」
「………………」
こうして彼の新たな日常は、ヒロの大きな大きなため息から始まったのだった。
つまりハーレムルートってこと。
今回は導入編。長めのお話になります。
R18版、書いちゃいました。
それぞれのIfルートを掘り下げていく予定なので、こちらと一緒に読んでくださるととても嬉しいです。
リンク↓
https://syosetu.org/novel/398972/