【完結】光を失った少年の話   作:野口さん

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今回の入れ替わりの魔法でBADENDは共有されていません!
私の説明不足によって、誤解を招いてしまいました。誠に申し訳ございません。
ヒロちゃんにだけIfルートではなくBADENDルートの記憶が共有された世界線は面白そうですけど、さすがにヒロちゃんが可哀そうすぎるので、この場を借りて説明させていただきました。



Ifルート 日向ヒカリ ②

 

 医務室でヒロのありがたい説教を受けた後、彼女の勧めによって少年はラウンジにいた。

 

『なるべく人目の着くところにいるように』

 

 彼を隠すのではなく、みんなの目につくところに置くことによって連れ去られることを避ける作戦だろう。

 

 言われた通り、少年は広いラウンジのソファに腰掛けていた。

 ボーっと天井を見上げる。

 

 すこし脳を整理する必要があった。

  

 めちゃくちゃに頭が痛んだかと思ったら、突然容姿端麗な少女と自分のラブコメを14人分見せつけられ、あまりの脳への負荷に気絶。

 目を覚まし、記憶を整理するより先に彼女たちから熱烈な視線を受け……

 自分の理解を超えるような状況に、少年は限界だった。

 

「……」

 

 先ほどの彼女たちの様子を見る限り、みんな自分のことを好意的に、というかめちゃくちゃ大好きになっているようだった。

 二階堂ヒロという管理者がいなければ今ごろ自分は裸にひん剥かれていたかもしれない、そう思わせるほど彼女たちの感情は大きかった。

 

 その管理者であるヒロでさえも、自分に対して送る視線には大きな感情が見え隠れしていた。 

 それでもその様子を見せないのは、彼女が自分のことを必死に守ろうとしてくれているからだろう。

 

 自分がこの屋敷で変な気後れを感じさせないために尽力してくれている。

 

「だってのに……」

 

 はぁ、と少年はため息を吐かずにはいられない。

 そのため息は、自分への失望の意味を大きく籠めていた。

 

 なぜなら、この状況を心の中で楽しんでいる自分がいたからだった。

 

「みんなが俺のことめっちゃ好きでいてくれて嬉しい、そんでみんなとワンチャンありそうでワクワクしてる。めちゃくちゃクズじゃん俺」

 

 幼少期、事故で両親と両目を失い魔法を得る、というあまり普通ではない生活を送ってきた彼であったが、その精神はあくまで一般人よりだ。

 つまり、浮気や不倫は許されないという常識を持ち合わせている。

 

 だが、今自分はあの少女たちのことみんなを愛してしまっている。

 埋め込まれた記憶のせいで、みんながいつも以上に可愛く見えてしまっていた。

 

 このままでは全員とくっついてしまいそうだ。

 彼の中の常識が、それはダメだろと言っている。

 

「誰か俺を14人に増やしてくれ~……ダメだ、本当に増やされそう。やめてね大魔女さん」

 

――おや、よろしいのですか?

 

「法律上どうやって扱うんだよ。クローンってバリバリアウトだからね」

 

――魔法でどうとでもできますよ。14人に増えたあなたをひとりとして扱わせるか、あるいは法律の方を曲げてしまいましょうか?

 

「ダメですからね」

 

 ()()()をつぶやきながら、少年はソファに横になる。

 さすがに一日にいろいろなことが起こりすぎた。

 脳を休ませる必要がある。

 

「はぁ……寝たら全部夢ってことにならないかな」

 

 彼はゆっくりと目を閉じていく。

 

 暗闇は変わらず得意ではない。誰かが手を握っていないと悪夢を見る。

 ただ、今はそんなこと言っていられないし、なにより、 

 

 夢の中なら、()()に会えるという確信があった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 見渡す限りの白い空間の中で、彼は目を覚ました。

 

 手も足も動かせない。

 呼吸ができているのかもよくわからない。

 体が自由に動かない。

 

 少年は確信した。

 これは、夢だ。

 

 なぜなら、()()が目の前にいるはずがないからだ。

 

「お久しぶりですね」

 

 目の前にいる彼女は、白い衣装に身を包み、あの頃と同じく綺麗なままだった。

 

 触れれば消えてしまいそうな儚さを孕んでおり、その様子を見ていると自分も彼女のことを孕ませたく……」

「俺の心を捏造しないでください」

「捏造とも言い切れないのでは?なぜならあなたは私との記憶の中でたっぷりと……」

「なんかお下品ですよ大魔女さん」

 

 大魔女、月代ユキ。

 明晰夢の中、彼は大魔女と再会できた。

 

 彼にとっての大恩人であり、そして……

 

「恋人」

「……」

「ふふっ」

 

 彼の赤くなった顔を見て、ユキは楽しそうに笑っていた。

 

「……なんなんですかね、これは」

 

 赤い顔から話を逸らそうと、少年はあたりを見渡しながら言う。

 ユキの存在を感じてから、体が自由に動かせるようになった。 

 

「ここですか?あなたの夢の中ですよ」

 

 彼女の答えは、彼の予想通りのものではあった。

 しかしその答えだけでは不十分だ。

 ユキも自分の言葉が足りていないとわかっているのだろう、続けて口を開く。

 

「夢とは、記憶を整理するために見るものだと考えられています。常人では脳が焼き切れてしまうほどの情報を送り込まれてしまい、脳が大急ぎで記憶を整理しているのです。私がこうして存在できている理由は、そこにあります」

「……前半はわかりました。ただ、大魔女さんが存在できている理由とは?」

「おや?忘れてしまったのですか?」

 

 ユキはゆっくりと彼に近づき、そっと彼の頬に手を添えた。

 

「私を思う強い気持ちがあれば私は存在できる、私はかつて、あなたにそう言いました」

 

 それは彼女との記憶の中での言葉だった。 

 一度は消えたかのように思われた大魔女ユキだったが、少年の強い気持ちによって復活した。

 

 それと同じようなことが今も起きているらしい。

 

「今はちょうど、あなたの脳が私との記憶を整理している最中です。つまり、あなたが最も私のことを愛した瞬間、ということですね」

 

 彼女が言うと、いつの間にか周囲の風景が変わっていた。

 

 そこは薄暗く、あまり衛生的とは思えない。

 しかし、彼と大魔女にとってはかけがえのない思い出の場所。

 ふたりでいつも会話をしていた地下牢だった。

 

「今なら誰も見ていませんし、愛した女性と最も愛し合った場所で愛し合えますよ?」

「愛愛言うのやめて?それと捏造しないで??」

「目が覚めた後もあなたと愛し合いたいところではありますが、あの時とは前提条件が違いますし、それは難しいでしょう。ただ、夢の中であれば会話するだけなら可能ですね」

「急に真面目になるのびっくりするからやめて?」

 

「てか、大魔女さんも俺との記憶持ってるんですね」

「はい、あなたと同じ記憶を持っています」

「じゃぁ、えっと……」

 

 少年が言わんとすることを理解したのか、ユキは小さく頷いてから答える。

 

「今回の入れ替わりの魔法、私は関与していません」

「そうですか……元から疑ってはいませんでしたけど」

「私の方でも原因を探ってはいるのですが、依然何も手掛かりは見つかりません。魔女因子はすべて吸収したはずなのですが」

 

 眉を落とすユキの言葉に嘘はない。

 自分が得意とする魔法関連のことでミスがあったことを悔しがっているようだ。

 

「突然謎の記憶が生まれて存在が回復したかと思えば、あなたの脳が爆発しそうになっていて、大慌てでした」

「え?俺結構ピンチだった?」

「脳死寸前、といったところでしょうか。慌てて私()()で治療の魔法を……」

 

 そこまで言いかけて、彼女は口に手を当てた。

 何か言うべきでないことを言おうとしてしまったようで、視線を逸らしている。

 

 そんな様子を見せられてしまえば、少年も先ほどの言葉が気になってしまった。

 

「えっと大魔女さん、『私たち』ってのはいったいどういう意味――」

 

 少年が聞こうとしたその時だった。

 

 あたりの風景が目まぐるしく入れ替わっていく。

 地下牢、食堂、中庭、医務室とぐるぐるとせわしない。

 

 驚く少年だったが、目の前のユキはいたって冷静だ。

 

「どうやら、もうすぐ記憶の整理が終わってしまうようですね。あなたの意識が目覚めてしまいます」

 

 彼女が言うと同時に、自分の体が浮き上がっていくような感覚がする。

 もともと床も重力もあったものではなかったが、この世界から離れていく。

 

 少年は目覚める前に、彼女に向けて手を伸ばした。

 

「また、会えますか」

 

 ユキは笑ってその手を取った。

 

「えぇ、もちろん。もう消えたりしませんよ」

 

 その笑顔は、かつて彼が見た通り、ユキの結晶のようなきれいな笑顔だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 目が覚めた後、彼はしばらくの間ボーっとしていた。

 先ほどの光景が夢だったこと、そしてその夢をしっかりと覚えていることを確認する。

 間違いなくユキは自分の手を取ってくれたし、もう消えることはないと言っていた。

 

 また眠れば、きっと彼女とは夢の中でいつでも会えるのだろう。

 少年は安心して先ほど得られた情報を整理する。

 

 ユキとまた会えた、めっちゃいい匂いした、今回の事件に彼女は関係していない、原因は相変わらず不明、なぜか薬の匂いがした、彼女の言っていた「私たち」という言葉の意味。

 

 そう彼が頭を回していると、足跡が聞こえてくる。

 ラウンジに彼女がやってきていた。

 

「無事でなによりだよ、ヒカリくん」

「蓮見さん」

 

 やってきたのはキラキラとしたオーラを振りまく蓮見レイアだった。

 

「宝生さんたちの監視に行ったんじゃ?」

「アリサくんが代わってくれたんだ。ようやく冷静になれたみたいだよ」

 

 記憶の影響で顔を真っ赤にしていたアリサだったが、彼と顔を合わせなければどうにか普段の彼女に戻れるらしい。

 

 普段の様子とは違ってしまったアリサのことを思い出し、少年は頭を抱える。

 アリサでさえ記憶の影響を受けてしまっていたのだから、他の少女達が影響されてしまうのも無理はない話だ。

 

 そうなると、とある疑問が少年の頭に浮かんできた。

 

 なぜ、目の前の少女は平然としていられるのだろうか。

 

 自分と恋愛していたはずなのになぜ照れていないんですか?なんてふざけた疑問だが、どうしても気になってしまう。

 

「その、蓮見さんは大丈夫?なんていうか、その俺たちは……」

「ははっ、ヒロくんにも聞かれたよ。記憶による影響だろう?」

 

 レイアは笑って答えた。

  

「確かに、あの記憶のせいで君を見る目が変わってしまったね。たとえば……」

 

 レイアは自分の左手をそっと撫でた。

 

「記憶を持って以来、薬指が寂しくなってしまった」

「……っ」

「私の記憶は、みんなと比べると()()ようだ。その分、要所要所を切り取ったダイジェストのような記憶だったけれど……楽しかったね、君が私のマネージャーとなって、世界中を飛び回って……」

 

 少女たちに埋め込まれた記憶は、せいぜい一か月から二か月ほどの出来事の記憶だ。

 この島の中で完結した記憶であった。

 

 しかし、なぜかレイアと共有された記憶はとても長い。おおよそ10年分はある期間であった。

 年齢にして20代後半になるまでのもしもの世界を見た。

 

 国際的に有名となった彼女のアイドル活動を少年がマネージャーとして陰から支えていた。

 あまりにも長い幸せな記憶。

 彼女の脳内には、ともに世界中を回ったこと、彼から指輪を受け取ったこと、彼と二人で母の病室に向かった記憶がしっかりと残っていた。 

 

「あぁ、勘違いしないでくれ。また指輪を送ってほしいというわけじゃないさ、君が自由に生きてくれることが一番だとも」

 

 左手の薬指を撫でながら、レイアは目を閉じて笑っていた。

 

「大切な人は自由に生きてほしい。どこかに縛られることなく、自分の思うように生きていてほしい」

 

「ただ……そうだね、もし君が私のことを思ってくれるのなら」

 

「たとえどんなに離れていても、私のことを見ていてくれると嬉しいな」

 

 レイアは優しく笑ってそう言った。

 

 自分が愛した男性に、自由に生きてほしい。

 彼女にとって、それが今望むことなのだろう。

 だから自分が必要以上に彼の負担とならないよう、彼に対して普段通りに接していた。

 

 同じ記憶を持つ少年は、とてつもない罪悪感に襲われる。

 指輪を送り合った女性が目の前にいるというのに、その相手を選べない自分が許せなかった。

 

 その彼の心情を見透かしたように、彼女は優しく彼を抱きしめる。

 

「あれは、ただの別の世界の話だ。もしもの世界。今の世界の君が私に対して気を遣う必要はないんだよ」

「でも……」

「そんな顔をしていては、罪悪感を利用して君のことを籠絡しようとする者が現れるかもしれない。だからほら、笑ってくれ」

 

 そう言われるも、少年は笑顔を見せることができない。

 複数の女性のことを好いてしまっている自分に嫌悪感すら感じてしまう。

 

 なんて気持ち悪い

 

 様子の変わらない少年に、レイアは仕方ないなと抱きしめていた腕を離す。

 

「君は自分を責めすぎてしまう傾向がある。今の隙だらけな状態であれば、他の少女たちに襲われてしまうかもしれないね。まぁ、そうならないために私が来たのだけど」

「えっと……?つまり今の蓮見さんは、」

「君の護衛さ」

 

 彼をひとりにしてしまうのは良くない。 

 ヒロの指示とレイア本人の意思により、彼には蓮見レイアが護衛と就くことになった。

 

 本来であればヒロがその役割を担うはずだったのだが、彼女は別の作業を行っていて手が離せないらしい。

 少年が倒れてからというもの、彼女はずっと忙しそうにしている。

 なにか焦っているようにも見えた。

 

「蓮見さんが、俺の護衛?そんな、悪いよ。俺が護衛させていただきたいぐらいなのに」

「私が必要になる機会はないと思うけれどね。ただ万が一ということもある」

 

 突然誰かが彼を押し倒してしまうかもしれない。

 ないとは言い切れないところが、現在の牢屋敷の恐ろしいところだ。

 

 少年は自分が周囲の人間からいろいろな意味で襲われかねないことを思い出し、身震いした。

 それを見て、レイアは彼を安心させるため笑って見せた。

 

「そう心配する必要はないさ。表立って君を誘惑しようとする娘なんて、そうそう現れないだろうからね」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「うっふ〜ん♡女よ〜ん♡♡あてぃしとイチャイチャして〜ん♡♡♡」

 

 表立って少年を誘惑しようとする娘が現れた。

 くねくねと変なポーズをして、妙な猫撫で声をあげている。

 誘惑しているつもりなのだろうが、ふざけているようにしか見えない。

 

「……何してんの沢渡さん」

「うっふ~ん♡あっは~ん♡んちゅ~~~♡♡♡」

 

 今のは投げキッスだろうか。

 沢渡ココは二階の廊下で鉢合わせた少年に対して色仕掛けを行っていた。

 と言っても、少年の様子を見る限り彼女の色仕掛けは効果的ではないことは明らかだった。

 

「……」

 

 ジョジョ立ちを決めるココとそれを微妙な表情で見ている少年。

 廊下は気まずい雰囲気に包まれた。

 もっとも、ココはそんな空気を気にせず少年と距離を詰めようとしているようだが。

 

「……ココくん、君はヒカリくんに近づかないように言われているんじゃなかったかな」

「二人きりになるなって言われてるだけだし!ね?彼ぴ♡」

「…………」

 

 少年とレイアは、アンアンとノアの様子を見に行こうと二階にあるノアのアトリエに向かう予定だった。

 そこで階段を上がったところ、ちょうどココと出会ったのである。

 

 ココにとってもこの会合は意図したものではなかったのだろう、驚いた様子だった。

 しかし彼と目が合った瞬間、突然ポーズを決め始めた。

 その切り替えの早さに、彼の護衛であるレイアも対応が遅れてしまう。 

 

 その結果が、今の気まずい静寂である。

 

 さて、ココをどうするべきだろうか。少年は考える。

 

 まず受け入れるのはナシだ。

 隣にはレイアもいるし、この程度の色仕掛けで簡単に崩れてしまえば、様々な少女達に失望されてしまうかもしれない。

 ならば思い切り突き放すべきなのだろう。

 しかし……

 

 少年にとっては、ココもやはり大切な女性だ。

 自分の気を引こうと必死になっている彼女の姿は、見ていてなにか感じる物がある。

 それを突き放してしまうのは、はたしてどうなのだろうか。

 

「……」

 

 自分はやはり14股のクズ野郎なんだなと少年が自分自身に失望していると、どこからか慌ただしい足音が聞こえてきた。

 その足音はココがやってきた方向から聞こえてくる。

 

「オイ沢渡!ひとりになるなって言っただろ!!」 

  

 やってきたのは拳を握るアリサだった。

 ココと一緒に行動していたのだろう。

 

 少年は、アリサが要注意人物たちの監視の役割を担っていたことを思い出す。

 しかし今アリサの近くにいるのはココ1人のみだ。

 ほかの人物たちの監視はどこに行ったのだろうか。

 

 レイアも同じ疑問を持っていたようで、アリサに問いかける。

 

「マーゴくんとナノカくんは……」

「宝生は二階堂達と一緒に図書室で何か作業してる。二階堂が監視してるから、そう馬鹿な真似はできねぇだろ。黒部の奴は……」

 

 アリサは悔しそうな表情を見せる。

 

「わからねぇ」

 

 どうやら、すこし目を離した瞬間に居なくなっていたらしい。

 屋敷の隠し通路や仕組みに知識が深い彼女のことだ、逃げ隠れするのはお手の物だろう。

 

 ココと一緒にナノカを探そうと二階を探し回っていたところ、ココが単独行動をしてしまったからあわてて追いかけてきた、というのが肩で息をするアリサの現状だった。

 

「悪い、日向。ウチのせいで変なモン見せた」

「はぁ?今あてぃしのこと変って言ったか???」

「どっからどう見てもそうだろうが!不慣れなことすんじゃねぇ」

「はぁあああ!?あてぃしめちゃくちゃ経験豊富なんだけど!!ヒカリと何回シたか教えてやろーか!」

「あぁ?」

 

 ふたりの口喧嘩がヒートアップしていく。

 

「まず最初はゲストハウスでしょ?あてぃしのすんごい誘惑で、ヒカリがメロメロになっちゃってさ~♡」

 

「その時のヒカリすっごくて~あてぃしが待ってって言っても全然止まってくれなくてさ~♡」

 

「あてぃしの彼ぴって普段は優しいのにあてぃしにだけはオオカミになっちゃうんだよ~あてぃしのこと大好きすぎだよね~!!」

 

 ココが顔に手を当てて恥ずかしそうに語る。いやこれは恥ずかしがっているわけではない、惚気風の自慢だ。

 自分がどれほど彼と濃密な経験をしてきたのかを語って、他の少女をけん制している。

 

 突然自分との初体験を赤裸々に語られてしまい、少年は固まってしまう。

 隣にいるレイアも苦笑いをしていた。ココの様子から、彼とそういう経験をしたことがあったのは想定していたのだろうが、こうも積極的に語られてしまうと反応に困る。

 

 そのココの惚気を正面から受け止めたアリサは、すこし顔を赤くしながら答えた。

 

「それくらいの経験なら、ウチだって……」

「はぁ???ヤンキーがヒカリと恋愛なんてできるわけないじゃん!」

「ウチも、そう思ってた……でもアイツが……告白してきて……」

 

 言いながら、アリサはみるみるうちに顔が赤くなっていく。

 彼との記憶を思い出していることは間違いないだろう。

 

「そんなんありえねーしょ!ヒカリが好きなのはあてぃしみたいに可愛くて明るい子で、ヤンキーみたいな黒マスク陰キャはお呼びじゃないの、わかる??」

「んだとテメェ!」

 

 二人の喧嘩はますますヒートアップしていく。

 このままでは暴力沙汰に発展しかねない。

 

「二人とも、そこまでに――」

 

 このままではヒロが危惧していた通りの事態になってしまう。

 

 それをさせまいと、レイアがふたりの間に入り込もうとする。

 しかしそれより先に彼女の隣に立っていた少年が動いていた。

 

「そこまでにしよう、()()()()()

 

 名前を呼びながら、騒ぐ二人の体を抱きしめていた。

 突然彼から接触を受け、ココとアリサは動けなくなってしまう。

 

 抵抗できない彼女たちの耳元で、少年はゆっくりと口を開いた。

 

「大切な人が怒っている姿、俺見たくないよ」

 

 そう言って、また力強く彼女たちを抱きしめてから解放する。

 

「えっへへへ……」

「……っ」

 

 恍惚とした表情を浮かべて床に座り込むココと、耳まで赤くなった顔を隠そうとフードを被りなおすアリサ。

 もう口争う様子はなさそうだ。

 

 クズ男っぷりに磨きがかかっている。

 心の中でため息を吐きながら、少年は自分をそう評価した。

 

 付き合っていたふたりの女性を同時に抱きしめて、耳元で愛を囁きその場を収める。

 まるで軟派な男の立ち振る舞いだ。

 

 ましてや彼女たちに伝えたのは『大切な人』という言葉だ。

 明確に『好きな人』と伝えないことで()()を出さない立ち回りをした自分が気持ち悪くて仕方がない。 

 

 自分に対して好意を伝えてくれるココと、自分を守ろうとしてくれているアリサに対してこのような行い。

 少年は自分のことをぶん殴りたくなった。

 そもそも彼女たちが喧嘩をしていた理由は自分のせいだというのに、それを棚に上げて彼女たちを諫めている。

 

 しかし、それでも彼女たちの間に割って入ったのは理由があった。

 彼女たちが互いに罵り合う光景を見るのがイヤだったのだ。

 

 だから彼女たちが自分に対して持っているであろう恋心を利用して、ふたりの心を落ち着かせ……

 

「まいったな死にたくなってきた。蓮見さん、ちょっとそのレイピアで俺の背中思いっきり刺してくれない?」

「おっと、彼の心が限界のようだ。アリサくん、引き続き監視は頼んだよ!」

 

 自己嫌悪で死にそうになっていた少年の背を押し、レイアは逃げるようにその場を後にしたのだった。

 

 





Ifルート日向ヒカリ編は、前編中編後編と三話で完結する予定だったのですが想定よりめちゃくちゃ長くなりそうなので、タイトルをちょっとだけ変えました。①②③……と続けていく予定です。

投票、お気に入り登録、感想、ここ好き等、とても励みになっております。
前話の評判が高くて、やっぱりみんなハーレム好きなんだなぁとうれしくなりました。
今後ともよろしくお願いします。
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