【完結】光を失った少年の話   作:野口さん

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*オリ主との恋愛描写がガッツリあります。閲覧注意です。

 もしかしたらこんな展開もあり得たかもしれないというもしものお話です。
 次話からはまた普通の関係に戻っています。



Ifルート 宝生マーゴ

 

 少女たちが演劇練習に励んでいる間、少年は花畑を歩いていた。

 

「ふわぁ……」

 

 サボりではない。

 休憩時間の間を縫って、そこらで仮眠でも取ろうと考えていた。

 

 最近の彼は慢性的な寝不足にある。

 

 地下牢で眠るとアリサあたりに怒られそうだし、医務室で寝るとみんなを心配させてしまうかもしれない。ほかのところで眠ろうにも、誰がどこにいるのかわからない。

 

 少年は持ってきたレジャーシートを広げながらあたりを見渡す。

 

 この花畑なら人が来ることはあれどとても広い。

 寝ていても誰かに見つかることはないだろうと考えてのことだった。

 

「あら?何をしているのかしら?」

 

 しかし少年の目論見は外れ、すぐに見つかった。

 

 宝生マーゴが地面にレジャーシートを敷いて座っている少年を見つけて歩み寄ってくる。

 

 少年は頬をかきながら答えた。

 

「ちょいと昼寝をね。みんなには内緒にしてほしいな」

「奇遇ね、私もすこし休むつもりだったの」

 

 アリサちゃんに働きすぎだと怒られてしまってね、とマーゴは少年の隣に座る。

 彼女もまた、最近寝不足らしい。

 

「それもしかして、夜中起きて俺にちょっかいかけてるからでは?」

「あら、なんのことかしら?毎晩私はしっかりと眠っているのだけど」

 

 マーゴは少年をからかう時の笑みを浮かべていた。

 こうなった彼女には、いくら問い詰めてものらりくらりとかわされてしまうだろう。

 

「毎晩必死に天井を見て眠っているあなたには、私が眠っていることなんてわからなかったのかしら?」

「どうして俺が毎晩天井をみていることを知ってるんだ?やっぱり起きてるんじゃ……」

「あら、どうしてかしらね?」

 

 マーゴは笑みを崩さない。

 少年は追及をあきらめ、空を見上げる。

 

「ここ、いいわよね。とても広くて、誰にもみつからないし」

 

 そう言ってマーゴは、少年の隣に座りこんだ。

 肩が触れ合うほど近く。

 

 二人きりになったマーゴはいつもこうだ。

 お互いの体が触れるほどに距離を詰めてくる。

 

(ふぅー……)

 

 少年は深呼吸して雑念を消す。

 自分は眠るために来たんだと言い聞かせ、興奮する体を落ち着かせる。

 

 しかし、その精神統一を阻害するように、

 

「眠りたいのでしょう?ほら、おいで」

 

 マーゴはシートの上で正座をすると、自分の足をポンポンと叩いた。

 それが意味することは、ひとつ。

 

「まさか、膝枕……?」

「眠れていないのは私のせいなのでしょう?なら責任、とってあげる♡」

「言い方がエッチすぎる……」

 

 拒否しようとする少年だが、結局マーゴの誘いを断れず、その場で横になり頭を彼女の足にのせた。

 

 柔らかな感触を後頭部に感じながら、少年は衝撃をうけた。

 

(あ……これやばい)

 

 すごく、すごく安心する。

 少年はとてつもない心地よさを感じていた。

 

 後頭部に感じる体温。

 とても安心する不思議な香り。

 こちらを愛おしそうに見る彼女の顔。

 

 そのすべてが、少年の思い出に生きる母親と重なった。

 母が生きていたころ、こうして膝枕をしてもらっていた。

 

(涙もろくなったなぁ、俺) 

 

 潤んでいく目元をごまかすため、彼はマーゴから目をそらした。

 と言ってもこの距離だ。マーゴならば少年の行動からいくらでも心情を読み取ることができる。

 

 しかし、マーゴは少年をからかうことをしなかった。

 少年の頭をやさしくやさしく撫でていた。

 

 それがまた、少年の中にある母との記憶を思い出させる。

 

「……」

 

 マーゴは、彼が自分を誰と重ねているのか、わかりたくなかった。

 彼女の母親は、彼の母親とは全く異なる存在だから。

 

 自分を誰かと重ねているということは分かったが、母親と重ねているなんてありえない。

 

 なぜなら、母親とは、子を愛する存在。

 

 愛を知らない私が、彼を愛するなんてありえない。

 

 なら、私は彼をどう思っているの?

 

 マーゴは自分に問いかける。

 

 私にとって大切なひと。

 近くにいると安心できるひと。

 

 ただ、彼を膝枕してあげたくなったから、しただけ。

 ただ、彼の頭を撫でたくなったから、撫でただけ。 

 

 なぜ、そう思った?

 

 そうしたいと思ったから。

 理由なんてない。

 ただ、()()()()()()()()()

 

 つまり、私は……

 この感情は、まさか――

 

「ごめん、少し寝る」 

 

 彼女の禁忌が変わりそうな時、少年が涙を拭きながらそういった。

 

 そういえば、これは彼が眠るために行っていることだった。

 マーゴはそれを思い出す。

 

「手を、握っててほしい」

「えぇ、もちろん」

 

 少年はマーゴの手を握ると、安心したかのようにすぐに寝息を立て始めた。

 

「おやすみなさい」

 

 その間も、マーゴはずっと少年の頭を撫でていた。

 

 マーゴもまた、何かが変わりつつある。

 

 

 ◇

 

 

 夜、電気のない牢屋敷は暗闇に包まれていた。

 それはこの医務室も例外ではない。

 

 真っ暗な医務室では多くの少女たちが寝息を立てていたが、少年はなかなか目を閉じることができていなかった。

 その原因は彼のトラウマではない、昼寝をしたことでもない。

 

(興奮して眠れねぇ……!)

(近いんだよな宝生さんほんとに!!)

 

 今も少年の右隣で寝ているマーゴの存在が原因だった。

 

 右手を握ってくれるのはいいが、それにしても距離が近い。

 今も少年の耳元で寝息を聞かせている。

 彼女の吐息を耳で感じ取れてしまう。

 

 心臓の鼓動が高鳴って仕方がない。

 少年は上を向いて必死に耐えることしかできなかった。

 

(ああああああ!!めっちゃいい匂いするぅううう!!!)

 

 心の中で少年は絶叫していた。

 

 言葉を選ばずに言うのであれば、最近の少年は()()()()()()

 

 これほどの数の女子に囲まれた生活では自由に()()することもできないのだ。

 

 以前の牢屋敷であれば外で誰にも見つからないように発散することもできたが、今は牢屋敷の人口が大幅に増えている。どこに誰の目があるのかもわからない。

 彼女たちに文句を言うわけではないが、ひとりで処理できない環境は彼には苦しかった。

 

 容姿端麗な少女たちが、自分を信じて毎日生活している。

 そんな状況でもしも自分が()()しているところが見つかればどうなるだろうか。

 

 少年は想像すらしたくなかった。彼女たちの信頼を失うことは何よりも嫌だった。

 だから彼は必死に耐えるしかなかったのだ。

 

 しかし、彼の下半身は年相応に元気だ。

 こうして天井を向いて必死に耐えている間も、ギンギンと自己主張をしている。

 

(ねろ、ねむれ、早くねろっ!)

 

 少年が悶々とした気持ちを抑えて寝ようと必死になっていた時だった。

 

「んん……」

 

 左手を握ってくれていた少女の手が離れたのだ。

 寝返りを打ったときに、握っていた手を離してしまったのだろう。

 

(よかった、これでどうにか避難――)

 

 少年は左側のスペースが少し開いたことに喜んでマーゴからすこし距離をとろうとした。

 

 しかしその時、少年の脳内にとある選択肢が生まれた。

 

 このまま宝生さんの方に寝返りをうったらどうなるんだろう。

 そう思ってしまった。

 

 互いの顔がとても近くなるのは間違いない。

 左腕が自由に動かせる今なら、右側に体を向けることは簡単だった。

 

 

 少年は――

 

 

》寝返りをうつ《

 

 

そのまま天井をみる

 

 

 ◇

 

 

 少年は寝返りをうつことにした。

 

 ほかの少女たちを起こさないように静かに寝返りをうつと、マーゴの顔がとても近い距離に現れた。

 

「っ!?」

 

 マーゴが驚いて息をのんだ音が聞こえる。

 同時に少年も、これほど近い距離にいるとは思わず、驚いてしまった。

 

(……やっぱ起きてんじゃん宝生さん)

 

 マーゴの顔がとても近くに見えたし、マーゴも少年の顔をとても近くに感じていた。

 互いの呼吸が感じられる距離で、二人はしばらく見つめ合う。

 

 今日は月が見えていないせいで、部屋はとても暗かった。

 どれほど目を凝らそうが、かろうじて目の前に誰かいることがわかる程度の明るさしかなかった。

 

 ただ、今この瞬間だけは、マーゴも少年も、不思議と互いの顔がよく見えていた。

 

 マーゴのきれいな紫色の瞳に少年は目を引き込まれてしまう。

 

 マーゴも彼を見ていた。

 サングラスを外した少年の顔をじっと見ていた。

 何を思っているのか、表情から察することはできない。

 

 こうしている間にも、少年の右手とマーゴの左手はずっと握られている。

 この手を離せば、距離を開けることなんて簡単にできるが、二人ともそんな選択肢が思いつくことさえなかった。

 そうあるのが当然と思っていたから。

 

 二人は静かに、互いの顔を見ていた。

 

 

 

 どれほどそうしていただろうか。

 

 時間を忘れ、お互いの顔が目に焼き付いてもまだ二人は見つめ合っていた。

 

 そっと、マーゴが空いている右手を少年の頬に添えた。

 こちらに来て、そう言うように。

 

 二人の距離は、既にこれ以上ないほど近くなっている。

 先ほどからお互いの鼻先が何度も触れあっていた。

 

 これ以上近づこうとすれば、それは、

 

(……)

 

 少年は、空いた左手をマーゴの方に伸ばした。

 マーゴの脇腹から背中に手を添えて、そっとその体を引き寄せた。

 

 互いの距離がさらに近づき、そして――

 

 

 その唇が触れた。

 

 

 

 

 数秒が経過して、口が離れるリップ音が無音の医務室に響く。 

  

 少年とマーゴはその後もしばらく見つめ合っていた。

 言葉はない。そんなものは必要ない。目を見るだけで通じ合える。

 

 どちらから求めるでもなく、ふたたび二人はキスをした。

 先ほどよりも長く、深い口づけ。

 

 ドクドクとなる心臓の音が聞こえる。

 いつの間にか握っていた手は恋人繋ぎに代わっていて、添えていただけの腕もお互いを抱きしめるために使っていた。

 足を絡ませ合い、少しでも深く体が触れ合うカタチを探す。

 近くでみんなが寝ていることすら忘れ、ただひたすらに目の前の相手と触れ合っていた。

 

「ぷはっ」

 

 呼吸が苦しくなって、二人はようやく口を離した。

 二人で肩で息をしながら、少しの間見つめ合う。

 

「「くすっ」」

 

 そして同時に笑った。

 キスで呼吸が苦しくなって、荒い呼吸をしているという事実がとてもおかしかった。

 みんなを起こさないように、静かに笑い合う。

 

 二人はまた距離を縮めた。

 こんどは互いの体を強く抱きしめる。

 

 呼吸が落ち着くまで、二人で互いの体温を感じる。

 二人とも心臓の鼓動がとても速く、それもまたおかしくて笑ってしまっていた。

 

 その後も、二人は言葉を発することはない。

 静かに手を握り合い、キスをし、足を絡ませて遊んでいる。

 

 ふと、マーゴは自身の腹部にあたるナニカに気が付いた。

 

 それは普段の彼には似合わない、固く大きなナニカであり、彼が()()であることを証明するものだった。

 マーゴは妖艶に微笑んだ。 

 

(なんだか安心したわ。あなたも男の子なのね)

(ごめん……)

(いままでつらかったでしょう?ほら、静かに)

(……マジ?)

 

 二人は視線で会話をすると、誰も起こさないように静かに立ち上がり、医務室を出ていく。

 

 規則が無くなった牢屋敷に罰則なんてものはない。

 夜中に男女で逢引をしようが、二人で屋敷から離れたゲストハウスに向かおうが、そこで何をしようが、咎められはしない。

 

 二人の影が、夜の闇に消えていった。

 

 

 ◇

 

 

 朝日が昇り、朝食の時間となった。

 近くの湖で汗を流し、服装を正して、二人は何事もなかったかのように牢屋敷に戻っていく。

 

 すこし大人になった少年とマーゴは、牢屋敷で普段どおりの日常を過ごそうしていた。

 しかし、周りの少女からの視線が普段と違うことに気が付く。

 

 なぜかみんな顔を赤くしているし、なぜか遠巻きに見られている。

 おまけに誰も話しかけに来ない。

 

「……なんか俺らを見るみんなの視線、変じゃない?」

「そう、ね。さすがに、すこし恥ずかしいわ」

「なんでバレてんの?俺らが部屋抜け出したこと気づかれてたの?」

「朝起きた時に医務室にいなければ、疑問に思われても仕方がないんじゃないかしら」

 

 遠くから見ている少女たちは、食堂で二人が会話している様子をキャーキャー言いながら見ている。

 

 その様子を見たマーゴが、そっと意味深に自分の腹部を撫でると、その声はより大きくなった。

 少年は何も気が付いていないふりをしながら顔を赤くして食事を摂る。

 

 二人の関係がバレていることは間違いないようだった。

 

「てっきり失望されるかと思ってたんだけどな。その、こういうことしたら」

「失望される?あなたが?」

 

 マーゴは腹部を撫でながらつづけた。

 

「あなたが得た信頼は、この程度で揺らぐものではないわ。逆に、男らしい一面を見られて喜んでいる子もいるんじゃないかしら?」

 

 誰にも渡さないけれど、と彼女は妖艶に笑った。

 以前よりとても()()の高い微笑みに少年は顔を赤くして目を背けることしかできなかった。

 

 しかし、マーゴの言葉がそこで途切れた。

 普段の彼女なら少年をからかう言葉をまだまだ紡ぐことだろう。

 それがなかったことに違和感を覚え、少年はマーゴを見る。

 

 彼女は少し下を向いていた。

 

「ごめんなさい」

 

「やっぱり、私は愛がわからないみたい」

 

「私の知る()は、あなた達の思う愛とは違うみたいだから」

 

「あなたを思うこの感情が、愛なのかわからない」

 

「あなたに愛を伝えられないし、あなたから伝えられてもどうすればいいかわからない」

 

「だから、行動で示すわね」

 

 そう言って、マーゴはそっと少年に口づけをした。

 周りから黄色い歓声が上がるも、二人の耳には何も聞こえない。

 ただ目の前の相手がすべてだった。

 

 口を離して、マーゴはそっと彼の頬を撫でた。

 

「あなたがとても大切よ」

 

「この先も、私と一緒にいてね」

 

 

 

 





思ってたんと違うかもしれませんが、こういうのもアリかなと思ってくださればうれしいです。
R-18版は誰か書いてください!!(他力本願)

赤色のまま評価バーが埋まりました。高評価を入れてくれた方々、ありがとうございます。とても感謝しております。

日間ランキングも11位に乗っていました。
たくさんのお気に入り登録、感想などを送っていただき、感謝してもしきれません。

せっかく好評をいただいている中、大変申し訳ないのですが先のネタがなかなか思いつかなくなってしまいましたので次話は少し間が空きます。

気長にお待ちいただければ幸いです。

読みたいお話は?

  • 一周目二周目にあった事件・裁判での主人公
  • 別キャラの恋愛Ifルート
  • ほのぼの日常回
  • その他
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