世界で一番幸せな女の子と犬(成人男性国家公務員) 作:mimi11111111
夜空を覆うほどの満月のみが彼らを照らしていた。蒼白の光が銀糸のように地上へ降り注ぐ中、大木に体を預け、座り込む男とそれを見下ろす少女が2人。闇に吸い込まれるような沈黙の中、男の乱れた呼吸だけが虚しく響く。
少女は、白磁のような小さく美しい手に、金銀の装飾が凝らされた拳銃を握っている。月光を跳ね返す金銀の過剰な装飾は男の今までの血と権力の象徴のようにぎらついていた。少女の美しさと握られる武器の卑しさはひどく不釣り合いだった。
『命乞いをしてみせろ、見てみたい。』
月光を背に、ザクロのように真っ赤な唇から、少女は男にそう告げた。いや、”命令”した。
私は祖母と一緒にのんびり暮らしている普通の女の子だった。生まれたときから両親はおらず、仏壇には母の写真しかなかった。子どもながらに不思議に思って、親のことを聞いてみたこともあるが、祖母は悲し気に私の頭をなでるだけだった。とはいえ、両親がおらずとも特に寂しい思いもせず、平々凡々に生きていた。
4歳になったある日、家に怖そうな男の人が何人も来た。彼らは縋る祖母を振り払い、嫌がって泣き叫ぶ私を無理やり連れ去った。車の中で私は薬をうたれ気絶し、目覚めたとき、私は日本にはいなかった。
私の父親は中国マフィアのボスだった。母はその愛人で、私ができたときに父のもとから逃れ、地元に戻ったが、とうとう私は見つかってしまったようだ。父は異常なまでの血統主義であり、唯一血のつながった私を血眼になって探していたらしい。その日から後継者として私はあらゆる教育を受けた。間違えれば鞭を打たれ、当たっていれば次の問題を出される生活に徐々に私の心は死んでいった。何も感じなくなったころ、夢で前世の記憶を思い出し、今に至る。
思い出してすぐに思ったことはう~ん、ハードモードすぎ私!可哀そう!!である。前世の私は、過労で死んだだけのいたって普通のOLだった。ええ、もちろん普通ですとも。ベッドから起き上がって部屋のドレッサーに移った自分を眺める。あれから9年、今私は13歳。鏡には美しく気高い少女が映る。今世の自分…可愛すぎる…!
ただ、社畜時代の自分と同じかそれ以上に目は死んでいる。クソパパの愛ある後継者教育のおかげで口角は全く上がらない。目元はきつく吊り上がり、何者も寄せ付けない顔をしている。まあ、そんな顔にもなりますわ。13歳の今はそんなに頻繁に鞭で叩かれたりしないが(ないとはいってない)、とはいえ精神衛生上全く良い環境ではない。
前世の記憶を思い出した私はその日に決意した。絶対にこの少女、もとい私を幸せな存在にする!と。前世では全然自分のやりたいことできずに死んじゃったし、今世も同じ目には合わぬ!!!中国の女帝とかまっぴらだし…
しかも私はもう一つ気づいたことがある。何度か父の取引(もちろん違法)に連れていかれたときに対面した者たち。
めっちゃ見覚えあるねん…めっちゃ銀髪やねん…めっちゃ見慣れたグラサンやねん…ここ…コナンの世界やねん
…うわああ!!コナン世界の犯罪者なんて逮捕ルートまっしぐら!!しかもメインの黒の組織とかじゃないし、映画版とかで処理される雑な悪役になってしまう…!!イヤッ!豚箱エンドはイヤッ!とにかく、どうにか一般人にもどるぞ!!
ドレッサーの前でガッツポーズをしていると、扉がノックされた。もう聞きなれた中国語で呼びかけられる。虐待クソ親父のくせに、朝食は一緒に取りたがる。そのための準備の時間になってしまったようだ。いやだな~~~。しかし、朝食に遅れるともちろん折檻が待っているので、使用人を招き入れる。しっかり癖になってしまった、高圧的な口調で。