世界で一番幸せな女の子と犬(成人男性国家公務員) 作:mimi11111111
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焦げ臭い…、それだけじゃなくて…血とガソリンの匂い…。そう思いながら目を開ける。ぼやけた視界は暗く、オレンジ色をした大小の光が所々揺らいでいた。瞬きをするうちに視界がはっきりしてくる。
崖から車ごと落ちたらしい。その割に私の頭はやけにはっきりしていて、すぐに立ち上がる。周りには大破し、タイヤをからから回す車が一台。木々はなぎ倒され、方々に小さな火が転がっていた。地面には、ところどころに凄まじい血の痕が光を反射している。
運転手の姿は見えない。父の姿も。周囲を軽く見まわしたあと、上を見上げる。
あんなに高い崖から転落し、車を犠牲にしたというのに、私は異常なまでに無傷だった。服や手足についた土を軽くほろい、落下の衝撃で解かれてしまった髪を撫でる。それから、私は胸元をまさぐり、ゆっくりとそれを取り出す。
わずかな火元に照らされて、金の装飾がぎらりと光る。銃身には金の竜が這い、銀色の模様が竜の周囲に散らされている。この悪趣味な銃は父が私に初めてよこした贈り物だった。この過剰な装飾のせいで、ずっしりと重く、握ると指先が冷える。本当に頭ははっきりしている。私はとても冷静だった。
動揺も怒りも後悔も、そのすべてが遠い。あるのは決意だけ。
決着をつけなければならない。
このあと私の扱いがどうなるかはわからないが、それだけは確信している。私自身が父に引導を渡さなければ、前に進めない。私は私のために、行かなければならない。
銃に込められた弾を確認し、軽く握る。足元の焦げた地を踏みしめ、私はゆっくりと歩きだした。静寂の中、私は導かれるように、歩みを進めた。
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そう遠くない場所に父はいた。全身から血を流し、息も絶え絶えながら、彼は生きていた。足元の出血が特に激しい。立ち上がれず、それでもなお、生への執着心だけで、明かりの届かないこの場所まで這ってきたのだろう。大木に身を預け、荒く呼吸をしていた。
即死も免れないこの状況で、私はかすり傷ひとつ負っていない。そして、彼も瀕死ながら、間違いなく生きていた。
まるで、死がこの血を避けて通るかのように。
奇跡なのか。
それとも、この一族にかけられた、果てしない呪いなのか。
瀕死の父に、気配を隠しもせず近寄る。父は私の気配を察知し、顔を上げる。いつものような王の風格は薄れ、手負いの獣がかろうじて牙を剥いている、そんな感じだった。
私は迷わずに、父の血に濡れた額に銃を突きつける。月光に金の竜がぎらつき、彼を睨みつける。初めて、父を見下ろした。そして、いつもの父のように、口角をゆるやかに上げる。
『命乞いをしてみせろ、見てみたい。』
自分でも驚くほど冷たく、蠱惑的な声が出た。この男に怯え、恐怖を悟らせてはいけない。それはすなわち、私の正義の死を意味する。
父は一瞬、何かを読もうとし目を細めた。そして、何かを悟ったように、全身の力が抜けるのを私は見た。
『クッ…はっはっは…』
次いで体を震わせる。__父は笑っていた。
『素晴らしいな、
口から血を吐き出しながら、それでも愉悦を滲ませ私を首だけで覗き込む。
『構わん、撃て。…お前は、俺を殺すことで完成する。』
父に初めて見上げられた。父の顔は、口角を歪に上げ、私の中にある弱さを見極めようと瞳をぎょろぎょろ動かす。
『俺の血を継いだお前は完璧な支配者となり、俺はお前の中で生き続ける。お前の中で恐怖の象徴としてな。』
父はより一層愉快気にそう話す。父の喉からは唾液と血が混ざったようなごぽごぽという音が漏れ、笑い声が途切れ途切れに続く。だが、その無様さが私の胸をかすめることはない。
『私はお前を継ぐつもりもなければ、恐怖の器になるつもりもない。』
私の脳裏にはただひとつ、スコッチのみが存在していた。生きる意志を灯すように澄んでいたあの光が、今でも私の中で輝いている。
力を誇示するわけでも、誰かを支配するわけでもない、人を護るという行為の中に宿る、彼の静かな強さ。__私もそうありたい。
『お前は名実ともに、もう幕引きだ。お前の望みは何一つ叶わない。』
父は目を見開く。私の瞳の中に、自身に対する恐怖、怯え、それらが全く滲んでいないことに気づいたのだろう。自身の終焉を感じ、かすれた呼吸が漏れている。
『お前の望む“完全”より、私は自由を選ぶ』
私は銃の引き金を引いた。