世界で一番幸せな女の子と犬(成人男性国家公務員) 作:mimi11111111
俺は盆に”それ”を載せて、
『ご主人様、入ってもよろしいですか?』
『…。』
返事は全くなかったものの、俺は遠慮なく入る。本当に入ってほしくなければ、『耳障りだ。消えろ』くらい言ってくるはずだ。つまりこの無言は実質、『入ってこい』の意である。
奥の寝室まで進むと、広いベッドの上にうずくまる影を見つけた。いやに広いベッドに対して、丸まった主人はひどく小さく、儚かった。ベッド近くにある机に盆を置き、シーツに包まる
『
『…いつからここが貴様の犬小屋になった。』
『まさか、ここは
『なんだ?犬には人間のいうことがわからんようだな?』
普段通り俺を罵倒できるくらいには落ち着いたらしい。まだ疲労の残る
『
『お前がか?…犬の作ったスープなんぞは見ものだな。出してみよ』
『こちらでございます』
『!これは…』
『味噌汁です。体が温まりますよ。どうぞ。』
『…フン』
『俺は日本生まれで、久しぶりに飲んでみたくなったんです。知ってますか、
俺が話している最中にも
『あっ!俺、箸を持ってくるのを忘れていました!すぐお持ちしますね。』
『…早く持ってこい。』
『かしこまりました。』
そしてさっさと部屋を出た。実際は盆の上に箸をおいてあるので、すぐに
…いや成功だったのかはわからない。あのわずかに潤んだ瞳に映ったのは、過去の幸せな思い出だったのか、それとも今に対する絶望か。もしかすれば、
厨房へ向かう最中、窓の外に広がるきらびやかな夜景を見つめる。祖国とは異なる景色、煌めく灯りの下には無数の人々が行き交い、当たり前の日常を送っている。一方で
(玉環様は四歳で家族から引き離された。それからずっと……)
日本で過ごした幼い記憶—母親の手料理の匂い、家族との穏やかな時間—それらすべてを奪われた
俺は鍋に残った味噌汁を温めなおしながら自問自答する。温かい味噌の香りが遠い故郷の記憶を呼び起こす。あの頃あった、平穏と温もりとこどもたちの笑い声。いつか、ここから抜け出し、日本へ戻る。そして、必ず連れ出す、この牢獄から、あの人を。俺はその夜、決意を固め、味噌汁を椀にもって、飲み干した。熱さと塩辛さでひりついた喉が、俺の決意の表れだった。