世界で一番幸せな女の子と犬(成人男性国家公務員) 作:mimi11111111
いつものお着換えを済まし、扉の外にいるスコッチに呼びかけると、彼はいつものとおり、私の髪を結わえる。スコッチはほぼほぼ私の執事のような感じで、父の仕事を受けているようではないらしい。スコッチはこんな口悪キッズにも同情してくれているのか、毎朝優しく髪を梳いて、きゃわいいヘアセットをしてくれる。う~ん、きもちよし。
癒しのお時間を過ごしたあとは一気に地獄へ転落、パッパ(カス)とのうっきうき朝食タイムである。いつもの私であれば、ここでテンション激下がりなのだが、最近は少し違う。季節は秋、私は虎視眈々とある知らせを待っている。スコッチを連れ、食卓へ。
『来たか。』
『はい、只今。』
『座れ。』
『はい。』
会話の成立のしなさは父譲りである。短い返事をして、スコッチが引いてくれた椅子に腰かける。会話内容は終わっているがしかし、この10年間、父の顔色を窺いながら生きてきた私にはわかる。父はどうやらご機嫌なようだ。もしかすれば…
『朝食の後、日本へ飛ぶ。』
『…は、』
『そろそろ狩りの時期だからな』
来た。私は父にバレないように滲んだ手汗をぬぐう。父は毎年秋にハンティングをする。ただのハンティングでさえ嫌なのに、父の楽しむハンティングは”人間”ハンティングなのだ。借金で首の回らなくなった債務者、無礼を働いた部下、もう用済みになった愛人などなど、とにかく組織に歯向かった者たちを山に放って、逃げ惑う様子を楽しむのだ。私は度々この趣味に駆り出される。父は私がこの趣味を嫌っていることに気づいており、それすらも楽しんでいるのだ。サディストとかのレベルじゃないです。いやマフィアの親玉だしそらそうか…
父は話題を出した途端私の雰囲気が変わったことに目ざとく気づき、愉快そうに口角を上げる。
『嫌そうな顔をしているな』
『…まさか。』
『ハッ、お前の瞳もこのときばかりは濁るな』
父の喜んだ様子が不愉快で目線をカトラリーに落とす。なるべく、不憫そうに、でも大げさになりすぎないように、父の嗜虐心を煽るような”フリ”をする。
『そうだな…今年はお前にハンデをやろう。』
『ハンデ、ですか?』
『その犬も連れていけ。猟犬替わりに使えば便利だろう?』
乗ってきた…!この誘いを待っていた。父は黒ずくめの組織と交流するようになってからというものの、日本で趣味をすることにしたようだ。そこのお偉いさんが所有している山らしく、使い勝手がいいらしい。私やスコッチが日本にいける数少ない機会がこれだ。ただ、ハンティング中は常に父か部下が私に張り付いている。つまり、私ひとりじゃ脱走は不可能だった。しかし、今はスコッチがいる。この日のために、私はいろいろ下準備をしていたし、スコッチにもこのイベントの話をそれとなくしていたから、彼も薄々チャンスを伺っていたかもしれない。
私は後ろに立つスコッチに目配せをする。
『リードの準備をしておけ、犬。お散歩の時間だ。』
この機会を逃すわけにはいかない…!