世界で一番幸せな女の子と犬(成人男性国家公務員) 作:mimi11111111
一年ぶりに降り立った故郷の空気は澄んでいた。隣に犯罪組織のおじさんたちがいなければの話だけどね!!!来てしまいました、死の山。見渡せど見渡せど、周りにはこわもてのおっさんばかり…
いつもはようわからんチェーンやらごっつごつの時計やらをつけているパパ上もこの時ばかりはハンティング用の動きやすい服装をしている。重厚なハンティングコートを纏い、腰には銀色に輝くバックルの革ベルトを巻いている。パパ上の恰好には一切の興味はないが、かくいう私も今日は珍しくパンツスタイルなのだ。光沢のあるつやつやのレザーブーツだって履いて、シャツの襟には銀でできた、桜のピンバッジをつけている。ふふん、可愛い。これから人を撃ちに行く人間とは思えねぇなぁ!(自虐)
『ご主人様、靴紐がほどけていらっしゃいますよ』
私のそばに控えていたスコッチは、かいがいしく私の足元に跪き、ブーツの靴紐を結んでくれる。うーん、これはお礼を言わねばなりませんな!
『そうやって這いつくばっているといつにもまして犬らしいな。(ありがとう!)そのまま穴でも掘るか?(膝に泥がついちゃうよ!)』
あれぇ????これが中国マフィア仕込みの自動翻訳ってやつですか…(最悪)
『転んだりしたら危ないですからね。
ほかの部下の手前があるので、いつもより丁寧な口調でスコッチは返す。優しすぎる…。(表面上は)私の罵倒を気にしていないようで安心でござる。靴紐を結びきったスコッチは静かに立ち上がる。スコッチにも、パッパが連れている部下たちと同じような服装が支給されたらしい。シャツに緑のキルティングベスト、腰にはレザーのホルスターを付けているが、彼はあくまで私のペットなのでほとんど飾りみたいなもんである。そして襟元におそろいの桜のピンバッジを付けさせたのだ。われら日本人同盟!ふんふん!(なお片方は首輪つき)ほかの強面部下たちの誰よりもうちのわんんちゃんがこの服装を着こなしているんだなあ!
そうこうしているうちに、部下たちが猟銃や火薬などの確認を済ませ、とうとう狩りの時間になった。パパ上の部下が私に猟銃を手渡し、すぐにひっこむ。ビビりすぎやて。
『
『はい、ボス。』
『よせ、これは家族行事だ。仕事ではない。』
『…はい、父上。』
うるせーーー!!どこの世界にこんな家族行事があるんだよ!!タブレットをもった部下が一歩前に出てくる。映像には山小屋にいる5人程の男女が映る。老若男女様々だが、みな表情は絶望の色に染まっている。
いずれもパッパに逆らったもの達なのだろう。建前上、夜明けまで逃げ切ったものは借金を完全に免除、組織から逃れることができる。
『一匹も逃すな、失敗は許さん。』
『…もちろんです。』
『今回は狩りがいのあるやつがいればいいがな。去年はくだらな過ぎた。』
しかし、こんな話を信じる者は私たちの組織の中には一人もいない。あくまでこの狩りはこの悪魔のお遊びなのだ。これから始まるのは一方的な蹂躙であり、殺戮であり、見せしめだ。
期待と加虐心を瞳に滲ませ、画面を眺める父をみて、舌の奥が痺れる。吐き気がする…。この狩りは私の”教育”も兼ねている。
この狩りに参加して、初めて人を撃った。
殺してはいない。しかし、むしろ生き延びたことで、あの獲物達がいまどうなっているのかを考えると、足元がぐらついた。その瞬間、私の肩にひやりとした手が触れた。目線だけで振り返ると、私の唯一の味方が静かに頭を垂れていた。
『
『…勝手にしろ。』
スコッチが優しく私の耳元にかかる髪をそっと撫で上げる。指先は冷えていて、そのひんやりとした感覚が心地いい。夜の山の空気は鋭く冷え、呼吸する度に肺の奥が冷たくなるが、彼の掌が私の首筋を柔らかく撫でると、強張っていた体の力がすこしずつ抜ける。ずっと張り詰めていた糸が、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ緩む。声にならない安心が、スコッチの指先から伝播しているようだった。
スコッチは私にだけ聞こえるように囁いた。
『……大丈夫です。俺がついています。』
それ以外の余計な言葉はなく、その一言だけで私は冷静さを取り戻した。もう大丈夫。彼はそれだけを囁き、私のそばから一歩離れた。
だが悪魔のような父の視線は冷徹にその瞬間を見届け、すっと口元を吊り上げた。そしてその歪んだ口元から、命令を下す。
『気が変わった。お前の犬も獲物に加える。』
『…なんですって?』
驚きのあまり聞き返す。私の視界の端で、スコッチも体をこわばらせていた。悪魔は私の動揺をかぎ取って、さらに楽し気に牙を剝いた。
『随分、その犬に目をかけているな。お前の躾が行き届いているか確認せねばなるまい。』
『しかし、ボス!』
スコッチが反射的に口を開く。父に反論するなど、普段の彼からは想像しにくい動きだった。しかし、父は言葉だけで彼をねじ伏せた。
『黙れ、飼い犬風情が俺に吠えていいと思っているのか?』
父は私を一瞥すると、その視線はスコッチの首筋を辿り、まるで首輪の存在を確かめるように冷たく笑う。スコッチは私に視線を向け、主人である私がどう動くのかを伺っている。その視線には、私への心配が滲んでいた。私はスコッチを冷徹に見つめ返す。
『…父上の命令が聞こえなかったのか?早く行け馬鹿犬、私に恥をかかせるな』
私はそう吐き捨て、スコッチから目線を外す。ここで、私も父に反抗すれば、2人とも処罰されることをきっと彼はわかっていた。スコッチはすこしためらったのち、森の中へと消えていった。父は私の言葉に満足したのか、楽し気に鼻で笑った。タブレット内の獲物達も、各々山小屋から飛び出したようだった。父は掌をひらりと振り、宣言する。
『狩りの時間だ。』