世界で一番幸せな女の子と犬(成人男性国家公務員)   作:mimi11111111

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 俺は、主の命令をうけ、夜の闇に潜む。玉環(ユィファン)様から遠く離れすぎないように、しかしボスに悟られないような距離を測り、様子をうかがう。玉環(ユィファン)様や構成員からこの狩りの話を聞いたときから、この瞬間に脱走を決行することにしていた。闇に紛れて玉環(ユィファン)様をお連れし、ひそかに下山する。

 

 しかし、俺も獲物に加えられることは想定外だった。俺を自身の獲物に加えた理由は明確だ。ボスに目を付けられている。迂闊に動けば俺の命はない。いや、むしろ俺が妙な動きをせずとも殺すつもりなのかもしれない。

 

 あの人は、娘であり後継者の玉環(ユィファン)様に王としての振る舞いを叩きこんでいる。感情を廃し、傲慢で冷徹な存在としてあることを教え込んでいる。だが、ボスの恐ろしさはその冷徹さのみではない。娘をそうやって教育する一方で、あの男は、玉環(ユィファン)様が自身に怯える姿を心の底から愉しんでいる。その歪んだ支配欲こそがあの男をボスたらしめている。やつにとって玉環(ユィファン)様の涙は、己が創り上げた“完璧な後継者”が、いまだ父に抗えぬ証なのだ。恐怖を刻みつけ、服従を染み込ませ、それ以外の感情を削ぎ落とす。それがあの男の教育であり、悦びであり、呪いだ。

 

 そして今、ボスは俺が玉環(ユィファン)様の根底を揺るがしているのを敏感に感じ取っているのだろう。娘の心の支えになろうとしている存在を自らの手で取り上げ、絶望するさまを味わおうとしている。そうすることで、玉環(ユィファン)様の中の自身を、より絶対的な存在として位置づけるつもりなのだろう。

 

 だが、絶対にそうはさせない。俺には、玉環(ユィファン)様をお守りするという絶対的な誓いがある。あの人のためにも俺は死ぬわけにはいかない。もう二度と玉環(ユィファン)様をこの地獄に一人きりにはさせない。

 

 張りつめた空気の中、木陰から2人の様子をうかがっていた。息を殺したその瞬間__背後から気配もなく何者かが俺の肩を叩いた。

 

 息が止まる。反射的に身を翻し、拳を構える。背後の人影は両手を上げ、無抵抗を示す。

 

 「ひさしぶりだな、ヒロ」

 

 時間が逆行したような錯覚を覚える。懐かしい青い瞳がまっすぐに俺を見つめていた。

 

 「…ゼ、ゼロ!?なんでここに!?」

 

 俺は驚きのあまり声を挙げる。一年ぶりの再会に、胸の奥が熱くなる。再会の喜びと困惑に混乱する。しかしそんな俺とは対照的にゼロは冷静に答える。

 

 「…説明をしている暇はない。この山は今、公安によって包囲されている。」

 「な、なんだって?」

 「匿名の通報があった。その通報を受けた黒田管理官の指揮のもと、俺らはこれから突入に入る」

 「!?」

 

 ゼロから次々と告げられる情報に俺は困惑する。重ねられる言葉をどうにか受け止めようとする。

 

 ー匿名の通報?

 ーボスの目を欺き、外部と連絡を取った人物?

 

 脳裏に一つの仮説が浮かび上がる。

 

 「ヒロ、お前も保護対象に入っている。このまま下山して__」

 「っ!」

 

 一瞬の思考の後、俺は弾かれたように山頂へ駆け出す。先ほどまでそばにいた玉環(ユィファン)様の珍しく緊張を帯びた顔を思い出す。

 

 まさかあの人が?いや、そんな……だが、もしそうなら_

 

 玉環(ユィファン)様の目の前に立っていたボスの歪んだ笑みが脳裏によぎる。

 

 血の気が引いていく。俺を追いかけてきたゼロが肩を掴むが、俺はそれを振り払う。

 

 「おい、ヒロ!どこへ行くつもりだ!」

 

 ゼロの声が背後で響く。風が頬を切り裂く。

 

 「公安の動きは、すでに感づかれているかもしれない!」

 

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