世界で一番幸せな女の子と犬(成人男性国家公務員) 作:mimi11111111
部下に持たされた猟銃の具合を確かめるフリをしながら、私の前を歩く父の様子をうかがう。私の”救難信号”はちゃんと届いているだろうか…
実はこの一年、ちょこちょこ外部の警察組織に連絡を流していたりしていた。パパ上に悟られないようにほんっっっとうにすこ~しずつ、たま~~~にしていたこの行動が私の頼みの綱である。返事が来たことはないが、私もまだまだ脱出を諦めていたわけじゃない。
そして今日、朝にパパ上からのハンティングのお誘いがあった後、即席で「日本に凶悪中国マフィアが来るよ~ん、保護してほちぃ…君たちのお仲間もいるよ!!」という旨の情報をこっそり流したのである。とはいえ私のにっくきマフィア口調フィルターは文面にも作用するようで、実際は、半分脅迫のような文章になっている。そのため、私を保護してくれるかは怪しい…というか誰かに届いているのかもこっちからは確認できないため、ほんとーに来てくれるかもわからんのだ。
それに、パッパの気まぐれ(確率で即死)によってスコッチが狩られる側に回されたのには驚かされた。そのおかげで私の生存確率は著しく減ってしまったのだ。
もしスコッチがそばにいてくれたら、「一緒に保護してもらうルート確定ですねえメガネクイッ」と余裕ぶっこいていたのに、このままでは、「こいつ中国マフィアやんけ、逮捕や!!」と豚箱エンドまっしぐらである。仮に交渉がうまくいって「ワイは情報提供者やで!」ということが伝わったとしても「あの脅迫メールてめーのか、逮捕やで」となって豚箱エンドに合流するわけだ。うわーーー!!!どう考えても私が助かる道が見えない。詰んでる…???
まあ私は助からないにしても、スコッチだけでも脱出できそう…警察が来ようと来まいと、元は日本の公安である彼は、日本に来てしまえばこっちのもんだろう。彼は現在丸腰だが、持ち前のフィジカルでなんとかなるとおもう。
だって中国で、私の前に爆死前提の特攻ヤクザが現れたときも、持っていたお盆をぶん投げて相手の拳銃を弾き飛ばし、顔面に飛び蹴りをかましていた男だし、その戦闘力は私も実感済み。目の前のパパ上に見つかりさえしなければ、逃げられると思う(希望的観測)。
彼はきっと大丈夫。たかだか一年暮らしただけの偉そうな中華キッズのことは気にせず、安全に帰国してほしい。それでいいと思っている。いや本音は嫌だけどね!!
でもしょうがない。私のせいでよりややこしいことに巻き込んでいる自覚もあるので、仮に置いてかれてもしゃあない。嫌だけどね!!(二回目)気が向いたら助けてくれてもいいんやで?(チラッチラッ)
という感じで、私の心中はこんな感じでしゃべりっぱなしだが、現実世界は無言も無言である。夜の山は静かで、風が木々を揺らす音ののみがやけに響く。私たち親子が仲良く雑談をするわけがないし、私の背後にいる部下数名も無言。むしろ口を開けば殺される確率の方が圧倒的に高いので声すら上げない。あとは部下たちが放った獲物達も山の中にいるはずだが、わざわざハンターの前に現れるようなやつはいない。
そう、だからこの静けさは当たり前なのだ。いつもと同じ。そのはず。
…なのに、なんでこんなに胸がざわつくんだろうか…
肌を、冷たい虫の足みたいな違和感が這い回る。
何かがおかしい。息が浅くなる。足元の土が、やけに重く感じる。
——そして。
父は、足を止めた。
『お前か』
たった一言が静寂を切り裂いた。その一言だけで私は、急に体中の血が止まっていき、体が足先から凍るような感覚を覚える。死神が、こちらに顔を向けた。
『お前が裏切ったのか』
その問いは答えを求めてはいない。間違いなく、確信している。死神は迷いなく猟銃を構え、引き金を三度、違う方向へ向かって引いた。闇の向こうから男たちの悲鳴が聞こえた。
—来てたんだ。救難信号、届いてたんだ。
でも、バレた。全部、バレた。
一刻も早く逃げなくては、もしくは自分も銃を構え戦わなくては、頭のなかで考えがぐるぐる回るが、体は全く動かない。手が震え、握っていた猟銃が手から零れ落ち、音を立てる。
警察に包囲されているにも関わらず、目の前の死神はゆっくりと一歩ずつ私に近寄り、ついに私の肩を掴んだ。
『帰るぞ。…再教育だ。』
私の呼吸は止まった。体を固めた私はそのまま引きずられる。肩に置かれた死神の手は、私の抵抗を一切許さない。頭がぼやけて、耳鳴りがしてくる。だんだん意識がぼーっとしていく。
その時。
『ぐわっ!!』
突然、父の前にいた部下が呻き、吹き飛ぶ。何が起きた…?私は驚いて顔を上げる。
『
その声が私を現実に引き戻した。血の気が戻り、心臓が痛いくらいに跳ねる。目の前にはもういなくなったはずの男が、スコッチがいて、私は急に安心して、涙が、視界がぼやけて、それでもスコッチに手を伸ばした。
しかし、無慈悲な銃声が響いた。
『犬風情に誑かされおって…』
滲んだ視界から彼の影が消える。溜まっていた涙が頬を伝うと、滲んでいた視界がやけにはっきりして、スコッチが倒れているのを見つける。血を流す彼に駆け寄りたいのに体が動かない。私の体はどんどん彼から倒れていって、スコッチの瞳が光を失っていくのを見ているだけしかできなかった。