仕事とDD2での勉強で遅くなりました
ナナクリル(を名乗る害悪な存在)との邂逅から数時間が経った。
その数時間でナナクリルの言葉の意味を嫌というほど理解していた。
「どうしたんだよカナタ、妙に元気ねーな?」
「……あー、ちょっと……いや、めちゃくちゃ嫌な夢見ちゃってさ。気分がめちゃくちゃ沈んでるんだわ」
玖導カナタ。
今のこの身体の名前。
まだ数時間しか経っていないとはいえ、全く違う名前だから反応が少し遅れてしまう。
それと同時にこの身体の本来の人格にも生活があったのに、それを奪ってしまった。
その事実と罪悪感が心を縛り始めてきた。
しかし、取り戻すとなると俺は別の問題に頭を悩ませる羽目になる。
「なんだよ? 夢にゴk……黒光りするGでも出てきたか?」
「ぶっちゃけそれに近い」
「マジかよ……そりゃ災難だったな」
「うん、本当」
俺は、どうしたらいいんだろう?
カードショップ・ストレイキャット。
アニメでもDivineZの一つ前、OverDress・will+Dressでも度々映っていた店だ。
時間帯の都合でまだ人はそんなに居らず、店員たちの作業音が聞こえてくるくらい。
何故、この場所に居るのかというと……ある意味、カードゲーマーの性というべきか、迷ったことがあればカードやカードのテキストを眺める。
現実逃避するのにちょうどいいからだ。
後は……綺麗なものが見たい気分でもあったから。
「……」
見慣れたカードばかりの棚を眺め、何も考えないようにする。
元のカナタはヴァンガードに興味がなかったのか、カードは一枚も持っていなかった。
だから今の俺は本当に何の力もない無力な存在でしかない。
「あら、お客さん? 見ない顔だけど新規さん?」
後ろから声をかけられた。
聞き覚えのある声、画面の向こうで度々聞いていた声だ。
振り返ると俺の予想通りの人がそこにいた。
「ようこそ、ストレイキャットへ」
大倉 メグミ
少し物足りなさを感じるものの、確かに感じる女性らしい体付きにライトブラウンの長髪をした女性。
overDressとwill+Dressの主人公・近導 ユウユの所属していたチーム・ブラックアウトの五代目リーダーだ。
今はこのストレイキャットでアルバイトを兼任しているのがDivineZで描写されていた為、ここにいるのは不思議ではない。
「ちょっと、カードを見に……それと悩み事があって、なかなか決められないから気分転換に」
優れた芸術は見るだけで心を落ち着かせる。
鋭い日本刀が人殺しの道具でありながら、どこか目を離せない美しさを持つように。
心血を注いで描かれたカードは正にそれと同じだ。
……まぁ、リリカルモナステリオの美少女イラスト等は違う意味で熱くなりそうではあるが。
「へぇ、変わったお客さんね。ファイトはしないの?」
「デッキ持ってないんですよ」
「デッキを……持ってない⁇ 興味だけあって尻込みしてるの?」
「当たらずとも遠からず、と言ったところですね。ヴァンガードを始めるの自体はいいんです。問題は……」
「問題は?」
「……秘密ということで」
言っても信じないだろうし、上手く説明できる自信もない。
何よりもこの選択はきっと俺の今後に大きく影響を及ぼす。
ナナクリルもどきに言われるがままにレザエルを奪い、
郷愁・会えなくなった仲間たちへの未練を引きずって奪ってしまった身体と共に生きるか。
どちらにせよ、後悔は残る。
「……よし‼︎」
彼女は少し考えた後に手を叩いて何かを決めたようだ。
もうじき元が付くことになるがお嬢様学校に通う令嬢ということもあって悩む顔も決断する顔も絵になる。
「君、名前は?」
「え、はす……じゃなかった。玖導 カナタです」
「カナタね、よし。 良かったらファイトしていかない?」
「……いや、デッキ無いんで」
「そっちは大丈夫‼︎ この店、デッキのレンタルもしてるから」
「デッキのレンタルって……いや、店員が言ってるならいいのか?」
そんなこんなでこの世界に来て初めてのファイトをすることになった。
引き受けた理由?
原作キャラとファイトできるから。
彼女が決めた何かが何なのか気になるから。
理由は幾つも浮かぶも、どれも正解のようにも思えるし不正解な気もする。
ただ、何かが変わるかもしれないという期待と不安だけは確かに感じた……気がした。
「レンタルできるデッキはこの六つだよ」
机の上に置かれた六つのデッキ。
現実ではクイックスタートデッキと呼ばれた悪名高いデッキたちだ。
「この中から一つ選ん……「じゃあケテルで」決断が速い⁉︎」
「一番好きなカードがケテル所属なんで」
それ以外にもクイックスタートデッキの内容にもよるが、選ぶとしたらケテルサンクチュアリ・ドラゴンエンパイア・リリカルモナステリオの三択以外あり得ないのだ。
ストイケアは手数こそ多いがサポートの使いづらさが目立つし、ダークステイツは下準備が安定しないし、ブラントゲートに至っては打たれ弱さが目立つ。
逆にドラゴンエンパイアは手数こそ少ないが、他のクイックスタートにはない盤面焼きとクリティカル増加という強みがある。
リリカルモナステリオは純粋にリターンが悪くない。
盤面に出したカードを手札に戻したりしながら手札と攻撃回数を稼ぐのはシンプルに強みだ。
それもこれもお高い女ことユイカがいけないのだ。
最後のケテルサンクチュアリはこの中で一番使いやすく、安定感がある。
汎用のサポートも癖なく使えて尚且つかなり強いものが多い。
せるがおんとか星海オーダーとか。
後者は違うって? あんだけ多くのデッキに使われたらもう汎用でいいでしょう。
「始める前に内容を見ていいですか?」
「うん、構わないよ」
「では……」
そう言って軽く内容を確認する。
メインデッキ五十枚、ライドデッキ五枚。
ここまでは現実と変わらない。
だが、現実においてクイックスタートデッキの悪名の烙印を押したカードたち。
ルールを把握するためだけに作られたデッキ故に意図的にある二種以外のカードは
「よし、じゃあやりましょうか」
「ルール説明は……」
「大丈夫です。ルールは把握済みですし最初からスキル・ジェネレーター有りのスタンダードにやりましょう」
「えーっと、本当に大丈夫なの?」
「えぇ、なんだったら他人から借りてやったこともあるので」
ぶっちゃけこの世界でのジェネレーター導入がどの時期からなのかはわからないが、こちとら数年近くそのルールでやってきたのだ。
無かったら逆に違和感を感じるくらいだ。
「とりあえず、始めよっか」
このゲームは十六枚のトリガーユニットと三十四枚のノーマルユニットかオーダーカードで構成されたメインデッキとそれとは別に用意された五枚のライドデッキの計五十五枚で競うゲームだ。
お互いにデッキをシャッフルし、先攻後攻を決めるじゃんけんをした後でライドデッキの最初の一枚を場の中央に置く。
今回は俺の先攻だ。
「変わったシャッフルの仕方をするのね」
「ヒンズーシャッフルだけだとよく混ざりませんから」
俺が行ったのはディールシャッフル。
俗に言う8切りシャッフルと呼ばれている混ぜ方だ。
やり方はかんたん。
デッキを八枚の山に均等に分けるように配り、最後に積み上がった山を重ねるやり方だ。
後は誰もが知る下のカードを上に積み直すヒンズーシャッフルをしておしまい。
「……二枚チェンジで」
「私も二枚チェンジ」
ヴァンガードは先攻後攻を決めた後、一度だけ好きな枚数の
今回はお互い二枚の手札交換だ。
結果は……クイックスタートデッキにしては悪くない初期手札になった。
(そこそこってところね。
但し、それは向こうにも言えることだ。
表情を見る限りそこまで悪くはないが……ある一枚に注目しているのがわかる。
治トリガーでも素引きしてしまったか?
「「スタンドアップ・ヴァンガード‼︎」」
同時に自身の分身たる最初のヴァンガードを捲り、ゲームを始めるのであった。
というわけで次から殴り合います