貞操逆転世界で、軽率に女の子を自宅に招いちゃうやつ 作:休無中年
俺-浅倉稔は高校二年生に進学するのと同時に、一人暮らしをすることになった。
理由は両親の単身赴任だ。
聞かされたときは流石に驚いたが、二人ともバリバリ働いていて帰りが遅く、元々家事全般は俺一人でこなしていた。
だから、そこまで不安には思わなかった。
そして今日は、両親が家を出る日だ。
朝起きてリビングに行くと、両親が妙に神妙な顔つきで朝食を食べていた。
「ねえ、本当に大丈夫かしら」
「平気だよ。稔はひとりでも生きていけるさ」
「でも、高校生の男の子ひとりでなんて……」
何の話? と思いつつ食卓に着くと、
「おはよう」
「おはよう。稔……やっぱり私ここに残ったほうがいいかしら」
母親から凄く心配そうな顔でそう言われた。
「いや、別にいいよ。それに会社はどうするの」
「辞める」
「はい?」
想定外のことを言われて変な声が出た。
つい昨日まで「稔なら余裕でしょ。じゃ、単身赴任行ってきまーす」みたいな感じだったのに。急にどうした。
「まあ、母さんが心配なのも分かってやってくれ」
父さんが苦笑いを浮かべながら割って入る。
「やっぱり十代の息子ひとり置いて家を出るのは、俺でもちょっと不安だよ」
父さんまでこんな態度だ。
単身赴任当日になって、改めて不安になってきたということなのだろうか……。でもそんな性格じゃないしな……。
そのとき、テレビから男性アナウンサーの声が聞こえてきた。
『今朝未明、痴漢が現行犯逮捕されました』
こういう痴漢のニュースは、だいたい男性が逮捕されるイメージがあった。
しかし、画面に映っているのは女性。
黒いスーツを身にまとった、いわゆるOL風の女性が、警察官に取り押さえられている。被害者として映っているのは、若い男性だ。
『やってねえって! やってないよお!』
『大人しくしなさい!』
……まあ、こういうのも偶にはあるのか。
妙に違和感を感じつつも、朝食を食べ終え、登校の準備をすることにした。
「俺が学校行ってる間に出るんだよね? 二人とも気を付けていってらっしゃい」
「うん……稔も本当に気を付けてね」
「留守の間は頼んだぞ」
そんな感じで、あっさりと両親との別れを済ませて、俺は家を出た。
駅に着いた。
早朝のホームは相変わらずの人混みで、端からはみ出て落っこちてしまうんじゃないかと思うくらいの人がいる。
『間もなく電車が到着します。ホームドアから……』
ホームに車掌さんの声が響き渡る。
俺は列に並んで電車を待った。
少しすると電車は来たのだが、またしても今朝と同じような違和感に襲われた。
違和感の原因は先頭車両にあった。
見間違いじゃ無ければ『男性専用車両』と書かれていた気がする。実際、乗っていた人の性別は全員男性だった気がするが……。
『この時間の1両目、2両目は男性専用車両となっております~……』
気のせいじゃなかった!
昨今の情勢が考えると男性専用車両ができても不思議ではないのかもしれないけど、じゃあ女性車両はどこにいった?
後方車両かと思いきや、どこにもない。
そんなこと有り得るのか。
ゆっくり考えたいところだったが、電車の扉が開くと背中から押されて、流されるようにして乗車することになった。
男性専用車両ではなく、普通の車両だ。
く、苦しい。
朝の通勤ラッシュには慣れる気がしない。
おしくらまんじゅう状態になって、他人との距離感がほぼゼロになっているこの状態に耐える。まだカレー味のうんこのほうが食えると思う。
俺は荷物、俺は荷物……。
無理やり暗示をかけて気を紛らわす。
ふと、今朝から感じている謎の違和感が頭の中に再浮上してきた。
テレビでは女性が痴漢で捕まっていた。
偏見かもしれないが、普通は男性のはずなのに。
電車には男性専用車両が作られていた。
普通は女性専用車両のはずなのに。
「あれ……?」
思わず声が出た。
これって……逆じゃないか?
脳裏で何かが弾けるような感覚した。
そして、尻を揉まれる感覚がした。
……ん?
あまりにも唐突で脳が追い付かなかったが、落ち着いて状況の把握に努める。
うん。たしかに俺は尻を揉まれているな。
なるほど……これが逆ってことなのか。
満員電車で女子高生が狙われるように、今は男子高校生がターゲットなわけだ。
意外と気持ち悪い。
全く知らない人間の性欲を浴びるのって、こんなにも忌避感あるものなんだな。
さて、痴漢野郎にはお縄についてもらおう。
ケツを揉みしだいている腕を掴もうとしたら、
「このひと痴漢です!」
女の子の声が耳朶を打った。
「は、はあ? ふざけないでよ!」
腕を掴まれたOLっぽい女性は、明らかに動揺した表情でそう叫んだ。
女の子は怯まずに腕をひねり上げる。
「ふざけてるのは貴方でしょ」
「いたっ! だ、誰か! 暴行罪よ!」
OLの声が車両内に響き渡る。
しかし誰も味方をする人はいなかった。
むしろ痴漢であることを指摘する人が、ちらほらと現れたくらいだった。
OLは撃沈して抵抗することはやめた。
「もう大丈夫だよ」
そう言って、女の子はにこりと笑った。
か、かっこいい~~。