第一話
それから季節は過ぎて、初秋の頃。少し日が早くなって、夏の頃にはまだ明るかった時間帯も薄暗くなるようになってきた。そんな中を手にはお団子がたっぷり入った包みを持って、肩にはススキを持って僕は歩いていた。そう、今日は十五夜月を見て、団子を食べる。そんな日なのだ。多分もっと宗教的な意味合いとかはあるのだろうけど、僕には関係のないことだ。
「しょ、しょ、証城寺 証城寺の庭は ツ ツ 月夜だ。みーんな出て こい こい こい」
何となく思いついたメロディーを歌う。やっぱり月と言えばこれだよね。
「おいらの友達ァ。ぽんぽこ ぽんの ぽん」
あー、あれ?
「……えーっと、続きなんだっけ?」
なんか最初の方が印象的すぎて後の方が出てこないや。うーん……? はあ、考えてもしょうがないか。
「まあいいや、今日は綺麗なつ……あれ?」
何だろう? 妙に違和感があるなぁ。
「欠けてる?」
いや、欠けてるのは昨日だったよね。なんで欠けてるなんて思ったんだろう? 月を見ながら首を傾げて、それから家路を急いだ。これはチルノに聞いてみるべきだよね。家について扉を開ける。
「ただいまー。団子やで団子とススキ買ってきたよー」
玄関を開けてすぐ見渡せるところにはチルノは居ない。どこだろうと思っていたら縁側の方からチルノの声がした。
「おかえり、お茶と飾りは済んでるわよ」
「ありがと」
縁側にはもうお茶が用意されて、団子を置く台も用意されている。それからススキを入れる花瓶に座布団もある。チルノはこういう時は準備が良いんだよね。
「ううん、買い出し頼んで悪かったわね。よし、月見といきましょうか」
チルノが座布団の一つに座った。団子の台やススキの花瓶に用意するものを用意してから僕も座る。あーやっぱりなんか変だなぁ。
「あー、一つ聞いてもいい?」
「ふぁにはははほ?」
チルノがお団子を食べながら聞いてた。せめて飲み込んでから喋ってほしかったなぁ。まあ、何を言っているのかはわかるからそのまま話を続ける。
「なんかさ、月が欠けてる気がするんだけど……」
「は? 欠けてる? ………欠けてるわね」
チルノが月を睨みつけてから頷いた。
「あ、やっぱりそうだよね」
「………なーんか面倒になりそうな気がするわね」
「へ?」
チルノが何かを呟いたけど何を言ってるのかがわからなかった。僕が聞けば、チルノは首を横に振って。
「ううん、何でもないわよ。あ、そういえば今日は満月か」
「いや、何今更なこと言ってるの?」
満月だから団子買ってススキも用意したんじゃないか。
「別の意味でよ。今日はちょっと夜中出かけるかもしれないから後よろしくね」
「え、あー……うん」
一体何をするつもりなのか。僕はチルノに聞くことができなかった。
それから団子も食べきって、縁側に広げていたものも片付けて、すぐに寝ることにした。甘い物が夕食とか栄養バランス悪いって言われそうだけどたまにはいいじゃないか。そんなこんなで寝床に入ろうとしているときにふと、外の月が目に入った。
「全く、何が何だか……」
今日は何かがおかしいよなぁ。
「ふぁー」
うん、眠いしもう寝ちゃおう。
――― 少女就寝中。
「ふぁぁぁぁ」
何となく朝な気がして目が覚めた。ぐいーと伸びをしてから外を見れば、
「え?」
綺麗な、でも少し欠けた月だった。
「何でまだ夜なの?」
僕の起きる時間が早すぎた? そう思って時計を見てみれば、何故か時計(外の世界の奴、振り子式)は進んだり戻ったりを繰り返している。明らかに何かがおかしい。
「チルノー?」
別の部屋で寝ているはずのチルノの様子を見に行けば、
「……居ないし」
寝床は空っぽだった。何処に行ったんだろう。あーあ
「目も冴えてしょうがないし出かけるか」
――― 少女移動中。
さて、情報収集ならここだよねと思って人里に来てみたわけだけど。
「……えっと、何この状況?」
里があった場所は更地になっていて、なんか見覚えのある黒い塊と白と赤の塊がある。ちなみに暗いのは炎氷(チルノ直伝の明かり、氷の中に炎が入っているという謎の幻想的な奴)でどうにかなっている。嫌な予感がして黒い塊に近寄ってみれば、黒い塊。否、黒い服を纏った人間が顔を上げた。
「よ、よう。明乃どうかしたのか?」
黒い服や帽子の間から見える金色の髪と聞きなれた声、嫌な予感が的中してしまった。
「ぶっちゃけ信じたくなかったけどやっぱり魔理沙かい!」
「……明乃じゃない」
白赤の物体いや、紅白の巫女服を纏った博麗神社の巫女博麗霊夢が僕の声を聞いて顔を上げた。
「やっぱ霊夢?!」
驚いてから二人の事を見直すと、二人とも弾幕で焦げ付いた跡がある。
「なにやってるのさ。誰かと弾幕勝負して負けたの?」
「あー、実はなー」
魔理沙に理由を聞こうとしたら、上から爆音がした。
「?!」
「あれの流れ弾を喰らってな。いたた」
上空で青い何かと黄緑色の何かが弾幕勝負をしていた。よく見てみればどちらも見慣れている人物だ。
「チルノと……慧音さん? なにやってるんだろ」
チルノはいつもの恰好してるけど、慧音さんはなんか頭に角生やしてトレードカラーの青い服じゃなくて黄緑色の服を着ている。何やってるんだろう?
「マジか、アレ慧音か。なんか角、生えてるぞ」
「はぁー、抜かったわ。確かあいつ白沢の血を半分引いていたんだった」
二人が僕の一言で何か察したんだけど、何が何なのかわからない。
「てか、二人して何しにこんな真夜中に? いや、今は朝か」
「げ、もうそんな時間になってたのか」
「ううん、時計は一定間隔で止まったり動いたりしてる。時々巻き戻ってもいるみたい。もしかして異変?」
どう考えても異変だけど。そういえば、あの欠けた月も異変なのかな?
「ええ、そうよ。でも、私は『欠けた月』について紫と調べてたの」
「わたしは『夜が続く』ことについてアリスと調べてたんだ。いや、最初は霊夢と同じく欠けた月について調べてたんだがなぁ」
どうやら欠けた月が異変で、二人には協力者がいたらしい。異変に紫が出てくるのは割とあるけど、アリスが出てくるなんて初めてだなぁ。
「で、紫とアリスは?」
「「あっち」」
二人が指差す先を見れば、そこには
「……へんじがない。ただのしかばねのようだ」
何となく言いたくなったので言ってみた。
「……勝手に殺さないでちょうだい」
「流石、紫だね。このネタ通じるって思ったよ」
紫は『外』と通じてるからね。意外と僕のネタに乗ってくれたりするし。
「はぁー、それにしてもまさかこんなところで私が撃墜されるなんて。チルノを侮るんじゃなかったわ」
紫が扇子を取り出して、パタパタと
「紫、あのバカ火力一体何なのよ。あれ、只の妖精でしょ?」
いや、霊夢。チルノが強いのは割と知ってるよね?
「ええ、只の『幻想郷最強の妖精』よ。彼女、あれでもハクやアリサに匹敵するくらい強いんだから」
それは流石に初耳なんだけど。
「それって、妖精なの?」
「さあ? 彼女は私が幻想郷を作った後に入り込んできた『外』の存在だからわからないわ」
「え? そうなの」
色々と初耳すぎて頭が回らないや。でも、これだけはわかる。
「とにかくだけどさ。あれ、どうにかしないとマズイよね」
「ええ、でも私や霊夢はそこまでの気力が残ってないのよ」
だよね。見事に弾幕で撃墜されてるし、霊夢も魔理沙も怪我結構してるし。
「……うぅ、あれ?」
「アリスようやく気が付いたか、怪我大丈夫か?」
どうやらアリスも気が付いたらしい。頭を軽く横に振ってる。それから魔理沙に大丈夫と告げてため息をした。
「はぁー、まさかあんな威力の弾幕が降ってくるなんて思わないわよ。あら、明乃どうしたの」
どうやら今僕の存在に気が付いたらしい。
「なんか変だから様子見に来たんだ。それにしても人里は?」
見事に更地になってるけど何で?
「多分あれよ。番人が歴史を『食べて』守ってるわ」
「あれ? ってことはチルノが悪役か?」
でも、なんか慧音さん可笑しくない?
「どうかしら。とりあえず私たちは見ている以外出来なさそうね」
「その怪我じゃ、しょうがないよ……」
会話に参加していると。ふと、誰かの呼ぶ声がした気がした。声がした場所を見ていると霊夢が僕に声をかけてきた。
「明乃、行くにしても誰か連れていきなさい」
「いや、誰を連れてくのさ?」
ここにはまともに動ける人間居ないのに? すると上の方から声が掛かった。
「あれ、明乃じゃないか」
上を見上げれば、箒に白黒のいかにも魔女ですと言わんばかりの服装。暗闇にも映える金髪、それから箒の柄からぶら下げたランタンが帽子の中の黄緑色の目も映してくれる。
「亜里沙さん、何やってるんですか?」
うん、魔理沙のそっくりさん。てか先祖の霧雨亜里沙さんだ。僕の問いかけに亜里沙さんが笑う。
「いやぁ、せっかく白玉楼で月見しようと思ったらさ。月が欠けてるだろ? そりゃないわってことで元凶に説教しに」
「そこでお説教なんですね」
叩きのめすが基本の魔理沙とはちょっと違うよなぁ。ちょっと考えてると亜里沙さんがにやりと笑う。
「まあな。明乃、お前暇だろ」
「まさかの断定された」
暇かと言われるならともかく断定されるなんて思わなかったよ。
「よーし、お前もついて来い」
いつの間にか降りてきてた亜里沙さんが僕の腕をつかみ、僕を箒へと乗せた。
「え、あっ。えええええ?!」
――― これは、長い夜と欠けた月と永遠の話。
もしくは、勘違いと三月兎と昔話の話。
氷娘永夜抄開幕です。
なお、この話には独自解釈が多々含まれております。
そして、一面と二面のボスの二人はごめん。出番ないんです。
長い夜の話は勘違いで何処まで拗れていくのかお楽しみに。