俺は弾丸を見つめた。薄闇の中で弾頭が青く発光した。溜息をついてそれをリボルバー式の拳銃に入れる。1発で俺の日給以上の代物だ。なに、高い飲み屋で酒を飲んで散財した様なモンだ…クソ。
倒れた馬車に寄りかかり、背中でその冷たさを感じる。
魔術師の防御術式を貫通する特別な弾丸。こんなカスみたいなトラブルを解決する為には使いたくはない。なにせ高いし。
隣には泣いている子供とその母親がいた。彼女の頬には青い痣があった。
母親は子供の泣き声が漏れないように必死に子供の口を押さえていた。
馬車越しに男の怒鳴り声が聞こえてくる。嫁の夜逃げを手伝った程度だろ?そんな怒んなって。
隣にいた衛兵が鉄の鎧を鳴らしながら俺のそばに駆け寄り言った。
「アイツはもう十分罪を犯してる…公共の場での中級魔法使用、馬車の破壊、御者への障害、制圧不可能って事で殺しても構わない要件が揃ってる。殺せないなら俺は動かないぞ」
「俺一人で良い。彼女を頼む。御者は?」
「生きてるよ、さっき助けを求めてそこの雑貨屋に入ってった」
俺は衛兵のめんどくさそうな顔を見た。婚約者の身辺調査を俺がタダでやってやったから義理で彼は付いてきてくれたのだろう。
新婚の男を危険地帯に突っ込ませるのは忍びない。
「良かった…旦那は生きてる方が良いよな?あんな感じの奴だが…」
俺は母親に向けて「そうだろ?」と言うと彼女は頷いた。
声の方を覗くと男が身体から放電しており、その顔は怒りで真っ赤になっていた。
確か今来ているジャケットには雷魔法の耐性があったはずだ。
移民街の武器屋から借りたものだ。壊したくないが壊しても大丈夫だろう。何か言われたらそいつが娼婦と大揉めした件を解決してやった事を奥さんにバラすと脅せばよい。
娼婦狂いの武器屋の店主を脅迫するくらい神はお許しになるだろう。
俺は倒れた馬車の車輪を掴んで呟いた。
「何であんな男と結婚するかねぇ」
銃を構え馬車の影から飛び出した。
一瞬、世界がスローモーションになった気がした。
男の放つ電撃が空気を裂いて俺の頬をかすめ、焼けるような痛みが走る。
「左肩だ」
叫ぶ代わりに、俺は心の中でそう呟き、引き金を引いた。
特製の弾丸が火花を散らしながら、まっすぐ男の肩に命中する。魔法陣が砕け、電撃が一瞬で霧散した。左手に持っていた杖が地面に落ちる。男の身体が仰け反り、よろめきながらもまだ倒れない。
この時ばかりは警察官時代の訓練に感謝するしかない。
「倒れろよ!」
俺は地面に転がる石を蹴り上げ、その目を引きつけた隙に男との距離を詰める。
「DV魔術師が!」
拳銃を逆手に持ち替え、そのまま男の顎にフックを食らわせる。プロボクサー崩れのフックだ。
男が崩れ落ちたその瞬間、俺は再び銃を構え、眉間に狙いを定める。
地面に落ちた杖を俺は蹴り飛ばした。
「…もういいんじゃないか?彼女はあんたと別れたいんだ」
男は顔を歪めながらも、俺を睨み続けていた。
風が通り抜け、沈黙が訪れる。
泣きじゃくっていた子供の声が、静かに嗚咽に変わった。
衛兵が鎧の音を鳴らしながら近づいてくる。手錠をしながら男に冷たく言った。
「あんた結構暴れたな、一緒に衛兵詰所まで来てもらうぜ、抵抗するなら首を切り落とす。俺はそいつみたいに優しくないぜ」
俺はため息をついてから銃をホルスターに収めた。
後ろを振り向くと手錠をかけられた男が、俺に向かって突進してきていた。男の頭皮が目の前に見える。
何時ものように顔面に激痛が走り、俺は鼻に手を当てる。
「クソが!!」
俺はそう叫び、鼻血のついた右手と地面に取り押さえられた男を見る。
異世界に『堕ちて』からこんな事ばかりやっている。
こんな事なら前世で善行を積んで、神様から何か良い能力を貰えるようにするべきだった。