地獄行きすれすれ男の異世界善行記録   作:ただのジョンソン

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第10話:異世界じゃ厄介事は躱せない

「感心しない物事の進め方だ。私が後ろ盾のない移民だとしても」

 

俺は衛兵詰所から出てしばらく歩いた後、アリアに向かって言った。アリアの後ろにはイシュメルが付いてきていた。

 

「冒険者ギルドは一般人に感心してもらう必要も無いのよ」

「確かに社会不適合者集団には他人からの評価は必要ないのかもしれませんね」

 

アリアは表情を崩さずに言った。俺は道端に転がっていた石ころを軽く蹴飛ばした。

 

「力のない一般人みたいに私たちは交渉や政治を必要としない」

「あなたはずっと交渉や政治をしていたように見えました。役人が束になってもあなたには敵わないでしょうね。誰も老獪な代議員には勝てない」

「それは褒めてるのかしら」

「ある意味では」

 

アリアは小さな葉巻を咥えてマッチで火を付けた。彼女はもう一本俺に向けて差し出した。この街は路上喫煙が認められている様だった。

 

「それで、私は何をすれば」

「サマンサ宿で働くんでしょう?イシュメルがサマンサ宿で働きながら、釈放された冒険者が自立するまでの面倒を見るの、それに問題が起きてないか観察するだけで良いわ。ま、やることと言ったら書類をチェックして署名するだけよ」

 

俺はイシュメルをちらりと見た。彼は俯きながら歩いていた。

 

「元受刑者を泊めたがる宿泊業者はいないと思いますが」

「私があの女亭主に毎年いくら払っていると思っているの?」

「さぁ、私の年収の3倍くらいですかね?」

「5倍かも」

 

俺は押し黙った。火のついた葉巻を見て、煙を吐き出し煙の行方を見た。

 

つまり俺は…

 

・宿屋の仕事を覚える。

・移民組合活動への参加。

・行儀の悪い冒険者のガキと前科者と一緒に働く

・そのガキと前科者の社会奉仕活動の手伝い

 

をやる事になったワケか…。なに、対した事じゃない。俺が決めた事じゃないという事に腹は立つが。

 

俺は立ち止まり、自分が『前世』で避けて来た厄介事に巻き込まれた事を理解した。なるほど、天使の思し召しか?

 

立ち止まった俺を見てイシュメルが言った。

 

「何であんたは俺を釈放したんだ?」

「死んでなかったからな、死人は署名できないだろ?」

 

俺は大人気なく殴られた事に対する嫌味を言った。アリアはそれを聞きながら軽く笑みを浮かべた。

 

俺が真面目に答える気が無いことを察したのか、イシュメルは聞き方を変えた。

 

「アリアに頼まれたんだろうけど、金でも貰ったの?」

「いや、貰っていない。君の社会奉仕活動に付き合う事については金は貰う予定だが」

 

隣を歩いているイシュメルを見た。不思議そうな顔をしていたので、俺がなりゆきの何となくで行った事を理解していなかった。

 

「じゃあ、何で?」

「頼まれたから、君を助けて欲しいって」

「それだけ?」

「それだけよ、私とカリーナで謝りに行ったのよ」

 

人間なんて対した意味無く行動してんだよと言おうと思ったが、言い方を変えた。

 

「君も俺に剣を向けた時、何も理由なんて無かったろ?それと同じ事だ」

 

イシュメルは居心地の悪そうな顔をして言った。

 

「あれは恥ずかしかったから」

「何が?」

 

恥ずかしいか…そんな恥ずかしい場面があったか?彼のその場での行いは恥ずべきものだと思ったが…

 

「自分が倒さなかったこと」

「誰に恥ずかしいんだ?自分にか?」

「ギルドの奴らにバカにされる」

 

なるほど、倒して来いとでもけしかけられたのだろう。子供ならそういう煽りに弱いのも理解できる。俺も子供の時はそういう事に弱かった。アリアは複雑そうな顔をした。

 

普通の人間と過ごしているなら、自分の腕っぷしの強さを証明する必要もないだろう。

 

「ギルドの人間はそうでも、街の連中はしないな」

 

イシュメルはピンとしない顔をしていた。説明する気も起きなかった。こういった事は経験で理解していく物だからだ。学べない人間も沢山いるが。

 

アリアは言い聞かせる様にゆっくりと話し始めた。

 

「そうね。付き合う人間をちゃんと選べば、あなたもバカにされる事は無くなるわ」

「俺にマトモな人間とつるめって言ってるんだろうけど、友達なんか居ない」

 

付き合う人間と言われて友達の事しか出て来ない時点で、彼の視野は狹くなっている様に感じた。イシュメルがぶっきらぼうに吐き捨てたので、空気が重くなった。俺は思わず言った。警察官時代を思い出した。警察官になりたてて熱意を持っていた時のことだ。

 

「友達じゃない。周りの環境の事だよ…どこに住んで誰と隣人になるか、どこで誰と働くか、そういった事だ」

 

イシュメルは分かったような分からない様な微妙な顔をしていた。もっと分かりやすく言う必要がある様だ。何で異世界でガキに人生について語ってんだ?と心の何処かで思った。

 

「仮に、君に最高の友達がいたとしても、周りの環境が悪けりゃ、馬鹿がフラッとやって来て全てを台無しにする」

 

真面目に働いててもどっかの馬鹿がトラブルを起こして台無しにする。世界中で起きている悲劇について俺はイシュメルに語ったが、彼は鼻で笑った。

 

「何それ。そんな奴叩きのめせば良いだろ?」

 

お前はトラブルを起こした奴を全員ぶん殴って解決して行くつもりか?猿かゴリラなら良いが、文明人ならやめておけ。と言おうかと思ったがやめておいた。黙った俺を見てアリアはため息をついて言った。

 

「すべての人間を叩きのめす事は出来ないの、普通の人は暴力を使わずに解決するのよ」

 

イシュメルは頭を掻いた。

 

「選べるなら、トラブルに巻き込まれる事が無い場所を選びたいもんだな」

 

これは俺の本心だ。誰しもがそう思っている事を俺はいつも願っている。

 

俺がそう言った後、そこからはギルドに着くまでに一言も会話が無かった。アリアはイシュメルにサマンサ宿で待っている様に言うとギルドに戻っていった。

 

「ま、あんたは生きるのが楽そうだね」

 

何だこのガキは?と思ったが顔を見ると皮肉を言っているワケでは無かった様だ。死んだら天使から「カス野郎」と言われて異世界で生かされてる俺の何処が楽だって言うんだ?

 

「楽じゃないさ」

「いや、楽だよ。ギルド長のアリアみたいだ」

 

確かにあれはかなりの世渡り上手だ。見ず知らずの俺にギルドメンバー釈放の署名をさせ、釈放したばかりのよく知らんガキを一緒に行動させている。

 

「アイツは椅子に座って誰かと話すだけで、金を稼ぐんだ」

 

まぁ、手を動かしている人間にとっては、椅子に座って指示を出す人間は怠けていてズルく見えるのかも知れない。実際ズルいが。

 

「そのおかげで君は釈放されたろ?」

 

イシュメルは「そりゃそうだけどさ」と不貞腐れた様に言った。

 

「君が良い選択肢を選び続ける事が出来るなら、同じ風になれるさ」

「良い選択って?」

「そいつの能力や置かれた環境による。まぁ、より良い生活を選ぶ事だ」

 

イシュメルは漠然とした俺の言い方にムカッとした顔になって言い方を変えた。

 

「あんたが俺ならどうする?」

「さぁな、君の事は理解してないから何とも。それに俺は昨日来たばっかの移民だ」

「どうせ知ってるんでしょ、教えてよ」

 

俺はイシュメルが妾の子であるという事実を聞かなかった事にして、話を始めた。センシティブな話題だからだ。

 

「君は字が書けて、貴族の家でそれなり本も読んだことがあって、腕も立つらしい…冒険者にならずともそれなりの仕事を紹介してもらえたはずだ」

 

実際のところ俺も字が読めただけで宿屋の仕事が貰えた。仕事自体はすぐに貰えるだろう。それに若くて素直そうだったし、働かせてやろうかと思う人間は結構いるはずだ。彼は若干生意気だが。

 

「誰に?」

「家族にな、正確には姉だ。身元を保証する人間がいれば、もっと仕事に就きやすいハズだ」

 

イシュメルは怪訝そうな顔を浮かべた。そりゃそうだ。数ある仕事の中で、判断力のない子供に姉がわざわざ冒険者をやらせたんだ。不信感を持つのは当然とも言える。

 

「まぁ、君の姉にも事情があったんだろ」

「なんでだと思う?」

 

俺はエスパーじゃないんだから、そこまで分かるかよと思いながら言った。

 

「何があったか分からないが、聞いてみても良いんじゃないか。家族だから何も言わんでも分かり合えるって事は無いんだからな」

 

イシュメルは軽くため息をついて言った。

 

「でも聞きづらいなぁ」

「ま、聞きづらい事なんて死ぬ程ある。知らないでも良いんじゃないか」

 

俺の予想だが、カリーナがイシュメルに冒険者をやらせた理由は、手元にイシュメルを置いておいて自分で面倒を見たいとかそんな感じだろう。

 

これ以上は考えたく無かった。10〜12歳の子供に命懸けの仕事をロクでもない人間と一緒に居させようとする理由の中には、歪んだ何かがありそうだからだ。

 

絶対にあるし、その歪んだ何かには絶対に巻き込まれたく無い。

 

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